『少年探偵団』江戸川乱歩11

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少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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関連タイピング

問題文

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(ふたりのせつめいをきくまでもなく、もうどくしゃしょくんには)

二人の説明を聞くまでもなく、もう読者諸君には

(おわかりでしょうが、いまいくんがしゅじんのいいつけで)

おわかりでしょうが、今井君が主人のいいつけで

(じどうしゃをよびにいき、きごころのしれたうんてんしゅをえらんで、)

自動車を呼びに行き、気心の知れた運転手を選んで、

(どうじょうしてしのざきけへひっかえすとちゅう、このようげんじの)

同乗して篠崎家へひっかえす途中、この養源寺の

(もんぜんにさしかかると、とつぜんふたりのふくめんをしたあやしい)

門前にさしかかると、突然二人の覆面をした怪しい

(おとこによびとめられ、ぴすとるをつきつけられて、)

男に呼び止められ、ピストルをつきつけられて、

(うむをいわせず、しばりあげられてしまったという)

有無を言わせず、しばりあげられてしまったという

(のです。そして、そのあやしいおとこのひとりが、いまいくんの)

のです。 そして、その怪しい男の一人が、今井君の

(ようふくをはぎとって、いまいくんにへんそうをして、ふたりは、)

洋服をはぎとって、今井君に変装をして、二人は、

(うばいとったじどうしゃにとびのると、そのまま)

奪い取った自動車にとびのると、そのまま

(うんてんをして、どこかへはしりさってしまったのだそう)

運転をして、どこかへ走り去ってしまったのだそう

(です。だんいんたちは、ふたりのおとなといっしょに、ただちに)

です。 団員たちは、二人の大人と一緒に、ただちに

(しのざきけにかけつけ、ことのしだいをほうこくしました。)

篠崎家に駆けつけ、事の次第を報告しました。

(それをおききになった、しのざきくんのおとうさまと)

それをお聞きになった、篠崎君のおとうさまと

(おかあさまは、もうまっさおになってしまいました。)

おかあさまは、もう真っ青になってしまいました。

(ふたりがこんなめにあわされたからには、さきほどの)

二人がこんな目にあわされたからには、さきほどの

(じどうしゃは、いんどじんがへんそうしてうんてんしていたに)

自動車は、インド人が変装して運転していたに

(ちがいない。すると、みどりちゃんもこばやしくんもいまごろは、)

違いない。すると、緑ちゃんも小林君も今頃は、

(かれらのそうくつにつれこまれて、どんなひどいめに)

彼らの巣窟につれこまれて、どんなひどい目に

(あっているかわからないのです。すぐさまけいさつへ)

あっているかわからないのです。 すぐさま警察へ

など

(でんわがかけられ、しょかつけいさつしょからはもちろん、けいしちょう)

電話がかけられ、所轄警察署からは勿論、警視庁

(からも、そうさかかりちょうそのたがじどうしゃをとばして)

からも、捜査係長そのたが自動車をとばして

(きました。しのざきけは、たちまちおおさわぎになりました。)

きました。篠崎家は、たちまち大騒ぎになりました。

(さいわい、じどうしゃのばんごうがわかっているので、ぜんとの)

さいわい、自動車の番号がわかっているので、全都の

(けいさつへ、そのばんごうのじどうしゃをさがすようにてはいがおこなわれ)

警察へ、その番号の自動車を探すように手配が行われ

(ましたが、しかしはんにんのほうでも、まさか)

ましたが、しかし犯人のほうでも、まさか

(あのじどうしゃを、そのままもんぜんにとめておくはずは)

あの自動車を、そのまま門前に止めておくはずは

(なく、おそらくどこかとおいところへうんてんしていって、)

なく、おそらくどこか遠い所へ運転していって、

(みちばたにすてさったにちがいありませんから、たとえ)

道端に捨て去ったに違いありませんから、たとえ

(じどうしゃがはっけんされたとしても、ぞくのそうくつをつきとめる)

自動車が発見されたとしても、賊の巣窟をつきとめる

(ことは、むずかしそうにおもわれます。いっぽう、しのざきはじめくんを)

ことは、難しそうに思われます。一方、篠崎始君を

(くわえた、しちにんのしょうねんたんていだんいんは、なるべくおとなたちの)

加えた、七人の少年探偵団員は、なるべく大人たちの

(じゃまをしないようにもんのまえにあつまり、いろいろとそうだんを)

邪魔をしないように門の前に集まり、色々と相談を

(していました。そして、なにもせずにながめている)

していました。そして、何もせずにながめている

(のではなく、けいさつとはべつにできるだけはたらいてみよう)

のではなく、警察とは別に出来るだけ働いてみよう

(ではないかということになり、しちにんがてわけをして、)

ではないかということになり、七人が手分けをして、

(じどうしゃのはしりさったほうがくをひろくあるきまわり、)

自動車の走り去った方角を広く歩きまわり、

(れいのききこみそうさをはじめることにきまりました。)

例の聞きこみ捜査を始めることに決まりました。

(ぞくのじどうしゃが、たまがわでんしゃのせんろをどちらへまがって)

賊の自動車が、玉川電車の線路をどちらへ曲がって

(いったかということだけは、わかっていましたので、)

いったかということだけは、わかっていましたので、

(しちにんはかたをならべて、そのほうがくへあるいていきましたが、)

七人は肩を並べて、その方角へ歩いて行きましたが、

(こうさてんにでくわすたびに、ふたりまたはさんにんずつのくみに)

交差点に出くわす度に、二人または三人ずつの組に

(なって、えだみちへはいっていき、たばこやのみせばんをして)

なって、枝道へ入って行き、タバコ屋の店番をして

(いるおばさんだとか、そのへんをあるいているひとなどに、)

いるおばさんだとか、その辺を歩いている人などに、

(こういうじどうしゃをみなかったかとたんねんにききこみ、)

こういう自動車を見なかったかと丹念に聞きこみ、

(なんのてがかりもないばあいは、またひきかえして)

なんの手がかりもない場合は、また引き返して

(つぎのこうさてんをさがすというふうに、なかなかそしきてきな)

次の交差点を探すというふうに、なかなか組織的な

(そうさほうほうをとって、いつまでもあきることなく、)

捜査方法をとって、いつまでもあきることなく、

(あるきまわるのでした。)

歩き回るのでした。

(「ちかしつ」)

「地下室」

(いっぽう、ちかしつになげこまれたこばやしくんとみどりちゃんは、)

一方、地下室に投げこまれた小林君と緑ちゃんは、

(まっくらなやみのなかで、しばらくはみうごきをするゆうきも)

真っ暗な闇の中で、しばらくは身動きをする勇気も

(なく、ぐったりとしていましたが、やがてめがくらやみに)

なく、グッタリとしていましたが、やがて目が暗闇に

(なれるにしたがって、うっすらとあたりのようすが)

なれるにしたがって、うっすらとあたりの様子が

(わかってきました。それはろくじょうほどの、ごくせまい)

わかってきました。それは六畳ほどの、ごくせまい

(こんくりーとのあなでした。ふつうのじゅうたくに、こんな)

コンクリートの穴でした。普通の住宅に、こんな

(みょうなちかしつがあるはずはありませんから、)

みょうな地下室があるはずはありませんから、

(いんどじんたちが、このようかんをかって、あくじをはたらく)

インド人たちが、この洋館を買って、悪事を働く

(ために、こっそりこんなものをつくらせたに)

ために、こっそりこんなものを作らせたに

(ちがいありません。かべやゆかのこんくりーとも)

違いありません。壁や床のコンクリートも

(きのせいか、まだかわいたばかりのようにあたらしく)

気のせいか、まだ乾いたばかりのように新しく

(かんじられます。こばやしくんは、やっとげんきをとりもどして、)

感じられます。 小林君は、やっと元気を取り戻して、

(やみのなかにたちあがっていましたが、ただじめじめした)

闇の中に立ち上がっていましたが、ただジメジメした

(こんくりーとのにおいがするだけで、どこにもすきまは)

コンクリートの匂いがするだけで、どこにも隙間は

(なく、にげだすみこみなど、まったくないことが)

なく、逃げだす見込みなど、まったくないことが

(わかりました。おもいだされるのは、いつかの)

わかりました。 思いだされるのは、いつかの

(とやまがはらのにじゅうめんそうのそうくつにのりこんでいって、)

戸山ヶ原の二十面相の巣窟に乗り込んで行って、

(ちかしつにとじこめられたときのようです。あのときは、)

地下室に閉じこめられた時のようです。あの時は、

(てんじょうにちょうどよいまどがありました。そのうえ、)

天井にちょうどよい窓がありました。その上、

(ななつどうぐや、はとのぴっぽちゃんをよういしていました)

七つ道具や、ハトのピッポちゃんを用意していました

(ので、うまくのがれることができたのですが、)

ので、うまくのがれることができたのですが、

(こんかいは、そんなまどもなく、まさかてきのそうくつに)

今回は、そんな窓もなく、まさか敵の巣窟に

(とらわれようとは、ゆめにもおもいませんでしたので、)

とらわれようとは、夢にも思いませんでしたので、

(ななつどうぐのよういさえありません。こんなとき、)

七つ道具の用意さえありません。こんなとき、

(まんねんひつがたのかいちゅうでんとうでもあったらとおもうのですが、)

万年筆型の懐中電灯でもあったらと思うのですが、

(それももっていませんでした。しかし、たとえ)

それも持っていませんでした。 しかし、たとえ

(にげだすみこみはなくともまんいちのばあい、からだのじゆう)

逃げ出す見込みはなくとも万一の場合、体の自由

(だけはかくほしておかねばなりません。)

だけは確保しておかねばなりません。

(そこでこばやしくんはみどりちゃんのそばへ、うしろむきに)

そこで小林君は緑ちゃんのそばへ、うしろ向きに

(よこたわり、すこしばかりうごくてさきをりようして、)

横たわり、少しばかり動く手先を利用して、

(みどりちゃんのなわのむすびめをほどこうとしました。)

緑ちゃんの縄の結び目をほどこうとしました。

(くらやみのなか、ふじゆうなてさきだけのしごとですから、)

暗闇の中、不自由な手先だけの仕事ですから、

(そのくろうはじんじょうではなく、ながいじかんをついやしました)

その苦労は尋常ではなく、長い時間を費やしました

(けれど、それでもやっともくてきをはたして、みどりちゃんの)

けれど、それでもやっと目的を果たして、緑ちゃんの

(りょうてをじゆうにすることができました。すると、たった)

両手を自由にすることができました。 すると、たった

(いつつのおさないこどもですが、ひじょうにかしこいみどりちゃんは、)

五つの幼い子どもですが、非常に賢い緑ちゃんは、

(すぐこばやしくんのきもちをさっして、まず、じぶんの)

すぐ小林君の気持ちを察して、まず、自分の

(さるぐつわをはずしてから、なきじゃくりながらも、)

さるぐつわを外してから、泣きじゃくりながらも、

(こばやしくんのうしろにまわり、てさぐりでそのなわのむすびめを)

小林君の後ろにまわり、手探りでその縄の結び目を

(といてくれるのでした。それにも、またながいこと)

といてくれるのでした。 それにも、また長いこと

(かかりましたけれどけっきょく、こばやしくんもじゆうのみと)

かかりましたけれど結局、小林君も自由の身と

(なり、さるぐつわをとってほっといきをつくことが)

なり、さるぐつわを取ってホッと息をつくことが

(できました。「みどりちゃん、ありがとう。かしこいねえ。)

できました。「緑ちゃん、ありがとう。賢いねえ。

(なくんじゃないよ。いまにね、けいさつのおじさんがたすけに)

泣くんじゃないよ。今にね、警察のおじさんが助けに

(きてくださるから、しんぱいしなくてもいいんだよ。)

来てくださるから、心配しなくてもいいんだよ。

(さあ、もっとこっちへいらっしゃい」こばやしくんは)

さあ、もっとこっちへいらっしゃい」 小林君は

(そういって、かわいいみどりちゃんをひきよせ、りょうてで)

そう言って、かわいい緑ちゃんを引き寄せ、両手で

(ぎゅっとだきしめてやるのでした。)

ギュッと抱きしめてやるのでした。

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