半七捕物帳 奥女中6

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第七話

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問題文

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(「じゅうりょうのかねがあればみせはひまでもこまらない。おまえはまあとうぶんは)

「十両の金があれば店は閑でも困らない。おまえはまあ当分は

(うちにかくれていて、みせへかおをださないほうがよかろうよ」)

家に隠れていて、店へ顔を出さない方がよかろうよ」

(いつまたつれにくるかもしれないというけねんがあったので、)

いつまた連れに来るかも知れないという懸念があったので、

(おかめはむすめをみせへださないことにした。すると、そのつきのすえの)

お亀は娘を店へ出さないことにした。すると、その月の末の

(ゆうがたに、おかめがみせをしまってくると、るすばんをしているはずの)

夕方に、お亀が店をしまってくると、留守番をしている筈の

(おちょうがすがたをかくしていた。きんじょできいてもだれもしらないといった。)

お蝶が姿をかくしていた。近所で訊いても誰も知らないと云った。

(かならずこのあいだのところにつれていかれたこととさっしたが、)

かならずこの間のところに連れて行かれたことと察したが、

(そのゆくさきはもとよりわからなかった。おかめはしあんながらに)

そのゆく先はもとより判らなかった。お亀は思案ながらに

(そのひそのひをおくっていると、こんどもとおかめにおちょうはぼんやりかえってきた。)

其の日その日を送っていると、今度も十日目にお蝶はぼんやり帰って来た。

(ふところにはやはりじゅうりょうのもくろくづつみをもっていて、すべてが)

ふところにはやはり十両の目録包みを持っていて、すべてが

(このあいだのはなしをくりかえすにすぎなかった。)

この間の話をくり返すに過ぎなかった。

(「なるほど、いいしょうほうのようだが、こいつはちっとへんだね。)

「なるほど、好い商法のようだが、こいつはちっと変だね。

(おちょうぼうがいやがるのもむりはねえ」)

お蝶坊が忌(いや)がるのも無理はねえ」

(と、このふしぎなはなしをきいてはんしちはひたいにこじわをよせた。)

と、この不思議な話を聞いて半七はひたいに小皺をよせた。

(「すると、せんげつのすえからむすめがまたみえなくなったんでございます。)

「すると、先月の末から娘がまた見えなくなったんでございます。

(いつもわたくしのるすをねらってきて、いやおうなしにかついでいって)

いつもわたくしの留守を狙って来て、否応なしに担いで行って

(しまうんだそうで・・・・・・。そとへでればのりものがまっていて、めかくしをして)

しまうんだそうで……。外へ出れば乗物が待っていて、眼かくしをして

(のせていくんですから、どこへつれていかれるのかけんとうがつきません」)

乗せて行くんですから、どこへ連れて行かれるのか見当が付きません」

(「そこでこんどもぶじにかえってきたのかい」)

「そこで今度も無事に帰って来たのかい」

(「いいえ。それがかえってきませんの」と、おかめはかおをくもらせた。)

「いいえ。それが帰って来ませんの」と、お亀は顔を陰(くも)らせた。

など

(「こんどはもうとおかのあまりになりますけれども、なんのたよりも)

「今度はもう十日の余りになりますけれども、何のたよりも

(ございませんので、わたくしもいろいろしんぱいしておりますと、)

ございませんので、わたくしもいろいろ心配しておりますと、

(けさはやくにひとりのおんながわたくしのうちへみえまして・・・・・・。)

けさ早くに一人の女がわたくしの家へ見えまして……。

(それはこのあいだのごてんふうのおんなでございます。しさいあってむすめを)

それはこの間の御殿風の女でございます。仔細あって娘を

(とうぶんはおんしんふつうのやくそくでこちらへもらいたいと、こういうんです。)

当分は音信不通の約束でこちらへ貰いたいと、こう云うんです。

(もちろん、そのかわりににひゃくりょうのかねをわたすというんですが、)

勿論、その代りに二百両の金を渡すというんですが、

(わたくしもまことにこまりましてね。なんぼわたくしだって、)

わたくしもまことに困りましてね。何んぼわたくしだって、

(かわいいむすめをかねでうるわけにはまいりません。ましてむすめが)

可愛い娘を金で売るわけにはまいりません。まして娘が

(あれほどいやがっているものを、あんまりかわいそうでもございますから、)

あれほど忌がっているものを、あんまり可哀そうでもございますから、

(いったんはことわりましたんですけれど、あいてのほうはなかなかしょうちしないんで)

一旦は断りましたんですけれど、相手の方はなかなか承知しないんで

(ございます。むりでもあろうがきいてくれと、りっぱなおじょちゅうが)

ございます。無理でもあろうが肯(き)いてくれと、立派なお女中が

(てをついてたのむんでしょう。わたくしもじつにとうわくしてしまいまして、)

手をついて頼むんでしょう。わたくしも実に当惑してしまいまして、

(なにしろすぐにおへんじはできないから、まあいちにちふつかかんがえさせてくれと)

なにしろすぐに御返事はできないから、まあ一日二日考えさせてくれと

(もうして、ようようそのひとをかえしたんでございますが・・・・・・。)

申して、ようようその人を帰したんでございますが……。

(ねえ、おやぶんさん。こりゃあまあ、いったいどうしたもんでございましょう」)

ねえ、親分さん。こりゃあまあ、一体どうしたもんでございましょう」

(おかめはこえをふるわせて、いかにもとほうにくれているらしかった。)

お亀は声をふるわせて、いかにも途方に暮れているらしかった。

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