『怪人二十面相』江戸川乱歩38
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(どうやらあけちじしんがようかんのげんかんへでて、おうたいして)
どうやら明智自身が洋館の玄関へ出て、応対して
(いるらしいのですが、あけちのこえはきこえません。)
いるらしいのですが、明智の声は聞こえません。
(ただふろうにんのこえだけが、もんのそとまでひびきわたって)
ただ浮浪人の声だけが、門の外まで響き渡って
(います。それをきくと、おうらいにすわっていたこじきが)
います。 それを聞くと、往来に座っていた乞食が
(むくむくとおきあがり、そっとあたりをみまわして)
ムクムクと起き上がり、ソッとあたりを見まわして
(からいしのもんのところへしのびよって、でんちゅうのかげから)
から石の門の所へ忍び寄って、電柱の影から
(なかのようすをうかがいはじめました。みると、しょうめんの)
中の様子をうかがい始めました。 見ると、正面の
(げんかんのうえにあけちこごろうがつったち、そのげんかんのいしだんへ)
玄関の上に明智小五郎が突っ立ち、その玄関の石段へ
(かたあしかけたふろうにんが、あけちのかおのまえでにぎりこぶしを)
片足かけた浮浪人が、明智の顔の前で握りこぶしを
(ふりまわしながら、しきりとわめきたてています。)
振り回しながら、しきりとわめきたてています。
(あけちはすこしもとりみださず、しずかにふろうにんをみて)
明智は少しも取り乱さず、静かに浮浪人を見て
(いましたが、ますますつのるぼうげんにがまんが)
いましたが、ますます募る暴言に我慢が
(できなくなったのか、「ばか、ようがないといったら)
出来なくなったのか、「バカ、用がないといったら
(ないのだ。でていきたまえ」と、どなったかと)
ないのだ。出ていきたまえ」と、どなったかと
(おもうと、いきなりふろうにんをつきとばしました。)
思うと、いきなり浮浪人を突き飛ばしました。
(つきとばされたおとこはよろよろとよろめきましたが、)
突き飛ばされた男はヨロヨロとよろめきましたが、
(ぐっとふみこたえて、しにものぐるいで)
グッと踏みこたえて、死に物狂いで
(「うぬ」とうめき、あけちめがけてくみついてきます。)
「ウヌ」とうめき、明智めがけて組みついてきます。
(しかしかくとうとなっては、いくらふろうにんがらんぼうでも、)
しかし格闘となっては、いくら浮浪人が乱暴でも、
(じゅうどうさんだんのあけちたんていにかなうはずはありません。)
柔道三段の明智探偵にかなうはずはありません。
(たちまち、うでをねじあげられ、やっとばかりに)
たちまち、腕をねじあげられ、ヤッとばかりに
(げんかんのしたのしきいしのうえに、なげつけられて)
玄関の下の敷石の上に、投げつけられて
(しまいました。おとこはなげつけられたまま、)
しまいました。男は投げつけられたまま、
(しばらく、いたさにみうごきもできないようすでしたが、)
しばらく、痛さに身動きも出来ない様子でしたが、
(やがて、ようやくおきあがったときには)
やがて、ようやく起き上がった時には
(げんかんのどあはかたくとざされ、あけちのすがたは)
玄関のドアは固く閉ざされ、明智の姿は
(もうそこにはみえませんでした。ふろうにんはげんかんへ)
もうそこには見えませんでした。 浮浪人は玄関へ
(あがっていって、どあをがちゃがちゃいわせて)
あがっていって、ドアをガチャガチャいわせて
(いましたが、なかからしまりがしてあるらしく、)
いましたが、中から締まりがしてあるらしく、
(おせどもひけども、うごくものではありません。)
押せども引けども、動くものではありません。
(「ちくしょうめ、おぼえていやがれ」おとこは)
「ちくしょうめ、覚えていやがれ」 男は
(とうとうあきらめたのか、くちのなかでのろいのことばを)
とうとう諦めたのか、口の中で呪いの言葉を
(ぶつぶつつぶやきながら、もんのそとへでてきました。)
ブツブツつぶやきながら、門の外へ出てきました。
(さきほどからそのようすをすっかりみとどけたこじきは、)
先ほどからその様子をすっかり見届けた乞食は、
(ふろうにんをやりすごしておいて、そのあとからそっと)
浮浪人をやり過ごしておいて、そのあとからソッと
(つけていきましたが、あけちていをすこしはなれたところで)
付けていきましたが、明智邸を少し離れた所で
(いきなり「おい、おまえさん」と、おとこによびかけ)
いきなり「おい、お前さん」と、男に呼びかけ
(ました。ふろうにんがびっくりしてふりむくと、)
ました。浮浪人がビックリして振り向くと、
(そこにたっているのはきたならしいこじきです。)
そこに立っているのは汚らしい乞食です。
(「なんだい、こじきさんか。おらあ、ほどこしをする)
「なんだい、乞食さんか。おらあ、ほどこしをする
(ようなおかねもちじゃねえよ」ふろうにんはいいすてて、)
ようなお金持ちじゃねえよ」 浮浪人は言い捨てて、
(たちさろうとします。「いや、そんなことじゃない。)
立ち去ろうとします。「いや、そんなことじゃない。
(すこしきみにききたいことがあるんだ」「なんだと」)
少しきみに聞きたいことがあるんだ」「なんだと」
(こじきのくちのききかたがへんなので、おとこはいぶかしげに)
乞食の口のきき方が変なので、男はいぶかしげに
(そのかおをのぞきこみました。「おれはこうみえても、)
その顔をのぞきこみました。「おれはこう見えても、
(ほんもののこじきじゃないんだ。じつは、きみだからはなす)
本物の乞食じゃないんだ。実は、きみだから話す
(がね。おれはにじゅうめんそうのてしたのものなんだ。けさから、)
がね。おれは二十面相の手下の者なんだ。今朝から、
(あけちのやろうのみはりをしていたんだよ。だが、きみも)
明智の野郎の見張りをしていたんだよ。だが、きみも
(あけちには、よっぽどうらみがあるらしいようすだね」)
明智には、よっぽど恨みがあるらしい様子だね」
(ああ、やっぱり、こじきはにじゅうめんそうのぶかのひとりだった)
ああ、やっぱり、乞食は二十面相の部下の一人だった
(のです。「うらみがあるどころか、おらあ、あいつの)
のです。「恨みがあるどころか、おらあ、あいつの
(せいでけいむしょへぶちこまれたんだ。どうにかして、)
せいで刑務所へぶち込まれたんだ。どうにかして、
(このうらみをかえしてやりたいとおもっているんだ」)
この恨みを返してやりたいと思っているんだ」
(ふろうにんは、またしてもにぎりこぶしをふりまわして)
浮浪人は、またしても握りこぶしを振り回して
(ふんがいするのでした。「なまえはなんていうんだ」)
憤慨するのでした。「名前は何て言うんだ」
(「あかいとらぞうってもんだ」「どこのみうちだ」)
「赤井寅三ってもんだ」「どこの身内だ」
(「おやぶんなんてねえよ。じぶんひとりさ」「ふん、そうか」)
「親分なんてねえよ。自分一人さ」「ふん、そうか」
(こじきはしばらくかんがえていましたが、やがて)
乞食はしばらく考えていましたが、やがて
(なにをおもったか、こんなふうにきりだしました。)
何を思ったか、こんな風に切り出しました。
(「にじゅうめんそうというおやぶんのなをしっているか」)
「二十面相という親分の名を知っているか」
(「そりゃあきいてるさ。すげえうでまえだってね」)
「そりゃあ聞いてるさ。すげえ腕前だってね」
(「すごいどころか、まるでまほうつかいだよ。)
「すごいどころか、まるで魔法使いだよ。
(こんどなんか、はくぶつかんのこくほうをすっかりぬすみ)
今度なんか、博物館の国宝をすっかり盗み
(だそうといういきおいだからね。ところでにじゅうめんそうの)
だそうという勢いだからね。ところで二十面相の
(おやぶんにとっちゃ、このあけちこごろうってやろうは)
親分にとっちゃ、この明智小五郎って野郎は
(てきもどうぜんなんだ。あけちにうらみがある、きみと)
敵も同然なんだ。明智に恨みがある、きみと
(おなじたちばなんだ。きみ、にじゅうめんそうのおやぶんのてしたに)
同じ立ち場なんだ。きみ、二十面相の親分の手下に
(なるきはないか。そうすりゃあ、うんとうらみが)
なる気はないか。そうすりゃあ、うんと恨みが
(かえせるというもんだぜ」あかいとらぞうはそれをきくと、)
返せるというもんだぜ」 赤井寅三はそれを聞くと、
(こじきのかおをまじまじとながめていましたが、)
乞食の顔をマジマジとながめていましたが、
(やがてはたとてをうって、「よし、おらあ、)
やがてハタと手を打って、「よし、おらあ、
(それにきめた。あにき、そのにじゅうめんそうのおやぶんに、)
それに決めた。兄貴、その二十面相の親分に、
(ひきあわせてくんねえか」と、でしいりをしょもう)
引き合わせてくんねえか」と、弟子入りを所望
(するのでした。「うん、ひきあわせるとも。あけちに)
するのでした。「うん、引き合わせるとも。明智に
(そんなうらみのあるきみなら、おやぶんはきっとよろこぶぜ。)
そんな恨みのあるきみなら、親分はきっと喜ぶぜ。
(だがなそのまえに、おやぶんへのみやげにひとつてがらを)
だがなその前に、親分への土産に一つ手柄を
(たてちゃどうだ。それも、あけちのやろうをひっさらう)
たてちゃどうだ。それも、明智の野郎を引っさらう
(しごとなんだぜ」こじきすがたのにじゅうめんそうのぶかは)
仕事なんだぜ」 乞食姿の二十面相の部下は
(あたりをみまわしながら、こえひくくいうのでした。)
辺りを見まわしながら、声低く言うのでした。
(「めいたんていのききゅう」)
「名探偵の危急」
(「ええ、なんだって、あのやろうをひっさらうって、)
「ええ、なんだって、あの野郎を引っさらうって、
(そいつあ、おもしれえ。ねがってもないことだ。)
そいつあ、おもしれえ。願ってもないことだ。
(てつだわせてくんねえか。ぜひてつだわせてくれ。で、)
手伝わせてくんねえか。ぜひ手伝わせてくれ。で、
(それはいったい、いつのことなんだ」あかいとらぞうは、)
それは一体、いつのことなんだ」 赤井寅三は、
(もうむちゅうになってたずねるのです。「こんやだよ」)
もう夢中になってたずねるのです。「今夜だよ」
(「ええ、こんやだって。そいつあ、すてきだ。だが、)
「ええ、今夜だって。そいつあ、素敵だ。だが、
(どうやってひっさらうんだね」「それがね、)
どうやって引っさらうんだね」「それがね、
(やっぱりにじゅうめんそうのおやぶんだ。うまいしゅだんをくふうしたん)
やっぱり二十面相の親分だ。上手い手段を工夫したん
(だよ。というのはね、こぶんのなかにうつくしいおんなが)
だよ。というのはね、子分の中に美しい女が
(いるんだ。そのおんなをどっかのわかいおくさんに)
居るんだ。その女をどっかの若い奥さんに
(したてて、あけちのやろうのよろこびそうなこみいった)
したてて、明智の野郎の喜びそうな込み入った
(じけんをつくって、たんていをたのみにいかせんだ。そして、)
事件を作って、探偵を頼みに行かせんだ。 そして、
(すぐにいえをしらべてくれといって、あいつをじどうしゃに)
すぐに家を調べてくれと言って、あいつを自動車に
(のせてつれだすんだ。そのおんなといっしょにだよ。むろん、)
乗せて連れ出すんだ。その女と一緒にだよ。無論、
(じどうしゃのうんてんしゅもなかまのひとりなんだ。むずかしいじけんが)
自動車の運転手も仲間の一人なんだ。 難しい事件が
(だいすきなあいつのこった。それに、あいてはかよわいおんな)
大好きなあいつのこった。それに、相手はか弱い女
(なんだからゆだんをして、このけいかくに)
なんだから油断をして、この計画に
(ひっかかるにきまっているよ」)
引っかかるに決まっているよ」
(こじきはふろうにんにたいして、じしんまんまんにあけちのゆうかいけいかくを)
乞食は浮浪人に対して、自信満々に明智の誘拐計画を
(はなしてきかせます。)
話して聞かせます。