『怪人二十面相』江戸川乱歩36
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「わしはこのとおり、まつしたというもので、すこししょうばいにしっぱい)
「わしはこの通り、松下という者で、少し商売に失敗
(しまして、いまは、まあ、しつぎょうしゃというみのうえ、)
しまして、今は、まあ、失業者という身の上、
(あぱーとずまいのひとりものですがね。きのうのこと)
アパート住まいの独り者ですがね。昨日のこと
(でした。ひびやこうえんをぶらぶらしていて、ひとりの)
でした。日比谷公園をブラブラしていて、一人の
(かいしゃいんふうのおとことしりあいになったのです。そのおとこが、)
会社員風の男と知り合いになったのです。その男が、
(みょうなおかねもうけがあるといって、おしえてくれた)
みょうなお金もうけがあると言って、教えてくれた
(のですよ。つまり、きょういちにち、じどうしゃにのって、)
のですよ。 つまり、今日一日、自動車に乗って、
(そのおとこのいうままにとうきょうじゅうをのりまわして)
その男の言うままに東京中を乗りまわして
(くれれば、じどうしゃだいはただのうえに、ごせんえんのてあてを)
くれれば、自動車代はタダの上に、五千円の手当を
(だすというのです。うまいはなしじゃありませんか。)
出すと言うのです。うまい話じゃありませんか。
(わしはこんなみなりをしていますが、しつぎょうしゃ)
わしはこんな身なりをしていますが、失業者
(なんですからね。ごせんえんのてあてがほしかったのです。)
なんですからね。五千円の手当が欲しかったのです。
(そのおとこは、これにはすこしじじょうがあるのだといって、)
その男は、これには少し事情があるのだと言って、
(なにかくどくどとはなしかけましたが、わしはそれを)
何かクドクドと話しかけましたが、わしはそれを
(おしとどめて、じじょうなんかきかなくてもいいから)
おしとどめて、事情なんか聞かなくてもいいから
(といって、さっそくしょうちしてしまったのです。)
と言って、さっそく承知してしまったのです。
(そこで、きょうはあさからじどうしゃであちこちのりまわし)
そこで、今日は朝から自動車であちこち乗りまわし
(ましてな。おひるはてつどうほてるでしょくじをしろという、)
ましてな。お昼は鉄道ホテルで食事をしろという、
(ありがたいいいつけなんです。たらふく)
ありがたい言いつけなんです。たらふく
(ごちそうになって、ここでしばらくまっていてくれ)
ごちそうになって、ここでしばらく待っていてくれ
(というものだから、ほてるのまえにじどうしゃをとめて、)
と言うものだから、ホテルの前に自動車を止めて、
(そのなかにこしかけてまっていたのですが、さんじゅっぷんも)
その中に腰掛けて待っていたのですが、三十分も
(したかとおもうころ、ひとりのおとこがてつどうほてるからでて)
したかと思う頃、一人の男が鉄道ホテルから出て
(きて、わしのくるまをあけて、なかへはいってくるのです。)
きて、わしの車をあけて、中へ入って来るのです。
(わしはそのおとこをひとめみて、びっくりしました。)
わしはその男を一目見て、ビックリしました。
(きがくるったのじゃないかとおもったくらいです。)
気が狂ったのじゃないかと思ったくらいです。
(なぜかって、そのわしのくるまへはいってきたおとこは、)
なぜかって、そのわしの車へ入って来た男は、
(かおから、せびろから、がいとうやすてっきまで、)
顔から、背広から、がいとうやステッキまで、
(このわしとすんぶんもちがわないほど、そっくりそのまま)
このわしと寸分もちがわないほど、ソックリそのまま
(だったからです。まるでわしがかがみにうつっている)
だったからです。まるでわしが鏡にうつっている
(ような、へんてこなきもちでした。あっけに)
ような、ヘンテコな気持ちでした。 呆気に
(とられてみていると、ますますみょうじゃ)
とられて見ていると、ますますみょうじゃ
(ありませんか。そのおとこは、わしのくるまへはいってきた)
ありませんか。その男は、わしの車へ入って来た
(かとおもうと、こんどははんたいがわのどあをあけて、そとへ)
かと思うと、今度は反対側のドアをあけて、外へ
(でていってしまったのです。つまり、そのわしと)
出て行ってしまったのです。 つまり、そのわしと
(そっくりのしんしは、じどうしゃのきゃくせきをとおりすぎただけ)
ソックリの紳士は、自動車の客席を通りすぎただけ
(なんです。そのとき、そのおとこは、わしのまえをとおり)
なんです。その時、その男は、わしの前を通り
(すぎながら、みょうなことをいいました。「さあ、)
過ぎながら、みょうなことを言いました。「さあ、
(すぐにしゅっぱつしてください。どこでもかまいません。)
すぐに出発してください。どこでも構いません。
(ぜんそくりょくではしるのですよ」こんなことをいいのこして、)
全速力で走るのですよ」 こんなことを言い残して、
(そのまま、ごぞんじでしょう。あのてつどうほてるの)
そのまま、ご存知でしょう。あの鉄道ホテルの
(まえにあるちかしつのりはつてんのいりぐちへ、すっとすがたを)
前にある地下室の理髪店の入り口へ、スッと姿を
(かくしてしまいました。わしのじどうしゃは、ちょうど)
隠してしまいました。わしの自動車は、ちょうど
(そのちかしつのいりぐちのまえにとまっていたのですよ。)
その地下室の入り口の前に止まっていたのですよ。
(なんだかへんだなとはおもいましたが、とにかくせんぽうの)
なんだか変だなとは思いましたが、とにかく先方の
(いうままになるというやくそくですから、わしはすぐ)
言うままになるという約束ですから、わしはすぐ
(うんてんしゅに、ふるすぴーどではしるようにいいつけ)
運転手に、フルスピードで走るように言いつけ
(ました。それから、どこをどうはしったか、)
ました。 それから、どこをどう走ったか、
(よくおぼえていませんが、わせだだいがくのうしろの)
よく覚えていませんが、早稲田大学の後ろの
(へんで、あとからおっかけてくるじどうしゃがあることに)
辺で、あとから追っかけてくる自動車があることに
(きづきました。なにがなんだかわからないけれど、)
気づきました。何が何だか分からないけれど、
(わしは、みょうにおそろしくなりましてな。)
わしは、みょうに恐ろしくなりましてな。
(うんてんしゅにはしれはしれと、どなったのですよ。それから)
運転手に走れ走れと、どなったのですよ。 それから
(あとは、ごしょうちのとおりです。おはなしをうかがって)
あとは、ご承知の通りです。お話をうかがって
(みると、わしはたったごせんえんのれいきんにめがくらんで、)
みると、わしはたった五千円の礼金に目がくらんで、
(まんまとにじゅうめんそうのやつのかえだまにつかわれたという)
まんまと二十面相の奴の替え玉に使われたという
(わけですね。いやいや、かえだまじゃない。わしの)
訳ですね。 いやいや、替え玉じゃない。わしの
(ほうがほんもので、あいつこそ、わしのかえだまです。)
ほうが本物で、あいつこそ、わしの替え玉です。
(まるで、しゃしんにでもうつしたように、わしのかおや)
まるで、写真にでも写したように、わしの顔や
(ふくそうをそっくりまねやがったんです。そのしょうこに、)
服装をソックリ真似やがったんです。 その証拠に、
(ほら、ごらんなさい。このとおりじゃ。わしは)
ほら、ご覧なさい。この通りじゃ。わしは
(しょうしんしょうめいのまつしたしょうべえです。わしがほんもので、)
正真正銘の松下庄兵衛です。わしが本物で、
(あいつのほうがにせものです。おわかりになりました)
あいつのほうが偽者です。お分かりになりました
(かな」まつしたしはそういって、にゅーっとかおをまえに)
かな」 松下氏はそう言って、ニューッと顔を前に
(つきだし、じぶんのあたまのけをちからまかせにひっぱって)
突き出し、自分の頭の毛を力まかせに引っ張って
(みせたり、ほおをつねってみせたりするのでした。)
みせたり、頬をつねってみせたりするのでした。
(ああ、なんということでしょう。なかむらかかりちょうは)
ああ、なんということでしょう。中村係長は
(またしても、ぞくにまんまといっぱいくわされたのです。)
またしても、賊にまんまと一杯食わされたのです。
(けいしちょうをあげての、ぞくたいほのよろこびも、ぬかよろこびに)
警視庁をあげての、賊逮捕の喜びも、ぬか喜びに
(おわってしまいました。のちに、まつしたしのあぱーとの)
終わってしまいました。 のちに、松下氏のアパートの
(しゅじんをよびだしてしらべてみると、まつしたしはすこしも)
主人を呼びだして調べてみると、松下氏は少しも
(あやしいじんぶつでないことがたしかめられたのです。)
怪しい人物でないことが確かめられたのです。
(それにしても、にじゅうめんそうのようじんぶかさはどうでしょう。)
それにしても、二十面相の用心深さはどうでしょう。
(とうきょうえきであけちたんていをおそうために、これだけのよういが)
東京駅で明智探偵を襲うために、これだけの用意が
(してあったのです。ぶかをくうこうほてるのぼーいに)
してあったのです。部下を空港ホテルのボーイに
(すみこませ、えれべーたーがかりをみかたにしていたうえに、)
住みこませ、エレベーター係を味方にしていた上に、
(このまつしたというかえだましんしまでやといいれて、とうそうの)
この松下という替え玉紳士まで雇い入れて、逃走の
(じゅんびをととのえていたのです。かえだまといっても、)
準備を整えていたのです。 替え玉といっても、
(にじゅうめんそうにかぎっては、じぶんによくにたひとを)
二十面相に限っては、自分によく似た人を
(さがしまわるひつようはすこしもないのでした。)
探しまわる必要は少しもないのでした。
(なにしろ、おそろしいほどへんそうのめいじんだからです。)
なにしろ、恐ろしいほど変装の名人だからです。
(てあたりしだいにやといいれたじんぶつに、こちらでばけて)
手当たり次第に雇い入れた人物に、こちらで化けて
(しまうのですから、わけはありません。あいては)
しまうのですから、訳はありません。相手は
(だれでもかまわない。くちぐるまにのりそうな、)
だれでも構わない。口車に乗りそうな、
(おひとよしをさがしさえすればよかったのです。)
お人好しを探しさえすれば良かったのです。
(そういえば、このまつしたというしつぎょうしんしは、いかにも)
そういえば、この松下という失業紳士は、いかにも
(のんきもののぜんにんにちがいありませんでした。)
のんき者の善人に違いありませんでした。
(「にじゅうめんそうのしんでし」)
「二十面相の新弟子」
(あけちこごろうのじゅうたくは、みなとくりゅうどちょうのかんせいなところに)
明智小五郎の住宅は、港区竜土町の閑静な所に
(ありました。めいたんていは、まだわかくてうつくしい)
ありました。名探偵は、まだ若くて美しい
(ふみよふじんと、じょしゅのこばやししょうねんと、おてつだいさん)
文代夫人と、助手の小林少年と、お手伝いさん
(ひとりの、しっそなくらしをしているのでした。)
一人の、質素な暮らしをしているのでした。
(あけちたんていががいむしょうから、とあるゆうじんのたくへたちよって)
明智探偵が外務省から、とある友人の宅へ立ち寄って
(きたくしたのは、もうゆうがたでしたが、ちょうどそこへ)
帰宅したのは、もう夕方でしたが、ちょうどそこへ
(けいしちょうへよばれていたこばやしくんもかえってきて、ようかんの)
警視庁へ呼ばれていた小林君も帰ってきて、洋館の
(にかいにあるあけちのしょさいへはいって、にじゅうめんそうのかえだま)
二階にある明智の書斎へ入って、二十面相の替え玉
(じけんをほうこくしました。「たぶん、そんなことだろうと)
事件を報告しました。「多分、そんなことだろうと
(おもっていた。しかし、なかむらくんにはきのどくだったね」)
思っていた。しかし、中村君には気の毒だったね」
(めいたんていはにがわらいをうかべていうのでした。)
名探偵は苦笑いを浮かべて言うのでした。
(「せんせい、ぼく、すこしわからないことがあるんです」)
「先生、ぼく、少し分からないことがあるんです」