『怪人二十面相』江戸川乱歩27
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「くさかべさん、ちょっときてください」)
「日下部さん、ちょっと来てください」
(なにごとかと、ろうじんとけいじがこえのするほうへ)
何事かと、老人と刑事が声のするほうへ
(いってみると、あけちはげなんのへやのいりぐちにたって、)
行ってみると、明智は下男の部屋の入り口に立って、
(そのなかをゆびさしています。「おもてもんにもうらもんにも、)
その中を指さしています。「表門にも裏門にも、
(けいじくんたちのかげがみえません。それだけじゃない。)
刑事君たちの影が見えません。それだけじゃない。
(ごらんなさい。かわいそうに、このしまつです」)
ご覧なさい。可哀想に、この始末です」
(みると、げなんのへやのすみっこにさくぞうじいやと)
見ると、下男の部屋の隅っこに作蔵じいやと
(そのおかみさんが、りょうてをうしろにまわされ、)
そのおかみさんが、両手を後ろに回され、
(くびからひじ、てくびになわをかけられ、げんじゅうにしばり)
首から肘、手首に縄をかけられ、厳重にしばり
(あげられ、さるぐつわまでかまされて、)
あげられ、さるぐつわまでかまされて、
(ころがっているではありませんか。むろん、ぞくの)
転がっているではありませんか。無論、賊の
(しわざです。じゃまをしないように、ふたりのめしつかいを)
仕業です。邪魔をしないように、二人の召使いを
(しばりつけておいたのです。「ああ、なんということ)
しばりつけておいたのです。「ああ、なんということ
(じゃ。あけちさん、これはなんということです」)
じゃ。明智さん、これは何ということです」
(くさかべろうじんははんきょうらんで、あけちにつめより)
日下部老人は半狂乱で、明智に詰め寄り
(ました。いのちよりもたいせつにおもっていたたからが、)
ました。命よりも大切に思っていた宝が、
(ゆめのようにいちやのうちにきえてしまったのです)
夢のように一夜のうちに消えてしまったのです
(から、むりもないことです。「いや、なんとも)
から、無理もないことです。「いや、なんとも
(もうしあげようもありません。にじゅうめんそうが、これほどの)
申し上げようもありません。二十面相が、これほどの
(うでまえとはしりませんでした。あいてをみくびっていた)
腕前とは知りませんでした。相手をみくびっていた
(のがしっさくでした」「しっさくじゃと。あけちさん、)
のが失策でした」「失策じゃと。明智さん、
(あんたはしっさくですむじゃろうが、このわしは、)
あんたは失策で済むじゃろうが、このわしは、
(いったいどうすればよいのです。めいたんていという)
一体どうすればよいのです。名探偵という
(ひょうばんばかりで、なんだこのざまは」ろうじんは)
評判ばかりで、なんだこの様は」老人は
(まっさおになって、ちばしっためであけちをにらみつけて、)
真っ青になって、血走った目で明智をにらみつけて、
(いまにも、とびかからんばかりのけんまくです。)
今にも、とびかからんばかりの剣幕です。
(あけちはきょうしゅくしたように、うつむいて)
明智は恐縮したように、うつむいて
(いましたが、やがてひょいとあげたかおをみると、)
いましたが、やがてヒョイと上げた顔を見ると、
(これはどうしたというのでしょう。めいたんていは、)
これはどうしたというのでしょう。名探偵は、
(わらっているではありませんか。そのわらいが)
笑っているではありませんか。その笑いが
(かおいちめんにひろがっていって、しまいにはもう)
顔一面にひろがっていって、しまいにはもう
(おかしくておかしくてたまらないというように、)
おかしくておかしくてたまらないというように、
(おおきなこえをたてて、わらいだしたではありませんか。)
大きな声をたてて、笑いだしたではありませんか。
(くさかべろうじんは、あっけにとられてしまいました。)
日下部老人は、あっけにとられてしまいました。
(あけちはぞくにだしぬかれたくやしさに、)
明智は賊に出し抜かれた悔しさに、
(きでもくるったのでしょうか。「あけちさん、)
気でも狂ったのでしょうか。「明智さん、
(あんたなにがおかしいのじゃ。これ、なにがおかしい)
あんた何がおかしいのじゃ。これ、何がおかしい
(のじゃ」「わはは、おかしいですよ。めいたんてい)
のじゃ」「ワハハ、おかしいですよ。名探偵
(あけちこごろう、ざまはないですね。まるであかごのてを)
明智小五郎、ざまはないですね。まるで赤子の手を
(ねじるように、やすやすとやられてしまったじゃ)
ねじるように、やすやすとやられてしまったじゃ
(ありませんか。にじゅうめんそうというやつは、)
ありませんか。二十面相という奴は、
(えらいですねえ。ぼくはあいつをそんけいしますよ」)
偉いですねえ。ぼくはあいつを尊敬しますよ」
(あけちのようすは、いよいよへんです。「これこれ、)
明智の様子は、いよいよ変です。「これこれ、
(あけちさん、どうしたんじゃ。ぞくをほめている)
明智さん、どうしたんじゃ。賊を褒めている
(ばあいではない。ちぇ、これはなんという)
場合ではない。チェ、これは何という
(ざまだ。ああ、それに、さくぞうたちを、このままに)
ざまだ。ああ、それに、作蔵たちを、このままに
(しておいてはかわいそうじゃ。けいじさん、ぼんやり)
しておいては可哀想じゃ。刑事さん、ボンヤリ
(してないで、はやくなわをといてやってください。)
してないで、早く縄をといてやってください。
(さるぐつわもはずして。そうすれば、さくぞうのくちから)
さるぐつわも外して。そうすれば、作蔵の口から
(ぞくのてがかりもわかるというもんじゃないか」)
賊の手がかりも分かるというもんじゃないか」
(あけちが、いっこうたよりにならないものですから、)
明智が、いっこう頼りにならないものですから、
(あべこべに、くさかべろうじんがたんていみたいにさしずを)
あべこべに、日下部老人が探偵みたいに指図を
(するしまつです。「さあ、ごろうじんのめいれいだ。)
する始末です。「さあ、ご老人の命令だ。
(なわをといてやりたまえ」あけちがけいじに、)
縄をといてやりたまえ」 明智が刑事に、
(みょうなめくばせをしました。すると、いままで)
みょうな目くばせをしました。 すると、今まで
(ぼんやりしていたけいじが、にわかにしゃんとたち)
ボンヤリしていた刑事が、にわかにシャンと立ち
(なおって、ぽけっとからひとたばのなわをとりだした)
なおって、ポケットから一束の縄を取り出した
(かとおもうと、いきなりくさかべろうじんのうしろに)
かと思うと、いきなり日下部老人の後ろに
(まわって、ぱっとなわをかけ、ぐるぐると)
まわって、パっと縄をかけ、グルグルと
(しばりはじめました。「これ、なにをする。ああ、)
しばり始めました。「これ、何をする。ああ、
(どいつもこいつも、きちがいばかりじゃ。わしを)
どいつもこいつも、キチガイばかりじゃ。わしを
(しばってどうするのだ。わしをしばるのではない。)
しばってどうするのだ。わしをしばるのではない。
(そこにころがっている、ふたりのなわをとくのじゃ。)
そこに転がっている、二人の縄をとくのじゃ。
(これ、わしではないというに」しかし、けいじは)
これ、わしではないと言うに」 しかし、刑事は
(いっこうにてをゆるめようとはしません。)
いっこうに手をゆるめようとはしません。
(むごんのまま、とうとうろうじんをしばりあげて)
無言のまま、とうとう老人をしばりあげて
(しまいました。「これ、きちがいめ。これ、)
しまいました。「これ、キチガイめ。これ、
(なにをする。あ、いたいいたい。いたいというに。あけちさん、)
何をする。あ、痛い痛い。痛いと言うに。明智さん、
(あんたなにをわらっているのじゃ。とめてくださらんか。)
あんた何を笑っているのじゃ。とめてくださらんか。
(このおとこは、きちがいらしい。はやく、なわをとくように)
この男は、キチガイらしい。早く、縄をとくように
(いってください。これ、あけちさん」ろうじんは、)
言ってください。これ、明智さん」老人は、
(なにがなんだかわけがわからなくなってしまいました。)
何が何だか訳が分からなくなってしまいました。
(みんな、そろってきちがいになったのでしょうか。)
みんな、そろってキチガイになったのでしょうか。
(でなければ、じけんのいらいしゃをしばりあげるなんて)
でなければ、事件の依頼者をしばりあげるなんて
(ありえません。またそれをみて、たんていがにやにや)
ありえません。またそれを見て、探偵がニヤニヤ
(わらっているなんてばかなことはありません。)
笑っているなんてバカなことはありません。
(「ごろうじん、だれをおよびになっているのです。)
「ご老人、だれをお呼びになっているのです。
(あけちとかおっしゃったようですが」)
明智とかおっしゃったようですが」
(あけちじしんが、こんなことをいいだしたのです。)
明智自身が、こんなことを言いだしたのです。
(「なに、じょうだんをいっているのじゃ。)
「なに、じょうだんを言っているのじゃ。
(あけちさん、あんた、まさかじぶんのなまえをわすれたのでは)
明智さん、あんた、まさか自分の名前を忘れたのでは
(あるまい」「このぼくがですか。このぼくが)
あるまい」「このぼくがですか。このぼくが
(あけちこごろうだとおっしゃるのですか」あけちは)
明智小五郎だとおっしゃるのですか」明智は
(すまして、いよいよへんなことをいうのです。)
すまして、いよいよ変なことを言うのです。
(「きまっておるじゃないか。なにをばかなことを」)
「決まっておるじゃないか。何をバカなことを」
(「ははは、ごろうじん、あなたこそ、)
「ハハハ、ご老人、あなたこそ、
(どうかなさったんじゃありませんか。ここには)
どうかなさったんじゃありませんか。ここには
(あけちなんてにんげんは、いやしませんぜ」ろうじんはそれを)
明智なんて人間は、居やしませんぜ」老人はそれを
(きくと、ぽかんとくちをあけて、きつねにでも)
聞くと、ポカンと口をあけて、キツネにでも
(つままれたようなかおをしました。)
つままれたような顔をしました。
(あまりのことに、きゅうにはくちもきけないのです。)
あまりのことに、急には口もきけないのです。
(「ごろうじん、あなたはいぜんにあけちこごろうとおあいに)
「ご老人、あなたは以前に明智小五郎とお会いに
(なったことがあるのですか」「あったことはない。)
なったことがあるのですか」「会ったことはない。
(じゃが、しゃしんをみてよくしっておりますわい」)
じゃが、写真を見てよく知っておりますわい」
(「しゃしんですか。しゃしんでは、ちとこころぼそいですねえ。)
「写真ですか。 写真では、ちと心細いですねえ。
(そのしゃしんにぼくがにているとでもおっしゃる)
その写真にぼくが似ているとでもおっしゃる
(のですか。ごろうじん、あなたは、にじゅうめんそうがどんな)
のですか。ご老人、あなたは、二十面相がどんな
(じんぶつかということを、おわすれになっていたのですね。)
人物かということを、お忘れになっていたのですね。
(にじゅうめんそう、ほら、あいつはへんそうのめいじんだった)
二十面相、ほら、あいつは変装の名人だった
(じゃありませんか」「そ、それじゃ、き、きさまは」)
じゃありませんか」「そ、それじゃ、き、貴様は」