半七捕物帳 猫騒動14

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第12話

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問題文

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(「おふくろはそのさかなをどうしたんだろう」)

「おふくろはその魚をどうしたんだろう」

(「それはしちのすけさんにもわからないんだそうです。なんでもだいどころの)

「それは七之助さんにも判らないんだそうです。なんでも台所の

(とだなのなかへいれておくと、あしたのあさまでにはみんな)

戸棚のなかへ入れて置くと、あしたの朝までにはみんな

(なくなってしまうんだそうで・・・・・・。どういうわけだかわからないといって、)

失(なく)なってしまうんだそうで……。どういうわけだか判らないと云って、

(しちのすけさんもふしぎがっているので、うちのひとがいじをつけて、)

七之助さんも不思議がっているので、良人(うちのひと)が意地をつけて、

(ものはためしだ、さかなをもたずにいちどかえってみろ、おふくろがどうするかと・・・・・・。)

物は試しだ、魚を持たずに一度帰ってみろ、おふくろがどうするかと……。

(しちのすけさんもとうとうそのきになったとみえて、このあいだのゆうがた、)

七之助さんもとうとうその気になったと見えて、このあいだの夕方、

(みょうじんさまのおまつりのすんだあくるひのゆうがたに、わざとばんだいをからにして)

明神様の御祭礼(おまつり)の済んだ明くる日の夕方に、わざと盤台を空にして

(かえってきたんです。わたくしもちょうどそのときにかいものにいって、)

帰って来たんです。わたくしも丁度そのときに買物に行って、

(かえりにろじのかどであったもんですから、しちのすけさんといっしょにろじへ)

帰りに路地の角で逢ったもんですから、七之助さんと一緒に路地へ

(はいってきて、すぐにわかれればよかったんですが、きょうはばんだいが)

はいって来て、すぐに別れればよかったんですが、きょうは盤台が

(からになっているからおふくろさんがどうするかとおもって、かどぐちにたって)

空になっているからおふくろさんがどうするかと思って、門口に立って

(そっとのぞいていると、しちのすけさんはどまにはいってばんだいをおろしました。)

そっと覗いていると、七之助さんは土間にはいって盤台を卸しました。

(すると、おまきさんがおくからでてきて・・・・・・。すぐにばんだいのほうをじろりとみて・・・・・・)

すると、おまきさんが奥から出て来て……。すぐに盤台の方をじろりと見て……

(おや、きょうはなんにももってこなかったのかいと、こういったときに、)

おや、きょうはなんにも持って来なかったのかいと、こう云ったときに、

(おまきさんのかおが・・・・・・。みみがおったって、めがひかって、くちがさけて・・・・・・。)

おまきさんの顔が……。耳が押っ立って、眼が光って、口が裂けて……。

(まるでねこのようになってしまったんです」)

まるで猫のようになってしまったんです」

(そのおそろしいねこのかおがいまでものぞいているかのように、おはつはうすぐらいおくを)

その恐ろしい猫の顔が今でも覗いているかのように、お初は薄暗い奥を

(すかしていきをのみこんだ。はんしちもすこしけむにまかれた。)

透かして息をのみ込んだ。半七も少し煙(けむ)にまかれた。

(「はて、へんなことがあるもんだな。それからどうした」)

「はて、変なことがあるもんだな。それからどうした」

など

(「わたくしもびっくりしてはっとおもっていますと、しちのすけさんは)

「わたくしもびっくりしてはっと思っていますと、七之助さんは

(いきなりてんびんぼうをふりあげて、おふくろさんののうてんをひとつうったんです。)

いきなり天秤棒を振りあげて、おふくろさんの脳天を一つ打ったんです。

(きゅうしょをひどくうったとみえて、おまきさんはこえもださないでどまへころげおちて、)

急所をひどく打ったと見えて、おまきさんは声も出さないで土間へ転げ落ちて、

(もうそれぎりになってしまったようですから、わたくしはまた)

もうそれ限(ぎ)りになってしまったようですから、わたくしは又

(びっくりしました。しちのすけさんはこわいかおをしてしばらくおふくろさんのしがいを)

びっくりしました。七之助さんは怖い顔をしてしばらくおふくろさんの死骸を

(ながめているようでしたが、きゅうにまたうろたえたようなふうで、だいどころから)

眺めているようでしたが、急にまたうろたえたような風で、台所から

(でばぼうちょうをもちだして、こんどはじぶんののどをつこうとするらしいんです。)

出刃庖丁を持ち出して、今度は自分の喉を突こうとするらしいんです。

(もううっちゃってはおかれませんから、わたくしがかけこんで)

もう打捨(うっちゃ)っては置かれませんから、わたくしが駈け込んで

(とめました。そうしてわけをききますと、しちのすけさんのめにもやっぱり)

止めました。そうして訳を訊きますと、七之助さんの眼にもやっぱり

(おふくろさんのかおがねこにみえたんだそうです。ねこがいつのまにか)

おふくろさんの顔が猫に見えたんだそうです。猫がいつの間にか

(おふくろさんをくいころして、おふくろさんにばけているんだろうとおもって、)

おふくろさんを喰い殺して、おふくろさんに化けているんだろうと思って、

(おやこうこうのしちのすけさんはおやのかたきをとるつもりで、むちゅうですぐに)

親孝行の七之助さんは親のかたきを取るつもりで、夢中ですぐに

(ぶちころしてしまったんですが、ころしてみるとやっぱりほんとうの)

撲(ぶ)ち殺してしまったんですが、殺して見るとやっぱりほんとうの

(おふくろさんで、しっぽもださなければけもはえないんです。そうすると、)

おふくろさんで、尻尾も出さなければ毛も生えないんです。そうすると、

(どうしてもおやごろしですから、しちのすけさんもかくごをきめたらしいんです」)

どうしても親殺しですから、七之助さんも覚悟を決めたらしいんです」

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