『怪人二十面相』江戸川乱歩37
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(こばやししょうねんはいつも、ふにおちないことは)
小林少年はいつも、ふにおちないことは
(できるだけはやく、ゆうかんにたずねるしゅうかんでした。)
出来るだけ早く、勇敢にたずねる習慣でした。
(「せんせいがにじゅうめんそうをわざとにがしておやりになった)
「先生が二十面相をわざと逃がしておやりになった
(わけは、ぼくにもわかるのですけれど、なぜあの)
訳は、ぼくにも分かるのですけれど、なぜあの
(とき、ぼくにびこうさせてくださらなかったのです。)
時、ぼくに尾行させてくださらなかったのです。
(はくぶつかんのとうなんをふせぐのにも、あいつのかくれがが)
博物館の盗難を防ぐのにも、あいつの隠れ家が
(しれなくてはこまるんじゃないかとおもいますが」)
知れなくては困るんじゃないかと思いますが」
(あけちたんていはこばやししょうねんのひなんを、うれしそうに)
明智探偵は小林少年の非難を、嬉しそうに
(にこにこしてきいていましたが、たちあがって)
ニコニコして聞いていましたが、立ちあがって
(まどのところへいくと、こばやししょうねんをてまねきしました。)
窓の所へ行くと、小林少年を手招きしました。
(「それはね、にじゅうめんそうのほうで、ぼくにしらせて)
「それはね、二十面相のほうで、ぼくに知らせて
(くれるんだよ。なぜだかわかるかい。さっき)
くれるんだよ。 なぜだか分かるかい。さっき
(ほてるで、ぼくはあいつをじゅうぶん)
ホテルで、ぼくはあいつを充分
(はずかしめてやった。あれだけのぞくを、たんていが)
恥ずかしめてやった。あれだけの賊を、探偵が
(つかまえようともしないでにがしてやるのが、)
捕まえようともしないで逃がしてやるのが、
(どんなひどいぶじょくだか、きみにはそうぞうもできない)
どんな酷い侮辱だか、きみには想像も出来ない
(くらいだよ。にじゅうめんそうはあのことだけでも、)
くらいだよ。 二十面相はあのことだけでも、
(ぼくをころしてしまいたいほどにくんでいる。そのうえ、)
ぼくを殺してしまいたいほど憎んでいる。その上、
(ぼくがいては、これからおもうようにしごともできない)
ぼくがいては、これから思うように仕事も出来ない
(のだから、どうにかしてぼくというじゃまものを)
のだから、どうにかしてぼくという邪魔者を
(なくそうとかんがえるにちがいない。ごらん、まどのそとを。)
なくそうと考えるに違いない。 ご覧、窓の外を。
(ほら、あそこにかみしばいやがいるだろう。こんな)
ほら、あそこに紙芝居屋が居るだろう。こんな
(さびしいところでかみしばいをしたって、しょうばいになるはずは)
寂しい所で紙芝居をしたって、商売になるはずは
(ないのに、あいつはもうさっきからあそこに)
ないのに、あいつはもうさっきからあそこに
(たちどまって、このまどをみないようなふりを)
立ち止まって、この窓を見ないようなふりを
(しながら、いっしょうけんめいにみているのだよ」いわれて、)
しながら、一生懸命に見ているのだよ」 言われて、
(こばやしくんがあけちていのもんぜんのほそいどうろをみると、)
小林君が明智邸の門前の細い道路を見ると、
(いかにもひとりのかみしばいやが、うさんくさい)
いかにも一人の紙芝居屋が、うさんくさい
(ようすでたっているのです。「じゃ、あいつ)
様子で立っているのです。「じゃ、あいつ
(にじゅうめんそうのぶかですね。せんせいのようすをさぐりに)
二十面相の部下ですね。先生の様子を探りに
(きているんですね」「そうだよ。それごらん。)
来ているんですね」「そうだよ。それご覧。
(べつにくろうしてさがしまわらなくても、せんぽうから)
別に苦労して探しまわらなくても、先方から
(ちゃんとちかづいてくるだろう。あいつについて)
ちゃんと近づいてくるだろう。あいつに付いて
(いけばしぜんと、にじゅうめんそうのかくれがもわかる)
いけば自然と、二十面相の隠れ家も分かる
(じゃないか」「じゃ、ぼく、すがたをかえてびこうして)
じゃないか」「じゃ、ぼく、姿を変えて尾行して
(みましょうか」こばやしくんはきがはやいのです。)
みましょうか」 小林君は気が早いのです。
(「いや、そんなことしなくてもいいんだ。ぼくにすこし)
「いや、そんなことしなくてもいいんだ。ぼくに少し
(かんがえがあるからね。あいては、なんといっても)
考えがあるからね。相手は、なんといっても
(おそろしくあたまのするどいやつだから、うかつなまねは)
恐ろしく頭の鋭い奴だから、うかつな真似は
(できない。ところでねえこばやしくん。あすあたり、)
出来ない。 ところでねえ小林君。あすあたり、
(ぼくのしんぺんにすこしかわったことがおこるかも)
ぼくの身辺に少し変わったことが起こるかも
(しれないよ。だが、けっしておどろくんじゃないぜ。)
しれないよ。だが、決して驚くんじゃないぜ。
(ぼくは、けっしてにじゅうめんそうなんかにだしぬかれや)
ぼくは、決して二十面相なんかに出し抜かれや
(しないからね。たとえ、ぼくのみがあぶないようなことが)
しないからね。例え、ぼくの身が危ないようなことが
(あっても、それもひとつのさくりゃくなのだから、けっして)
あっても、それも一つの策略なのだから、決して
(しんぱいするんじゃないよ。いいかい」そんなふうに)
心配するんじゃないよ。いいかい」 そんな風に
(しんみりといわれるとこばやししょうねんは、するなと)
しんみりと言われると小林少年は、するなと
(いわれても、しんぱいしないわけにはいきませんでした。)
言われても、心配しない訳にはいきませんでした。
(「せんせい、なにかあぶないことでしたら、ぼくにやらせて)
「先生、何か危ないことでしたら、ぼくにやらせて
(ください。せんせいに、もしものことがあってはたいへん)
ください。先生に、もしものことがあっては大変
(ですから」「ありがとう」あけちたんていは、あたたかいてを)
ですから」「ありがとう」 明智探偵は、温かい手を
(しょうねんのかたにあてていうのでした。「だが、きみには)
少年の肩にあてて言うのでした。「だが、きみには
(できないしごとなんだよ。まあ、ぼくをしんじて)
出来ない仕事なんだよ。まあ、ぼくを信じて
(いたまえ。きみもしっているだろう。)
いたまえ。きみも知っているだろう。
(ぼくがいちどだってしっぱいしたことがあったかい。)
ぼくが一度だって失敗したことがあったかい。
(しんぱいするんじゃないよ」さて、そのよくじつのゆうがたのこと)
心配するんじゃないよ」 さて、その翌日の夕方のこと
(でした。あけちたんていのもんぜん、きのうちょうどかみしばいが)
でした。 明智探偵の門前、昨日ちょうど紙芝居が
(たっていたへんに、きょうはひとりのこじきがすわりこんで、)
立っていた辺に、今日は一人の乞食が座りこんで、
(ほんのときたまとおりかかるひとに、なにかくちのなかでもぐもぐ)
ほんの時たま通りかかる人に、何か口の中でモグモグ
(いいながらおじぎをしております。しょうゆのなかに)
言いながらお辞儀をしております。 醤油の中に
(いれてよくにて、しょうゆのいろがじゅうぶんしみこんだような)
入れてよく煮て、醤油の色が充分しみ込んだような
(いろをした、きたないてぬぐいであたまをつつんでおり、)
色をした、汚い手ぬぐいで頭を包んでおり、
(あちこちにつぎはぎがあるぼろぼろにやぶれたきものを)
あちこちに継ぎはぎがあるボロボロに破れた着物を
(きて、いちまいのござのうえにすわって、さむそうにぶるぶる)
着て、一枚のござの上に座って、寒そうにブルブル
(みぶるいしているありさまは、いかにもあわれに)
身震いしている有り様は、いかにも哀れに
(みえます。ところがふしぎなことに、おうらいに)
見えます。ところが不思議なことに、往来に
(ひとどおりがとだえると、このこじきのようすがいっぺんする)
人通りが途絶えると、この乞食の様子が一変する
(のでした。いままでひくくたれていたくびをむくむくと)
のでした。今まで低く垂れていた首をムクムクと
(もちあげて、かおいちめんのぶしょうひげのなかからするどいめを)
持ち上げて、顔一面の無精ヒゲの中から鋭い目を
(ひからせて、めのまえのあけちたんていのいえをじろじろと)
光らせて、目の前の明智探偵の家をジロジロと
(ながめまわすのです。あけちたんていはそのひ、)
ながめまわすのです。 明智探偵はその日、
(ごぜんちゅうはどこかへでかけていましたが、)
午前中はどこかへ出かけていましたが、
(さんじかんほどできたくすると、おうらいからそんなこじきが)
三時間ほどで帰宅すると、往来からそんな乞食が
(みはっているのをしってかしらずか、おもてにめんした)
見張っているのを知ってか知らずか、表に面した
(にかいのしょさいでつくえにむかって、しきりになにか)
二階の書斎で机に向かって、しきりに何か
(かきものをしています。そのいちがまどのすぐちかく)
書き物をしています。その位置が窓のすぐ近く
(なものですから、こじきのところからあけちの)
なものですから、乞食のところから明智の
(いっきょいちどうが、てにとるようにみえるのです。)
一挙一動が、手にとるように見えるのです。
(それからゆうがたまでのすうじかん、こじきはこんきよくじめんに)
それから夕方までの数時間、乞食は根気よく地面に
(すわりつづけていました。あけちたんていのほうも、こんきよく)
座り続けていました。明智探偵のほうも、根気よく
(まどからみえるつくえにむかいつづけていました。)
窓から見える机に向かい続けていました。
(ごごはずっとひとりのほうもんきゃくもありませんでしたが、)
午後はずっと一人の訪問客もありませんでしたが、
(ゆうがたになって、ひとりのいようなじんぶつがあけちていのひくい)
夕方になって、一人の異様な人物が明智邸の低い
(いしのもんのなかへはいってきました。そのおとこは)
石の門の中へ入って来ました。 その男は
(のびほうだいにのばしたかみのけ、かおじゅうをうすぐろく)
伸び放題に伸ばした髪の毛、顔中を薄黒く
(うずめているぶしょうひげ、きたないせびろふくをめりやすの)
うずめている無精ヒゲ、汚い背広服をメリヤスの
(しゃつのうえにじかにきて、しまもようのさかいも)
シャツの上にじかに着て、しま模様の境も
(わからないはんちんぐぼうをかぶっています。)
分からないハンチング帽をかぶっています。
(ふろうにんといいますか、こじきといいますか、みるからに)
浮浪人といいますか、乞食といいますか、見るからに
(うすきみわるいやつでしたが、そいつがもんをはいって)
薄気味悪い奴でしたが、そいつが門を入って
(しばらくするととつぜん、おそろしいどなりごえが)
しばらくすると突然、恐ろしいどなり声が
(もんないからもれてきました。「やいあけち、よもや)
門内から漏れてきました。「やい明智、よもや
(おれのかおをみわすれやしてねえだろううな。おらあ、)
おれの顔を見忘れやしてねえだろううな。おらあ、
(れいをいいにきたんだ。さあ、そのとをあけてくれ。)
礼を言いに来たんだ。さあ、その戸をあけてくれ。
(おらあ、うちのなかへはいって、おめえにもおかみさん)
おらあ、うちの中へ入って、おめえにもおかみさん
(にも、ゆっくりおれいがもうしてえんだ。なんだと、)
にも、ゆっくりお礼が申してえんだ。なんだと、
(おれにようはねえだと。そっちにようがなくっても、)
おれに用はねえだと。 そっちに用がなくっても、
(こっちにゃ、ようがあるんだ。さあ、そこをどけ。)
こっちにゃ、用があるんだ。さあ、そこをどけ。
(おらあ、きさまのうちへはいるんだ」)
おらあ、貴様のうちへ入るんだ」