『怪人二十面相』江戸川乱歩40
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(それはなな、はちつぼくらいのちゅうりゅうじゅうたくで、もんのはしらには)
それは七、八坪くらいの中流住宅で、門の柱には
(きたがわじゅうろうというひょうさつがかかっています。もういえのひとは)
北川十郎という表札がかかっています。もう家の人は
(ねてしまったのか、まどからあかりもささず、)
寝てしまったのか、窓から明かりもささず、
(さもつつましやかなかていらしくみえるのです。)
さも慎ましやかな家庭らしく見えるのです。
(ぞくのぶかであるうんてんしゅが、まっさきにくるまをおりて)
賊の部下である運転手が、真っ先に車を降りて
(もんのよびりんをおすと、ほどなくかたんというおとが)
門の呼び鈴を押すと、ほどなくカタンという音が
(して、もんのとびらにあるちいさなのぞきまどが)
して、門の扉にある小さなのぞき窓が
(あき、そこにふたつのおおきなめだまがあらわれました。)
あき、そこに二つの大きな目玉が現れました。
(もんのあかりで、それがものすごくひかってみえます。)
門の明かりで、それが物凄く光って見えます。
(「ああ、きみか。どうだ、しゅびよくいったか」)
「ああ、きみか。どうだ、首尾よくいったか」
(めだまのぬしが、ささやくようなこごえでたずねました。)
目玉のぬしが、ささやくような小声でたずねました。
(「うん、うまくいった。はやくあけてくれ」)
「うん、うまくいった。早くあけてくれ」
(うんてんしゅがこたえると、もんのとびらがぎいーと)
運転手が答えると、門の扉がギイーと
(ひらきました。みると、もんのうちがわにはくろいようふくを)
ひらきました。 見ると、門の内側には黒い洋服を
(きたぞくのぶかがゆだんなくみがまえて、たちはだかって)
着た賊の部下が油断なく身構えて、立ちはだかって
(いるのです。こじきとあかいとらぞうが、ぐったりとなった)
いるのです。 乞食と赤井寅三が、グッタリとなった
(あけちたんていのからだをかかえ、うつくしいふじんがそれをたすける)
明智探偵の体を抱え、美しい婦人がそれを助ける
(ようにしてもんないにきえると、とびらは)
ようにして門内に消えると、扉は
(またもとのようにぴったりとしめられました。)
また元のようにピッタリと閉められました。
(ひとりのこったうんてんしゅは、からになったじどうしゃに)
一人残った運転手は、空になった自動車に
(とびのりました。そしてくるまはやのように)
飛び乗りました。そして車は矢のように
(はしりだし、たちまちみえなくなってしまいました。)
走り出し、たちまち見えなくなってしまいました。
(どこかべつのところにぞくのしゃこがあるのでしょう。)
どこか別の所に賊の車庫があるのでしょう。
(もんないでは、あけちをかかえたさんにんのぶかがげんかんのこうしどの)
門内では、明智を抱えた三人の部下が玄関の格子戸の
(まえにたつと、いきなりのきのでんとうがぱっとてんか)
前に立つと、いきなり軒の電灯がパッと点火
(されました。めもくらむようなあかるいでんとうです。)
されました。目もくらむような明るい電灯です。
(このいえがはじめてのあかいとらぞうは、あまりのあかるさに)
この家が初めての赤井寅三は、あまりの明るさに
(ぎょっとしましたが、かれをびっくりさせたのは)
ギョッとしましたが、彼をビックリさせたのは
(それだけではありませんでした。でんとうがついたかと)
それだけではありませんでした。 電灯が点いたかと
(おもうとこんどは、どこからともなくおおきなひとのこえが)
思うと今度は、どこからともなく大きな人の声が
(きこえてきました。だれもいないのにこえだけが、)
聞こえてきました。だれも居ないのに声だけが、
(おばけみたいにくうちゅうからひびいてきたのです。)
お化けみたいに空中から響いて来たのです。
(「ひとり、にんずうがふえたようだな。そいつはいったい、)
「一人、人数が増えたようだな。そいつは一体、
(だれだ」どうもにんげんのこえとはおもわれないような、)
だれだ」 どうも人間の声とは思われないような、
(へんてこなひびきです。しんまいのあかいはうすきみわるそうに、)
ヘンテコな響きです。新米の赤井は薄気味悪そうに、
(きょろきょろあたりをみまわしています。すると)
キョロキョロあたりを見まわしています。 すると
(こじきにばけたぶかが、つかつかとげんかんのはしらのそばへ)
乞食に化けた部下が、ツカツカと玄関の柱のそばへ
(ちかづいて、そのはしらのあるぶぶんにくちをつけるように)
近づいて、その柱のある部分に口をつけるように
(して、「あたらしいみかたです。あけちにふかいうらみを)
して、「新しい味方です。明智に深い恨みを
(もっているおとこです。じゅうぶんしんようしていいです」)
持っている男です。充分信用していいです」
(と、ひとりごとをしゃべりました。まるで、でんわでも)
と、独り言をしゃべりました。まるで、電話でも
(かけているようです。「そうか、それならはいっても)
かけているようです。「そうか、それなら入っても
(よろしい」またへんなこえがひびくと、まるでじどうそうち)
よろしい」 また変な声が響くと、まるで自動装置
(のように、こうしどがおともなくひらきました。)
のように、格子戸が音もなくひらきました。
(「ははは、おどろいたかい。いまのは、おくにいるしゅりょうとはなしを)
「ハハハ、驚いたかい。今のは、奥にいる首領と話を
(したんだよ。ひとめにつかないように、このはしらのかげに)
したんだよ。人目につかないように、この柱の影に
(かくせいきとまいくろほんがとりつけてあるんだ。)
拡声器とマイクロホンが取り付けてあるんだ。
(しゅりょうはようじんぶかいひとだからね」こじきにばけたぶかが)
首領は用心深い人だからね」 乞食に化けた部下が
(おしえてくれました。「だけど、おれがここにいるって)
教えてくれました。「だけど、おれがここに居るって
(ことが、どうしてわかったんだろう」あかいは、)
ことが、どうして分かったんだろう」 赤井は、
(まだふしんかんがはれません。「うん、それもいまに)
まだ不信感が晴れません。「うん、それも今に
(わかるよ」あいてはとりあわないで、あけちをかかえて)
分かるよ」 相手は取り合わないで、明智を抱えて
(ぐんぐんいえのなかへはいっていきます。しぜんとあかいも)
グングン家の中へ入って行きます。自然と赤井も
(あとにしたがわないわけにはいきません。げんかんには、)
あとに従わない訳にはいきません。 玄関には、
(またひとりのくっきょうなおとこがいあつするように)
また一人の屈強な男が威圧するように
(たちはだかっていましたが、いちどうをみると)
立ちはだかっていましたが、一同を見ると
(にこにこして、うなずいてみせました。ふすまを)
ニコニコして、うなずいてみせました。ふすまを
(ひらいてろうかへでて、いちばんおくまったへやへ)
ひらいて廊下へ出て、一番奥まった部屋へ
(たどりつきましたが、みょうなことにそこは)
たどり着きましたが、みょうなことそこは
(がらんとしたじゅうじょうのあきべやで、しゅりょうのすがたはどこにも)
ガランとした十畳の空き部屋で、首領の姿はどこにも
(みえません。こじきがなにか、あごをしゃくってさしずを)
見えません。 乞食が何か、あごをしゃくって指図を
(すると、うつくしいおんなのぶかがつかつかととこのまに)
すると、美しい女の部下がツカツカと床の間に
(ちかより、はしらのうらにてをかけて、なにかしました。)
近寄り、柱の裏に手をかけて、何かしました。
(するとどうでしょう。がたんとおもおもしいおとが)
するとどうでしょう。ガタンと重々しい音が
(したかとおもうと、ざしきのまんなかのたたみがいちまい、)
したかと思うと、座敷の真ん中の畳が一枚、
(すーっとしたへおちていって、あとにちょうほうけいの)
スーッと下へ落ちていって、あとに長方形の
(まっくらなあながあいたではありませんか。「さあ、)
真っ暗な穴があいたではありませんか。「さあ、
(ここのはしごをおりるんだ」いわれて、あなのなかを)
ここのハシゴを下りるんだ」 言われて、穴の中を
(のぞくと、いかにもりっぱなきのかいだんがついて)
のぞくと、いかにも立派な木の階段が付いて
(います。ああ、なんというようじんぶかさでしょう。)
います。 ああ、なんという用心深さでしょう。
(おもてもんとげんかんのせきしょ、そのふたつをとおりこしても、)
表門と玄関の関所、その二つを通り越しても、
(このたたみのどんでんがえしをしらないものには、しゅりょうが)
この畳のどんでん返しを知らない者には、首領が
(どこにいるのやら、まったくけんとうもつかないのです。)
どこに居るのやら、まったく見当もつかないのです。
(「なにをぼんやりしているんだ。はやくおりるんだよ」)
「なにをボンヤリしているんだ。早く下りるんだよ」
(あけちのからだをさんにんがかりでかかえながら、いちどうがかいだんを)
明智の体を三人がかりで抱えながら、一同が階段を
(おりきると、あたまのうえでぎーっとおとがして、たたみのあなは)
下りきると、頭の上でギーッと音がして、畳の穴は
(もとのようにふたでふさがれてしまいました。)
元のようにフタでふさがれてしまいました。
(じつに、ゆきとどいたきかいじかけではありませんか。)
実に、ゆき届いた機械仕掛けではありませんか。
(ちかしつにおりても、まだそこがしゅりょうのへやでは)
地下室に下りても、まだそこが首領の部屋では
(ありません。うすぐらいでんとうのひかりをたよりに)
ありません。薄暗い電灯の光を頼りに
(こんくりーとのろうかをすこしいくと、がんじょうなてつのとびらが)
コンクリートの廊下を少し行くと、頑丈な鉄の扉が
(ゆくてをさえぎっているのです。こじきにばけたおとこが、)
ゆくてを遮っているのです。 乞食に化けた男が、
(そのとびらをみょうなちょうしでとんとんとん、とんとんと)
その扉を妙な調子でトントントン、トントンと
(たたきました。すると、おもいてつのとびらがないぶから)
叩きました。すると、重い鉄の扉が内部から
(ひらかれて、ぱっとめをいるでんとうのひかり、)
開かれて、パッと目を射る電灯の光、
(まばゆいばかりにかざりつけられたりっぱなようしつ、)
まばゆいばかりに飾りつけられた立派な洋室、
(そのしょうめんのおおきなあんらくいすにこしかけて)
その正面の大きな安楽イスに腰かけて
(にこにこわらっている、さんじゅっさいほどのようふくしんしが)
ニコニコ笑っている、三十歳ほどの洋服紳士が
(にじゅうめんそうそのひとでありました。これが、すがおか)
二十面相その人でありました。これが、素顔か
(どうかはわかりませんが、あたまのけをきれいに)
どうかは分かりませんが、頭の毛をきれいに
(ちぢれさせた、ひげのないびだんしです。)
縮れさせた、ヒゲのない美男子です。
(「よくやった、よくやった。きみたちのはたらきは)
「よくやった、よくやった。きみたちの働きは
(わすれないよ」しゅりょうは、きょうてきであるあけちこごろうを)
忘れないよ」 首領は、強敵である明智小五郎を
(ほばくしたことが、もううれしくてたまらないようすです。)
捕縛したことが、もう嬉しくてたまらない様子です。
(むりもありません。あけちさえ、こうしてとじこめて)
無理もありません。明智さえ、こうして閉じこめて
(おけば、にほんじゅうにおそろしいあいてはひとりもいなくなる)
おけば、日本中に恐ろしい相手は一人も居なくなる
(わけですからね。かわいそうなあけちたんていは)
訳ですからね。 可哀想な明智探偵は
(ぐるぐるまきにしばられたまま、そこのゆかのうえに)
グルグル巻きにしばられたまま、そこの床の上に
(ころがされました。)
転がされました。