『少年探偵団』江戸川乱歩16

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少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文

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(こんども、それとおなじきせきがおこなわれたのです。)

今度も、それと同じ奇跡がおこなわれたのです。

(このふたりのいんどじんには、ぶつりがくのげんりが)

この二人のインド人には、物理学の原理が

(あてはまらないのかもしれません。)

当てはまらないのかもしれません。

(むろん、なかむらかかりちょうはただちに、このことをけいしちょうに)

無論、中村係長はただちに、このことを警視庁に

(ほうこくし、とうきょうぜんとのけいさつしょ、はしゅつじょにいんどじんたいほの)

報告し、東京全都の警察署、派出所にインド人逮捕の

(てはいをしましたが、ふつかたってもあやしいいんどじんは)

手配をしましたが、二日たっても怪しいインド人は

(どこにもすがたをあらわしませんでした。やつらはすがたをけした)

どこにも姿を現しませんでした。やつらは姿を消した

(ばかりではなく、ひこうのじゅつかなんかでうみをわたって、)

ばかりではなく、飛行の術かなんかで海を渡って、

(とっくにほんごくへかえってしまったのでは)

とっくに本国へ帰ってしまったのでは

(ないでしょうか。)

ないでしょうか。

(「よっつのなぞ」)

「四つのナゾ」

(せたがやのようかんでいんどじんがきえたよくよくじつ、たんていじけんの)

世田谷の洋館でインド人が消えた翌々日、探偵事件の

(ためにとうほくちほうへしゅっちょうしていたあけちめいたんていは、)

ために東北地方へ出張していた明智名探偵は、

(うまいぐあいにじけんをかいけつして、とうきょうのじむしょへかえって)

うまい具合に事件を解決して、東京の事務所へ帰って

(きました。かえるとすぐ、たんていはたびのつかれをやすめよう)

来ました。 帰るとすぐ、探偵は旅の疲れを休めよう

(ともしないで、しょさいにじょしゅのこばやししょうねんをよんで、)

ともしないで、書斎に助手の小林少年を呼んで、

(るすちゅうのほうこくをきくのでした。こばやしくんは、すっかり)

留守中の報告を聞くのでした。小林君は、すっかり

(げんきになっていました。きけば、みどりちゃんもよくじつから)

元気になっていました。聞けば、緑ちゃんも翌日から

(ねつがさがって、おとうさまとおかあさまのそばで、)

熱が下がって、おとうさまとおかあさまのそばで、

(きげんよくあそんでいるとのことです。こばやしくんは)

機嫌よく遊んでいるとのことです。 小林君は

など

(あけちせんせいのかおをみると、まちかねていたように、)

明智先生の顔を見ると、待ちかねていたように、

(あやしいいんどじんのじけんのことを、くわしくほうこく)

怪しいインド人の事件のことを、くわしく報告

(しました。「せんせい、ぼくにはなにがなんだかさっぱり)

しました。「先生、ぼくには何がなんだかさっぱり

(わからないのです。でも、みんなのいうように、)

わからないのです。でも、みんなの言うように、

(あのいんどじんがまほうをつかったなんてしんじられません。)

あのインド人が魔法を使ったなんて信じられません。

(なにかしら、ぼくたちのちえではおよばないような)

何かしら、ぼくたちの知恵では及ばないような

(ひみつがあるのではないでしょうか。せんせい、おしえて)

秘密があるのではないでしょうか。先生、教えて

(ください。ぼくは、はやくせんせいのおかんがえがききたくて)

ください。ぼくは、早く先生のお考えが聞きたくて

(うずうずしていたんですよ」こばやしくんは、あけちせんせいを)

ウズウズしていたんですよ」 小林君は、明智先生を

(まるでぜんのうのかみさまかなんかのようにおもっている)

まるで全能の神さまかなんかのように思っている

(のです。このよのなかに、せんせいにわからないこと)

のです。この世の中に、先生にわからないこと

(なんて、ありえないとしんじているのです。「うん、)

なんて、ありえないと信じているのです。「うん、

(ぼくもたびさきでしんぶんをよんで、いくらかかんがえていた)

ぼくも旅先で新聞を読んで、いくらか考えていた

(こともあるがね。そう、きみのようにさいそくしても、)

こともあるがね。そう、きみのように催促しても、

(すぐにへんじができるものではないよ」あけちたんていは)

すぐに返事が出来るものではないよ」 明智探偵は

(わらいながら、あんらくいすにぐっともたれこんで、)

笑いながら、安楽イスにグッともたれこんで、

(ながいあしをくみあわせ、すきなえじぷとたばこをふかし)

長い足を組み合わせ、好きなエジプトタバコをふかし

(はじめました。これはあけちたんていがふかくものをかんがえる)

始めました。 これは明智探偵が深くものを考える

(ときのくせなのです。いっぽん、にほん、さんぼん、たばこは)

時のクセなのです。一本、二本、三本、タバコは

(みるみるはいになって、むらさきいろのけむりとえじぷとたばこの)

みるみる灰になって、紫色の煙とエジプトタバコの

(かおりがへやいっぱいにただよいました。「ああ、そうだ、)

香りが部屋一杯にただよいました。「ああ、そうだ、

(きみ、ちょっとここへきたまえ」とつぜん、たんていは)

きみ、ちょっとここへ来たまえ」 突然、探偵は

(いすからたちあがって、へやのいっぽうのかべにはりつけて)

イスから立ち上がって、部屋の一方の壁に貼り付けて

(あるとうきょうちずのところへいき、こばやししょうねんをてまねき)

ある東京地図の所へ行き、小林少年を手招き

(しました。「ようげんじというのは、どのへんにあるん)

しました。「養源寺というのは、どの辺にあるん

(だね」こばやしくんはちずにちかづいて、せいかくにそのばしょを)

だね」 小林君は地図に近づいて、正確にその場所を

(さししめしました。「それから、しのざきけはどこだい」)

さし示しました。「それから、篠崎家はどこだい」

(こばやしくんは、またそのばしょをしめしました。「やっぱり、)

小林君は、またその場所を示しました。「やっぱり、

(ぼくのそうぞうしたとおりだ。こばやしくん、これがどういう)

ぼくの想像した通りだ。小林君、これがどういう

(いみかわかるかね。ほら、ようげんじとしのざきけは、)

意味かわかるかね。ほら、養源寺と篠崎家は、

(まちのなもちがうし、ひどくはなれているようにかんじ)

町の名も違うし、ひどく離れているように感じ

(られるが、うらではくっついているんだよ。このちず)

られるが、裏ではくっついているんだよ。この地図

(では、あいだにに、さんげん、いえがあるかも)

では、あいだに二、三軒、家があるかも

(しれないが、じゅうめーとるはへだたっていないよ」たんていは、)

しれないが、十メートルは隔たっていないよ」 探偵は、

(なにかいみありげにびしょうして、こばやしくんをながめました。)

何か意味ありげに微笑して、小林君をながめました。

(「ああ、そうですね。ぼくもうっかりしていました。)

「ああ、そうですね。ぼくもうっかりしていました。

(おもてがわはまるでべつのまちなものですから、ずっとはなれて)

表側はまるで別の町なものですから、ずっと離れて

(いるようにおもっていたのです。でもせんせい、それがなにを)

いるように思っていたのです。でも先生、それが何を

(いみしているのか、ぼくにはよくわかりません」)

意味しているのか、ぼくにはよくわかりません」

(「なんでもないことだよ。まあかんがえてごらん。)

「なんでもないことだよ。まあ考えてごらん。

(しゅくだいにしておこう」たんていはそういいながら、)

宿題にしておこう」 探偵はそう言いながら、

(もとのあんらくいすにもどって、またふかぶかともたれこみ)

元の安楽イスに戻って、また深々ともたれこみ

(ました。「ところでこばやしくん、このじけんにはじょうしきでは)

ました。「ところで小林君、この事件には常識では

(せつめいのできないようなてんがいろいろあるね。それをひとつ)

説明の出来ないような点が色々あるね。それを一つ

(かぞえあげてみようじゃないか。これがたんていがくのだいいち)

数え上げてみようじゃないか。これが探偵学の第一

(なんだよ。まずじけんのなかからきみょうなてんをひろいだして、)

なんだよ。まず事件の中から奇妙な点を拾いだして、

(それにいろいろなかいしゃくをあたえてみるというのがね。)

それに色々な解釈を与えてみるというのがね。

(このじけんでは、まずだいいちにくろいまものが、とうきょうじゅうの)

この事件では、まず第一に黒い魔物が、東京中の

(あちこちにすがたをあらわして、みんなをこわがらせたね。)

あちこちに姿を現して、みんなを怖がらせたね。

(はんにんはいったい、なんのひつようがあって、あんなばかな)

犯人は一体、なんの必要があって、あんな馬鹿な

(まねをしたんだろう。こんかいのはんざいのもくてきは、しのざきけの)

真似をしたんだろう。 今回の犯罪の目的は、篠崎家の

(ほうせきをぬすみだし、みどりちゃんというおんなのこをゆうかいする)

宝石を盗み出し、緑ちゃんという女の子を誘拐する

(ことであって、あんなふうにくろいまものがあちこちに)

ことであって、あんな風に黒い魔物があちこちに

(あらわれてはしんぶんにかかれて、わたしは、こんなまっくろなじんしゅ)

現れては新聞に書かれて、私は、こんな真っ黒な人種

(ですよ、ごようじんなさいと、まるであいてにけいかいさせる)

ですよ、ご用心なさいと、まるで相手に警戒させる

(ようなものじゃないか。それから、まだあるよ。)

ようなものじゃないか。 それから、まだあるよ。

(くろいまものはだんだん、しのざきけにちかづいてきて、そこでも、)

黒い魔物は段々、篠崎家に近付いてきて、そこでも、

(いろいろとみせびらかすようなまねをしている。そして、)

色々と見せびらかすような真似をしている。そして、

(ひとちがいをして、ふたりも、よそのおんなのこをゆうかいしかけて)

人違いをして、二人も、よその女の子を誘拐しかけて

(いる。ほうせきがしのざきけにあるということを、ちゃんと)

いる。 宝石が篠崎家にあるということを、ちゃんと

(みとおして、わざわざいんどからでかけてくるほどの)

見通して、わざわざインドから出かけてくるほどの

(よういしゅうとうなはんにんに、そんなてぬかりがあるもの)

用意周到な犯人に、そんな手ぬかりがあるもの

(だろうか。みどりちゃんというおんなのこが、どんなかおを)

だろうか。緑ちゃんという女の子が、どんな顔を

(しているかくらい、まえもってしらべがついていそうな)

しているかくらい、前もって調べがついていそうな

(ものじゃないか。こばやしくん、きみは、こういうような)

ものじゃないか。 小林君、きみは、こういうような

(てんが、なんとなくへんだとはおもわないかね。つじつまが)

点が、なんとなく変だとは思わないかね。つじつまが

(あわないとはおもわないかね」「いえ、ぼくはいままで)

合わないとは思わないかね」「いえ、ぼくは今まで

(そんなことをすこしもかんがえていませんでしたけれど、)

そんなことを少しも考えていませんでしたけれど、

(ほんとうにへんですね。あいつは、わたしはこういういんどじん)

本当に変ですね。あいつは、私はこういうインド人

(です。こういうひとさらいをしますといって、じぶんを)

です。こういう人さらいをしますと言って、自分を

(せんでんしていたようなものですね」こばやしくんははじめて)

宣伝していたようなものですね」 小林君は初めて

(そこへきがついて、びっくりしたようなかおをして、)

そこへ気がついて、ビックリしたような顔をして、

(せんせいをみあげました。「そうだろう。はんにんはふつう)

先生を見上げました。「そうだろう。犯人は普通

(ならば、できるだけかくすべきことがらを、これみよがしに)

ならば、出来るだけ隠すべき事柄を、これ見よがしに

(せんでんしているじゃないか。こばやしくん、このいみがわかる)

宣伝しているじゃないか。小林君、この意味がわかる

(かね」たんていはそういって、みょうなびしょうをうかべ)

かね」 探偵はそう言って、みょうな微笑を浮かべ

(ましたが、こばやしくんにはせんせいのかんがえていることが、)

ましたが、小林君には先生の考えていることが、

(すこしもわからないものですから、そのびしょうが、)

少しもわからないものですから、その微笑が、

(なんとなくうすきみわるくさえかんじられました。)

なんとなく薄気味悪くさえ感じられました。

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