『怪人二十面相』江戸川乱歩45
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(あるものはうでをおられ、あるものはくびをひきちぎられ、)
ある物は腕を折られ、ある物は首を引きちぎられ、
(あるものはゆびをひきちぎられて、みるもむざんなありさま)
ある物は指を引きちぎられて、見るも無残な有り様
(です。「あけちくん、なにをする。おい、いけない。)
です。「明智君、何をする。おい、いけない。
(よさんか」そうかんとけいじぶちょうが、こえをそろえて)
よさんか」 総監と刑事部長が、声をそろえて
(どなりつけるのをききながして、あけちはさっと)
どなりつけるのを聞き流して、明智はサッと
(ちんれつだなをとびだすと、またさっきのようにろうかんちょうの)
陳列棚を飛びだすと、またさっきのように老館長の
(そばへより、そのてをにぎって、にこにこと)
そばへ寄り、その手を握って、ニコニコと
(わらっているのです。「おいあけちくん、いったい)
笑っているのです。「おい明智君、一体
(どうしたというんだ。らんぼうにもほどがあるじゃ)
どうしたというんだ。乱暴にもほどがあるじゃ
(ないか。これははくぶつかんのなかでもいちばんきちょうなこくほう)
ないか。これは博物館の中でも一番貴重な国宝
(ばかりなんだぞ」まっかになっておこった)
ばかりなんだぞ」 真っ赤になって怒った
(けいじぶちょうはりょうてをふりあげて、いまにもあけちに)
刑事部長は両手を振り上げて、今にも明智に
(つかみかからんばかりのありさまです。「ははは。)
つかみかからんばかりの有り様です。「ハハハ。
(これがこくほうだって、あなたのめはどこに)
これが国宝だって、あなたの目はどこに
(ついているんです。よくみてください。いま、ぼくが)
付いているんです。よく見てください。今、ぼくが
(おりとったぶつぞうのきずぐちをよくしらべてください」)
折り取った仏像の傷口をよく調べてください」
(あけちのかくしんにみちたくちょうに、けいじぶちょうははっとした)
明智の確信にみちた口調に、刑事部長はハッとした
(ようにぶつぞうにちかづいて、そのきずぐちをながめ)
ように仏像に近づいて、その傷口をながめ
(まわしました。すると、どうでしょう。くびをもがれ、)
まわしました。 すると、どうでしょう。首をもがれ、
(てをおられたあとのきずぐちからは、がいけんのくろずんだ)
手を折られたあとの傷口からは、外見の黒ずんだ
(ふるめかしいいろあいとはにてもにつかない、)
古めかしい色合いとは似ても似つかない、
(まだなまなましいしろいきずぐちが、のぞいていたでは)
まだ生々しい白い傷口が、のぞいていたでは
(ありませんか。ならじだいのちょうこくに、こんなあたらしい)
ありませんか。奈良時代の彫刻に、こんな新しい
(ざいりょうがつかわれているはずはありません。「すると、)
材料が使われているはずはありません。「すると、
(きみは、このぶつぞうがにせものだというのか」)
きみは、この仏像が偽物だと言うのか」
(「そうですとも。あなたがたに、もうすこしびじゅつがんが)
「そうですとも。あなた方に、もう少し美術眼が
(ありさえすれば、こんなきずぐちをつくってみるまでも)
ありさえすれば、こんな傷口を作ってみるまでも
(なく、ひとめでにせものとわかったはずです。あたらしいきで)
なく、一目で偽物と分かったはずです。新しい木で
(もぞうひんをつくって、そとからとりょうをぬって、ふるいぶつぞうの)
模造品を作って、外から塗料を塗って、古い仏像の
(ようにみせかけたのですよ。もぞうひんせんもんのしょくにんの)
ように見せかけたのですよ。模造品専門の職人の
(てにかけさえすれば、わけなくできるのです」)
手にかけさえすれば、訳なく出来るのです」
(あけちはこともなげにせつめいしました。「きたこうじさん、)
明智は事もなげに説明しました。「北小路さん、
(これはいったい、どうしたことでしょう。こくりつはくぶつかんの)
これは一体、どうしたことでしょう。国立博物館の
(ちんれつひんが、まっかなにせものだなんて」けいしそうかんが)
陳列品が、真っ赤な偽物だなんて」 警視総監が
(ろうかんちょうをなじるようにいいました。「あきれました。)
老館長をなじるように言いました。「あきれました。
(あきれたことです」あけちにてをとられて、)
あきれたことです」 明智に手をとられて、
(ぼうぜんとたたずんでいたろうはかせが、)
ぼうぜんとたたずんでいた老博士が、
(ろうばいしながら、てれかくしのようにこたえました。)
ろうばいしながら、照れ隠しのように答えました。
(そこへ、さわぎをききつけたさんにんのかんいんが)
そこへ、騒ぎを聞きつけた三人の館員が
(あわただしくはいってきました。そのなかのひとりは、)
慌ただしく入ってきました。その中の一人は、
(こだいびじゅつかんていのせんもんかで、そのほうめんのかかりちょうを)
古代美術鑑定の専門家で、その方面の係長を
(つとめているひとでしたが、こわれたぶつぞうを)
務めている人でしたが、壊れた仏像を
(ひとめみると、さすがにたちまちきづいてさけびました。)
一目見ると、さすがにたちまち気づいて叫びました。
(「あ、これはみんなもぞうひんだ。しかし、へんですね。)
「あ、これはみんな模造品だ。しかし、変ですね。
(きのうまでは、たしかにほんものがここにおいてあった)
昨日までは、確かに本物がここに置いてあった
(のですよ。わたしはきのうのごご、このちんれつだなのなかへ)
のですよ。私は昨日の午後、この陳列棚の中へ
(はいったのですから、まちがいありません」「すると、)
入ったのですから、間違いありません」「すると、
(きのうまでほんものだったのが、きょうとつぜん、にせものと)
昨日まで本物だったのが、今日とつぜん、偽物と
(かわったというのだね。へんだな、いったいこれは)
換わったと言うのだね。変だな、一体これは
(どうしたというのだ」そうかんがきつねにつままれた)
どうしたというのだ」 総監がキツネにつままれた
(ようなひょうじょうで、いちどうをみまわしました。)
ような表情で、一同を見まわしました。
(「まだおわかりになりませんか。つまり、この)
「まだお分かりになりませんか。つまり、この
(はくぶつかんのなかは、すっかりからっぽになってしまった)
博物館の中は、すっかり空っぽになってしまった
(ということですよ」あけちはこういいながら、)
ということですよ」 明智はこう言いながら、
(むこうがわのべつのちんれつだなをゆびさしました。「な、)
向こう側の別の陳列棚を指さしました。「な、
(なんだって。すると、きみは」けいじぶちょうが、)
なんだって。すると、きみは」 刑事部長が、
(おもわずとんきょうなこえをたてました。かんいんはあけちの)
思わず頓狂な声をたてました。館員は明智の
(ことばのいみをさとったのか、つかつかとそのたなのまえに)
言葉の意味を悟ったのか、ツカツカとその棚の前に
(ちかづいて、がらすにかおをくっつけるようにして、なかに)
近づいて、ガラスに顔をくっつけるようにして、中に
(かけならべたくろずんだぶつがをぎょうししました。そして、)
掛け並べた黒ずんだ仏画を凝視しました。そして、
(たちまちさけびだすのでした。「あ、これも、これも、)
たちまち叫びだすのでした。「あ、これも、これも、
(あれも、かんちょう、かんちょう、このなかのえは、みんなにせもの)
あれも、館長、館長、この中の絵は、みんな偽物
(です。ひとつのこらずにせものです」「ほかのたなをしらべて)
です。一つ残らず偽物です」「他の棚を調べて
(くれたまえ。はやくはやく」けいじぶちょうのことばをまつ)
くれたまえ。早く早く」 刑事部長の言葉を待つ
(までもなくさんにんのかんいんは、くちぐちになにかわめき)
までもなく三人の館員は、口々に何かわめき
(ながら、きちがいのようにちんれつだなからちんれつだなへと、)
ながら、キチガイのように陳列棚から陳列棚へと、
(のぞきまわりました。「にせものです。めぼしい)
のぞきまわりました。「偽物です。めぼしい
(びじゅつひんはどれもこれも、すっかりもぞうひんです」)
美術品はどれもこれも、すっかり模造品です」
(それから、かれらはころがるようにかいかのちんれつじょうへ)
それから、彼らは転がるように階下の陳列場へ
(おりていきましたが、しばらくしてもとのにかいへ)
下りて行きましたが、しばらくして元の二階へ
(もどってきたときには、かんいんのにんずうはじゅうにんいじょうに)
戻って来た時には、館員の人数は十人以上に
(ふえていました。そして、だれもかれも)
増えていました。そして、だれもかれも
(まっかになって、ふんがいしているのです。「したもおなじ)
真っ赤になって、憤慨しているのです。「下も同じ
(です。のこっているのは、つまらないものだけです。)
です。残っているのは、つまらない物だけです。
(きちょうひんというきちょうひんは、すっかりにせものです。しかし)
貴重品という貴重品は、すっかり偽物です。しかし
(かんちょう、いまもみんなとはなしたのですが、じつにふしぎ)
館長、今もみんなと話したのですが、実に不思議
(というほかはありません。きのうまではたしかに、)
という他はありません。昨日までは確かに、
(もぞうひんなんてひとつもなかったのです。それぞれ)
模造品なんて一つも無かったのです。それぞれ
(うけもちのものが、そのてんはじしんをもってだんげんして)
受け持ちの者が、その点は自信を持って断言して
(います。それが、たったいちにちのうちに、だいしょうひゃくなんてん)
います。それが、たった一日の内に、大小百何点
(というびじゅつひんがまるでまほうのように、にせものに)
という美術品がまるで魔法のように、偽物に
(かわってしまったのです」かんいんは、くやしさに)
換わってしまったのです」 館員は、悔しさに
(じだんだをふむようにしてさけびました。「あけちくん、)
地団駄を踏むようにして叫びました。「明智君、
(われわれは、またしてもやつに、まんまとやられた)
我々は、またしても奴に、まんまとやられた
(らしいね」そうかんが、ちんつうなおももちでめいたんていを)
らしいね」 総監が、沈痛なおももちで名探偵を
(かえりみました。「そうです。はくぶつかんのものは、)
かえりみました。「そうです。博物館の物は、
(にじゅうめんそうにぬすまれたのです。それは、さいしょに)
二十面相に盗まれたのです。それは、最初に
(もうしあげたとおりです」おおぜいのなかで、あけちだけは)
申し上げた通りです」 大勢の中で、明智だけは
(すこしもとりみだしたところもなく、くちもとにびしょうさえ)
少しも取り乱したところもなく、口元に微笑さえ
(うかべているのでした。そしてあまりのだげきに、)
浮かべているのでした。 そして余りの打撃に、
(たっているちからもないかとみえるろうかんちょうを)
立っている力もないかと見える老館長を
(はげますように、しっかりそのてをにぎっていました。)
励ますように、しっかりその手を握っていました。