『少年探偵団』江戸川乱歩29
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(しょーうぃんどーに「ろく」がかかれた、よくあさのこと)
ショーウィンドーに「六」が書かれた、翌朝のこと
(です。かおをあらって、みせへでてきたてんいんたちは、あっと)
です。顔を洗って、店へ出てきた店員たちは、アッと
(おどろいてしまいました。みせにはだいしょうさまざまのとけいが、)
驚いてしまいました。店には大小様々の時計が、
(あるいははしらやたなにちんれつしてあるのですが、ゆうべまで)
あるいは柱や棚に陳列してあるのですが、ゆうべまで
(かちかちとうごいていたそれらのとけいがぜんぶとまり、)
カチカチと動いていたそれらの時計が全部止まり、
(そのうえもうしあわせたかのように、たんしんがごじを)
そのうえ申し合わせたかのように、短針が五時を
(しめしているのです。かいちゅうどけいとうでどけいはれいがい)
示しているのです。 懐中時計と腕時計は例外
(でしたが、めざましどけいやはとどけい、おるごーる)
でしたが、目覚まし時計やハト時計、オルゴール
(いりのだいりせきのおきどけいも、しょうめんにあるにめーとる)
入りの大理石の置き時計も、正面にある二メートル
(ほどのおおきなふりこどけいも、だいしょうむすうのとけいのはりが、)
ほどの大きな振り子時計も、大小無数の時計の針が、
(いっせいにごじをさしているありさまは、なにかしらぶきみで、)
一斉に五時をさしている有り様は、何かしら不気味で、
(ものすごいじょうたいでした。いうまでもなく、「もう、)
ものすごい状態でした。 いうまでもなく、「もう、
(あといつかしかないぞ」という、にじゅうめんそうのよこくです。)
あと五日しかないぞ」という、二十面相の予告です。
(かいとうは、とうとうてんないまでしのびこんできたのです。)
怪盗は、とうとう店内まで忍び込んで来たのです。
(それにしても、げんじゅうなとじまりがしてあるうえ、おもてとうら)
それにしても、厳重な戸締まりがしてある上、表と裏
(にはしふくけいじが、ねずのばんでみはっているなか、ぞくは)
には私服刑事が、寝ずの番で見張っている中、賊は
(どうやってはいりこむことができたのでしょう。)
どうやって入り込むことが出来たのでしょう。
(くわえて、はいりこんだばかりか、なんじゅうというとけいを、)
加えて、入り込んだばかりか、何十という時計を、
(だれにもさとられないように、どうやってとめる)
だれにも悟られないように、どうやって止める
(ことができたのでしょう。てんいんたちはひとりひとり、)
ことが出来たのでしょう。 店員たちは一人一人、
(げんじゅうなとりしらべをうけましたが、べつにあやしいものは)
厳重な取り調べを受けましたが、別に怪しい者は
(いません。そうすると、にじゅうめんそうはゆうれいのように、)
いません。そうすると、二十面相は幽霊のように、
(しめきったあまどのすきまからはいってきたのでしょうか。)
しめ切った雨戸の隙間から入って来たのでしょうか。
(そして、だれのめにもふれず、ふわふわしたきたいの)
そして、だれの目にもふれず、フワフワした気体の
(ようなものになって、ひとつひとつのとけいをとめて)
ようなものになって、一つ一つの時計を止めて
(まわったのでしょうか。しかも、うすきみわるいかいとうの)
まわったのでしょうか。 しかも、薄気味悪い怪盗の
(よこくは、それでおわりではありません。このつぎには、)
予告は、それで終わりではありません。この次には、
(さらにいっそうおくぶかく、ぞくのまのてがのびてきました。)
さらに一層奥深く、賊の魔の手が伸びてきました。
(よくじつのそうちょう、おおとりしは、したばたらきをしているこむすめの)
翌日の早朝、大鳥氏は、下働きをしている小娘の
(けたたましいさけびごえにより、めをさましました。)
けたたましい叫び声により、目を覚ましました。
(そのこえは、おうごんとうがあんちしてあるへやのほうがくから、)
その声は、黄金塔が安置してある部屋の方角から、
(きこえてきましたので、おおとりしははっとして)
聞こえてきましたので、大鳥氏はハッとして
(とびおきると、そのへんにいあわせたてんいんとともに、)
飛び起きると、その辺に居合わせた店員と共に、
(いきをきらしながらかけつけました。じゅうじょうのざしきのまえ)
息を切らしながら駆けつけました。 十畳の座敷の前
(までいってみますと、そこに、ついよっかばかりまえに)
まで行ってみますと、そこに、つい四日ばかり前に
(やとった、じゅうご、ろくさいのかわいらしいおてつだいさんが、)
雇った、十五、六歳の可愛らしいお手伝いさんが、
(おどろきのあまりくちもきけないようすで、しきりとざしきの)
驚きのあまり口もきけない様子で、しきりと座敷の
(いたどをゆびさしていました。いたどのひょうめんには、)
板戸を指さしていました。 板戸の表面には、
(またしてもしろいすみで、さんじゅっせんちしほうほどの、おおきな)
またしても白い墨で、三十センチ四方ほどの、大きな
(「よん」というじがかいてあるではありませんか。)
「四」という字が書いてあるではありませんか。
(ああ、にじゅうめんそうは、とうとう、このおくまったへやまで)
ああ、二十面相は、とうとう、この奥まった部屋まで
(ふみこんできたのです。おおとりしはそれをみますと、)
踏み込んで来たのです。 大鳥氏はそれを見ますと、
(もうびっくりしてしまって、もしやおうごんとうがぬすまれた)
もうビックリしてしまって、もしや黄金塔が盗まれた
(のではないかと、いそいでかぎをとりだしていたどを)
のではないかと、急いでカギを取り出して板戸を
(あけ、とこのまをみましたが、おうごんとうはいじょうなく、)
あけ、床の間を見ましたが、黄金塔は異状なく、
(きらきらかがやいていました。さすがのぞくでも、)
キラキラ輝いていました。さすがの賊でも、
(さんだんがまえのぼうびそうちをやぶるちからはなかったものと)
三段構えの防備装置をやぶる力はなかったものと
(みえます。しかし、ここまでしのびこんでくる)
みえます。 しかし、ここまで忍び込んで来る
(ようでは、もういよいよゆだんできません。)
ようでは、もういよいよ油断出来ません。
(けいじやてんいんのみはりなどは、このおばけのような)
刑事や店員の見張りなどは、このお化けのような
(かいとうには、すこしのききめもありはしないのです。)
怪盗には、少しの効き目もありはしないのです。
(「こんやから、わしがこのへやでねることにしよう」)
「今夜から、わしがこの部屋で寝ることにしよう」
(おおとりしは、とうとうたまらなくなって、そんなけっしんを)
大鳥氏は、とうとうたまらなくなって、そんな決心を
(しました。そして、そのよるになりますと、おうごんとうの)
しました。そして、その夜になりますと、黄金塔の
(へやにふとんをはこばせ、ひがくれたときにふとんへはいり、)
部屋に布団を運ばせ、日が暮れた時に布団へ入り、
(すきなたばこをふかしながら、まじまじとたからものの)
好きなタバコをふかしながら、まじまじと宝物の
(みはりばんをつとめるのでした。じゅうじ、じゅういちじ、)
見張り番をつとめるのでした。 十時、十一時、
(じゅうにじとすぎ、こんやにかぎってはとけいがすすむのが、)
十二時と過ぎ、今夜に限っては時計が進むのが、
(とてもおそいようにかんじられました。やがていちじ、)
とても遅いように感じられました。やがて一時、
(にじへとなり、むかしでいうとうしみつどきです。)
二時へとなり、昔で言うと丑三つ時です。
(もうでんしゃのおともきこえません。じどうしゃのじひびきも)
もう電車の音も聞こえません。自動車の地響きも
(すくなくなりました。ひるまのさわがしさというものが、)
少なくなりました。昼間の騒がしさというものが、
(まったくとだえて、とないのちゅうしんのしょうてんがいも、みずのそこ)
まったく途絶えて、都内の中心の商店街も、水の底
(のようなしずけさです。ときどき、いたどのそとのろうかに、)
のような静けさです。 時々、板戸の外の廊下に、
(ひとのあしおとがします。ねずのばんのてんいんたちが、じかんを)
人の足音がします。寝ずの番の店員たちが、時間を
(きめて、いえじゅうをじゅんかいしているのです。みせのおおどけいが)
決めて、家中を巡回しているのです。 店の大時計が
(さんじをうちました。それから、じゅうじかんもたったかと)
三時を打ちました。それから、十時間もたったかと
(おもうころ、やっとよじになりました。「おお、もう)
思う頃、やっと四時になりました。「おお、もう
(よあけだ。にじゅうめんそうめ、こんやは、とうとうあらわれ)
夜明けだ。二十面相め、今夜は、とうとう現れ
(なかったな」そうおもうと、おおとりしは、にわかに)
なかったな」そう思うと、大鳥氏は、にわかに
(ねむけがさしてきました。そして、もうだいじょうぶだという)
ねむけがさしてきました。そして、もう大丈夫だという
(あんしんから、ついうとうとねむりこんでしまった)
安心から、ついウトウトねむり込んでしまった
(のです。どのくらいねむったのか、ふとめを)
のです。 どのくらいねむったのか、ふと目を
(さますと、あたりはもうあかるくなっていました。)
覚ますと、あたりはもう明るくなっていました。
(とけいをみれば、もうろくじはんです。もしやと、とこのまを)
時計を見れば、もう六時半です。 もしやと、床の間を
(ながめましたが、だいじょうぶだいじょうぶ、おうごんとうはちゃんと)
ながめましたが、大丈夫大丈夫、黄金塔はちゃんと
(そこにあんちされたままです。「どうだ。いくらまじゅつし)
そこに安置されたままです。「どうだ。いくら魔術師
(でも、このへやのなかまでは、はいれまい」おおとりしは、)
でも、この部屋の中までは、入れまい」 大鳥氏は、
(すっかりあんしんして、うーんとのびをしました。)
すっかり安心して、ウーンと伸びをしました。
(そして、うでをもとにもどそうとして、ひょいとひだりの)
そして、腕を元に戻そうとして、ヒョイと左の
(てのひらをみますと、おや、なんでしょう。)
てのひらを見ますと、おや、なんでしょう。
(てのひらのなかがまっくろにみえるではありませんか。)
てのひらの中が真っ黒に見えるではありませんか。
(へんだなとおもって、よくみなおしたとき、おおとりしは)
変だなと思って、よく見直した時、大鳥氏は
(あまりのことにあっとさけんで、とびおきました。)
あまりのことにアッと叫んで、飛び起きました。
(みなさん、おおとりしのてのひらにはいったい、なにがあったと)
みなさん、大鳥氏のてのひらには一体、何があったと
(おもいますか。そこには、いつのまに、だれがかいた)
思いますか。そこには、いつのまに、だれが書いた
(のか、くろいすみでおおきく「さん」のじがあらわれていた)
のか、黒い墨で大きく「三」の字が現れていた
(のです。にじゅうめんそうはとうとう、このへやのなかまで)
のです。二十面相はとうとう、この部屋の中まで
(しのびこんできたとしかかんがえられません。おおとりしは、)
忍び込んで来たとしか考えられません。大鳥氏は、
(せなかにこおりのかたまりでもあてられたかのように、)
背中に氷の塊でも当てられたかのように、
(ぞーっとしたさむけをかんじないではいられません)
ゾーッとした寒気を感じないではいられません
(でした。それとどうじに、へやのいっぽうでは、もうひとつ、)
でした。それと同時に、部屋の一方では、もう一つ、
(みょうなことがおこっていました。おおとりしのめの)
みょうなことが起こっていました。大鳥氏の目の
(とどかないすみのほうのいたどがほそめにひらかれ、そのすきま)
届かない隅のほうの板戸が細めにひらかれ、その隙間
(から、だれかがへやのなかをじっとのぞいている)
から、だれかが部屋の中をジッとのぞいている
(のです。ほほがふっくらした、かわいらしいかお。)
のです。ホホがふっくらした、可愛らしい顔。
(なんだかみおぼえのあるじんぶつではありませんか。ああ、)
なんだか見覚えのある人物ではありませんか。ああ、
(そうです。それはきのうのあさ、いたどのもじをはっけんして)
そうです。それはきのうの朝、板戸の文字を発見して
(さわぎたてた、あのしょうじょなのです。すうじつまえにやとわれた)
騒ぎたてた、あの少女なのです。数日前に雇われた
(ばかりのじゅうご、ろくさいのおてつだいさんなのです。)
ばかりの十五、六歳のお手伝いさんなのです。