『怪人二十面相』江戸川乱歩23

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少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文

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(「てがみとはめずらしいな。ここへもってきなさい」)

「手紙とは珍しいな。ここへ持って来なさい」

(ろうじんがへんじすると、おもいとががらがらとあいて、)

老人が返事すると、重い戸がガラガラとあいて、

(しゅじんとおなじようにしわくちゃのじいやが)

主人と同じようにシワくちゃのじいやが

(はいってきました。)

入って来ました。

(さもんろうじんはそれをうけとってうらをみましたが、)

左門老人はそれを受け取って裏を見ましたが、

(みょうなことにさしだしにんのなまえがありません。)

みょうなことに差出人の名前がありません。

(「だれからだろう。みなれないてがみだが」)

「だれからだろう。見なれない手紙だが」

(あてなはたしかにくさかべさもんさまとなっているので、)

宛名は確かに日下部左門様となっているので、

(ともかくふうをきってよみました。「おや)

ともかく封を切って読みました。「おや

(だんなさま、どうかされましたか。なにかしんぱいなことが)

旦那さま、どうかされましたか。何か心配なことが

(かかれているのですか」じいやがおもわず、)

書かれているのですか」 じいやが思わず、

(とんきょうなさけびごえをたてました。それほど、)

頓狂な叫び声をたてました。それほど、

(さもんろうじんのようすがかわったのです。ひげのない)

左門老人の様子が変わったのです。ヒゲのない

(しわくちゃのかおが、しなびたようにいろをうしなって、)

シワくちゃの顔が、しなびたように色を失って、

(はのぬけたくちびるがぶるぶるふるえ、ろうがんきょうのなかで)

歯の抜けた唇がブルブル震え、老眼鏡の中で

(ちいさなめがふあんらしくひかっているのです。「いや、)

小さな目が不安らしく光っているのです。「いや、

(な、なんでもない。おまえにはわからんことだ。)

な、何でもない。お前には分からんことだ。

(あっちへいっていなさい」ふるえごえで)

あっちへ行っていなさい」 震え声で

(しかりつけるようにいって、じいやをおいかえし)

しかりつけるように言って、じいやを追い返し

(ましたが、なんでもないどころか、ろうじんは)

ましたが、何でもないどころか、老人は

など

(きをうしなってたおれなかったのが、ふしぎなくらい)

気を失って倒れなかったのが、不思議なくらい

(です。そのてがみには、つぎのような)

です。 その手紙には、次のような

(おそろしいことばが、したためてあったのですから。)

恐ろしい言葉が、したためてあったのですから。

(「しょうかいしゃもなく、とつぜんのもうしいれをおゆるしください。)

「紹介者もなく、突然の申し入れをお許しください。

(しかししょうかいしゃなどなくても、わたしがなにものであるかは、)

しかし紹介者などなくても、私が何者であるかは、

(しんぶんでよくごしょうちのこととおもいます。ようけんをかんたんに)

新聞でよくご承知のことと思います。用件を簡単に

(もうしますと、わたしはあなたのいえにしょぞうされている)

申しますと、私はあなたの家に所蔵されている

(めいがを、ひとつものこさずちょうだいするけっしんをした)

名画を、一つも残さずちょうだいする決心をした

(のです。きたるじゅういちがつじゅうごにちよる、)

のです。きたる十一月十五日夜、

(かならずさんじょういたします。とつぜんさんじょうして、)

必ず参上いたします。 とつぜん参上して、

(ごろうたいをおどろかしてはおきのどくとぞんじ、)

ご老体を驚かしてはお気の毒と存じ、

(あらかじめごつうちします。にじゅうめんそうより。)

あらかじめご通知します。二十面相より。

(くさかべさもんどの」ああ、かいとうにじゅうめんそうは、とうとう、)

日下部左門殿」ああ、怪盗二十面相は、とうとう、

(このいずのさんちゅうのびじゅつしゅうしゅうきょうに、めをつけた)

この伊豆の山中の美術収集狂に、目をつけた

(のでした。かれがけいかんにへんそうして、とやまがはらのかくれがを)

のでした。彼が警官に変装して、戸山ヶ原の隠れ家を

(とうぼうしてから、ほとんどいっかげつになります。)

逃亡してから、ほとんど一ヵ月になります。

(そのあいだ、かいとうがどこでなにをしていたか、だれも)

そのあいだ、怪盗がどこで何をしていたか、だれも

(しるものはいません。おそらくあたらしいかくれがをつくり、)

知る者はいません。おそらく新しい隠れ家をつくり、

(てしたのものたちをあつめてだいに、だいさんのおそろしい)

手下の者たちを集めて第二、第三の恐ろしい

(いんぼうをたくらんでいたのでしょう。そして、)

陰謀をたくらんでいたのでしょう。そして、

(まずしらはのやをたてられたのが、やまおくにある)

まず白羽の矢をたてられたのが、山奥にある

(くさかべけのびじゅつじょうでした。「じゅういちがつじゅうごにちのよる)

日下部家の美術城でした。「十一月十五日の夜

(といえばこんやだ。ああ、わしはどうすればよい)

といえば今夜だ。ああ、わしはどうすればよい

(のじゃ。にじゅうめんそうにねらわれたからには、)

のじゃ。二十面相に狙われたからには、

(わしのたからはなくなったもどうぜんだ。あいつは)

わしの宝は無くなったも同然だ。あいつは

(けいしちょうのちからでも、どうすることもできなかった)

警視庁の力でも、どうすることも出来なかった

(おそろしいとうぞくじゃないか。こんなかたいなかのけいさつの)

恐ろしい盗賊じゃないか。こんな片田舎の警察の

(てに、おえるものではない。ああ、わしはもうはめつだ。)

手に、負えるものではない。ああ、わしはもう破滅だ。

(このたからをとられてしまうくらいなら、いっそ)

この宝を盗られてしまうくらいなら、いっそ

(しんだほうがましじゃ」さもんろうじんは、いきなり)

死んだほうがマシじゃ」 左門老人は、いきなり

(たちあがって、じっとしていられないように、)

立ちあがって、ジッとしていられないように、

(へやのなかをぐるぐるあるきはじめました。「ああ、うんの)

部屋の中をグルグル歩き始めました。「ああ、運の

(つきじゃ。もうのがれるすべはない」いつのまにか、)

つきじゃ。もうのがれるすべはない」 いつの間にか、

(ろうじんのあおざめたしわくちゃなかおが、なみだにぬれて)

老人の青ざめたシワくちゃな顔が、涙に濡れて

(いました。「おや、あれはなんだったかな。ああ、)

いました。「おや、あれはなんだったかな。ああ、

(わしはおもいだしたぞ。どうしていままで、そこへ)

わしは思い出したぞ。どうして今まで、そこへ

(きがつかなかったのだろう。かみさまは、まだ)

気がつかなかったのだろう。神さまは、まだ

(このわしをおみすてなさらないのじゃ。あのひとさえ)

このわしをお見捨てなさらないのじゃ。あの人さえ

(いてくれたら、わしはたすかるかもしれないぞ」)

いてくれたら、わしは助かるかもしれないぞ」

(なにをおもいついたのか、ろうじんのかおには、にわかにせいきが)

何を思いついたのか、老人の顔には、にわかに生気が

(みなぎってきました。「おいさくぞう、)

みなぎってきました。「おい作蔵、

(さくぞうはいないか」ろうじんはへやのそとへでて、)

作蔵は居ないか」 老人は部屋の外へ出て、

(ぱんぱんとてをたたきながら、しきりにじいやを)

パンパンと手を叩きながら、しきりにじいやを

(よびました。ただならないしゅじんのこえに、)

呼びました。 ただならない主人の声に、

(じいやがかけつけると、「はやく、いずにっぽうを)

じいやが駆けつけると、「早く、伊豆日報を

(もってきてくれ。たしか、おとといのしんぶんだったと)

持ってきてくれ。確か、一昨日の新聞だったと

(おもうが、なんでもいいからさん、よっかぶんまとめて)

思うが、何でもいいから三、四日分まとめて

(もってきてくれ。はやくだ、はやくだぞ」と、おそろしい)

持ってきてくれ。早くだ、早くだぞ」と、恐ろしい

(けんまくでめいじました。さくぞうがあわてふためいて、)

剣幕で命じました。作蔵が慌てふためいて、

(そのいずにっぽうというちほうしんぶんのたばをもって)

その伊豆日報という地方新聞の束を持って

(くると、ろうじんはとるてももどかしく、)

来ると、老人は取る手ももどかしく、

(いちまいいちまいとしゃかいめんをみていきましたが、やっぱり)

一枚一枚と社会面を見ていきましたが、やっぱり

(おとといのじゅうさんにちのしょうそくらんに、つぎのようなきじが)

一昨日の十三日の消息欄に、次のような記事が

(でていました。「あけちこごろうしきこく。みんかんたんていの)

出ていました。「明智小五郎氏帰国。民間探偵の

(だいいちにんしゃであるあけちこごろうしは、ながらく)

第一人者である明智小五郎氏は、長らく

(がいこくにしゅっちょうちゅうであったが、このほどしめいを)

外国に出張中であったが、このほど使命を

(はたしてききょう。たびのつかれをやすめるために、)

果たして帰京。旅の疲れを休めるために、

(ほんじつしゅうぜんじおんせんふじやりょかんにしゅくはく。し、ごにち)

本日修繕寺温泉富士屋旅館に宿泊。四、五日

(たいざいのよていである」「これだこれだ。にじゅうめんそうに)

滞在の予定である」「これだこれだ。二十面相に

(てきたいできるじんぶつは、このあけちたんていのほかにはない。)

敵対出来る人物は、この明智探偵の他にはない。

(はしばけのとうなんじけんでは、じょしゅのこばやしとかいう)

羽柴家の盗難事件では、助手の小林とかいう

(こどもでさえ、あれほどのはたらきをしたんだ。)

子どもでさえ、あれほどの働きをしたんだ。

(そのせんせいであるあけちたんていならば、きっとわしの)

その先生である明智探偵ならば、きっとわしの

(はめつをすくってくれるにちがいない。どんなことが)

破滅を救ってくれるに違いない。どんなことが

(あっても、このめいたんていをひっぱってこなくては)

あっても、この名探偵を引っ張ってこなくては

(ならん」ろうじんはそんなひとりごとをつぶやきながら、)

ならん」 老人はそんな独り言をつぶやきながら、

(さくぞうじいやのにょうぼうをよんできものにきがえると、)

作蔵じいやの女房を呼んで着物に着替えると、

(たからものべやのがんじょうなとをぴったりしめて)

宝物部屋の頑丈な戸をピッタリ閉めて

(そとからかぎをかけ、ふたりのめしつかいに、そのまえで)

外からカギをかけ、二人の召使いに、その前で

(みはりばんをしているようにかたくいいつけて、)

見張り番をしているように堅く言いつけて、

(そそくさとやしきをでました。いうまでもなく、)

ソソクサと屋敷を出ました。 言うまでもなく、

(いきさきはちかくのしゅうぜんじおんせんふじやりょかんです。)

行き先は近くの修繕寺温泉富士屋旅館です。

(そこへいってあけちたんていにめんかいし、たからもののほごを)

そこへ行って明智探偵に面会し、宝物の保護を

(たのもうというわけです。ああ、まちにまった)

頼もうという訳です。 ああ、待ちに待った

(めいたんていあけちこごろうが、とうとうかえってきたのです。)

名探偵明智小五郎が、とうとう帰ってきたのです。

(しかもときもとき、ところもところ、まるでもうしあわせでも)

しかも時も時、所も所、まるで申し合わせでも

(したように、ちょうどにじゅうめんそうがおそおうという、)

したように、ちょうど二十面相が襲おうという、

(くさかべしのびじゅつじょうのすぐちかくに、にゅうとうにきて)

日下部氏の美術城のすぐ近くに、入湯に来て

(いようとは、さもんろうじんにとってはじつに)

いようとは、左門老人にとっては実に

(ねがってもないしあわせといわねばなりません。)

願ってもない幸せと言わねばなりません。

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