乃木希典 - 遺言條々

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(ゆいごんじょうじょう だいいち)

遺言條々 第一

(じぶんこたびおんあとをおいたてまつりじさつそうろうのだん おそれいるそうろう)

自分此度御跡ヲ追ヒ奉リ自殺候段 恐入候

(ぎそのつみはふけいにおもうそうろうしかるところ めいじじゅうねんのえきにおいてぐんきをうしない)

儀其罪ハ不軽存候然ル處 明治十年之役ニ於テ軍旗ヲ失ヒ

(そのごしどころをえたしこころかけそうろうも そのきをえず)

其後死處得度心掛候モ 其機ヲ得ス

(こうおんのあつきによくしこんにちまでかぶんのごゆうぐうをこうむり おいおいおいおとろえ)

皇恩ノ厚ニ浴シ今日迄過分ノ御優遇ヲ蒙 追々老衰

(もはやおんやくにたちそうろうときもなきよじつにそうろう おりからこたびのおんたいへんなんとも)

最早御役ニ立候時モ無餘日候 折柄此度ノ御大変何共

(おそれいるそうろうしだいここに かくごあいさだむそうろうことにそうろう)

恐入候次第茲ニ 覚吾相定候事ニ候

(だいに りょうすけせんしのあとは せんぱいしょししんゆうしょげんよりもつねずねこんゆこれありそうろう)

第二 両典戦死ノ後ハ 先輩諸氏親友諸彦ヨリモ毎々懇諭有之候

(えどもようしのへいがいは こらいのぎろんこれありもくぜんのぎたいけんのごときれいほかにもすくなからず)

得共養子ノ弊害ハ 古来ノ議論有之目前乃木大見ノ如キ例他ニモ不尠

(とくにかぞくのごゆうぐうあいこうむりおき じっしならばいたしかたもこれなくそうろうえども)

特ニ華族ノ御優遇相蒙リ居 実子ナラハ致方モ無之候得共

(かえっておめいをのこすようのうれえこれなきため てんりにそむきたることはいたすまじくことにそうろう)

却テ汚名ヲ残ス様ノ憂ヘ無之為 天理ニ背キタル事ハ致ス間敷事ニ候

(そせんのふんぼのしゅごはけつえんこれあるかぎりは そのものともにきをつけもうすべきことにそうろう)

祖先ノ墳墓ノ守護ハ血縁有之限リハ 其者共ノ気ヲ付可申事に候

(すなわちしんざかていはそのため くまたはしにきふししかるべきほうほうにたよりたくそうろう)

乃チ新坂邸ハ其為メ 区又ハ市ニ寄付シ可然方法頼度候

(だいさん しざいぶんよのぎはべっしのとおりあいみとめおかれそうろう)

第三 資財分與ノ儀ハ別紙之通リ相認置候

(そのたはしずこよりそうだんつかまつるべくそうろう)

其他ハ静子ヨリ相談可仕候

(だいし いぶつぶんぱいのぎは じぶんぐんしょくじょうのふくかんたりししょしへはとけいめーとる)

第四 遺物分配ノ儀ハ 自分軍職上ノ副官タリシ諸氏ヘハ時計メートル

(めがねばぐとうけんとうぐんじんようひんのうちにてみはからいのぎ つかだたいさにごいらいもうしおかれそうろう)

眼鏡馬具刀剣等軍人用品ノ内ニテ見計ヒノ儀 塚田大佐ニ御依頼申置候

(たいさはぜんごりょうたびのせんえきにも じんりょくすくなからずしずこしょうちのしだい)

大佐ハ前後両度ノ戦役ニモ 尽力不少静子承知ノ次第

(おんそうだんいたさるべくそうろう そのたはみなみなのそうだんにまかせもうしそうろう)

御相談可被致候 其他ハ皆々ノ相談ニ任セ申候

(だいご おんかしひん(かくでんかよりのぶんも))

第五 御下賜品(各殿下ヨリノ分モ)

など

(ごもんつきのしょひんは ことごとくみなとりまとめがくしゅういんへきふいたすべくこのぎは)

御紋付ノ諸品ハ 悉皆取纏メ学習院ヘ寄付可致此儀ハ

(まついいのやりょうしへもおんたのみつかまつりおかれそうろう)

松井猪谷両氏ヘモ御頼仕置候

(だいろく しょせきるいはがくしゅういんへさいようあいなりそうろうぶんはなるべくきふ)

第六 書籍類ハ学習院ヘ採用相成候分ハ可成寄付

(そのあまりはちょうふとしょかんへどうだん ふようのぶんはともかくもにそうろう)

其餘ハ長府図書館江同断 不用ノ分ハ兎モ角モニ候

(だいなな ちちぎみそふそうそふぎみのいしょるいは のぎけのれきしともいうべきものなるゆえ)

第七 父君祖父曽祖父君ノ遺書類ハ 乃木家ノ歴史トモ云フヘキモノナル故

(げんにとりまとめしんにふようのぶんをのぞき ささきこうしゃくけまたはささきじんじゃへ)

厳ニ取纏メ真ニ不用ノ分ヲ除キ 佐々木侯爵家又ハ佐々木神社へ

(えいきゅうむげんにおあずけもうしたくそうろう)

永久無限ニ御預ケ申度候

(だいはち ゆうしゅうかんへしゅっぴんはそのままきふいたしもうすべく のぎのいえのきねんには)

第八 遊就館ヘ出品ハ其儘寄付致シ可申 乃木ノ家ノ紀年ニハ

(ほぞんこのうえなきりょうほうにそうろう)

保存無此上良法ニ候

(だいく しずこのぎおいおいおいさかいにはいり いしばやしはふべんのちびょうきとうせつにこころぼそくとのぎ)

第九 静子儀追々老境ニ入 石林ハ不便ノ地病気等節心細クトノ儀

(もっともぞんじそうろう みぎはしゅうさくにゆずりなかののいえにじゅうきょしかるべきどういそうろう)

尤も存候 右ハ集作ニ譲リ中野ノ家ニ住居可然同意候

(なかののちしょかおくはしずこそのときのかんがえにまかせそうろう)

中野ノ地所家屋ハ静子其時ノ考ニ任セ候

(だいじゅう このかたしがいのぎはいしぐろだんしゃくへあいねがいおかれそうろう しかるべきあいだいがっこうへ)

第十 此方屍骸ノ儀ハ石黒男爵ヘ相願置候 間可然医学校ヘ

(きふいたすべく はかしたにはもうはつつめは(ぎしとも)をいれてじゅうぶんにそうろう(しずこしょうち))

寄付可致 墓下ニハ毛髪爪歯(義歯共)ヲ入レテ充分ニ候(静子承知)

(おんしをわかつとかきたるきんとけいは たまきまさゆきにつかわしそうろう)

恩賜ヲ頒カツト書キタル金時計ハ 玉木正之に遣ハシ候

(はずなりぐんぷくいがいのふくそうにてもつをきんじたくそうろう みぎのそとさいじはしずこへ)

筈ナリ軍服以外ノ服装ニテ持ツヲ禁シ度候 右の外細事ハ静子ヘ

(もうしつきおかれそうろうあいだおんそうだんくだされそうろう はくしゃくのぎけはめいぎこれありべきそうろう)

申付置候間御相談被可度候 伯爵乃木家ハ静子生存中ハ名義可有之候

(えどもくれぐれもだんぜつのもくてきをとげ そうろうのぎたいせつなりみぎゆいごんこのごときそうろうなり)

得共呉々モ断絶ノ目的ヲ遂ケ 候義大切ナリ右遺言如此候也

(たいしょうがんねんくがつじゅうににちよる まれすけ かおう)

大正元年九月十二日夜 希典 花押

(ゆちさだもとどの おおだてしゅうさくどの たまきまさゆきどの しずこどの)

湯地定基殿 大舘集作殿 玉木正之殿 静子との

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