『怪人二十面相』江戸川乱歩33
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「だが、きみもふしぎなおとこじゃないか。そうまでして、)
「だが、きみも不思議な男じゃないか。そうまでして、
(このおれをにがしたいのか」「うん、いまやすやすと)
このおれをにがしたいのか」「うん、今やすやすと
(つかまえるのは、すこしおしいようなきがするのさ。)
捕まえるのは、少し惜しいような気がするのさ。
(いずれ、きみをつかまえるときには、おおぜいのぶかも、)
いずれ、きみを捕まえる時には、大勢の部下も、
(ぬすみためたびじゅつひんのかずかずも、すっかりいちもうに)
盗み溜めた美術品の数々も、すっかり一網に
(てにいれてしまうつもりだよ。すこしよくばりすぎている)
手に入れてしまうつもりだよ。少し欲張りすぎている
(だろうかねえ。ははは」にじゅうめんそうはながいあいだ、)
だろうかねえ。ハハハ」 二十面相は長い間、
(くやしそうにくちびるをかんでだまりこんでいましたが、)
悔しそうに唇をかんで黙りこんでいましたが、
(やがて、ふときをかえたように、にわかに)
やがて、ふと気を変えたように、にわかに
(わらいだしました。「さすがはあけちこごろうだ。)
笑いだしました。「さすがは明智小五郎だ。
(そうでなくてはならないよ。まあ、きをわるくしないで)
そうでなくてはならないよ。まあ、気を悪くしないで
(くれたまえ。いまのは、ちょっときみのきをひいてみた)
くれたまえ。今のは、ちょっときみの気をひいてみた
(までさ。けっしてほんきじゃないよ。ではきょうは、)
までさ。決して本気じゃないよ。では今日は、
(これでおわかれとして、きみをげんかんまでおおくりしよう」)
これでお別れとして、きみを玄関までお送りしよう」
(でもたんていは、そんなあまいくちにのって、すぐゆだん)
でも探偵は、そんな甘い口に乗って、すぐ油断
(してしまうほど、おひとよしではありませんでした。)
してしまうほど、お人よしではありませんでした。
(「おわかれするのはいいがね。このぼーいしょくんがしょうしょう)
「お別れするのはいいがね。このボーイ諸君が少々
(めざわりだねえ。まず、このふたりと、それから)
目障りだねえ。まず、この二人と、それから
(ろうかにいるおなかまを、だいどころのほうへおいやって)
廊下に居るお仲間を、台所のほうへ追いやって
(もらいたいものだねえ」ぞくはべつにさからいも)
もらいたいものだねえ」 賊は別に逆らいも
(せず、すぐぼーいたちにたちさるようにめいじ、)
せず、すぐボーイたちに立ち去るように命じ、
(いりぐちのどあをおおきくひらいて、ろうかがみとおせる)
入り口のドアを大きくひらいて、廊下が見通せる
(ようにしました。「これでいいかね。ほら、)
ようにしました。「これでいいかね。ほら、
(あいつらがかいだんをおりていくあしおとがきこえるだろう」)
あいつらが階段を下りて行く足音が聞こえるだろう」
(あけちはやっとまどぎわをはなれ、はんかちをぽけっとに)
明智はやっと窓際を離れ、ハンカチをポケットに
(おさめました。まさか、てつどうほてるぜんたいがぞくに)
収めました。まさか、鉄道ホテル全体が賊に
(せんりょうされているはずはありませんので、ろうかへでて)
占領されているはずはありませんので、廊下へ出て
(しまえば、もうだいじょうぶです。すこしはなれたへやには)
しまえば、もう大丈夫です。少し離れた部屋には
(きゃくもいるようすですし、そのへんのろうかにはぞくの)
客も居る様子ですし、その辺の廊下には賊の
(ぶかでない、ほんとうのぼーいもあるいているのですから。)
部下でない、本当のボーイも歩いているのですから。
(ふたりは、まるでしたしいともだちのようにかたを)
二人は、まるで親しい友だちのように肩を
(ならべて、えれべーたーのまえまであるいていきました。)
並べて、エレベーターの前まで歩いて行きました。
(えれべーたーのいりぐちはあいたままで、)
エレベーターの入り口はあいたままで、
(はたちぐらいのせいふくのえれべーたーぼーいが、)
はたちぐらいの制服のエレベーターボーイが、
(ひとをまっているかのようなかおでたたずんでいます。)
人を待っているかのような顔でたたずんでいます。
(あけちはなにげなく、ひとあしさきにそのなかへはいりましたが、)
明智は何気なく、一足先にその中へ入りましたが、
(「あ、ぼくはすてっきをわすれた。きみはさきへおりて)
「あ、ぼくはステッキを忘れた。きみは先へおりて
(ください」にじゅうめんそうのそういうこえがしたかとおもうと、)
ください」 二十面相のそういう声がしたかと思うと、
(いきなりてつのとびらががらがらとしまって、)
いきなり鉄の扉がガラガラと閉まって、
(えれべーたーはかこうしはじめました。「へんだな」)
エレベーターは下降し始めました。「変だな」
(あけちははやくもそれとさとりました。)
明智は早くもそれと悟りました。
(しかしべつにあわてるようすもなく、じっと)
しかし別に慌てる様子もなく、ジッと
(えれべーたーぼーいのてもとをみつめています。)
エレベーターボーイの手元を見つめています。
(するとあんのじょう、えれべーたーがにかいといっかいのちゅうかんの、)
すると案の定、エレベーターが二階と一階の中間の、
(しほうをかべでとりかこまれたかしょまでくだると、)
四方を壁で取り囲まれた箇所までくだると、
(とつぜんぱったりうんてんがとまってしまいました。)
突然パッタリ運転が止まってしまいました。
(「どうしたんだ」「すみません。きかいにこしょうができた)
「どうしたんだ」「すみません。機械に故障ができた
(ようです。すこしおまちください。じきなおりましょう)
ようです。少しお待ちください。じき直りましょう
(から」ぼーいはもうしわけなさそうにいいながら、)
から」 ボーイは申し訳なさそうに言いながら、
(しきりにうんてんきのはんどるのへんをいじくりまわして)
しきりに運転機のハンドルの辺をいじくりまわして
(います。「なにをしているんだ。のきたまえ」)
います。「何をしているんだ。のきたまえ」
(あけちはするどくいうと、ぼーいのくびすじをつかんで、)
明智は鋭く言うと、ボーイの首筋をつかんで、
(ぐーっとうしろにひきました。それがあまりにも)
グーッと後ろに引きました。それがあまりにも
(ひどいちからだったものですから、ぼーいはおもわず)
酷い力だったものですから、ボーイは思わず
(えれべーたーのすみにしりもちをついてしまいました。)
エレベーターの隅に尻もちをついてしまいました。
(「ごまかしたってだめだよ。ぼくが、えれべーたーの)
「ごまかしたってダメだよ。ぼくが、エレベーターの
(うんてんぐらいしらないとおもっているのか」)
運転ぐらい知らないと思っているのか」
(しかりつけておいて、はんどるをかちっとまわすと、)
しかりつけておいて、ハンドルをカチッとまわすと、
(なんということでしょう。えれべーたーは)
なんということでしょう。エレベーターは
(くもなくかこうをはじめたではありませんか。)
苦もなく下降を始めたではありませんか。
(かいかにつくと、あけちははんどるをにぎったまま、)
階下に着くと、明智はハンドルを握ったまま、
(まだしりもちをついているぼーいのかおをぐっと)
まだ尻もちをついているボーイの顔をグッと
(するどくにらみつけました。そのがんこうのおそろしさ。)
鋭くにらみつけました。その眼光の恐ろしさ。
(としのわかいぼーいはふるえあがって、おもわずみぎの)
歳の若いボーイは震え上がって、思わず右の
(ぽけっとのうえを、なにかたいせつなものでもはいっている)
ポケットの上を、何か大切な物でも入っている
(ようにおさえるのでした。きびんなたんていは、そのひょうじょうと)
ように押さえるのでした。機敏な探偵は、その表情と
(てのうごきをみのがしませんでした。いきなりとびついて)
手の動きを見逃しませんでした。いきなり跳びついて
(いって、おさえているぽけっとにてをいれ、いちまいの)
いって、押さえているポケットに手を入れ、一枚の
(しへいをとりだしてしまいました。せんえんさつです。)
紙幣を取り出してしまいました。千円札です。
(えれべーたーぼーいがにじゅうめんそうのぶかになった)
エレベーターボーイが二十面相の部下になった
(のは、せんえんさつでばいしゅうされていたからでした。)
のは、千円札で買収されていたからでした。
(ぞくはそうして、ごふんかじゅっぷんのあいだ、たんていを)
賊はそうして、五分か十分の間、探偵を
(えれべーたーのなかにとじこめておいて、そのあいだに)
エレベーターの中に閉じこめておいて、その間に
(かいだんのほうからこっそりにげさろうとしたのです。)
階段のほうからコッソリ逃げ去ろうとしたのです。
(いくらだいたんふてきのにじゅうめんそうでも、もうしょうたいがわかって)
いくら大胆不敵の二十面相でも、もう正体が分かって
(しまったいま、たんていとかたをならべて、ほてるのひとたちや)
しまった今、探偵と肩を並べて、ホテルの人たちや
(とまりきゃくがむらがっているげんかんを、とおりぬけるゆうきは)
泊まり客が群がっている玄関を、通り抜ける勇気は
(なかったのです。あけちは、けっしてつかまえないと)
なかったのです。明智は、決して捕まえないと
(いっていますが、ぞくのみにしては、)
言っていますが、賊の身にしては、
(それをことばどおりしんようするわけにはいきませんからね。)
それを言葉通り信用する訳にはいきませんからね。
(めいたんていはえれべーたーをとびだすと、ろうかを)
名探偵はエレベーターを飛び出すと、廊下を
(ひとっとびに、げんかんへかけだしました。すると、)
ひとっとびに、玄関へ駆けだしました。すると、
(ちょうどまにあって、にじゅうめんそうのつじのしがおもての)
ちょうど間に合って、二十面相の辻野氏が表の
(いしだんを、おちついておりていくところでした。)
石段を、落ち着いて下りて行くところでした。
(「や、しっけいしっけい。ちょっと、えれべーたーにこしょうが)
「や、失敬失敬。ちょっと、エレベーターに故障が
(あったものですからね。つい、おくれてしまい)
あったものですからね。つい、遅れてしまい
(ましたよ」あけちはにこにこわらいながら、)
ましたよ」 明智はニコニコ笑いながら、
(うしろからつじのしのかたをぽんとたたきました。)
後ろから辻野氏の肩をポンと叩きました。
(はっとふりむいて、あけちのすがたをみとめた、つじのしの)
ハッと振り向いて、明智の姿をみとめた、辻野氏の
(かおといったらありませんでした。ぞくはえれべーたーの)
顔といったらありませんでした。賊はエレベーターの
(けいりゃくが、てっきりせいこうするものとしんじきっていた)
計略が、てっきり成功するものと信じきっていた
(のですから。かおいろをかえるほどおどろいたのも、けっして)
のですから。顔色を変えるほど驚いたのも、決して
(むりはありません。「ははは、どうかなさった)
無理はありません。「ハハハ、どうかなさった
(のですか。つじのさん、すこしかおいろがよくないよう)
のですか。辻野さん、少し顔色が良くないよう
(ですね。ああ、それからこれをね、)
ですね。ああ、それからこれをね、
(あのえれべーたーぼーいから、あなたにわたしてくれ)
あのエレベーターボーイから、あなたに渡してくれ
(ってたのまれてきました。ぼーいがいってましたよ。)
って頼まれてきました。ボーイが言ってましたよ。
(あいてがわるくてえれべーたーのうごかしかたをしっていた)
相手が悪くてエレベーターの動かし方を知っていた
(ので、どうもごめいれいどおりにながくとめておけません)
ので、どうもご命令通りに長く止めておけません
(でした。どうかきをわるくしないでってね。ははは」)
でした。どうか気を悪くしないでってね。ハハハ」