『怪人二十面相』江戸川乱歩41
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(あかいとらぞうはころがしただけではたりないとみえて、)
赤井寅三は転がしただけでは足りないとみえて、
(きをうしなっているあけちのあたまをあしでにどもさんども)
気を失っている明智の頭を足で二度も三度も
(けとばしました。「ああ、きみはよほど)
蹴飛ばしました。「ああ、きみは余程
(そいつにうらみがあるんだね。それでこそぼくの)
そいつに恨みがあるんだね。それでこそぼくの
(みかただ。だが、もうよしたまえ。てきはいたわる)
味方だ。だが、もうよしたまえ。敵はいたわる
(ものだ。それに、このおとこはにほんにたったひとりしか)
ものだ。それに、この男は日本にたった一人しか
(いないめいたんていなんだからね。そんなにらんぼうに)
居ない名探偵なんだからね。そんなに乱暴に
(しないでなわをといて、そちらのながいすに)
しないで縄をといて、そちらの長イスに
(ねかしてやりたまえ」しゅりょうであるにじゅうめんそうは、)
寝かしてやりたまえ」 首領である二十面相は、
(いけどりにしたてきをあつかうすべをしっていました。)
生け捕りにした敵を扱うすべを知っていました。
(そこでぶかたちはめいじられたとおり、)
そこで部下たちは命じられた通り、
(なわをといてあけちたんていをいすにねかせましたが、)
縄をといて明智探偵をイスに寝かせましたが、
(まだくすりがきれないのか、たんていはぐったりしたまま)
まだ薬がきれないのか、探偵はグッタリしたまま
(いしきがありません。こじきにばけたおとこは、あけちたんてい)
意識がありません。 乞食に化けた男は、明智探偵
(ゆうかいのじゅんじょと、あかいとらぞうをみかたにひきいれたりゆうを)
誘拐の順序と、赤井寅三を味方に引き入れた理由を
(くわしくほうこくしました。「うん、よくやった。)
詳しく報告しました。「うん、よくやった。
(あかいくんは、なかなかやくにたちそうなじんぶつだ。)
赤井君は、なかなか役に立ちそうな人物だ。
(それに、あけちにふかいうらみをもっているのがなにより)
それに、明智に深い恨みを持っているのが何より
(きにいったよ」にじゅうめんそうは、めいたんていをいけどりにした)
気にいったよ」 二十面相は、名探偵を生け捕りにした
(うれしさに、なにもかもじょうきげんです。そこであかいは)
嬉しさに、何もかも上機嫌です。そこで赤井は
(あらためて、でしいりのおごそかなちかいをたてさせられ)
改めて、弟子入りのおごそかな誓いをたてさせられ
(ましたが、それがすむと、このふろうにんはさっきから)
ましたが、それが済むと、この浮浪人はさっきから
(ふしぎでたまらなかったことをさっそくたずねた)
不思議でたまらなかったことを早速たずねた
(のです。「このいえのしかけにはおどろきましたぜ。)
のです。「この家の仕掛けには驚きましたぜ。
(これならけいさつなんかこわくないはずですねえ。だが、)
これなら警察なんか怖くないはずですねえ。だが、
(どうもまだふにおちねえことがある。さっきげんかんへ)
どうもまだ腑に落ちねえことがある。さっき玄関へ
(きたばっかりのときに、どうして、おかしらにあっしの)
来たばっかりの時に、どうして、おかしらにあっしの
(すがたがみえたんですかい」「ははは、それかい。)
姿が見えたんですかい」「ハハハ、それかい。
(それはね、ほら、ここをのぞいてみたまえ」しゅりょうは)
それはね、ほら、ここをのぞいてみたまえ」 首領は
(てんじょうのひとすみからさがっているすとーぶのえんとつみたいな)
天井の一隅から下がっているストーブの煙突みたいな
(ものをゆびさしました。のぞいてみよといわれたので)
物を指さしました。 のぞいてみよと言われたので
(あかいはそこへいって、えんとつのしたのはしがかぎのてに)
赤井はそこへ行って、煙突の下の端がカギの手に
(まがっているつつぐちへめをあててみました。すると、)
曲がっている筒口へ目をあててみました。すると、
(これはどうでしょう。そのつつのなかに、このいえのげんかん)
これはどうでしょう。その筒の中に、この家の玄関
(からもんにかけてのけしきがかわいらしくしゅくしょうされて)
から門にかけての景色が可愛らしく縮小されて
(うつっているではありませんか。さっきのもんばんのおとこが、)
写っているではありませんか。さっきの門番の男が、
(ちゅうじつにもんのうちがわにたっているのもはっきりみえます。)
忠実に門の内側に立っているのもハッキリ見えます。
(「せんすいかんにつかうせんぼうきょうとおなじしかけなんだよ。)
「潜水艦に使う潜望鏡と同じ仕掛けなんだよ。
(あれよりも、もっとふくざつにおれまがっている)
あれよりも、もっと複雑に折れ曲がっている
(けれどね」どうりで、あんなにひかりのつよいでんとうがひつよう)
けれどね」 道理で、あんなに光の強い電灯が必要
(だったのです。「だが、きみがいままでみたのは、)
だったのです。「だが、きみが今まで見たのは、
(このいえのきかいじかけのはんぶんにもたりないのだよ。)
この家の機械仕掛けの半分にも足りないのだよ。
(そのなかには、ぼくいがいはだれもしらないしかけも)
その中には、ぼく以外はだれも知らない仕掛けも
(ある。なにしろ、ここがぼくのほんとうのねじろだからね。)
ある。なにしろ、ここがぼくの本当の根城だからね。
(ここいがいにも、いくつかのかくれががあるけれど、)
ここ以外にも、いくつかの隠れ家があるけれど、
(それらはてきをあざむく、ほんのかりずまいにすぎない)
それらは敵をあざむく、ほんの仮住まいにすぎない
(のさ」だとすると、いつだったかこばやししょうねんが)
のさ」だとすると、いつだったか小林少年が
(くるしめられたとやまがはらのはいおくも、かりのかくれがだった)
苦しめられた戸山ヶ原の廃屋も、仮の隠れ家だった
(のでしょうか。「いずれきみにもみせるがね、)
のでしょうか。「いずれきみにも見せるがね、
(このおくにぼくのびじゅつしつがあるんだよ」にじゅうめんそうは)
この奥にぼくの美術室があるんだよ」 二十面相は
(あいかわらずじょうきげんで、しゃべりすぎるほどしゃべる)
相変わらず上機嫌で、しゃべりすぎるほどしゃべる
(のです。みれば、かれのあんらくいすのうしろにだいぎんこうの)
のです。見れば、彼の安楽イスの後ろに大銀行の
(きんこのような、ふくざつなきかいじかけのおおきなてつのとびらが、)
金庫のような、複雑な機械仕掛けの大きな鉄の扉が、
(げんじゅうにしめきってあります。「このおくに、いくつも)
厳重に閉めきってあります。「この奥に、いくつも
(へやがあるんだよ。ははは、おどろいているね。)
部屋があるんだよ。ハハハ、驚いているね。
(このちかしつは、じめんにたっているいえよりもずっとひろい)
この地下室は、地面に建っている家よりもずっと広い
(のさ。そしてそのへやに、ぼくのしょうがいのせんりひんが)
のさ。そしてその部屋に、ぼくの生涯の戦利品が
(ちゃんとぶんるいしてちんれつしてあるってわけだよ。)
ちゃんと分類して陳列してあるって訳だよ。
(そのうちみせてあげるよ。まだなにもちんれつしていない、)
そのうち見せてあげるよ。 まだ何も陳列していない、
(からっぽのへやもある。そこへはね、ごくきんじつ)
空っぽの部屋もある。そこへはね、ごく近日
(どっさりこくほうがはいることになっているんだ。)
どっさり国宝が入ることになっているんだ。
(きみもしんぶんでよんでいるだろう。れいのこくりつはくぶつかんの)
きみも新聞で読んでいるだろう。例の国立博物館の
(たくさんのたからさ。ははは」もうあけちというたいてきを)
たくさんの宝さ。ハハハ」 もう明智という大敵を
(のぞいてしまったのだから、それらのびじゅつひんは)
のぞいてしまったのだから、それらの美術品は
(てにいれたもどうぜんとばかりに、にじゅうめんそうは)
手に入れたも同然とばかりに、二十面相は
(ここちよさげに、からからとあざけりわらうのでした。)
心地よさげに、カラカラとあざけり笑うのでした。
(「しょうねんたんていだん」)
「少年探偵団」
(よくあさになってもあけちたんていがきたくしないものですから、)
翌朝になっても明智探偵が帰宅しないものですから、
(おおさわぎになりました。たんていがどうはんしてでかけた、)
大騒ぎになりました。 探偵が同伴して出かけた、
(じけんいらいしゃのふじんのじゅうしょがひかえてありましたので)
事件依頼者の婦人の住所がひかえてありましたので
(そこをしらべると、そんなふじんなんかすんでいない)
そこを調べると、そんな婦人なんか住んでいない
(ことがわかりました。さてはにじゅうめんそうのしわざで)
ことが分かりました。さては二十面相の仕業で
(あったかと、ひとびとははじめてそこへきがついた)
あったかと、人々は初めてそこへ気がついた
(のです。かくしんぶんのゆうかんは、「めいたんていあけちこごろうし)
のです。 各新聞の夕刊は、「名探偵明智小五郎氏
(ゆうかいされる」というおおみだしで、あけちのしゃしんを)
誘拐される」という大見出しで、明智の写真を
(おおきくいれて、このできごとをでかでかと)
大きく入れて、この出来事をデカデカと
(かきたて、らじおもこれをくわしくほうどうしました。)
書きたて、ラジオもこれを詳しく報道しました。
(「ああ、たのみのつなであっためいたんていは、)
「ああ、頼みの綱であった名探偵は、
(ぞくにつかまってしまった。はくぶつかんがあぶない」)
賊に捕まってしまった。博物館が危ない」
(いっせんまんのとみんは、じぶんのことのようにくやしがり、)
一千万の都民は、自分のことのように悔しがり、
(いたるところでひとさえあつまれば、このじけんの)
至る所で人さえ集まれば、この事件の
(うわさばかり、ぜんとのそらがなんともいえない)
ウワサばかり、全都の空が何とも言えない
(いんうつな、ふあんのこくうんにおおわれたように)
陰鬱な、不安の黒雲に覆われたように
(かんじないではいられませんでした。しかし)
感じないではいられませんでした。 しかし
(めいたんていのゆうかいを、せかいじゅうでいちばんざんねんにおもったのは、)
名探偵の誘拐を、世界中で一番残念に思ったのは、
(たんていのしょうねんじょしゅのこばやしよしおくんでした。)
探偵の少年助手の小林芳雄君でした。
(ひとばんまちあかしてあさになっても、またいちにちむなしく)
一晩待ちあかして朝になっても、また一日むなしく
(まって、よるがきても、せんせいはおかえりになりません。)
待って、夜がきても、先生はお帰りになりません。
(けいさつでは、にじゅうめんそうにゆうかいされたのだというし、)
警察では、二十面相に誘拐されたのだと言うし、
(しんぶんやらじおまでそのとおりにほうどうするものですから、)
新聞やラジオまでその通りに報道するものですから、
(せんせいのみのうえがしんぱいなばかりでなく、めいたんていのめいよの)
先生の身の上が心配なばかりでなく、名探偵の名誉の
(ために、くやしくってくやしくって、たまらない)
ために、悔しくって悔しくって、たまらない
(のです。そのうえ、こばやしくんはじぶんのしんぱいのほかに、)
のです。 その上、小林君は自分の心配の他に、
(せんせいのおくさんをなぐさめなければなりませんでした。)
先生の奥さんをなぐさめなければなりませんでした。
(さすがあけちたんていのふじんほどあって、なみだをみせるような)
さすが明智探偵の夫人ほどあって、涙を見せるような
(ことはしませんでしたが、ふあんにたえない)
ことはしませんでしたが、不安にたえない
(あおざめたかおに、わざとえがおをつくっている)
青ざめた顔に、わざと笑顔を作っている
(ようすをみると、おきのどくで、じっとして)
様子を見ると、お気の毒で、ジッとして
(いられないのです。)
いられないのです。