『怪人二十面相』江戸川乱歩26
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(はっときがつくと、そのうすくしろいもやのなかに、)
ハッと気がつくと、その薄く白いモヤの中に、
(めだけひからしたくろしょうぞくのおとこが、もうろうと)
目だけ光らした黒装束の男が、もうろうと
(たちはだかっているではありませんか。「あ、)
立ちはだかっているではありませんか。「あ、
(あけちせんせい、ぞくです、ぞくです」おもわずおおごえをあげて、)
明智先生、賊です、賊です」 思わず大声をあげて、
(ねているあけちのかたをゆさぶりました。「なんです。)
寝ている明智の肩を揺さぶりました。「なんです。
(さわがしいじゃありませんか。どこにぞくが)
騒がしいじゃありませんか。どこに賊が
(いるんです。ゆめでもごらんになったのでしょう」)
居るんです。夢でもご覧になったのでしょう」
(たんていはみうごきもせず、しかりつけるようにいう)
探偵は身動きもせず、しかりつけるように言う
(のでした。なるほど、いまのはゆめか、それとも)
のでした。 なるほど、今のは夢か、それとも
(まぼろしだったのかもしれません。いくらみまわしても、)
幻だったのかもしれません。いくら見回しても、
(くろしょうぞくのおとこなど、どこにもいやしないのです。)
黒装束の男など、どこにもいやしないのです。
(ろうじんはすこしきまりがわるくなって、むごんのまま)
老人は少しきまりが悪くなって、無言のまま
(もとのしせいにもどり、またみみをすましましたが、)
元の姿勢に戻り、また耳をすましましたが、
(するとさっきとおなじように、あたまのなかがすーっと)
するとさっきと同じように、頭の中がスーッと
(からっぽになって、めのまえにもやがむらがりはじめる)
空っぽになって、目の前にモヤが群がり始める
(のです。そのもやがすこしずつこくなって、やがて)
のです。 そのモヤが少しずつ濃くなって、やがて
(くろいくものようにまっくらになってしまうと、からだがふかい)
黒い雲のように真っ暗になってしまうと、体が深い
(ちのそこへでもおちていくようなきもちがして、)
地の底へでも落ちていくような気持ちがして、
(ろうじんは、いつしかうとうととねむってしまいました。)
老人は、いつしかウトウトと眠ってしまいました。
(どのくらいねむったのか、そのあいだじゅう、)
どのくらい眠ったのか、その間中、
(まるでじごくへでもおちたような、おそろしいゆめばかり)
まるで地獄へでも落ちたような、恐ろしい夢ばかり
(みつづけながら、ふとめをさますと)
見続けながら、ふと目を覚ますと
(びっくりしたことに、あたりがすっかりあかるくなって)
ビックリしたことに、あたりがすっかり明るくなって
(いるのです。「ああ、わしは、ねむったんだな。)
いるのです。「ああ、わしは、眠ったんだな。
(しかし、あんなにきをはりつめていたのに、どうして)
しかし、あんなに気を張り詰めていたのに、どうして
(ねたりなんぞしたんだろう」さもんろうじんはわれながら、)
寝たりなんぞしたんだろう」 左門老人は我ながら、
(ふしぎでしかたがありませんでした。みると、)
不思議で仕方がありませんでした。 見ると、
(あけちたんていはゆうべのままのすがたで、まだすやすやと)
明智探偵はゆうべのままの姿で、まだスヤスヤと
(ねむっています。「ああ、たすかった。)
眠っています。「ああ、助かった。
(それじゃにじゅうめんそうは、あけちたんていにおそれをなして、)
それじゃ二十面相は、明智探偵におそれをなして、
(とうとうやってこなかったとみえる。ありがたい」)
とうとうやって来なかったとみえる。ありがたい」
(ろうじんはほっとむねをなでおろして、しずかにたんていを)
老人はホッと胸をなでおろして、静かに探偵を
(ゆりおこしました。「せんせい、おきてください。)
揺り起こしました。「先生、起きてください。
(もうよるがあけましたよ」あけちはすぐめをさまして、)
もう夜が明けましたよ」 明智はすぐ目を覚まして、
(「ああ、よくねむってしまった。ははは、)
「ああ、よく眠ってしまった。ハハハ、
(ごらんなさい。なにごともなかったじゃ)
ご覧なさい。何事もなかったじゃ
(ありませんか」といいながら、おおきなのびをする)
ありませんか」と言いながら、大きな伸びをする
(のでした。「みはりばんのけいじさんも、さぞねむい)
のでした。「見張り番の刑事さんも、さぞ眠い
(でしょう。もうだいじょうぶですから、ごはんでも)
でしょう。もう大丈夫ですから、ご飯でも
(さしあげて、ゆっくりやすんでいただこうじゃ)
差し上げて、ゆっくり休んでいただこうじゃ
(ありませんか」「そうですね。では、このとを)
ありませんか」「そうですね。では、この戸を
(あけてください」ろうじんはいわれるままに、)
あけてください」 老人は言われるままに、
(かいちゅうからかぎをとりだしてしまりをはずし、)
懐中からカギを取り出して締まりを外し、
(がらがらとどあをひらきました。ところが)
ガラガラとドアをひらきました。 ところが
(とをひらいて、へやのなかをひとめみたかとおもうと、)
戸をひらいて、部屋の中を一目見たかと思うと、
(ろうじんのくちから「ぎゃー」という、)
老人の口から「ギャー」という、
(まるでしめころされるようなさけびごえが)
まるで絞め殺されるような叫び声が
(ほとばしったのです。「どうしたんです」)
ほとばしったのです。「どうしたんです」
(あけちもおどろいてたちあがり、へやのなかを)
明智も驚いて立ち上がり、部屋の中を
(のぞきました。「あ、あれ、あれ」ろうじんはくちをきく)
のぞきました。「あ、あれ、あれ」老人は口をきく
(ちからもなく、みょうなかたことをいいながら、)
力もなく、みょうな片言を言いながら、
(ふるえるてで、しつないをゆびさしています。みると、)
震える手で、室内を指さしています。 見ると、
(ああ、ろうじんのおどろきも、けっしてむりはなかった)
ああ、老人の驚きも、決して無理はなかった
(のです。へやのなかのめいがは、かべにかけてあったのも、)
のです。部屋の中の名画は、壁に掛けてあったのも、
(はこにおさめてたなにつんであったのも、ひとつのこらず、)
箱に収めて棚に積んであったのも、一つ残らず、
(まるでかきけすようになくなっているでは)
まるでかき消すように無くなっているでは
(ありませんか。ばんにんのけいじは、たたみのうえに)
ありませんか。 番人の刑事は、畳の上に
(うちのめされたようにたおれて、なんという)
打ちのめされたように倒れて、なんという
(ざまでしょう。ぐうぐうたかいいびきをかいている)
様でしょう。グウグウ高いイビキをかいている
(のです。「せ、せんせい、ぬ、ぬすまれました。)
のです。「せ、先生、ぬ、盗まれました。
(ああ、わしは、わしは」さもんろうじんはいっしゅんで)
ああ、わしは、わしは」 左門老人は一瞬で
(じゅうねんもとしをとったような、すさまじいかおになって、)
十年も歳をとったような、すさまじい顔になって、
(あけちのむなぐらをつかもうとしそうないきおいです。)
明智の胸ぐらをつかもうとしそうな勢いです。
(「あくまのちえ」)
「悪魔の知恵」
(ああ、またしてもありえないことがおこったのです。)
ああ、またしてもありえないことが起こったのです。
(にじゅうめんそうというやつはにんげんではなくて、)
二十面相という奴は人間ではなくて、
(えたいのしれないおばけです。まったくふかのうな)
得体の知れないオバケです。まったく不可能な
(ことを、こんなにやすやすとやってのけるのです)
ことを、こんなにやすやすとやってのけるのです
(からね。あけちはつかつかとへやのなかへはいって、)
からね。 明智はツカツカと部屋の中へ入って、
(いびきをかいているけいじのこしあたりを、)
イビキをかいている刑事の腰あたりを、
(いきなりけとばしました。ぞくにだしぬかれて、)
いきなり蹴飛ばしました。賊に出し抜かれて、
(もうすっかりはらをたてているようすでした。)
もうすっかり腹をたてている様子でした。
(「おいおい、おきたまえ。ぼくはきみに、)
「おいおい、起きたまえ。ぼくはきみに、
(ここでおやすみくださいってたのんだんじゃ)
ここでおやすみくださいって頼んだんじゃ
(ないんだぜ。みたまえ、すっかりぬすまれて)
ないんだぜ。見たまえ、すっかり盗まれて
(しまったじゃないか」けいじは、やっとからだを)
しまったじゃないか」 刑事は、やっと体を
(おこしましたが、まだゆめうつつのありさまです。)
起こしましたが、まだ夢うつつの有り様です。
(「うう、なにをぬすまれたんですか。ああ、すっかり)
「うう、何を盗まれたんですか。ああ、すっかり
(ねむってしまった。おや、ここはどこだろう」)
眠ってしまった。おや、ここはどこだろう」
(ねぼけたかおで、きょろきょろへやのなかをみまわす)
寝ぼけた顔で、キョロキョロ部屋の中を見まわす
(しまつです。「しっかりしたまえ。ああ、わかった。)
始末です。「しっかりしたまえ。ああ、分かった。
(きみはますいざいでやられたんじゃないか。おもいだして)
きみは麻酔剤でやられたんじゃないか。思い出して
(みたまえ、ゆうべどんなことがあったか」あけちは)
みたまえ、ゆうべどんなことがあったか」明智は
(けいじのかたをつかんで、らんぼうにゆさぶるのでした。)
刑事の肩をつかんで、乱暴に揺さぶるのでした。
(「おうっと、おや、ああ、あんたあけちさんですね。)
「おうっと、おや、ああ、あんた明智さんですね。
(ああ、ここはくさかべのびじゅつじょうだった。しまった。)
ああ、ここは日下部の美術城だった。しまった。
(ぼくはやられたんですよ。そうです、ますいざいです。)
ぼくはやられたんですよ。そうです、麻酔剤です。
(ゆうべまよなかに、くろいかげのようなものが、)
ゆうべ真夜中に、黒い影のようなものが、
(ぼくのうしろへしのびよったのです。そして、なにか)
ぼくの後ろへ忍び寄ったのです。そして、なにか
(やわらかいいやなにおいのするもので、ぼくのはなとくちを)
やわらかい嫌な臭いのする物で、ぼくの鼻と口を
(ふさいでしまったのです。それっきり、ぼくはなにも)
ふさいでしまったのです。それっきり、ぼくは何も
(わからなくなってしまったんです」けいじはやっと)
分からなくなってしまったんです」 刑事はやっと
(めがさめたようすで、もうしわけなさそうに)
目が覚めた様子で、申し訳なさそうに
(からっぽのかいがしつをみまわすのでした。「やっぱり)
空っぽの絵画室を見回すのでした。「やっぱり
(そうだった。じゃあ、おもてもんとうらもんをまもっていた)
そうだった。じゃあ、表門と裏門を守っていた
(けいじしょくんも、おなじめにあっているかもしれない」)
刑事諸君も、同じ目にあっているかもしれない」
(あけちはひとりごとをいいながらへやをかけだして)
明智は独り言を言いながら部屋を駆けだして
(いきましたが、しばらくすると)
いきましたが、しばらくすると
(だいどころのほうでおおごえによぶのがきこえてきました。)
台所のほうで大声に呼ぶのが聞こえてきました。