『怪人二十面相』江戸川乱歩35
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「つかまえろ、つかまえろ」やじうまがさけびながら、)
「捕まえろ、捕まえろ」野次馬が叫びながら、
(くるまといっしょにかけだします。それにつれていぬがほえる。)
車と一緒に駆けだします。それに連れて犬がほえる。
(あるいていたぐんしゅうがみなたちどまってしまうという)
歩いていた群衆がみな立ち止まってしまうという
(さわぎです。しかしじどうしゃはそれらのこうけいを)
騒ぎです。 しかし自動車はそれらの光景を
(あとにみすてて、とおりまのように、たださきへさきへと)
あとに見捨てて、通り魔のように、ただ先へ先へと
(とんでいきます。なんだいのじどうしゃをおいぬいたこと)
とんでいきます。 何台の自動車を追い抜いたこと
(でしょう。なんどもじどうしゃにぶつかりそうになって、)
でしょう。何度も自動車にぶつかりそうになって、
(あやうくよけたことでしょう。ほそいみちでは)
あやうくよけたことでしょう。 細い道では
(すぴーどがだせないものですから、ぞくのくるまは)
スピードが出せないものですから、賊の車は
(だいかんじょうせんにでて、おうじのほうがくにむかって)
大環状線に出て、王子の方角に向かって
(しっそうしはじめました。ぞくはむろん、ついせきにきづいて)
疾走し始めました。賊は無論、追跡に気づいて
(います。しかし、どうすることもできないのです。)
います。しかし、どうすることも出来ないのです。
(はくちゅうのとないでは、くるまをとびおりてみをかくすなんて)
白昼の都内では、車を飛び降りて身を隠すなんて
(げいとうは、できっこありません。いけぶくろをすぎたころ、)
芸当は、出来っこありません。 池袋を過ぎた頃、
(まえのくるまからぱーんというはげしいおんきょうがきこえました。)
前の車からパーンという激しい音響が聞こえました。
(ああ、ぞくはとうとうがまんしきれなくなって、)
ああ、賊はとうとう我慢しきれなくなって、
(れいのぽけっとのぴすとるをとりだしたのでしょうか。)
例のポケットのピストルを取り出したのでしょうか。
(いやいや、そうではなかったのです。せいようのぎゃんぐ)
いやいや、そうではなかったのです。西洋のギャング
(えいがではありません。にぎやかなまちのなかで、)
映画ではありません。にぎやかな町の中で、
(ぴすとるなどうってみたところで、いまさらのがれられる)
ピストルなど撃ってみたところで、今更のがれられる
(ものではないのです。ぴすとるではなくて、)
ものではないのです。ピストルではなくて、
(しゃりんのぱんくしたおとでした。ぞくのうんがつきたのです。)
車輪のパンクした音でした。賊の運がつきたのです。
(それでもしばらくのあいだは、むりにくるまをはしらせて)
それでもしばらくの間は、無理に車を走らせて
(いましたが、いつしかそくどがにぶり、ついに)
いましたが、いつしか速度がにぶり、ついに
(おまわりさんのじどうしゃにおいぬかれてしまいました。)
お巡りさんの自動車に追い抜かれてしまいました。
(そしてじどうしゃをよこにされては、)
そして自動車を横にされては、
(もうどうすることもできません。くるまはにだいとも)
もうどうすることも出来ません。 車は二台とも
(とまりました。たちまちそのまわりに、くろいやまの)
止まりました。たちまちその周りに、黒い山の
(ひとだかり。やがてふきんのおまわりさんもかけつけて)
人だかり。やがて付近のお巡りさんも駆けつけて
(きます。ああ、どくしゃしょくん、つじのしは、とうとう)
きます。 ああ、読者諸君、辻野氏は、とうとう
(つかまってしまいました。「にじゅうめんそうだ、)
捕まってしまいました。「二十面相だ、
(にじゅうめんそうだ」だれともなく、ぐんしゅうのあいだに)
二十面相だ」 だれともなく、群衆の間に
(そんなこえがおこりました。ぞくは、ふきんから)
そんな声がおこりました。 賊は、付近から
(かけつけたふたりのおまわりさんと、とつかこうばんの)
駆けつけた二人のお巡りさんと、戸塚交番の
(わかいおまわりさんの、さんにんにまわりをとりかこまれ、)
若いお巡りさんの、三人に周りを取り囲まれ、
(しかりつけられて、もうていこうするちからもなく)
しかりつけられて、もう抵抗する力もなく
(うなだれています。「にじゅうめんそうがつかまった」)
うなだれています。「二十面相が捕まった」
(「なんて、ふてぶてしいかおをしているんだろう」)
「なんて、ふてぶてしい顔をしているんだろう」
(「でも、あのおまわりさん、えらいわねえ」)
「でも、あのお巡りさん、偉いわねえ」
(「おまわりさん、ばんざーい」ぐんしゅうのなかに)
「お巡りさん、バンザーイ」 群衆の中に
(まきおこるかんせいのなかを、けいかんとぞくはついせきしてきた)
巻き起こる歓声の中を、警官と賊は追跡してきた
(くるまにどうじょうして、けいしちょうへといそぎます。かんかつのけいさつしょに)
車に同乗して、警視庁へと急ぎます。管轄の警察署に
(りゅうちするには、あまりにおおものだからです。けいしちょうに)
留置するには、あまりに大物だからです。 警視庁に
(とうちゃくして、ことのしだいがはんめいすると、ちょうないには)
到着して、事の次第が判明すると、庁内には
(どっとかんせいがわきあがりました。てをやいていた)
ドッと歓声がわきあがりました。手を焼いていた
(きだいのぞくが、なんとおもいがけなくつかまったこと)
希代の賊が、なんと思いがけなく捕まったこと
(でしょう。これというのも、いまにしけいじのきびんな)
でしょう。これというのも、今西刑事の機敏な
(しょちと、とつかしょのわかいけいかんのふんせんのおかげだと)
処置と、戸塚署の若い警官の奮戦のおかげだと
(いうので、ふたりはどうあげをされんばかりのにんきです。)
いうので、二人は胴上げをされんばかりの人気です。
(このほうこくをきいて、だれよりもよろこんだのは)
この報告を聞いて、だれよりも喜んだのは
(なかむらそうさかかりちょうでした。かかりちょうははしばけのじけんのさい、)
中村捜査係長でした。係長は羽柴家の事件の際、
(ぞくにまんまとだしぬかれたうらみをわすれられ)
賊にまんまと出し抜かれた恨みを忘れられ
(なかったのです。さっそくしらべしつで、)
なかったのです。 さっそく調べ室で、
(げんじゅうなとりしらべがはじめられました。あいてはへんそうの)
厳重な取り調べが始められました。相手は変装の
(めいじんですから、だれもかおをみしったものがいません。)
名人ですから、だれも顔を見知った者がいません。
(なによりもさきに、ひとちがいでないかどうかをたしかめる)
何よりも先に、人違いでないかどうかを確かめる
(ために、しょうにんをよびださなければなりませんでした。)
ために、証人を呼びださなければなりませんでした。
(あけちこごろうのじたくにでんわがかけられました。しかし、)
明智小五郎の自宅に電話がかけられました。しかし、
(ちょうどそのとき、めいたんていはがいむしょうにでむいて)
ちょうどその時、名探偵は外務省に出むいて
(るすちゅうでしたので、かわりにこばやししょうねんがしゅっとうする)
留守中でしたので、代わりに小林少年が出頭する
(ことになりました。やがてほどなくしてから、)
ことになりました。 やがてほどなくしてから、
(いかめしいしらべしつに、りんごのようなほおの、)
いかめしい調べ室に、リンゴのような頬の、
(かわいらしいこばやししょうねんがあらわれました。そして、)
可愛らしい小林少年が現れました。そして、
(ぞくのすがたをひとめみるやいなや、これこそ、がいむしょうの)
賊の姿を一目見るやいなや、これこそ、外務省の
(つじのしとぎめいした、あのじんぶつにちがいないとしょうげん)
辻野氏と偽名した、あの人物に違いないと証言
(しました。「わしがほんものじゃ」「このひとでした。)
しました。「わしが本物じゃ」「この人でした。
(このひとにちがいありません」こばやしくんはきっぱりと)
この人に違いありません」 小林君はキッパリと
(こたえました。「ははは、どうだね。きみ、こどもの)
答えました。「ハハハ、どうだね。きみ、子どもの
(がんりきにかかっちゃかなわんだろう。きみが、なんと)
眼力にかかっちゃ敵わんだろう。きみが、なんと
(いいのがれようとしたって、もうだめだ。きみは)
言い逃れようとしたって、もうダメだ。きみは
(にじゅうめんそうにちがいないのだ」なかむらかかりちょうは、うらみかさなる)
二十面相に違いないのだ」 中村係長は、恨み重なる
(かいとうを、とうとうつかまえたのだとおもうと、うれしくて)
怪盗を、とうとう捕まえたのだと思うと、嬉しくて
(しかたがありませんでした。かちほこったように)
仕方がありませんでした。勝ち誇ったように
(こういって、ましょうめんからぞくをにらみつけました。)
こう言って、真正面から賊をにらみつけました。
(「ところが、ちがうんですよ。こいつあ、こまった)
「ところが、違うんですよ。こいつあ、困った
(ことになったな。わしは、あいつがゆうめいなにじゅうめんそう)
ことになったな。わしは、あいつが有名な二十面相
(だなんて、すこしもしらなかったのですよ」しんしに)
だなんて、少しも知らなかったのですよ」 紳士に
(ばけたぞくは、あくまでしらないふりをするつもり)
化けた賊は、あくまで知らないふりをするつもり
(らしく、へんなことをいいだすのです。「なんだと。)
らしく、変なことを言いだすのです。「なんだと。
(きみのいうことは、ちっともわけがわからないじゃ)
きみの言うことは、ちっとも訳が分からないじゃ
(ないか」「わしもわけがわからんのです。すると、)
ないか」「わしも訳が分からんのです。すると、
(あいつがわしにばけて、わしをかえだまにつかったんだな」)
あいつがわしに化けて、わしを替え玉に使ったんだな」
(「おいおい、いいかげんにしたまえ。いくらしらない)
「おいおい、いいかげんにしたまえ。いくら知らない
(ふりをするにしても、もうそのてにはのらんよ」)
ふりをするにしても、もうその手には乗らんよ」
(「いやいや、そうじゃないんです。まあ、)
「いやいや、そうじゃないんです。まあ、
(おちついて、わしのせつめいをきいてください。わしは、)
落ちついて、わしの説明を聞いてください。わしは、
(こういうものです。けっして、にじゅうめんそうなんかじゃ)
こういう者です。決して、二十面相なんかじゃ
(ありません」しんしはそういいながら、いまさら)
ありません」 紳士はそう言いながら、今さら
(おもいだしたように、ぽけっとからめいしいれをだして、)
思い出したように、ポケットから名刺入れを出して、
(いちまいのめいしをさしだしました。それには)
一枚の名刺を差し出しました。それには
(「まつしたしょうべえ」とあって、すぎなみくのとあるあぱーとの)
「松下庄兵衛」とあって、杉並区のとあるアパートの
(じゅうしょも、いんさつしてあるのです。)
住所も、印刷してあるのです。