『怪人二十面相』江戸川乱歩46
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「たねあかし」)
「種明かし」
(「ですがわたしどもには、どうもわけが)
「ですが私どもには、どうも訳が
(わからないのです。あれだけのびじゅつひんを、たった)
分からないのです。あれだけの美術品を、たった
(いちにちのあいだににせものとすりかえるなんて、)
一日の間に偽物とすり替えるなんて、
(にんげんわざでできることではありません。まあ、)
人間わざで出来ることではありません。まあ、
(にせもののほうは、まえまえからびじゅつがくせいかなんかにばけて)
偽物のほうは、前々から美術学生かなんかに化けて
(かんらんにきて、えずをかいていけば、もぞうできない)
観覧に来て、絵図を書いていけば、模造出来ない
(ことはありませんけれど、それをどのようにして)
ことはありませんけれど、それをどのようにして
(いれかえたかがもんだいです。まったくわけが)
入れ替えたかが問題です。まったく訳が
(わかりません」かんいんは、まるでむずかしいすうがくの)
分かりません」 館員は、まるで難しい数学の
(もんだいにでもぶつかったように、しきりとこくびを)
問題にでもぶつかったように、しきりと小首を
(かたむけています。「きのうのゆうがたまでは)
かたむけています。「昨日の夕方までは
(たしかに、みんなほんものだったのだね」)
確かに、みんな本物だったのだね」
(そうかんがたずねると、かんいんたちはかくしんにみちた)
総監がたずねると、館員たちは確信に満ちた
(ようすで、「それはもう、けっしてまちがい)
様子で、「それはもう、決して間違い
(ございません」と、くちをそろえてこたえるのです。)
ございません」と、口をそろえて答えるのです。
(「するとおそらく、ゆうべのよなかあたりに、)
「すると恐らく、ゆうべの夜中あたりに、
(どうにかしてにじゅうめんそういちみのものがここへ)
どうにかして二十面相一味の者がここへ
(しのびこんだのかもしれんね」「いや、そんな)
忍び込んだのかもしれんね」「いや、そんな
(ことはできるはずがございません。おもてもんもうらもんも)
ことは出来るはずがございません。表門も裏門も
(へいのまわりも、おおぜいのおまわりさんがてつやで)
塀の周りも、大勢のお巡りさんが徹夜で
(みはっていてくださったのです。かんないにも、ゆうべは)
見張っていてくださったのです。館内にも、ゆうべは
(かんちょうさんとさんにんのしゅくちょくいんがずっとつめきっていた)
館長さんと三人の宿直員がずっと詰めきっていた
(のです。そのげんじゅうなみはりのなかをくぐって、)
のです。その厳重な見張りの中をくぐって、
(あのおびただしいびじゅつひんをどうやって)
あのおびただしい美術品をどうやって
(もちこんだり、はこびだしたりできるものですか。)
持ちこんだり、運び出したり出来るものですか。
(まったく、にんげんわざではできないことです」)
まったく、人間わざでは出来ないことです」
(かんいんはいいました。「わからん、じつにふしぎだ。)
館員は言いました。「分からん、実に不思議だ。
(しかしにじゅうめんそうのやつ、いがいとおとこらしくも)
しかし二十面相の奴、意外と男らしくも
(なかったですね。あらかじめにせものとおきかえて)
なかったですね。あらかじめ偽物と置き換えて
(おいて、さあ、このとおりぬすみましたというのじゃ、)
おいて、さあ、この通り盗みましたと言うのじゃ、
(とおかのごごよじなんてよこくは、まったくむいみ)
十日の午後四時なんて予告は、まったく無意味
(ですからね」けいじぶちょうはくやしまぎれに、)
ですからね」 刑事部長は悔しまぎれに、
(そんなことでもいってみないではいられません)
そんなことでも言ってみないではいられません
(でした。「ところが、けっしてむいみではなかった)
でした。「ところが、決して無意味ではなかった
(のです」あけちこごろうが、まるでにじゅうめんそうをべんごでも)
のです」 明智小五郎が、まるで二十面相を弁護でも
(するようにいいました。かれはろうかんちょうきたこうじはかせと、)
するように言いました。彼は老館長北小路博士と、
(さもなかよしのようにずっとさっきからてを)
さも仲良しのようにずっとさっきから手を
(にぎりあったままなのです。「ほう、むいみでは)
握りあったままなのです。「ほう、無意味では
(なかっただと。それはいったいどういうことなんだね」)
なかっただと。それは一体どういうことなんだね」
(けいしそうかんがふしぎそうにめいたんていのかおをみて、)
警視総監が不思議そうに名探偵の顔を見て、
(たずねました。「あれをごらんください」)
たずねました。「あれをご覧ください」
(するとあけちはまどにちかづいて、はくぶつかんのうらての)
すると明智は窓に近づいて、博物館の裏手の
(あきちをゆびさしました。「じゅうにがつとおかごろまで)
空き地を指さしました。「十二月十日頃まで
(またなければならなかったひみつというのは、)
待たなければならなかった秘密というのは、
(あれなのです」そのあきちには、はくぶつかんそうりつとうじ)
あれなのです」 その空き地には、博物館創立当時
(からの、ふるいにほんだてのかんいんしゅくちょくしつがたっていた)
からの、古い日本建ての館員宿直室が建っていた
(のですが、それがふようになって、すうじつまえから)
のですが、それが不用になって、数日前から
(かおくのとりこわしをはじめ、もうほとんどとりこわしも)
家屋の取り壊しを始め、もうほとんど取り壊しも
(おわって、ふるいざいもくややねがわらなどが)
終わって、古い材木や屋根瓦などが
(あっちこっちにつみあげてあるのです。)
あっちこっちに積み上げてあるのです。
(「ふるいいえをとりこわしたんだね。しかし、あれと)
「古い家を取り壊したんだね。しかし、あれと
(にじゅうめんそうのじけんと、いったいなんのかんけいがあるんです」)
二十面相の事件と、一体なんの関係があるんです」
(けいじぶちょうは、びっくりしたようにあけちをみました。)
刑事部長は、ビックリしたように明智を見ました。
(「どんなかんけいがあるのか、じきにわかりますよ。)
「どんな関係があるのか、時期に分かりますよ。
(どなたか、おてすうですが、なかにいるなかむらけいぶに、)
どなたか、お手数ですが、中に居る中村警部に、
(きょうひるごろうらもんのばんをしていたけいかんをつれて、)
きょう昼ごろ裏門の番をしていた警官を連れて、
(いそいでここへきてくれるように、おつたえください)
急いでここへ来てくれるように、お伝えください
(ませんか」あけちのさしずにかんいんのひとりが、)
ませんか」 明智の指図に館員の一人が、
(なにかわけがわからないながら、おおいそぎでかいかへ)
何か訳が分からないながら、大急ぎで階下へ
(おりていきましたが、まもなくなかむらそうさかかりちょうと)
下りて行きましたが、まもなく中村捜査係長と
(ひとりのけいかんをともなってかえってきました。「きみが、)
一人の警官を伴って帰ってきました。「きみが、
(ひるごろうらもんのところにいたかたですか」あけちがさっそく)
昼ごろ裏門の所に居た方ですか」 明智が早速
(たずねると、けいかんはそうかんのまえなものですから)
たずねると、警官は総監の前なものですから
(ひどくあらたまって、ちょくりつふどうのしせいで)
酷く改まって、直立不動の姿勢で
(「そうです」とこたえました。「では、きょうのしょうごから)
「そうです」と答えました。「では、今日の正午から
(いちじごろまでのあいだにとらっくがいちだい、うらもんを)
一時頃までの間にトラックが一台、裏門を
(でていくのをみたでしょう」「はあ、おたずねに)
出て行くのを見たでしょう」「はあ、おたずねに
(なっているのは、あのとりこわしたかおくの)
なっているのは、あの取り壊した家屋の
(ふるいざいもくをつんだとらっくのことでは)
古い材木を積んだトラックのことでは
(ありませんか」「そうです」「それならば、たしかに)
ありませんか」「そうです」「それならば、確かに
(とおりました」けいかんは、あのふるいざいもくが)
通りました」 警官は、あの古い材木が
(どうしたんです、といわないばかりのかおつきです。)
どうしたんです、と言わないばかりの顔つきです。
(「みなさん、おわかりになりましたか。これがぞくの)
「みなさん、お分かりになりましたか。これが賊の
(まほうのたねです。うわべはふるいざいもくだけのように)
魔法の種です。うわべは古い材木だけのように
(みせかけて、じつはとらっくに)
見せかけて、実はトラックに
(とうなんのびじゅつひんがぜんぶつみこんであったのですよ」)
盗難の美術品が全部積みこんであったのですよ」
(あけちはいちどうをみまわして、おどろくべきたねあかしを)
明智は一同を見まわして、驚くべき種明かしを
(しました。「すると、とりこわしたひとのなかにぞくのてしたが)
しました。「すると、取り壊した人の中に賊の手下が
(まじっていたというのですか」なかむらかかりちょうはめを)
混じっていたと言うのですか」 中村係長は目を
(ぱちぱちさせてききかえしました。「そうです。)
パチパチさせて聞き返しました。「そうです。
(まじっていたのではなくて、ぜんいんがぞくのてしただった)
混じっていたのではなくて、全員が賊の手下だった
(のかもしれません。にじゅうめんそうははやくからばんたんのじゅんびを)
のかもしれません。二十面相は早くから万端の準備を
(ととのえて、このぜっこうのきかいをまっていたのです。)
整えて、この絶好の機会を待っていたのです。
(かおくのとりこわしはたしか、じゅうにがついつかから)
家屋の取り壊しは確か、十二月五日から
(はじまったのでしたね。そのちゃくしゅきじつはさん、よんかげつも)
始まったのでしたね。その着手期日は三、四カ月も
(まえから、かんけいしゃにはわかっていたはずです。)
前から、関係者には分かっていたはずです。
(そうすれば、とおかごろはちょうどふるいざいもくをはこびだす)
そうすれば、十日頃はちょうど古い材木を運び出す
(ひにあたるじゃありませんか。よこくのじゅうにがつとおか)
日に当たるじゃありませんか。予告の十二月十日
(というひづけは、こういうところからわりだされた)
という日付は、こういうところから割りだされた
(のです。またごごよじというのは、ほんもののびじゅつひんが)
のです。また午後四時というのは、本物の美術品が
(ちゃんとぞくのそうくつにはこばれてしまって、もうにせもの)
ちゃんと賊の巣窟に運ばれてしまって、もう偽物
(だとわかってもさしつかえないというじかんを)
だと分かっても差し支えないという時間を
(いみしたものです」ああ、なんとよういしゅうとうなけいかく)
意味したものです」 ああ、なんと用意周到な計画
(だったのでしょう。にじゅうめんそうのまじゅつには)
だったのでしょう。二十面相の魔術には
(いつのときも、いっぱんじんのおもいもおよばないしかけが)
いつの時も、一般人の思いも及ばない仕掛けが
(ちゃんとよういしてあるのです。)
ちゃんと用意してあるのです。