半七捕物帳 筆屋の娘8

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プレイ回数469難易度(4.5) 2980打 長文
岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ

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問題文

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(「なるほど、そんなりくつですかえ」と、げんじはためいきをついた。「それにしても)

「なるほど、そんな理窟ですかえ」と、源次は溜息をついた。「それにしても

(なぜそのおまるというおんながとほうもねえことをたくんだのでしょうかね」)

何故そのお丸という女が途方もねえことを巧んだのでしょうかね」

(「それはまだたしかにわからねえが、おれのかんていじゃあたぶんそのおまるというおんなは、)

「それはまだ確かに判らねえが、おれの鑑定じゃあ多分そのお丸という女は、

(じょうしゅうやのせがれとわけがあって、つまりしっとからふでやのむすめをころそうとしたんだろうと)

上州屋の伜と情交があって、つまり嫉妬から筆屋の娘を殺そうとしたんだろうと

(おもう。だが、じょうしゅうやへよめにいくというのはいもうとのほうで、ころされたのはあねのほうだ。)

思う。だが、上州屋へ嫁に行くというのは妹の方で、殺されたのは姉の方だ。

(ここがすこしりくつにあわねえようにおもわれるが、おまるというおんなのりょうけんじゃあ、)

ここが少し理窟に合わねえように思われるが、お丸という女の料簡じゃあ、

(そこまではふかくかんがえねえで、なんでもうりもののふでにどくをぬっておけば、)

そこまでは深く考えねえで、なんでも売り物の筆に毒を塗っておけば、

(いもうとのむすめがなめるものといちずにおもいこんでいたのかもしれねえ、)

妹の娘が舐めるものと一途に思い込んでいたのかも知れねえ、

(としのわけえおんななんていうものはあんがいにむかんがえだから、おまけにもうめが)

年の若けえ女なんていうものは案外に無考えだから、おまけにもう眼が

(くらんでいるから、それできっとかたきがうてるものとおもっていたんだろう。)

眩んでいるから、それできっと仇が打てるものと思っていたんだろう。

(やっかいなことをしやあがった。にんげんふたりをころしてどうなるとおもっているんだか、)

厄介なことをしやあがった。人間ふたりを殺してどうなると思っているんだか、

(かんがえるとかわいそうにもなるよ」 はんしちもためいきをついた。)

考えると可哀そうにもなるよ」 半七も溜息をついた。

(「そうなると、そのきぐすりやにほうこうしているおとうとというのもしらべなければ)

「そうなると、その生薬屋に奉公している弟というのも調べなければ

(なりませんね」と、げんじはいった。 「もちろんだ。おれがすぐにいってくる」)

なりませんね」と、源次は云った。 「勿論だ。おれがすぐに行って来る」

(したくをして、はんしちはすぐにりょうごくへゆくと、そのやくしゅやはひろこうじにちかいところに)

支度をして、半七はすぐに両国へゆくと、その薬種屋は広小路に近いところに

(あって、まぐちもかなりにひろいみせであった。みせではさんにんばかりのほうこうにんが)

あって、間口も可なりに広い店であった。店では三人ばかりの奉公人が

(ひかえていて、ちょうばにはにじゅうにさんのわかいおとこがすわっていた。)

控えていて、帳場には二十二三の若い男が坐っていた。

(「こちらにそうきちというほうこうにんがいますかえ」と、はんしちはきいた。)

「こちらに宗吉という奉公人がいますかえ」と、半七は訊いた。

(「はい、おります。ただいまおくのどぞうへいっておりますから、しばらく)

「はい、居ります。唯今奥の土蔵へ行って居りますから、しばらく

(おまちください」と、ばんとうらしいおとこがこたえた。)

お待ちください」と、番頭らしい男が答えた。

など

(みせにこしをかけてまっていると、やがておくからじゅうしごのかわいらしいまえがみが)

店に腰をかけて待っていると、やがて奥から十四五の可愛らしい前髪が

(でてきた。 「おい、おめえはそうきちというのか。ちょいとばんやまできてくれ」)

出て来た。 「おい、おめえは宗吉というのか。ちょいと番屋まで来てくれ」

(「はい」と、そうきちはすなおにでてきた。そのようすがあまりおちついているので、)

「はい」と、宗吉は素直に出て来た。その様子があまり落ち着いているので、

(はんしちもすこしあんがいにおもった。)

半七もすこし案外に思った。

(ちょうないのじしんばんへつれていって、はんしちはそうきちをせんぎしたが、そのへんじは)

町内の自身番へ連れて行って、半七は宗吉を詮議したが、その返事は

(いよいよかれをしつぼうさせた。じぶんのあねはうまみちのじょうしゅうやにほうこうしているが、)

いよいよ彼を失望させた。自分の姉は馬道の上州屋に奉公しているが、

(あねはちっともじぶんをかわいがってくれない。したがっていままでにあねからなにも)

姉はちっとも自分を可愛がってくれない。したがって今までに姉から何も

(たのまれたことはない。あねはおしゃれでおてんばだからりょうしんにもあににもにくまれている。)

頼まれたことはない。姉はお洒落でお転婆だから両親にも兄にも憎まれている。

(じょうしゅうやのつかいで、じぶんのみせへくすりをかいにくることはあっても、じぶんはろくに)

上州屋の使で、自分の店へ薬を買いに来ることはあっても、自分は碌に

(くちもきかないと、そうきちはしきりにあねのざんそをした。そのもうしたては)

口もきかないと、宗吉はしきりに姉の讒訴をした。その申し立ては

(いかにもこどもらしいしょうじきなものであった。いくらおどしてもすかしてもそうきちは)

いかにも子供らしい正直なものであった。いくら嚇しても賺しても宗吉は

(なんにもしらないといった。 「うそをつくと、てめえ、ごくもんになるぞ」)

なんにも知らないと云った。 「嘘をつくと、てめえ、獄門になるぞ」

(「うそじゃありません」 そうきちはどうしてもしらないとごうじょうをはりとおしていた。)

「嘘じゃありません」 宗吉はどうしても知らないと強情を張り通していた。

(それがまったくうそでもないらしいので、はんしちはあきらめてかれをゆるしてかえした。)

それがまったく嘘でもないらしいので、半七はあきらめて彼をゆるして帰した。

(それからうまみちへいってじょうしゅうやをたずねると、おまるはひとあしちがいでつかいに)

それから馬道へ行って上州屋をたずねると、お丸は一と足ちがいで使に

(でたということであった。)

出たということであった。

(げじょをよびだして、それとなくさぐってみると、ここでもおまるのひょうばんは)

下女を呼び出して、それとなく探ってみると、ここでもお丸の評判は

(よくなかった。としもわかいし、むしもころさないようなかわいらしいかおをしているが、)

よくなかった。年も若いし、虫も殺さないような可愛らしい顔をしているが、

(にんげんはよほどおてんばでみもちもよろしくない。げんにうちのわかだんなとも)

人間はよほどお転婆で身持もよろしくない。現に家の若旦那とも

(おかしいそぶりがみえる。そればかりでなく、ほかにもに、さんにんのおとこが)

おかしい素振りが見える。そればかりでなく、ほかにも二、三人の情夫が

(あるといううわさもきこえている。そんなふしだらなほうこうにんがひまをだされない)

あるという噂もきこえている。そんなふしだらな奉公人が暇を出されない

(というのも、うまくわかだんなをまるめこんでいるからであると、かのじょのひょうばんは)

というのも、うまく若旦那をまるめ込んでいるからであると、彼女の評判は

(さんざんであった。もちろんそれにはおんなどうしのしっともまじっているのであろうが、)

さんざんであった。勿論それには女同士の嫉妬もまじっているのであろうが、

(だいたいにおいておとうとのもうしたてとふごうしているのをみると、おまるというおんなが)

大体に於いて弟の申し立てと符合しているのをみると、お丸という女が

(かおににあわないふしだらなにんげんであるのはうたがいのないじじつであるらしかった。)

顔に似合わないふしだらな人間であるのは疑いのない事実であるらしかった。

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