『少年探偵団』江戸川乱歩28
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(いちやになんぜんまんえんもするびじゅつひんをぬすんだこともある)
一夜に何千万円もする美術品を盗んだこともある
(にじゅうめんそうのことですから、おうごんのとうそのものは、)
二十面相のことですから、黄金の塔そのものは、
(さほどほしいともおもわなかったでしょうが、)
さほど欲しいとも思わなかったでしょうが、
(それよりもうわさにたかい、げんじゅうなぼうびそうちにひきつけ)
それよりもウワサに高い、厳重な防備装置にひきつけ
(られたのです。ひとがおそれるひみつのしかけを)
られたのです。人がおそれる秘密の仕掛けを
(やぶって、まんまととうをぬすみだし、せけんをあっと)
やぶって、まんまと塔を盗みだし、世間をアッと
(いわせたいにちがいありません。「どうだ、)
いわせたいに違いありません。「どうだ、
(おれには、それほどのうでまえがあるんだぞ」と、)
おれには、それほどの腕前があるんだぞ」 と、
(いばってみせたいのです。けいさつやあけちめいたんていを)
いばってみせたいのです。警察や明智名探偵を
(だしぬいて、「ざまあみろ」とわらいたいのです。)
出しぬいて、「ざまあみろ」と笑いたいのです。
(にじゅうめんそうほどのとうぞくになりますと、こんなまけたく)
二十面相ほどの盗賊になりますと、こんな負けたく
(ないという、きもちがあるのです。めいたんていの)
ないという、気持ちがあるのです。 名探偵の
(あけちこごろうは、そのゆうかんしんぶんのきじをよみました。)
明智小五郎は、その夕刊新聞の記事を読みました。
(よくじつにはおおとりとけいてんのしゅじんが、わざわざたんていの)
翌日には大鳥時計店の主人が、わざわざ探偵の
(じむしょをたずねてきて、おうごんとうのほごをいらいして)
事務所をたずねてきて、黄金塔の保護を依頼して
(かえりました。そしてめいたんていはむろん、このじけんを)
帰りました。そして名探偵は無論、この事件を
(ひきうけたのです。まえのじけんで、ききゅうのとりっくに)
引き受けたのです。 前の事件で、気球のトリックに
(かかったのは、なかむらそうさかかりちょうをふくむ、けいかんたいのひとたち)
かかったのは、中村捜査係長を含む、警官隊の人たち
(でしたが、あけちにもせきにんがないとはいえません。)
でしたが、明智にも責任がないとはいえません。
(ぞくにだしぬかれたうらみは、ひといちばいかんじているのです。)
賊に出しぬかれた恨みは、人一倍感じているのです。
(こんどこそみごとににじゅうめんそうをとらえて、おめいをへんじょう)
今度こそ見事に二十面相をとらえて、汚名を返上
(しなければなりません。めいたんていのまゆには、ふかいけついの)
しなければなりません。名探偵の眉には、深い決意の
(いろがただよっていました。ああ、なんだかしんぱいでは)
色がただよっていました。 ああ、なんだか心配では
(ありませんか。かいとうにじゅうめんそうは、どんなまじゅつで、)
ありませんか。怪盗二十面相は、どんな魔術で、
(おうごんとうをぬすみだそうというのでしょう。めいたんていは、)
黄金塔を盗み出そうというのでしょう。名探偵は、
(はたしてそれをふせぐことができるでしょうか。)
果たしてそれをふせぐことが出来るでしょうか。
(たんていとかいじんのいっきうちのちえくらべです。あくにんはあくにんの)
探偵と怪人の一騎打ちの知恵比べです。悪人は悪人の
(なにかけて、めいたんていはめいたんていのなにかけて、)
名にかけて、名探偵は名探偵の名にかけて、
(おたがいにこんどこそまけてはならぬしんけんしょうぶです。)
お互いに今度こそ負けてはならぬ真剣勝負です。
(「あやしいしょうじょ」)
「怪しい少女」
(たんていとかいじんのいっきうちになるとしった、じょしゅの)
探偵と怪人の一騎打ちになると知った、助手の
(こばやししょうねんは、きがきではありません。どうか)
小林少年は、気が気ではありません。どうか
(こんどこそ、せんせいのてでにじゅうめんそうがとらえられます)
今度こそ、先生の手で二十面相がとらえられます
(ようにと、かみさまにいのらんばかりです。「せんせい、)
ようにと、神さまに祈らんばかりです。「先生、
(なにかぼくにできることがありましたら、やらせて)
何かぼくに出来ることがありましたら、やらせて
(ください。ぼく、こんどこそいのちがけでやります」)
ください。ぼく、今度こそ命がけでやります」
(おおとりしがたずねてきたよくじつ、こばやしくんはあけちたんていの)
大鳥氏がたずねてきた翌日、小林君は明智探偵の
(しょさいへはいっていって、せいしんせいいおねがいしました。)
書斎へ入って行って、誠心誠意お願いしました。
(「ありがとう。ぼくは、きみのようなじょしゅをもって)
「ありがとう。ぼくは、きみのような助手を持って
(しあわせだよ」あけちはいすからたちあがって、)
幸せだよ」 明智はイスから立ちあがって、
(かんしゃしきれないように、こばやしくんのかたにてをあて)
感謝しきれないように、小林君の肩に手をあて
(ました。「じつは、きみにひとつたのみたいことがあるん)
ました。「じつは、きみに一つ頼みたいことがあるん
(だよ。なかなかのじゅうだいにんむだ。きみでなければ)
だよ。なかなかの重大任務だ。きみでなければ
(できないしごとなんだ」「ぜひ、やらせてください。)
出来ない仕事なんだ」「ぜひ、やらせてください。
(ぼく、せんせいのおっしゃることなら、なんだって)
ぼく、先生のおっしゃることなら、なんだって
(やります。いったい、それはどんなしごとなんです」)
やります。一体、それはどんな仕事なんです」
(こばやしくんはあまりのうれしさに、かわいいほほをあからめて)
小林君はあまりの嬉しさに、可愛いホホを赤らめて
(こたえました。「それはね」あけちたんていは、こばやしくんのみみの)
答えました。「それはね」 明智探偵は、小林君の耳の
(そばへくちをもっていって、なにごとかをささやきました。)
そばへ口を持っていって、何事かをささやきました。
(「え、ぼくがですか。そんなことできるでしょうか」)
「え、ぼくがですか。そんなこと出来るでしょうか」
(「できるよ。きみならだいじょうぶ。すべてのよういは、)
「出来るよ。きみなら大丈夫。すべての用意は、
(おばさんがしてくれるはずだからね。うまくやって)
おばさんがしてくれるはずだからね。うまくやって
(くれたまえ」おばさんというのは、あけちたんていのわかい)
くれたまえ」 おばさんというのは、明智探偵の若い
(おくさんのふみよさんのことです。「ええ、ぼく、やって)
奥さんの文代さんのことです。「ええ、ぼく、やって
(みます。かならずせんせいにほめられるように、やります」)
みます。必ず先生に褒められるように、やります」
(こばやしくんはけっしんのいろをうかべて、きっぱりとこたえ)
小林君は決心の色を浮かべて、キッパリと答え
(ました。めいたんていはなにをめいじたのでしょう。こばやしくんが)
ました。 名探偵は何を命じたのでしょう。小林君が
(「ぼくにできるでしょうか」と、たずねかえしたほど)
「ぼくに出来るでしょうか」と、たずね返したほど
(ですから、よほどむずかしいしごとにちがいありません。)
ですから、よほど難しい仕事に違いありません。
(いったい、それはどんなしごとなのでしょうか。どくしゃしょくん、)
一体、それはどんな仕事なのでしょうか。読者諸君、
(ひとつそうぞうしてごらんなさい。それはさておき、かいとうの)
一つ想像してごらんなさい。 それはさておき、怪盗の
(よこくをうけたおおとりとけいてんは、じんじょうではありません。)
予告を受けた大鳥時計店は、尋常ではありません。
(じゅうめいのてんいんがこうたいで、ねずのばんをはじめるやら、けいさつの)
十名の店員が交代で、寝ずの番を始めるやら、警察の
(ほごをあおいで、おもてとうらにしふくけいじのみはりをつけて)
保護をあおいで、表と裏に私服刑事の見張りをつけて
(もらうやら、そのうえみんかんのあけちたんていにまで)
もらうやら、そのうえ民間の明智探偵にまで
(いらいして、もうこれいじょう、てがないというほどの)
依頼して、もうこれ以上、手がないというほどの
(けいかいぶりです。しゅじんのおおとりせいぞうしはかんがえました。)
警戒ぶりです。 主人の大鳥清蔵氏は考えました。
(「おくざしきにはれいのさんだんがまえのおそろしいかんもんが)
「奥座敷には例の三段構えのおそろしい関門が
(あるのだし、そのうえてんいんやけいさつ、しりつたんていもいる。)
あるのだし、そのうえ店員や警察、私立探偵も居る。
(これほどのけいかいなのだから、いくらにじゅうめんそうが)
これほどの警戒なのだから、いくら二十面相が
(まほうつかいだとしても、こんどこそはてもあしもでないに)
魔法使いだとしても、今度こそは手も足も出ないに
(きまっている。わしのみせは、まるでなんこうふらくのようさい)
決まっている。わしの店は、まるで難攻不落の要塞
(のようなもんだからな」おおとりしは、それをかんがえると、)
のようなもんだからな」 大鳥氏は、それを考えると、
(いささかとくいげでした。「にじゅうめんそうめ、やれるもの)
いささか得意気でした。「二十面相め、やれるもの
(なら、やってみろ」と、いわないばかりのいきおい)
なら、やってみろ」と、いわないばかりの勢い
(でした。しかし、ひがたつにつれて、このいきおいは、)
でした。 しかし、日がたつにつれて、この勢いは、
(みじめにもくずれていきました。あんしんがふあんへ、ふあんが)
みじめにも崩れていきました。安心が不安へ、不安が
(きょうふへとなり、おおとりしは、もういてもたっても)
恐怖へとなり、大鳥氏は、もう居てもたっても
(いられなくなり、いらいらしはじめたのです。)
いられなくなり、イライラし始めたのです。
(こうなったのは、にじゅうめんそうがまいにちまいにち、ふしぎな)
こうなったのは、二十面相が毎日毎日、不思議な
(しゅだんによって、はんざいのよこくをくりかえしたからです。)
手段によって、犯罪の予告を繰り返したからです。
(ゆうかんしんぶんによこくのきじがはっぴょうされたのは、じゅうろくにちの)
夕刊新聞に予告の記事が発表されたのは、十六日の
(ことで、もんだいのにじゅうごにちまではここのかかんのよゆうが)
ことで、問題の二十五日までは九日間の余裕が
(あったのですが、にじゅうめんそうは、あのしんぶんきじだけでは)
あったのですが、二十面相は、あの新聞記事だけでは
(まんぞくしないで、それいらいというもの、まいにちまいにち、)
満足しないで、それ以来というもの、毎日毎日、
(「さあ、もうあとようかしかないぞ」「さあ、あとなのか)
「さあ、もうあと八日しかないぞ」「さあ、あと七日
(しかないぞ」とおおとりしへ、のこりのにっすうをしらせてくる)
しかないぞ」と大鳥氏へ、残りの日数を知らせてくる
(のです。さいしょは、おおきなじでただ「はち」とかいた)
のです。 最初は、大きな字でただ「八」と書いた
(はがきがはいたつされました。そのつぎのひは、)
ハガキが配達されました。その次の日は、
(こうしゅうでんわからでんわがかかってきて、しゅじんがでんわぐちに)
公衆電話から電話がかかってきて、主人が電話口に
(でますと、せんぽうはみょうなかすれごえで、「あとなのか)
出ますと、先方はみょうなかすれ声で、「あと七日
(だぜ」といったまま、ぷっつりとでんわをきって)
だぜ」と言ったまま、プッツリと電話を切って
(しまいました。そのよくあさのこと、みせのとをあけていた)
しまいました。その翌朝のこと、店の戸をあけていた
(てんいんたちが、なにかおおさわぎをしていますので、いって)
店員たちが、何か大騒ぎをしていますので、行って
(みますと、しょうめんにあるしょーうぃんどーのまんなかに、)
みますと、正面にあるショーウィンドーの真ん中に、
(しろいすみで、おおきな「ろく」のじがかきなぐってあったでは)
白い墨で、大きな「六」の字が書き殴ってあったでは
(ありませんか。ぞくのよこくは、さいしょがはがき、)
ありませんか。 賊の予告は、最初がハガキ、
(つぎにでんわ、そのつぎにはしょーうぃんどーと、)
次に電話、その次にはショーウィンドーと、
(いちにちごとにおおとりとけいてんへちかづいてきました。つぎには、)
一日ごとに大鳥時計店へ近付いてきました。次には、
(みせのなかにでもはいってくるのではないでしょうか。)
店の中にでも入って来るのではないでしょうか。