魯迅 阿Q正伝その33

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(だいきゅうしょう だいだんえん)

第九章 大団円

(ちょうけがりゃくだつにあってから、みしょうのひとは)

趙家が掠奪にあってから、未荘の人は

(たいていみなこきみよくおもいながらきょうこうをききたした。)

大抵みな小気味よく思いながら恐慌を来きたした。

(あきゅうもまたいいぎみだとおもいながらないしんおそれていると、)

阿Qもまたいい気味だと思いながら内心恐れていると、

(よっかすぎてのまよなかにかれはたちまちじょうないにつまみだされた。)

四日過ぎての真夜中に彼はたちまち城内につまみ出された。

(そのときはしんのあんやで、)

その時はしんの闇夜で、

(いったいのへいしといったいのじえいだんといったいのけいかんとごにんのたんていが)

一隊の兵士と一隊の自衛団と一隊の警官と五人の探偵が

(こっそりみしょうにとうちゃくしてやみにじょうじておいなりさまをかこみ、)

こっそり未荘に到着して闇に乗じて土穀祠を囲み、

(かどのましょうめんにきかんじゅうをすえつけたが、あきゅうはでてこなかった。)

門の真正面に機関銃を据えつけたが、阿Qは出て来なかった。

(しばらくのあいだ、ようすがかいもくしれないので、かれらはあせらずにはいられなかった。)

しばらくの間、様子が皆目知れないので、彼等は焦らずにはいられなかった。

(そこでにまんせんのしょうきんをかけて)

そこで二万銭の賞金を懸けて

(ふたりのじえいだんがきけんをおかしてやっとこさとかきねをこえて、)

二人の自衛団が危険を冒してやっとこさと垣根を越えて、

(ないがいあいおうじていっせいにちんにゅうし、)

内外相応じて一斉に闖入し、

(あきゅうをつまみだしておみやのそとのきかんじゅうのひだりがわにひきすえた。)

阿Qを摘み出して廟の外の機関銃の左側に引据えた。

(そのときかれはようやくはっきりめがさめた。)

その時彼はようやくハッキリ眼が醒めた。

(じょうないについたときにはすでにしょうごであった。)

城内に着いた時には既に正午であった。

(あきゅうはじぶんでじぶんをみると、こわれかかったおやくしょのなかにひきまわされ、)

阿Qは自分で自分を見ると、壊れかかったお役所の中に引き廻され、

(ごろっぺんまがるとひとつのこやがあって、かれはそのなかへおしこめられた。)

五六遍曲ると一つの小屋があって、彼はその中へ押し込められた。

(かれはちょっとよろけたばかりで、まるたをせいれつしたもんがかれのうしろをとじた。)

彼はちょっとよろけたばかりで、丸太を整列した門が彼の後ろを閉じた。

(そのほかのさんぽうはきったてのかべで、よくみるとへやのすみにもうふたりいた。)

その他の三方はキッタテの壁で、よく見ると部屋の隅にもう二人いた。

など

(あきゅうはずいぶんどぎまぎしたが、けっしてひじょうなくもんではなかった。)

阿Qはずいぶんどぎまぎしたが、決して非常な苦悶ではなかった。

(それはおいなりさまのかれのへやはこのへやよりもけっしてまさることはなかったからだ。)

それは土穀祠の彼の部屋はこの部屋よりも決してまさることは無かったからだ。

(そこにいたふたりはいなかものらしく、だんだんこんいになってはなしてみると、)

そこにいた二人は田舎者らしく、だんだん懇意になって話してみると、

(ひとりはきょじんだんなのせんせんだいにとどこおっていたふるいちそのついちょうであった。)

一人は挙人老爺の先々代に滞っていた古い地租の追徴であった。

(もうひとりはなんのこったかよくわからなかった。)

もう一人は何のこったか好く解らなかった。

(かれらはあきゅうにわけをきくと、あきゅうはおくめんなくこたえた。)

彼等は阿Qにわけを訊くと、阿Qは臆面なく答えた。

(「おれはむほんをおこそうとおもったからだ」)

「乃公は謀叛を起そうと思ったからだ」

(あきゅうはごごからまるたのもんのそとへひきずりだされおおひろまにいった。)

阿Qは午後から丸太の門の外へ引きずり出され大広間に行った。

(しょうめんのたかいところにくりくりぼうずのおやじがひとりざしていた。)

正面の高いところにくりくり坊主の親爺が一人坐していた。

(あきゅうはこのひとはぼうさんかもしれないとおもって、したのほうをみると、)

阿Qはこの人は坊さんかもしれないと思って、下の方を見ると、

(へいたいがせいれつして、りょうがわにながいきものをきたひとがじゅういくにんもたっていた。)

兵隊が整列して、両側に長い着物を着た人が十幾人も立っていた。

(そのなかにはいがくりぼうずのおやじもいるし、)

その中にはイガ栗坊主の親爺もいるし、

(いっしゃくばかりかみをのこしてうしろのほうにさばいていたにせけとうによくにたやつもあった。)

一尺ばかり髪を残して後ろの方に披さばいていた偽毛唐によく似た奴もあった。

(かれらはみなおなじようなぶっちょうづらでめをいからしてあきゅうをみた。)

彼等は皆同じような仏頂面で目を怒らして阿Qを見た。

(あきゅうはこりゃあきっとおれきれきにちがいないとおもったから、)

阿Qはこりゃあきっとお歴々に違いないと思ったから、

(ひざのかんせつがしぜんとたゆんでべたりとじべたにひざをついた。)

膝の関節が自然と弛んでべたりと地べたに膝をついた。

(「たってものをいえ、ひざをつくな」とながいきもののひとはいっせいにどなった。)

「立って物を言え、膝を突くな」と長い着物の人は一斉に怒鳴った。

(あきゅうはしょうちはしているが、どうしてもたっていることができない。)

阿Qは承知はしているが、どうしても立っていることが出来ない。

(われれしらずからだがちぢこまってそのいきおいにおされて)

我れ知らず身体が縮こまってその勢いに押されて

(あげくのはてはひざをついてしまう。)

挙句の果ては膝を突いてしまう。

(「どれいこんじょう!」とながいきものをきたひとはさげすんでいたようだが、)

「奴隷根性!」と長い着物を着た人はさげすんでいたようだが、

(そのうえたてともいわなかった。)

その上立てとも言わなかった。

(「おまえはほんとうにやったんだろうな。ひどいめにあわぬうちにいってしまえ。)

「お前は本当にやったんだろうな。ひどい目に遭わぬうちに言ってしまえ。

(おれはもうみんなしっているぞ。やったならそれでいい。はなしてやる。」)

乃公はもうみんな知っているぞ。やったならそれでいい。放してやる。」

(とくりくりぼうずのおやじは、あきゅうのかおをみつめてものやわらかにはっきりいった。)

とくりくり坊主の親爺は、阿Qの顔を見詰めて物柔かにハッキリ言った。

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