『怪人二十面相』江戸川乱歩28

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少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文

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(ろうじんはやっと、ことのしだいがのみこめてきました。)

老人はやっと、事の次第がのみこめてきました。

(そしてがくぜんとして、いろをうしなったのでした。)

そしてがくぜんとして、色を失ったのでした。

(「ははは、おわかりになりましたかね」)

「ハハハ、お分かりになりましたかね」

(「いやいや、そんなばかなことがあるはずはない。)

「いやいや、そんなバカなことがあるはずはない。

(わしはしんぶんをみたのじゃ。「いずにっぽう」にちゃんと)

わしは新聞を見たのじゃ。「伊豆日報」にちゃんと

(「あけちたんていきこく」とかいてあった。それから、)

「明智探偵帰国」と書いてあった。それから、

(ふじやのじょちゅうがこのひとだとおしえてくれた。どこにも)

富士屋の女中がこの人だと教えてくれた。どこにも

(まちがいは、ないはずじゃ」「ところがおおまちがいが)

間違いは、ないはずじゃ」「ところが大間違いが

(あったのですよ。なぜって、あけちこごろうは、まだ、)

あったのですよ。なぜって、明智小五郎は、まだ、

(がいこくからかえりゃしないのですからね」「しんぶんがうそを)

外国から帰りゃしないのですからね」「新聞がウソを

(かくはずない」「ところが、うそをかいたのですよ。)

書くはずない」「ところが、ウソを書いたのですよ。

(しゃかいぶのひとりのきしゃが、こちらのけいりゃくにかかってね。)

社会部の一人の記者が、こちらの計略にかかってね。

(へんしゅうちょうにうそのげんこうをわたしたってわけですよ」)

編集長にウソの原稿を渡したって訳ですよ」

(「ふん、それじゃけいじはどうしたんじゃ。)

「ふん、それじゃ刑事はどうしたんじゃ。

(まさかけいさつがにせのあけちたんていにごまかされるはずは)

まさか警察がニセの明智探偵にごまかされるはずは

(あるまい」ろうじんは、めのまえにたちはだかっている)

あるまい」 老人は、目の前に立ちはだかっている

(おとこを、あのおそろしいにじゅうめんそうだとはしんじたく)

男を、あの恐ろしい二十面相だとは信じたく

(なかったのです。むりにもあけちこごろうにして)

なかったのです。無理にも明智小五郎にして

(おきたかったのです。「ははは、ごろうじん、まだそんな)

おきたかったのです。「ハハハ、ご老人、まだそんな

(ことをかんがえているのですか。ちのめぐりがわるいんじゃ)

ことを考えているのですか。血のめぐりが悪いんじゃ

など

(ありませんか。けいじですか。あ、このおとこですね。)

ありませんか。刑事ですか。 あ、この男ですね。

(それからおもてもんとうらもんのばんをしたふたりですね。)

それから表門と裏門の番をした二人ですね。

(ははは、なにね、ぼくのこぶんがちょいとけいじのまねを)

ハハハ、なにね、ぼくの子分がちょいと刑事の真似を

(しただけですよ」ろうじんは、もうしんじまいとしても)

しただけですよ」 老人は、もう信じまいとしても

(しんじないわけにはいきませんでした。あけちこごろうと)

信じない訳にはいきませんでした。明智小五郎と

(ばかりおもいこんでいたおとこが、めいたんていどころか、)

ばかり思いこんでいた男が、名探偵どころか、

(だいとうぞくだったのです。おそれにおそれていた)

大盗賊だったのです。恐れに恐れていた

(かいとうにじゅうめんそう、そのひとだったのです。)

怪盗二十面相、その人だったのです。

(ああ、なんというとびきりのおもいつきでしょう。)

ああ、なんというとびきりの思いつきでしょう。

(たんていが、すなわちとうぞくだったなんて。くさかべろうじんは、)

探偵が、すなわち盗賊だったなんて。日下部老人は、

(にじゅうめんそうにたからのばんにんをたのんだのでした。「ごろうじん、)

二十面相に宝の番人を頼んだのでした。「ご老人、

(ゆうべのえじぷとたばこのあじはいかがでした。)

ゆうべのエジプトたばこの味はいかがでした。

(ははは、おもいだしましたか。あのなかにちょっとした)

ハハハ、思い出しましたか。あの中にちょっとした

(くすりがしかけてあったのですよ。ふたりのけいじがへやへ)

薬が仕掛けてあったのですよ。二人の刑事が部屋へ

(はいって、にもつをはこびだし、じどうしゃへつみこむ)

入って、荷物を運びだし、自動車へ積み込む

(あいだ、ごろうじんにひとねむりしてほしかったものです)

あいだ、ご老人にひとねむりしてほしかったものです

(からね。あのへやへどうしてはいったかとおっしゃる)

からね。あの部屋へどうして入ったかとおっしゃる

(のですか。ははは、わけはありませんよ。あなたの)

のですか。ハハハ、訳はありませんよ。あなたの

(ふところから、ちょっとかぎをはいしゃくすればよかった)

ふところから、ちょっとカギを拝借すればよかった

(のですからね」にじゅうめんそうは、まるでせけんばなしでもして)

のですからね」 二十面相は、まるで世間話でもして

(いるように、おだやかなことばをつかいました。しかし)

いるように、穏やかな言葉を使いました。しかし

(ろうじんにしてみれば、いやにていねいすぎるその)

老人にしてみれば、いやに丁寧すぎるその

(ことばづかいが、いっそうはらだたしかったにちがい)

言葉遣いが、いっそう腹立たしかったに違い

(ありません。「では、ぼくたちはいそぎますから、)

ありません。「では、ぼくたちは急ぎますから、

(これでしつれいします。びじゅつひんはじゅうぶんちゅういして、)

これで失礼します。美術品は充分注意して、

(たいせつにほかんするつもりですから、どうかごあんしん)

大切に保管するつもりですから、どうかご安心

(ください。では、さようなら」にじゅうめんそうは、)

ください。では、さようなら」 二十面相は、

(ていねいにいちれいして、けいじにばけたぶかをしたがえ、)

丁寧に一礼して、刑事に化けた部下をしたがえ、

(ゆっくりと、そのばをたちさりました。)

ゆっくりと、その場を立ち去りました。

(かわいそうなろうじんは、なにかわけのわからないことを)

可哀想な老人は、何か訳の分からないことを

(わめきながら、ぞくのあとをおおうとしましたが、)

わめきながら、賊のあとを追おうとしましたが、

(からだじゅうをぐるぐるまきにしたなわのはしが、)

体中をグルグル巻きにした縄の端が、

(そこのはしらにしばりつけてあるので、よろよろと)

そこの柱にしばりつけてあるので、ヨロヨロと

(たちあがってはみたものの、すぐばったりと)

立ち上がってはみたものの、すぐバッタリと

(たおれてしまいました。そしてたおれたまま、)

倒れてしまいました。そして倒れたまま、

(くやしさとかなしさに、はぎしりをかみ、)

悔しさと悲しさに、歯ぎしりをかみ、

(なみださえながして、みもだえするのでした。)

涙さえ流して、身もだえするのでした。

(「きょじんとかいじん」)

「巨人と怪人」

(びじゅつじょうのじけんがあってからはんつきほどたった、)

美術城の事件があってから半月ほど経った、

(あるひのごご、とうきょうえきのぷらっとほーむのひとごみの)

ある日の午後、東京駅のプラットホームの人混みの

(なかに、ひとりのかわいらしいしょうねんのすがたがみえました。)

中に、一人の可愛らしい少年の姿が見えました。

(ほかならない、こばやしよしおくんです。どくしゃしょくんには、)

他ならない、小林芳雄君です。読者諸君には、

(おなじみのあけちたんていのしょうねんじょしゅです。こばやしくんは、)

お馴染みの明智探偵の少年助手です。小林君は、

(じゃんぱーすがたで、よくにあうはんちんぐぼうを)

ジャンパー姿で、よく似合うハンチング帽を

(かぶって、ぴかぴかひかるくつをこつこついわせながら、)

かぶって、ピカピカ光る靴をコツコツいわせながら、

(ぷらっとほーむをいったりきたりしています。)

プラットホームを行ったり来たりしています。

(てには、いちまいのしんぶんしをぼうのようにまるめてにぎって)

手には、一枚の新聞紙を棒のように丸めて握って

(います。どくしゃしょくん、じつはこのしんぶんにはにじゅうめんそうに)

います。読者諸君、実はこの新聞には二十面相に

(かんする、あるおどろくべききじがのっているのですが、)

関する、ある驚くべき記事が載っているのですが、

(しかしそれについては、もうすこしあとでおはなし)

しかしそれについては、もう少しあとでお話

(しましょう。こばやししょうねんがとうきょうえきにやってきたのは、)

しましょう。 小林少年が東京駅にやって来たのは、

(せんせいのあけちこごろうをでむかえるためでした。)

先生の明智小五郎を出迎えるためでした。

(めいたんていは、こんどこそほんとうにがいこくからかえってくる)

名探偵は、今度こそ本当に外国から帰ってくる

(のです。あけちはぼうこくからのまねきにおうじ、あるじゅうだいな)

のです。 明智は某国からの招きに応じ、ある重大な

(じけんにかんし、みごとにせいこうをおさめてかえってくるのです)

事件に関し、見事に成功をおさめて帰ってくるのです

(から、いわばせんそうにかってかえるしょうぐんのようです。)

から、いわば戦争に勝って帰る将軍のようです。

(ほんらいならば、がいむしょうとかみんかんだんたいから、おおぜいの)

本来ならば、外務省とか民間団体から、大勢の

(でむかえがあるはずですが、あけちはそういうおおげさな)

出迎えがあるはずですが、明智はそういう大袈裟な

(ことがだいきらいでしたし、たんていというしょくぎょうじょう、)

ことが大嫌いでしたし、探偵という職業上、

(できるだけひとめにつかないよう、こころがけなければ)

出来るだけ人目につかないよう、心がけなければ

(なりませんので、おおやけのほうめんにはわざとつうちを)

なりませんので、公の方面にはわざと通知を

(しないで、ただじたくだけにとうきょうえきちゃくのじかんを)

しないで、ただ自宅だけに東京駅着の時間を

(しらせておいたのでした。それも、いつもあけちふじんは)

知らせておいたのでした。それも、いつも明智夫人は

(でむかえをえんりょして、こばやししょうねんがでかけるならわしに)

出迎えを遠慮して、小林少年が出かける習わしに

(なっていました。こばやしくんは、しきりとうでどけいを)

なっていました。 小林君は、しきりと腕時計を

(ながめています。もうごふんたつと、まちかねた)

ながめています。もう五分経つと、待ちかねた

(あけちせんせいのきしゃがとうちゃくするのです。ほとんど、)

明智先生の汽車が到着するのです。ほとんど、

(さんかげつぶりにおあいするのです。なつかしさに、)

三ヶ月ぶりにお会いするのです。懐かしさに、

(なんだかむねがわくわくするようでした。)

なんだか胸がワクワクするようでした。

(ふときがつくと、ひとりのりっぱなしんしが)

ふと気がつくと、一人の立派な紳士が

(にこにこえがおをつくりながら、こばやししょうねんに)

ニコニコ笑顔をつくりながら、小林少年に

(ちかづいてきました。ねずみいろのあたたかそうな)

近づいてきました。 ネズミ色の暖かそうな

(おーばーこーと、すてっき、はんぶんしろいろのとうはつと)

オーバーコート、ステッキ、半分白色の頭髪と

(くちひげ、でっぷりふとったかおに、べっこうぶちの)

くちヒゲ、デップリ太った顔に、ベッコウぶちの

(めがねがひかっています。にこにこわらいかけています)

メガネが光っています。ニコニコ笑いかけています

(けれど、こばやしくんにはまったくみおぼえのないひとでした。)

けれど、小林君にはまったく見覚えのない人でした。

(「もしやきみは、あけちさんのところのひとじゃ)

「もしやきみは、明智さんのところの人じゃ

(ありませんか」しんしは、ふとくやさしいこえで)

ありませんか」 紳士は、太く優しい声で

(たずねました。)

たずねました。

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