緋のエチュード 12

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(あるあきやにはいったのか。かれらをのせたぎょしゃになにがおきたか。)

ある空家に入ったのか。彼らを乗せた御者に何が起きたか。

(どうやってひとりのおとこがもうひとりに)

どうやって一人の男がもう一人に

(むりやりどくをのませることができたのか。どこからちがでたのか。)

無理やり毒を飲ませることができたのか。どこから血が出たのか。

(このさつじんはんのもくてきはなんだったのか。ごうとうがもくてきでないのなら、)

この殺人犯の目的は何だったのか。強盗が目的でないのなら、

(どうやってじょせいのゆびわがそこにあったのか。なによりも、)

どうやって女性の指輪がそこにあったのか。なによりも、

(なぜだいにのおとこはさるまえにどいつごのracheというたんごを)

なぜ第二の男は去る前にドイツ語のRACHEという単語を

(かかねばならなかったのか。そっちょくにいって、)

書かねばならなかったのか。率直に言って、

(これらのじじつをぜんぶまんぞくさせるりろんはぜんぜんおもいつかない」)

これらの事実を全部満足させる理論は全然思いつかない」

(ほーむずはまんぞくそうにほほえんだ。)

ホームズは満足そうに微笑んだ。

(「きみはげんじょうのなんてんについて、かんけつにうまくまとめあげたな」)

「君は現状の難点について、簡潔に上手くまとめ上げたな」

(かれはいった。「まだはっきりしないことがたくさんあるが、)

彼は言った。「まだはっきりしない事が沢山あるが、

(しゅようなじじつにかんしてぼくはかんぜんにけんかいをさだめている。)

主要な事実に関して僕は完全に見解を定めている。

(れすとれーどのはっけんにかんしていえば、)

レストレードの発見に関して言えば、

(あれはしゃかいしゅぎやひみつけっしゃをにおわせることによって、)

あれは社会主義や秘密結社を臭わせることによって、

(けいさつのめをまちがったほうこうにむけさせようとした、ただのめくらましだ。)

警察の目を間違った方向に向けさせようとした、ただの目くらましだ。

(あれはどいつじんがかいたものではない。)

あれはドイツ人が書いたものではない。

(きみもきづいたかもしれないが、)

君も気付いたかもしれないが、

(あのaはちょっとどいつふうをまねてかいたものだ。げんざい、)

あのAはちょっとドイツ風を真似て書いたものだ。現在、

(ほんもののどいつじんならまちがいなくらてんもじでかく。)

本物のドイツ人なら間違いなくラテン文字で書く。

(だからあのもじはどいつじんがかいたものでなく、)

だからあの文字はドイツ人が書いたものでなく、

など

(どいつじんのまねをしようとして、)

ドイツ人の真似をしようとして、

(ぶきようにもやりすぎたにんげんがかいたとだんげんしても、)

不器用にもやりすぎた人間が書いたと断言しても、

(まちがいではなかろう。これはそうさをまちがったほうこうにそらせようという、)

間違いではなかろう。これは捜査を間違った方向にそらせようという、

(たんじゅんなけいりゃくだ。ぼくはこのじけんについてこれいじょういわないよ、せんせい。)

単純な計略だ。僕はこの事件についてこれ以上言わないよ、先生。

(てじなしはいったんたねをあかしたら、そんけいをえられない。だから、)

手品師はいったん種を明かしたら、尊敬を得られない。だから、

(もしぼくがしごとのしゅほうをあかしすぎたら、きみはけっきょく、)

もし僕が仕事の手法を明かしすぎたら、君は結局、

(ぼくがふつうのにんげんにすぎないというけつろんをだすだろう」)

僕が普通の人間に過ぎないという結論を出すだろう」

(「そんなことはぜったいにない」わたしはこたえた。「きみはたんさくのぎじゅつを、)

「そんなことは絶対に無い」私は答えた。「君は探索の技術を、

(せかいでだれもなしとげられなかったせいみつなかがくのいきにまでたかめた」)

世界で誰も成し遂げられなかった精密な科学の域にまで高めた」

(ほーむずはわたしのことばとわたしのしんしなはなしかたによろこんでかおをあからめた。)

ホームズは私の言葉と私の真摯な話し方に喜んで顔を赤らめた。

(すべてのじょせいがじぶんのびにたいしてもっているかんじゅせいとおなじように、)

すべての女性が自分の美に対して持っている感受性と同じように、

(かれもじぶんのぎじゅつにたいするおせじにびんかんだということを、)

彼も自分の技術に対するお世辞に敏感だという事を、

(わたしはすでにきづいていた。)

私は既に気付いていた。

(「もうひとつべつのことをはなしておこう」かれはいった。)

「もう一つ別のことを話しておこう」彼は言った。

(「えなめるぐつをはいたじんぶつとつまさきがかくのくつをはいたじんぶつは)

「エナメル靴を履いた人物と爪先が角の靴を履いた人物は

(おなじつじばしゃできた。)

同じ辻馬車で来た。

(そしてかれらはこれいじょうないほどしたしくみちをいっしょにあるいた、)

そして彼らはこれ以上ないほど親しく道を一緒に歩いた、

(まずまちがいなくうでをくんでいた。へやのなかにはいったとき、)

まず間違いなく腕を組んでいた。部屋の中に入った時、

(かれらはへやをいったりきたりした、いや、というより、)

彼らは部屋を行ったり来たりした、 いや、というより、

(えなめるぐつをはいたほうはじっとたち、)

エナメル靴を履いた方はじっと立ち、

(つまさきがかくのくつをはいたほうがいったりきたりした。)

爪先が角の靴を履いた方が行ったり来たりした。

(ぼくはそれをほこりからよみとることができた。そしてぼくは、)

僕はそれを埃から読み取る事が出来た。そして僕は、

(かれがあるいているうちにどんどんとこうふんしてきたのもよみとれた。)

彼が歩いているうちにどんどんと興奮してきたのも読み取れた。

(ほはばがひろくなっているのがそれをしめしている。かれはずっとはなしつづけた。)

歩幅が広くなっているのがそれを示している。彼はずっと話し続けた。

(そしてまちがいなく、はげしいいかりをかんじるまでにかんじょうがたかぶってきた。)

そして間違いなく、激しい怒りを感じるまでに感情が高ぶって来た。

(そのときひげきがおきた。これで、ぼくがいまわかっていることはぜんぶはなした。)

その時悲劇が起きた。これで、僕が今分かっていることは全部話した。

(のこりはただのおくそくだ。しかし、すいりのしゅっぱつてんとしては、)

残りはただの憶測だ。しかし、推理の出発点としては、

(いいたたきだいができた。いそがんといかんな。)

いいたたき台ができた。急がんといかんな。

(きょうのごごはのーまんねるだをききに、)

今日の午後はノーマン・ネルダを聞きに、

(はれのこんさーとにいきたい」)

ハレのコンサートに行きたい」

(こういうはなしをしているあいだに、)

こういう話をしている間に、

(つじばしゃはきたないとおりとわびしいわきみちをつぎからつぎへととおりぬけ、)

辻馬車は汚い通りとわびしい脇道を次から次へと通り抜け、

(ぬうようにはしっていた。もっともきたなくわびしいとおりにきたとき、)

縫うように走っていた。最も汚くわびしい通りに来た時、

(ぎょしゃはとつぜんばしゃをとめた。「あれが、おーどりーこーとです」)

御者は突然馬車を停めた。「あれが、オードリー・コートです」

(かれはにごったいろをしたれんががならぶなかにみえるほそいすきまをゆびさしていった。)

彼は濁った色をした煉瓦が並ぶ中に見える細い隙間を指差して言った。

(「もどってくるまでここでまっています」)

「戻ってくるまでここで待っています」

(おーどりーこーとはみりょくのあるばしょではなかった。)

オードリー・コートは魅力のある場所ではなかった。

(せまいみちをいくとむさくるしいじゅうきょにかこまれたいしじきのなかにわにでた。)

狭い道を行くとむさくるしい住居に囲まれた石敷きの中庭に出た。

(われわれは、きたないこどもたちのむれのあいだをゆっくりとすすみ、)

我々は、汚い子供達の群れの間をゆっくりと進み、

(いろあせたしたぎをほしたひものしたをぬけ、46ばんちにたどりついた。)

色あせた下着を干した紐の下を抜け、46番地にたどり着いた。

(とぐちにらんすというなまえがほられた)

戸口にランスという名前が彫られた

(しんちゅうのしょうへんがはりつけられていた。)

真鍮の小片が貼り付けられていた。

(たずねてみるとじゅんさはしんしつにいたので、われわれはちいさなきゃくまにとおされ、)

尋ねてみると巡査は寝室にいたので、我々は小さな客間に通され、

(かれがでてくるのをまった。)

彼が出て来るのを待った。

(まもなくうたたねをじゃまされてちょっとふきげんそうなじゅんさがあらわれた。)

まもなくうたた寝を邪魔されてちょっと不機嫌そうな巡査が現れた。

(「けいさつにほうこくしょをていしゅつしていますが」かれはいった。)

「警察に報告書を提出していますが」彼は言った。

(ほーむずはぽけっとからはんそぶりんきんかをとりだし、)

ホームズはポケットから半ソブリン金貨を取り出し、

(かんがえこむようにもてあそんだ。)

考え込むようにもてあそんだ。

(「わたしたちはぜんぶきみのくちからききたいとおもってね」かれはいった。)

「私たちは全部君の口から聞きたいと思ってね」彼は言った。

(「はなせることはなんでもよろこんではなします」)

「話せることは何でも喜んで話します」

(じゅんさはきんかをみつめながらこたえた。)

巡査は金貨を見つめながら答えた。

(「ただ、きみのことばでおきたことをきかせてほしいだけだ」)

「ただ、君の言葉で起きたことを聞かせて欲しいだけだ」

(らんせはうまのけをつめたそふぁにこしをかけた。)

ランセは馬の毛を詰めたソファに腰をかけた。

(そしてなにひとつはなしもらさないとけっしんしたようにまゆをひそめた。)

そして何一つ話し漏らさないと決心したように眉をひそめた。

(「さいしょからおはなしします」かれはいった。)

「最初からお話します」彼は言った。

(「わたしのじゅんかいじかんはよるじゅうじからあさろくじまででした。)

「私の巡回時間は夜十時から朝六時まででした。

(じゅういちじにほわいとはーとでけんかがありましたが、)

十一時にホワイトハートで喧嘩がありましたが、

(それいがいはおだやかなじゅんかいでした。いちじにあめがふりはじめました。)

それ以外は穏やかな巡回でした。一時に雨が降り始めました。

(わたしはほらんどぐろーぶがもちばの)

私はホランド・グローブが持ち場の

(はりーまっちゃーとであいました。)

ハリー・マッチャーと出会いました。

(われわれはいっしょにへんりえったがいのかどにたってちょっとはなしをしました。)

我々は一緒にヘンリエッタ街の角に立ってちょっと話をしました。

(たぶんにふんかそこらだとおもいます。そのあと、)

多分二分かそこらだと思います。その後、

(わたしはぶりくすとんろーどにいじょうがないかみてまわろうとおもいました。)

私はブリクストン・ロードに異常がないか見て回ろうと思いました。

(そこはひじょうにきたなくさびしいところでした。とおりをあるいていても、)

そこは非常に汚く淋しい所でした。通りを歩いていても、

(つじばしゃがいち、にだいとおりすぎただけで、ひとけはありませんでした。)

辻馬車が一・二台通り過ぎただけで、人気はありませんでした。

(ここだけのはなしですが、わたしはほっとじんがあれば、)

ここだけの話ですが、私はホット・ジンがあれば、

(たまらないだろうなとかんがえながら、ゆっくりとじゅんかいしました。)

たまらないだろうなと考えながら、ゆっくりと巡回しました。

(とつぜんあのいえのまどからきらっとしたひかりがめにとびこんできました。)

突然あの家の窓からキラッとした光が目に飛び込んできました。

(わたしはあのろーりんすとんがーでんのにけんのいえが)

私はあのローリンストン・ガーデンの二軒の家が

(あきやだとしっていました。)

空家だと知っていました。

(さいごのじゅうにんのひとりがちょうちふすでしんだにもかかわらず)

最後の住人の一人が腸チフスで死んだにも拘わらず

(やぬしがげすいをせいびしようとしないのがげんいんでした。)

家主が下水を整備しようとしないのが原因でした。

(だからまどにあかりがみえたとき、わたしはぎょっとしました。)

だから窓に明かりが見えた時、私はギョッとしました。

(そしてなにかよからぬことがおきているというぎねんがわきました。)

そして何か良からぬ事が起きているという疑念がわきました。

(わたしがとびらのまえにいったとき・・・」)

私が扉の前に行った時・・・・」

(「きみはたちどまり、にわのいりぐちのところにひきかえした」)

「君は立ち止まり、庭の入り口のところに引き返した」

(ほーむずがさえぎった。「なんのためにそうしたのだ?」)

ホームズが遮った。「何のためにそうしたのだ?」

(らんせはおどろいてとびあがった。)

ランセは驚いて跳び上がった。

(そしてこのうえなくおどろいたかおでしゃーろっくほーむずをじっとみた。)

そしてこの上なく驚いた顔でシャーロックホームズをじっと見た。

(「おどろいた。そのとおりです」かれはいった。)

「驚いた。そのとおりです」彼は言った。

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