『怪人二十面相』江戸川乱歩39
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「で、おれたちのしごとはというと、ついこのさきの)
「で、おれたちの仕事はというと、ついこの先の
(あおやまぼちへさきまわりをして、あけちをのせたじどうしゃが)
青山墓地へ先まわりをして、明智を乗せた自動車が
(やってくるのをまつんだよ。あそこをとおらなければ)
やってくるのを待つんだよ。あそこを通らなければ
(ならないようなみちじゅんにしてあるんだ。おれたちの)
ならないような道順にしてあるんだ。 おれたちの
(まっているまえへくると、じどうしゃはぴったりとまる。)
待っている前へ来ると、自動車はピッタリ止まる。
(すると、おれときみがりょうがわからどあをあけて)
すると、おれときみが両側からドアをあけて
(くるまのなかへとびこみ、あけちのやつをみうごきのできない)
車の中へ飛び込み、明智の奴を身動きの出来ない
(ようにして、ますいざいをかがせるというだんどりなんだ。)
ようにして、麻酔剤をかがせるという段取りなんだ。
(ますいざいもちゃんとここによういしている。それから)
麻酔剤もちゃんとここに用意している。 それから
(ぴすとるがにちょうあるんだ。もうひとり、なかまがくる)
ピストルが二丁あるんだ。もう一人、仲間が来る
(ことになっているもんだから。しかし)
ことになっているもんだから。 しかし
(かまやしないよ。そいつはあけちにうらみがあるわけでも)
構やしないよ。そいつは明智に恨みがあるわけでも
(なんでもないんだから、きみにてがらをやるよ。)
何でもないんだから、きみに手柄をやるよ。
(さあ、これがぴすとるだ」こじきにばけたおとこは)
さあ、これがピストルだ」 乞食に化けた男は
(そういって、やぶれたきもののふところから)
そう言って、破れた着物のふところから
(いっちょうのぴすとるをとりだし、あかいにわたしました。)
一丁のピストルを取り出し、赤井に渡しました。
(「こんなもの、おらあうったことがねえよ。)
「こんなもの、おらあ撃ったことがねえよ。
(どうすりゃいいんだい」「なあに、だんがんははいってや)
どうすりゃいいんだい」「なあに、弾丸は入ってや
(しない。ひきがねにゆびをあててうつようなかっこうを)
しない。引き金に指をあてて撃つようなかっこうを
(すりゃいいんだ。にじゅうめんそうのおやぶんはね、ひとごろしが)
すりゃいいんだ。二十面相の親分はね、人殺しが
(だいきらいなんだ。このぴすとるは、ただのおどかしだよ」)
大嫌いなんだ。このピストルは、ただのおどかしだよ」
(だんがんがはいっていないときいて、あかいはふまんらしい)
弾丸が入っていないと聞いて、赤井は不満らしい
(かおをしましたが、ともかくぽけっとにおさめ、)
顔をしましたが、ともかくポケットに収め、
(「じゃ、すぐにあおやまぼちへでかけよう)
「じゃ、すぐに青山墓地へ出かけよう
(じゃねえか」と、うながすのでした。「いや、)
じゃねえか」と、うながすのでした。「いや、
(まだすこしはやすぎる。しちじはんというやくそくだよ。)
まだ少し早すぎる。七時半という約束だよ。
(それよりすこしおくれるかもしれない。まだにじかんも)
それより少し遅れるかもしれない。まだ二時間も
(ある。どっかでめしをくって、ゆっくりでかけよう」)
ある。どっかで飯を食って、ゆっくり出かけよう」
(こじきはいいながら、こわきにかかえていたきたならしい)
乞食は言いながら、小脇にかかえていた汚らしい
(ふろしきづつみをほどくと、なかからいちまいのまんとを)
風呂敷包みをほどくと、中から一枚のマントを
(だして、それをやぶれたきもののうえから)
出して、それを破れた着物の上から
(はおりました。ふたりがもよりのしょくどうでしょくじを)
羽織りました。 二人が最寄りの食堂で食事を
(すませ、あおやまぼちへたどりついたときには、)
済ませ、青山墓地へたどり着いた時には、
(とっぷりひがくれて、まばらながいとうのほかは)
とっぷり日が暮れて、まばらな街灯の他は
(しんのやみ、おばけでもでそうなさびしさでした。)
真の闇、お化けでも出そうな寂しさでした。
(やくそくのばしょというのは、ぼちのなかでもさらに)
約束の場所というのは、墓地の中でも更に
(さびしいわきみちで、にちぼつでもめったにじどうしゃがとおらない、)
寂しい脇道で、日没でも滅多に自動車が通らない、
(やみのなかです。ふたりはそのやみのどてにこしをおろして、)
闇の中です。 二人はその闇の土手に腰をおろして、
(じっとときがくるのをまっていました。「おそいね。)
ジッと時が来るのを待っていました。「遅いね。
(だいいち、こうしているとさむくってたまらねえ」「いや、)
第一、こうしていると寒くってたまらねえ」「いや、
(もうじきだよ。さっきぼちのいりぐちのところのみせやの)
もうじきだよ。さっき墓地の入り口の所の店屋の
(とけいをみたら、しちじにじゅっぷんだった。あれから、もう)
時計を見たら、七時二十分だった。あれから、もう
(じゅっぷんいじょうたっているから、いまにやってくるぜ」)
十分以上経っているから、今にやって来るぜ」
(ときどきぽつりぽつりとはなしあいながら、またじゅっぷんほど)
時々ポツリポツリと話し合いながら、また十分ほど
(まつうちに、とうとうむこうからじどうしゃの)
待つうちに、とうとう向こうから自動車の
(へっどらいとがみえはじめました。「おい、きたよ。)
ヘッドライトが見え始めました。「おい、来たよ。
(あれがそうにちがいない。しっかり)
あれがそうに違いない。しっかり
(やるんだぜ」あんのじょう、そのくるまはふたりのまっているまえ)
やるんだぜ」 案の定、その車は二人の待っている前
(までくると、ぎぎーとぶれーきのおとをたててとまった)
まで来ると、ギギーとブレーキの音をたてて止まった
(のです。「それ」というと、ふたりはとつぜん、やみのなかから)
のです。「それ」と言うと、二人は突然、闇の中から
(とびだしました。「きみは、あっちへまわれ」)
飛び出しました。「きみは、あっちへまわれ」
(「よしきた」ふたつのくろいかげは、たちまちきゃくせきのりょうがわの)
「よしきた」 二つの黒い影は、たちまち客席の両側の
(どあへかけよりました。そして、いきなりがちゃんと)
ドアへ駆け寄りました。そして、いきなりガチャンと
(どあをひらくときゃくせきのじんぶつへ、りょうほうからにゅーっと)
ドアをひらくと客席の人物へ、両方からニューッと
(ぴすとるのつつぐちをつきつけました。とどうじに、)
ピストルの筒口を突きつけました。 と同時に、
(きゃくせきにいたようそうのふじんも、いつのまにかぴすとるを)
客席にいた洋装の夫人も、いつのまにかピストルを
(かまえています。それからうんてんしゅまでうしろむき)
構えています。それから運転手まで後ろ向き
(になって、そのてにもぴすとるがひかっている)
になって、その手にもピストルが光っている
(ではありませんか。つまり、よんちょうのぴすとるが)
ではありませんか。つまり、四丁のピストルが
(つつさきをそろえて、きゃくせきにいるたったひとりのじんぶつに)
筒先をそろえて、客席に居るたった一人の人物に
(ねらいをさだめたのです。そのねらわれたじんぶつという)
狙いをさだめたのです。その狙われた人物という
(のは、ああ、やっぱりあけちたんていでした。たんていは)
のは、ああ、やっぱり明智探偵でした。探偵は
(にじゅうめんそうのよそうどおり、まんまとけいりゃくにかかって)
二十面相の予想通り、まんまと計略にかかって
(しまったのでしょうか。「みうごきすると、)
しまったのでしょうか。「身動きすると、
(ぶっぱなすぞ」だれかがおそろしいけんまくで、)
ぶっぱなすぞ」 だれかが恐ろしい剣幕で、
(どなりつけました。しかしあけちはかんねんしたのか、)
どなりつけました。 しかし明智は観念したのか、
(しずかにくっしょんにもたれたまま、さからう)
静かにクッションにもたれたまま、逆らう
(ようすはありません。あまりにもおとなしくしている)
様子はありません。あまりにも大人しくしている
(ので、ぞくのほうがぶきみにおもうほどです。)
ので、賊のほうが不気味に思うほどです。
(「やっつけろ」ひくいけれどちからづよいこえがひびいたかと)
「やっつけろ」 低いけれど力強い声が響いたかと
(おもうと、こじきにばけたおとこと、あかいとらぞうのりょうにんが)
思うと、乞食に化けた男と赤井寅三の両人が
(おそろしいいきおいで、くるまのなかへふみこんできました。)
恐ろしい勢いで、車の中へ踏み込んできました。
(そして、あかいがあけちのじょうはんしんをだきしめるようにして)
そして、赤井が明智の上半身を抱きしめるようにして
(おさえていると、もうひとりは、ふところから)
押さえていると、もう一人は、ふところから
(とりだした、ひとかたまりのしろいぬののようなものを)
取り出した、ひとかたまりの白い布のような物を
(てばやくたんていのくちにおしつけて、しばらくのあいだ)
手早く探偵の口に押し付けて、しばらくのあいだ
(ちからをゆるめませんでした。それから、ややごふん)
力をゆるめませんでした。 それから、やや五分
(して、おとこがてをはなしたときには、さすがのめいたんていも、)
して、男が手を離した時には、さすがの名探偵も、
(やくぶつのちからにはかないません。まるでしにんのように、)
薬物の力には敵いません。まるで死人のように、
(ぐったりときをうしなってしまいました。)
グッタリと気を失ってしまいました。
(「ほほほ、もろいもんだわね」どうじょうしていた)
「ホホホ、もろいもんだわね」 同乗していた
(ようそうふじんが、うつくしいこえでわらいました。「おい、)
洋装婦人が、美しい声で笑いました。「おい、
(なわだ。はやくなわをだしてくれ」こじきにばけたおとこは、)
縄だ。早く縄を出してくれ」 乞食に化けた男は、
(うんてんしゅからひとたばのなわをうけとると、あかいに)
運転手から一束の縄を受けとると、赤井に
(てつだわせてあけちたんていのてあしを、たとえそせいしても、)
手伝わせて明智探偵の手足を、例え蘇生しても、
(みうごきができないように、しばりあげて)
身動きが出来ないように、しばりあげて
(しまいました。「さあ、よしと。こうなっちゃ、)
しまいました。「さあ、よしと。こうなっちゃ、
(めいたんていもたいしたことないね。これでやっと)
名探偵も大したことないね。これでやっと
(おれたちも、なんのえんりょもなくしごとができるという)
おれたちも、何の遠慮もなく仕事が出来るという
(もんだ。おい、おやぶんがまっているだろう。いそごうぜ」)
もんだ。おい、親分が待っているだろう。急ごうぜ」
(ぐるぐるまきのあけちのからだをじどうしゃのゆかにころがして、)
グルグル巻きの明智の体を自動車の床に転がして、
(こじきとあかいがきゃくせきにすわると、くるまはいきなり)
乞食と赤井が客席に座ると、車はいきなり
(はしりだしました。いきさきはいわずとしれた、)
走り出しました。行き先は言わずと知れた、
(にじゅうめんそうのそうくつです。)
二十面相の巣窟です。
(「かいとうのそうくつ」)
「怪盗の巣窟」
(ぞくのてしたのうつくしいふじんと、こじきと、あかいとらぞうと、)
賊の手下の美しい婦人と、乞食と、赤井寅三と、
(きをうしなっているあけちこごろうをのせたじどうしゃは、)
気を失っている明智小五郎を乗せた自動車は、
(さびしいまちをえらびながらはしりにはしって、やがて)
寂しい町を選びながら走りに走って、やがて
(よよぎのめいじじんぐうをとおりすぎ、くらいぞうきばやしのなかに)
代々木の明治神宮を通り過ぎ、暗い雑木林の中に
(ぽつんとたっている、いっけんのじゅうたくにとまりました。)
ポツンと建っている、一軒の住宅に止まりました。