半七捕物帳 弁天娘13
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問題文
(それでもはりのさきでついたのであるから、たといいちじのいたみをかんじても、)
それでも針のさきで突いたのであるから、たとい一時の痛みを感じても、
(それがおそろしいおおごとになろうとは、ほんにんもおこのもさらにおもいつかなかった。)
それが恐ろしい大事になろうとは、本人もお此も更に思い付かなかった。
(なにかちどめのくすりでもぬっておいて、そのばはそのままにすませたのであるが、)
なにか血止めの薬でも塗って置いて、その場はそのままに済ませたのであるが、
(あいにくそのはりのさきにはひとのしらないいっしゅのわるいどくがついていたらしく、)
あいにくその針のさきには人の知らない一種の悪い毒が付いていたらしく、
(みせへかえってからとくじろうのきずついたしたのさきがにわかにつよくいたみだして、)
店へ帰ってから徳次郎の傷ついた舌のさきが俄(にわ)かに強く痛み出して、
(ついにふうんなびしょうねんをしにいざなったのであろう。これはいしゃのげんあんからおしえられた)
遂に不運な美少年を死に誘ったのであろう。これは医者の玄庵から教えられた
(よびちしきに、はんしちじしんのすいだんをくわえたけつろんであった。そのくるしみのあいだに、)
予備知識に、半七自身の推断を加えた結論であった。その苦しみのあいだに、
(かれはまったくくちをきくことができないのでもなかったかもしれないが、)
彼はまったく口をきくことが出来ないのでもなかったかも知れないが、
(そこにひみつがひそんでいるために、かれはわざとくちをとじていたのかもしれない。)
そこに秘密がひそんでいるために、彼はわざと口を閉じていたのかも知れない。
(やどへさがって、いよいよさいごのひがちかづいたとじかくしたとき、あにやあねに)
宿へ下がって、いよいよ最期の日が近づいたと自覚した時、兄や嫂(あね)に
(いろいろといせまられて、かれはとうとう、そのひみつをもらしたのかもしれない。)
いろいろ問い迫られて、彼はとうとう、その秘密を洩らしたのかも知れない。
(おこのさんにころされたといういっくは、おそらくかれのいつわりなきこくはくであろう。)
お此さんに殺されたという一句は、おそらく彼のいつわりなき告白であろう。
(おこののへやのしょうじをきりばりさせたというのも、このじじつを)
お此の部屋の障子を切り貼りさせたというのも、この事実を
(うらがきするものである。したからさん、よだんめのこまといえば、)
裏書きするものである。下から三、四段目の小間といえば、
(あたかもかれがえんがわへはいあがってくびをもたげたあたりにそうとうする。)
あたかも彼が縁側へ這いあがって首をもたげたあたりに相当する。
(ことにそのよくじつ、ねこのいたずらといってはりかえさせたしょうじのやぶれは、)
殊にその翌日、猫のいたずらと云って貼り換えさせた障子のやぶれは、
(とくじろうというしろねこのいたずらのあとであろう。したのさきでぬらしてやぶったのを、)
徳次郎という白猫のいたずらの跡であろう。舌のさきで濡らして破ったのを、
(さらにおおきくひきさいてねこのつみになすりつけるぐらいのことは、)
更に大きく引き裂いて猫の罪になすり付けるぐらいのことは、
(にじゅうしちはちのおんなでなくても、おもいつきそうなちえである。こうして)
二十七八の女でなくても、思いつきそうな知恵である。こうして
(せんじつめてみると、とくじろうのあにがやましろやへねじこんでくるのも、)
煎じつめてみると、徳次郎の兄が山城屋へ捻じ込んで来るのも、
(まちがったことではないらしくおもわれる。もちろん、いっぽうはしゅじん、いっぽうはけらいで、)
間違ったことではないらしく思われる。勿論、一方は主人、一方は家来で、
(しかもそれがたあいもないじょうだんからおこったわざわいであるいじょう、)
しかもそれが他愛もない冗談から起ったわざわいである以上、
(たといおもてざたになったところで、おこのにおもいおとがめのないのはわかっているが、)
たとい表沙汰になったところで、お此に重いお咎めの無いのは判っているが、
(それからひいてとくじろうとのひみつもしぜんばくろすることになるかもしれない。)
それからひいて徳次郎との秘密も自然暴露することになるかも知れない。
(さなきだにしゅじゅのうわさをたてられているむすめが、いよいよきずものに)
さなきだに種々の噂をたてられている娘が、いよいよ瑕物(きずもの)に
(なってしまわなければならない。やましろやののれんにもきずがつかないともいえない。)
なってしまわなければならない。山城屋の暖簾にも疵が付かないとも云えない。
(またにんじょうとしても、とくじろうのいぞくにそのくらいのおくりものをしてやってもよい。)
また人情としても、徳次郎の遺族にそのくらいの贈り物をしてやってもよい。
(それがはんしちのいけんであった。)
それが半七の意見であった。
(りへえはいきをつめてきいていたが、やがてためいきまじりにいいだした。)
利兵衛は息をつめて聴いていたが、やがて溜息まじりに云い出した。
(「おやぶんさん。おそれいりました。そうおっしゃられると、わたくしのほうにも)
「親分さん。恐れ入りました。そう仰しゃられると、わたくしの方にも
(すこしおもいあたることがございます」)
少し思いあたることがございます」