『怪人二十面相』江戸川乱歩43
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「こばやしだんちょうばんざーい」もうすっかり、)
「小林団長バンザーイ」 もうすっかり、
(だんちょうにまつりあげてしまって、うれしさのあまり、)
団長に祭りあげてしまって、嬉しさのあまり、
(そんなことをさけぶしょうねんさえおりました。「じゃ、)
そんなことを叫ぶ少年さえおりました。「じゃ、
(これからしゅっぱつしましょう」そしていちどうは、)
これから出発しましょう」 そして一同は、
(しょうねんだんのようにあしなみそろえて、あけちていのもんがいへ)
少年団のように足並みそろえて、明智邸の門外へ
(きえていくのでした。)
消えていくのでした。
(「ごごよじ」)
「午後四時」
(しょうねんたんていだんのけなげなそうさくは、にちよう、げつよう、かよう、)
少年探偵団の健気な捜索は、日曜、月曜、火曜、
(すいようと、がっこうのよかをりようして、にんたいづよくつづけ)
水曜と、学校の余暇を利用して、忍耐強く続け
(られましたが、いつまでたっても、これという)
られましたが、いつまで経っても、これという
(てがかりはつかめませんでした。しかし、とうきょうじゅうの)
手がかりはつかめませんでした。 しかし、東京中の
(なんぜんにんというおとなのおまわりさんにさえ、)
何千人という大人のお巡りさんにさえ、
(どうすることもできないほどのなんじけんです。)
どうすることも出来ないほどの難事件です。
(てがかりがえられないのは、けっしてしょうねんそうさくたいがむのう)
手がかりが得られないのは、決して少年捜索隊が無能
(だからではありません。それに、これらのいさましい)
だからではありません。それに、これらの勇ましい
(しょうねんたちはごじつ、またどのようなてがらをたてないもの)
少年たちは後日、またどのような手柄をたてない者
(でもないのです。あけちたんていゆくえふめいのまま、)
でもないのです。 明智探偵行方不明のまま、
(おそろしいじゅうにがつとおかは、いちにちいちにちとせまって)
恐ろしい十二月十日は、一日一日と迫って
(きました。けいしちょうのひとたちは、もういてもたっても)
きました。警視庁の人たちは、もう居てもたっても
(いられないきもちです。なにしろとうなんをよこくされた)
いられない気持ちです。なにしろ盗難を予告された
(しなものが、こっかのたからというのですから、そうさかちょうや、)
品物が、国家の宝というのですから、捜査課長や、
(ちょくせつにじゅうめんそうのじけんにかんけいしているなかむらかかりちょうなどは、)
直接二十面相の事件に関係している中村係長などは、
(しんぱいのために、やせほそるおもいでした。ところが、)
心配のために、やせほそる思いでした。 ところが、
(もんだいのひのふつかまえ、じゅうにがつようかに、またまたせけんの)
問題の日の二日前、十二月八日に、またまた世間の
(さわぎをおおきくするようなできごとがおこったのです。)
騒ぎを大きくするような出来事が起こったのです。
(というのは、そのひのとうきょうまいにちしんぶんのしゃかいめんに、)
というのは、その日の東京毎日新聞の社会面に、
(にじゅうめんそうからのとうしょがめだつようにけいさいされたこと)
二十面相からの投書が目立つように掲載されたこと
(でした。とうきょうまいにちしんぶんは、べつにぞくのきかんしんぶんという)
でした。 東京毎日新聞は、別に賊の機関新聞という
(わけではありませんが、このさわぎのちゅうしんに)
訳ではありませんが、この騒ぎの中心に
(なっているにじゅうめんそうそのひとからのとうしょとあっては、)
なっている二十面相その人からの投書とあっては、
(もんだいにしないわけにはいきません。ただちに)
問題にしない訳にはいきません。ただちに
(へんしゅうかいぎまでひらいて、そのぜんぶんをのせることに)
編集会議までひらいて、その全文を載せることに
(したのです。それはながいぶんしょうでしたが、いみを)
したのです。 それは長い文章でしたが、意味を
(かいつまんでしるすと、「わたしは、)
かいつまんでしるすと、「私は、
(はくぶつかんしゅうげきのひをじゅうにがつとおかとよこくしておいたが、)
博物館襲撃の日を十二月十日と予告しておいたが、
(もっとせいかくにやくそくするほうがおとこらしいと)
もっと正確に約束するほうが男らしいと
(かんじたので、ここにとうきょうとみんしょくんのまえに、)
感じたので、ここに東京都民諸君の前に、
(そのじかんをつうこくする。それは「じゅうにがつとおか)
その時間を通告する。 それは「十二月十日
(ごごよじ」である。はくぶつかんちょうもけいしそうかんも、)
午後四時」である。 博物館長も警視総監も、
(できるかぎりのけいかいをしていただきたい。けいかいが)
出来る限りの警戒をしていただきたい。警戒が
(げんじゅうであればあるほどわたしのぼうけんは、そのかがやきを)
厳重であればあるほど私の冒険は、その輝きを
(ますであろう」ああ、なんたることでしょう。)
増すであろう」 ああ、なんたることでしょう。
(ひづけをよこくするだけでも、おどろくべきだいたんさですのに、)
日付を予告するだけでも、驚くべき大胆さですのに、
(そのうえじかんまではっきりとこうひょうしてしまった)
そのうえ時間までハッキリと公表してしまった
(のです。そしてはくぶつかんちょうやけいしそうかんに、)
のです。そして博物館長や警視総監に、
(このうえなくしつれいなちゅういまであたえているのです。)
この上なく失礼な注意まで与えているのです。
(これをよんだとみんのおどろきはもうすまでもありません。)
これを読んだ都民の驚きは申すまでもありません。
(いままでは、そんなばかばかしいことがと、)
今までは、そんなバカバカしいことがと、
(あざわらっていたひとびとも、もうわらえなくなりました。)
あざわらっていた人々も、もう笑えなくなりました。
(とうじのはくぶつかんちょうはしがくかいのだいせんぱい、きたこうじぶんがくはかせ)
当時の博物館長は史学界の大先輩、北小路文学博士
(でしたが、そのえらいろうがくしゃさえも、ぞくのよこくをほんきに)
でしたが、その偉い老学者さえも、賊の予告を本気に
(しないではいられなくなって、わざわざけいしちょうに)
しないではいられなくなって、わざわざ警視庁に
(でむき、けいかいほうほうについて、けいしそうかんといろいろ)
出向き、警戒方法について、警視総監と色々
(うちあわせをしました。いや、それだけでは)
打ち合わせをしました。 いや、それだけでは
(ありません。にじゅうめんそうのことは、こくむだいじんがたのかくぎの)
ありません。二十面相のことは、国務大臣方の閣議の
(わだいにさえ、のぼりました。なかでもそうりだいじんや)
話題にさえ、のぼりました。中でも総理大臣や
(ほうむだいじんなどはしんぱいのあまり、けいしそうかんをべっしつに)
法務大臣などは心配のあまり、警視総監を別室に
(まねいて、げきれいのことばをあたえたほどです。そして)
まねいて、激励の言葉を与えたほどです。 そして
(ぜんとみんのふあんのうちに、むなしくひがたって、)
全都民の不安のうちに、むなしく日が経って、
(とうとうじゅうにがつとおかになりました。こくりつはくぶつかんでは)
とうとう十二月十日になりました。 国立博物館では
(そうちょうから、かんちょうのきたこうじろうはかせを)
早朝から、館長の北小路老博士を
(はじめとして、さんにんのかかりちょう、じゅうにんのしょき、じゅうろくにんの)
はじめとして、三人の係長、十人の書記、十六人の
(しゅえいやようむいんがひとりのこらずしゅっきんして、それぞれ)
守衛や用務員が一人残らず出勤して、それぞれ
(けいかいのぶしょにつきました。むろん、とうじつは)
警戒の部署につきました。 無論、当日は
(おもてもんをとじて、かんらんきんしです。けいしちょうからは、)
表門を閉じて、観覧禁止です。 警視庁からは、
(なかむらそうさかかりちょうひきいるえりすぐりのけいかんたいごじゅうにんが)
中村捜査係長率いる選りすぐりの警官隊五十人が
(しゅっちょうして、はくぶつかんのおもてもん、うらもん、へいのまわり、)
出張して、博物館の表門、裏門、塀の周り、
(かんないのようしょようしょにがんばって、ありのはいるすきまも)
館内の要所要所に頑張って、アリの入る隙間も
(ないだいけいかいじんです。ごごさんじはん、のこりがわずか)
ない大警戒陣です。 午後三時半、残りがわずか
(さんじゅっぷん、けいかいじんはものものしくさっきだってきました。)
三十分、警戒陣は物々しく殺気だってきました。
(そこへけいしちょうのおおがたじどうしゃがとうちゃくして、けいしそうかんが)
そこへ警視庁の大型自動車が到着して、警視総監が
(けいじぶちょうをしたがえてあらわれました。そうかんは)
刑事部長をしたがえて現れました。総監は
(しんぱいのあまり、もうじっとしていられなくなった)
心配のあまり、もうジッとしていられなくなった
(のです。そうかんじしんのめで、はくぶつかんをみまもって)
のです。総監自身の目で、博物館を見守って
(いなければ、がまんができなくなったのです。)
いなければ、我慢が出来なくなったのです。
(そうかんたちはいちどうのけいかいぶりをしさつしたうえ、)
総監たちは一同の警戒ぶりを視察した上、
(かんちょうしつできたこうじはかせにめんかいしました。)
館長室で北小路博士に面会しました。
(「わざわざ、あなたがおでかけくださるとは)
「わざわざ、あなたがお出かけくださるとは
(おもいませんでした。きょうしゅくです」ろうはかせがあいさつ)
思いませんでした。恐縮です」 老博士があいさつ
(すると、そうかんはすこしきまりわるそうにわらって)
すると、総監は少しきまり悪そうに笑って
(みせました。「いや、おはずかしいことですが、)
みせました。「いや、お恥ずかしいことですが、
(じっとしていられませんでね。たかがいちとうぞくの)
ジッとしていられませんでね。たかが一盗賊の
(ために、これほどのさわぎをしなければならないとは、)
ために、これほどの騒ぎをしなければならないとは、
(じつにちじょくです。わしはけいしちょうにはいっていらい、こんな)
実に恥辱です。わしは警視庁に入って以来、こんな
(ひどいちじょくをうけたことははじめてです」「あはは」)
酷い恥辱を受けたことは初めてです」「アハハ」
(ろうはかせはちからなくわらって、「わたしもどうようです。あの)
老博士は力なく笑って、「私も同様です。あの
(あおにさいのとうぞくのために、いっしゅうかんもふみんしょうにかかって)
青二才の盗賊のために、一週間も不眠症にかかって
(おるのですからな」「しかし、もうのこりにじゅっぷんほど)
おるのですからな」「しかし、もう残り二十分ほど
(ですよ。え、きたこうじさん、まさかにじゅっぷんのあいだに、)
ですよ。え、北小路さん、まさか二十分の間に、
(このげんじゅうなけいかいをやぶって、たくさんのびじゅつひんを)
この厳重な警戒を破って、たくさんの美術品を
(ぬすみだすなんて、いくらまほうつかいでもすこしむずかしい)
盗み出すなんて、いくら魔法使いでも少し難しい
(げいとうじゃありませんか」「わかりません。わしには)
芸当じゃありませんか」「分かりません。わしには
(まほうつかいのことはわかりません。ただいっこくもはやく)
魔法使いのことは分かりません。ただ一刻も早く
(よじがすぎさってくれればよいとおもうのみです」)
四時が過ぎ去ってくれればよいと思うのみです」
(ろうはかせはおこったようなくちょうでいいました。)
老博士は怒ったような口調で言いました。
(あまりのことに、にじゅうめんそうのはなしをするのもはらだたしい)
あまりのことに、二十面相の話をするのも腹立たしい
(のでしょう。しつないのさんにんはそれきりだまりこんで、)
のでしょう。 室内の三人はそれきり黙り込んで、
(ただかべのとけいとにらめっこするのみでした。)
ただ壁の時計とにらめっこするのみでした。