『妖怪博士』江戸川乱歩12
○少年探偵団シリーズ第3作品『妖怪博士』
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順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | berry | 6846 | S++ | 7.0 | 97.0% | 613.3 | 4329 | 130 | 98 | 2024/10/05 |
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問題文
(じどうしゃははしりだしました。そして、ごふんもはしったかと)
自動車は走り出しました。そして、五分も走ったかと
(おもうと、もうもくてきちについたらしく、うんてんしゅは、)
思うと、もう目的地に着いたらしく、運転手は、
(とあるまちかどにくるまをとめて、「ほら、あそこに)
とある町角に車を止めて、「ほら、あそこに
(あかれんがのへいがみえるだろう。このばっじは、)
赤レンガの塀が見えるだろう。このバッジは、
(あのいえのもんのまえにおちていたんだよ」と、むこうに)
あの家の門の前に落ちていたんだよ」と、向こうに
(みえるふるめかしいようかんをゆびさしました。「じゃあ、)
見える古めかしい洋館を指差しました。「じゃあ、
(ここでおりて、まえまでいってみよう」うえむらくんがさきに)
ここで降りて、前まで行ってみよう」上村君が先に
(たって、さんにんがくるまをおりると、うんてんしゅもうんてんせきを)
立って、三人が車を降りると、運転手も運転席を
(とびだして、「ぼくもいっしょにいってあげよう」と、)
とびだして、「ぼくも一緒に行ってあげよう」と、
(しんせつらしくいいながらさんにんのまえにたって、)
親切らしく言いながら三人の前に立って、
(ようかんにちかづいていきました。もんのまえまでいって)
洋館に近づいて行きました。 門の前まで行って
(みると、みょうなすかしもようのてつのどあがはんぶん)
みると、みょうな透かし模様の鉄のドアが半分
(ひらいたままで、なかのようかんのいりぐちまでみとおせる)
ひらいたままで、中の洋館の入り口まで見通せる
(ものでしたが、そのいりぐちのどあもあけっぱなしの)
ものでしたが、その入り口のドアも開けっ放しの
(まま、あきやのようにがらんとしているのです。)
まま、空き家のようにガランとしているのです。
(「おじさん、ここ、なんだかあきやみたいだね」)
「おじさん、ここ、なんだか空き家みたいだね」
(「そうだね。ほんとうにあきやかもしれない。みたまえ。)
「そうだね。本当に空き家かもしれない。見たまえ。
(ひょうさつもなにもでていないじゃないか。ひょっとしたら)
表札も何も出ていないじゃないか。ひょっとしたら
(あいかわのぼっちゃんは、このあきやのなかへおしこめ)
相川の坊ちゃんは、この空き家の中へ押し込め
(られたんじゃないか」うんてんしゅは、じじょうをよくしって)
られたんじゃないか」 運転手は、事情をよく知って
(いるようなかおをしながらこくびをかしげ、もんのなかへ)
いるような顔をしながら小首をかしげ、門の中へ
(ふみこんで、しきりとそのへんをみまわしていました)
踏み込んで、しきりとそのへんを見回していました
(が、「きみたち、ひとまずなかへはいってみようじゃ)
が、「きみたち、ひとまず中へ入ってみようじゃ
(ないか。ここはあきやらしいし、どのまどもみんなしめ)
ないか。ここは空き家らしいし、どの窓もみんな閉め
(きったままで、ひとかげもみあたらない。ね、はいって)
きったままで、人影も見当たらない。ね、入って
(みようよ」と、もうさきにたって、どんどんいりぐちの)
みようよ」と、もう先に立って、ドンドン入り口の
(ほうへちかづいていくのです。さんにんはいわれるままに、)
ほうへ近づいて行くのです。三人は言われるままに、
(むねをおどらせながら、そのあとにしたがいました。)
胸をおどらせながら、そのあとにしたがいました。
(げんかんをはいってこえをかけてみても、だれもこたえるものは)
玄関を入って声をかけてみても、だれも答える者は
(おりません。「いよいよあきやだ。かまわないから、)
おりません。「いよいよ空き家だ。構わないから、
(なかへはいってみよう」うんてんしゅは、まるでじぶんのいえへでも)
中へ入ってみよう」運転手は、まるで自分の家へでも
(きたように、なんのためらうようすもなく、くつのまま)
来たように、なんのためらう様子もなく、靴のまま
(うえにあがって、うすぐらいろうかをぐんぐんおくへはいっていき)
上にあがって、薄暗い廊下をグングン奥へ入って行き
(ます。しょうねんたちは、なんだかすこしきみがわるくなって)
ます。 少年たちは、なんだか少し気味が悪くなって
(きましたが、このなかにたいじくんがかんきんされているかも)
きましたが、この中に泰二君が監禁されているかも
(しれないとおもうと、にげだすきにはなれません。)
しれないと思うと、逃げ出す気にはなれません。
(そのままうんてんしゅのあとについて、おくへおくへとついて)
そのまま運転手のあとについて、奥へ奥へと付いて
(いきました。「このへやがなんだかあやしいぜ」)
行きました。「この部屋が何だか怪しいぜ」
(うんてんしゅは、とあるこべやのどあをひらいて、なかを)
運転手は、とある小部屋のドアをひらいて、中を
(のぞいていましたが、そんなことをつぶやくと、)
のぞいていましたが、そんなことをつぶやくと、
(しょうねんたちをてまねきして、そのなかへふみこんでいき)
少年たちを手招きして、その中へ踏み込んで行き
(ました。さんにんがつづいてはいってみると、そこは)
ました。 三人が続いて入ってみると、そこは
(よじょうはんほどの、まどがひとつもない、うすぐらいこべや)
四畳半ほどの、窓が一つもない、薄暗い小部屋
(でした。かぐらしいものはなにもなく、しきものもない)
でした。家具らしい物は何もなく、敷き物もない
(ゆかいたがまるみえになっていて、ものおきべやとでも)
床板がまる見えになっていて、物置き部屋とでも
(いったかんじです。しかしすみずみをあらためてみても、)
いった感じです。 しかし隅々を改めて見ても、
(べつにあやしいところもないものですから、さんにんがもとのろうかへ)
別に怪しい所もないものですから、三人が元の廊下へ
(でようとすると、おや、これはどうしたという)
出ようとすると、おや、これはどうしたという
(のでしょう。うんてんしゅがいりぐちにたちふさがって、)
のでしょう。運転手が入り口に立ちふさがって、
(とおせんぼうをしながら、なにかいみありげに、)
通せんぼうをしながら、何か意味ありげに、
(にやにやわらっているではありませんか。「おじさん、)
ニヤニヤ笑っているではありませんか。「おじさん、
(どうしたんだい。はやくそとへでようじゃないか。)
どうしたんだい。早く外へ出ようじゃないか。
(なんで、そんなところにたちはだかっているんだい」)
なんで、そんな所に立ちはだかっているんだい」
(さいとうくんが、なじるようにいうとうんてんしゅはとつぜん、)
斎藤君が、なじるように言うと運転手は突然、
(おおぐちをひらいて、おかしそうにからからとわらい)
大口をひらいて、おかしそうにカラカラと笑い
(だしました。「ははは、おいおい、きみたちは、)
出しました。「ハハハ、おいおい、きみたちは、
(おれをいったいだれだとおもっているんだい。おれは、)
おれを一体だれだと思っているんだい。おれは、
(ここのいえのしゅじんなんだぜ。ははは」さんにんのしょうねんは、)
ここの家の主人なんだぜ。ハハハ」 三人の少年は、
(そのみょうなわらいごえに、おもわずぎょっとしましたが、)
そのみょうな笑い声に、思わずギョッとしましたが、
(むろんそんなことをほんきにうけとることはできません。)
無論そんなことを本気に受け取ることは出来ません。
(「しゅじんだって。そんなことがあるもんか。しゅじんなら、)
「主人だって。そんなことがあるもんか。主人なら、
(なぜたにんのいえみたいにしのびこんだりなんかしたんだ。)
なぜ他人の家みたいに忍び込んだりなんかしたんだ。
(それに、きみはうんてんしゅじゃないか。うんてんしゅがこんな)
それに、きみは運転手じゃないか。運転手がこんな
(りっぱないえにすんでいるもんか」さいとうくんがくちを)
立派な家に住んでいるもんか」斎藤君が口を
(とがらせていいかえしました。「ははは、かわいいことを)
とがらせて言い返しました。「ハハハ、可愛いことを
(いっている。おいおい、きみたちはしょうねんたんていじゃ)
言っている。おいおい、きみたちは少年探偵じゃ
(ないか。まさか「へんそう」ということをしらないわけ)
ないか。まさか「変装」ということを知らない訳
(でもなかろう。おれはほんもののうんてんしゅじゃない。)
でもなかろう。おれは本物の運転手じゃない。
(きみたちをここへおびきよせるために、こんなすがたに)
きみたちをここへおびき寄せるために、こんな姿に
(ばけたまでさ」「じゃあ、きみはいったいだれなんです」)
化けたまでさ」「じゃあ、きみは一体だれなんです」
(「ここのしゅじんさ。ひるたはかせというもんだ。ほら、)
「ここの主人さ。ヒルタ博士というもんだ。ほら、
(このかおをよくみるがいい」といいながら、うんてんぼうを)
この顔をよく見るがいい」と言いながら、運転帽を
(あらあらしくほうりすてて、みぎのてのひらでかおをつるりと、)
荒々しく放り捨てて、右のてのひらで顔をツルリと、
(ひとなでしたかとおもうと、いままでのやさしいかおは)
ひとなでしたかと思うと、今までの優しい顔は
(たちまちきえて、みるもぶきみなかおつきにかわって)
たちまち消えて、見るも不気味な顔つきに変わって
(しまいました。もじゃもじゃとみだれたながいかみのけ、)
しまいました。 モジャモジャと乱れた長い髪の毛、
(きょうあくむざんなひたいのしわ、いとのようにほそめられた)
凶悪無惨なひたいのシワ、糸のように細められた
(ものすごくひかるめ、きゅーっとみかづきがたにまげたまっかな)
物凄く光る目、キューッと三日月形に曲げた真っ赤な
(くちびる、みのけもよだつおそろしさです。さんにんのしょうねんは、)
唇、身の毛もよだつ恐ろしさです。 三人の少年は、
(そのいとのようなめでにらまれると、まるでかなしばりに)
その糸のような目でにらまれると、まるで金縛りに
(でもあったように、じっとたちすくんだまま、)
でもあったように、ジッと立ちすくんだまま、
(みうごきもできなくなってしまいました。「ははは、)
身動きも出来なくなってしまいました。「ハハハ、
(あおざめてしまったね。こわいのかい。だが、こんな)
青ざめてしまったね。怖いのかい。だが、こんな
(ことでこわがるのは、まだはやいぜ。ははは、まあ、)
ことで怖がるのは、まだ早いぜ。ハハハ、まあ、
(そうしておとなしくしているがいい。いまに、うんと)
そうして大人しくしているがいい。今に、うんと
(おもしろいものをみせてやるからね」そういったかと)
面白いものを見せてやるからね」 そう言ったかと
(おもうと、うんてんしゅすがたのひるたはかせは、ぱっととぶとりの)
思うと、運転手姿のヒルタ博士は、パッと飛ぶ鳥の
(ようにへやのそとへとびだして、いりぐちのどあを)
ように部屋の外へ飛び出して、入口のドアを
(ぴったりとしめ、そとからかぎまでかけてしまい)
ピッタリと閉め、外からカギまでかけてしまい
(ました。するとどうじに、さんにんのしょうねんがたちすくんで)
ました。すると同時に、三人の少年が立ちすくんで
(いたあしのしたに、なにかしらいへんがおこりました。)
いた足の下に、何かしら異変が起こりました。
(ゆかいたがじしんのように、ぐらぐらとゆれはじめたのです。)
床板が地震のように、グラグラと揺れ始めたのです。
(しばらくのあいだ、はげしくゆれていたかとおもうと、)
しばらくのあいだ、激しく揺れていたかと思うと、
(あっというまにとつぜん、ゆかいたがとびらのようにまんなかから)
アッという間に突然、床板が扉のように真ん中から
(ふたつにわれて、がたんとしたのほうへひらいてしまい、)
二つに割れて、ガタンと下のほうへひらいてしまい、
(しょうねんたちはおりかさなって、ゆかしたのあなのなかへおちて)
少年たちは折り重なって、床下の穴の中へ落ちて
(いきました。なんという、おそろしいしかけでしょう。)
いきました。なんという、恐ろしい仕掛けでしょう。
(そこは、へやぜんたいがおとしあなになっていたのです。)
そこは、部屋全体が落とし穴になっていたのです。