半七捕物帳 鷹のゆくえ7
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | だだんどん | 6644 | S+ | 7.0 | 94.8% | 569.2 | 3998 | 216 | 78 | 2024/09/30 |
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問題文
(「いいあんばいにひがでてきました。これならにわやさんばはわけなしです」と、)
「いい塩梅に日が出て来ました。これなら二羽や三羽は訳なしです」と、
(ろうじんはそらをみあげながらいった。)
老人は空を見あげながら云った。
(「なるべくおおいほうがいいんですね」)
「なるべく多い方がいいんですね」
(「といって、にじゅっぴきもさんじゅっぴきもいるわけじゃありません。)
「と云って、二十匹も三十匹も要るわけじゃありません。
(まあ、ご、ろっぴきか、じゅっぴきもあればたくさんだろうとおもうんです。)
まあ、五、六匹か、十匹もあればたくさんだろうと思うんです。
(そうすると、わたしはもういちど、あのそばやへいっていますからね。)
そうすると、わたしはもう一度、あの蕎麦屋へ行っていますからね。
(すずめがとれしだいにひっかえしてきてください」)
雀が捕れ次第に引っ返して来てください」
(やくそくしてふたりはわかれた。はんしちはまたひっかえしてそばやのまえにくると、)
約束して二人は別れた。半七はまた引っ返して蕎麦屋の前に来ると、
(むすめのおすぎはのれんからくびをだして、しさいらしくこっちをうかがって)
むすめのお杉は暖簾から首を出して、仔細らしくこっちをうかがって
(いるらしかった。)
いるらしかった。
(「おい、ねえさん。ちょいとようがある。こっちへきてくんねえ」)
「おい、ねえさん。ちょいと用がある。こっちへ来てくんねえ」
(はんしちはこてまねぎをしてむすめをよびだした。おすぎはすこしちゅうちょしているらしかったが、)
半七は小手招ぎをして娘を呼び出した。お杉は少し躊躇しているらしかったが、
(とうとうおもいきってそとへでてきた。ふたりはおおきいえのきのしたにたって、)
とうとう思い切って外へ出て来た。二人は大きい榎(え)の木の下に立って、
(あしもとにあそんでいるにわとりをながめながらこごえではなしだした。)
脚もとに遊んでいる鶏をながめながら小声で話し出した。
(「ねえさん、おまえさんのなはおすぎさんというんだね」と、はんしちはまずきいた。)
「姐さん、おまえさんの名はお杉さんというんだね」と、半七はまず訊いた。
(おすぎはやはりむごんでうなずいた。)
お杉はやはり無言でうなずいた。
(「わたしはかんだのはんしちというごようききだ。いまおまえをしらべるのはごようだから、)
「わたしは神田の半七という御用聞きだ。今おまえを調べるのは御用だから、
(そのつもりでなんでもしょうじきにいってくれないじゃあこまる。いいかえ」と、)
そのつもりで何でも正直に云ってくれないじゃあ困る。いいかえ」と、
(はんしちはまずおどしておいて、それからよしみのやしきのほうこうのことをきいた。)
半七はまず嚇して置いて、それから吉見の屋敷の奉公のことを訊いた。
(それにたいして、おすぎはしょうじきにこたえた。じぶんはじゅうしちのはるからぞうしがやの)
それに対して、お杉は正直に答えた。自分は十七の春から雑司ヶ谷の
(よしみのやしきにほうこうして、このにがつからのでがわりのときにひまをとって)
吉見の屋敷に奉公して、この二月からの出代わりのときに暇を取って
(さがったといった。よしみせんざぶろうはようしで、いえつきのむすめおちえと)
退(さ)がったと云った。吉見仙三郎は養子で、家付きの娘お千江と
(ごねんまえからふうふになったが、おちえはとかくびょうしんで、ふうふのなかには)
五年まえから夫婦になったが、お千江はとかく病身で、夫婦の仲には
(まだこどももないということもはなした。)
まだ子供もないということも話した。
(「おまえはむこをとるためにうちへかえったんだろう」と、)
「おまえは婿を取るために家(うち)へ帰ったんだろう」と、
(はんしちはわらいながらきいた。)
半七は笑いながら訊いた。
(「そういってむりにおひまをいただいたのです」)
「そう云って無理にお暇をいただいたのです」
(「それでなぜむこをとらねえ。きにいったのがねえのか」)
「それでなぜ婿を取らねえ。気に入ったのがねえのか」
(おすぎはすこしかおをあかくしてだまっていた。)
お杉はすこし顔を赧(あか)くして黙っていた。
(「よしみのだんなはときどきたずねてくるのかえ」)
「吉見の旦那は時々たずねてくるのかえ」
(おすぎはめをひからせてはんしちのかおをきっとみたが、)
お杉は眼をひからせて半七の顔を屹(きっ)と見たが、
(すぐにまたうつむいてしまった。)
すぐに又うつむいてしまった。
(「え、そうだろう。よしみのだんなはゆうべきやしなかったか。え、きたろうな」)
「え、そうだろう。吉見の旦那はゆうべ来やしなかったか。え、来たろうな」
(おすぎはやはりだまっていた。はんしちはそのかたにてをかけていった。)
お杉はやはり黙っていた。半七はその肩に手をかけて云った。
(「え、ほんとうにきたろう。かくしちゃあいけねえ」)
「え、ほんとうに来たろう。隠しちゃあいけねえ」
(「いいえ」 「たしかにこねえか」)
「いいえ」 「たしかに来ねえか」
(「おいでになりません」と、おすぎはきっぱりこたえた。)
「おいでになりません」と、お杉はきっぱり答えた。
(「うそをついちゃあいけねえぜ。うそをつくととんだことになる。)
「嘘をついちゃあいけねえぜ。嘘をつくと飛んだことになる。
(よしみさんはまったくこねえか」)
吉見さんは全く来ねえか」
(「いちどもおいでになりません」)
「一度もおいでになりません」
(はんしちはだまっておすぎのかおいろをながめていると、あしもとのにわとりがだしぬけに)
半七は黙ってお杉の顔色を眺めていると、足もとの鶏がだしぬけに
(ときをつくったので、おすぎはおもわずかおをあげた。そのかおはいつかあおざめていた。)
時を作ったので、お杉は思わず顔をあげた。その顔はいつか蒼ざめていた。
(おとなしそうにみえてもなかなかにごうじょうらしいので、はんしちはこのうえのせんぎは)
おとなしそうに見えてもなかなかに強情らしいので、半七はこの上の詮議は
(むだであろうとおもった。もちろんかのじょをひっぱっていって、)
無駄であろうと思った。もちろん彼女を引っ張って行って、
(おもてむきにぎんみするすべがないでもないが、まちかたとちがって)
表向きに吟味する術(すべ)がないでもないが、町方(まちかた)と違って
(ここらはぐんだいのしはいであるから、こうぜんかのじょをぎんみするとなれば、)
ここらは郡代(ぐんだい)の支配であるから、公然彼女を吟味するとなれば、
(どうしてもぐんだいのやしきへひったてていかなければならない。)
どうしても郡代の屋敷へ引っ立てて行かなければならない。
(そうなると、このじけんはあかるみへもちだされて、たといそのとりのゆくえは)
そうなると、この事件は明るみへ持ち出されて、たといその鳥のゆくえは
(わかったとしても、みついきんのすけらはとうぜんそのとがめをうけなければならない。)
判ったとしても、光井金之助らは当然その咎めをうけなければならない。
(それではなんにもならないとおもったので、はんしちはひとまずおすぎのせんぎを)
それではなんにもならないと思ったので、半七はひとまずお杉の詮議を
(きりあげることにした。)
切り上げることにした。
(「いや、そうわかったらもうそれでいい。おとっさんやおっかさんには)
「いや、そう判ったらもうそれでいい。お父っさんや阿母(おっか)さんには
(こんなことはだまっているがいいぜ」)
こんなことは黙っているがいいぜ」
(おすぎはあみをのがれたことりのように、そうそうにえしゃくしてたちさった。)
お杉は網を逃れた小鳥のように、早々に会釈して立ち去った。
(のれんをはいるかのじょのうしろすがたをみとどけて、はんしちはに、さんげんさきのあらものやへよると、)
暖簾をはいる彼女のうしろ姿を見届けて、半七は二、三軒先の荒物屋へ寄ると、
(まだわかいにょうぼうがひばちのまえでつぎものをしていた。)
まだ若い女房が火鉢のまえで継(つ)ぎ物をしていた。
(「あさうらはありませんかえ」)
「麻裏はありませんかえ」
(「いらっしゃい」と、にょうぼうははりをやすめてたってでた。)
「いらっしゃい」と、女房は針をやすめて起って出た。
(「どうもよろしいのがきれておりまして・・・・・・」)
「どうも宜(よろ)しいのが切れて居りまして……」
(「なんでもいい。にわかあめでこのとおりどろだらけにしてしまったのだから、)
「なんでもいい。俄か雨でこの通り泥だらけにしてしまったのだから、
(なにかじょうぶそうなのをくださいな」)
何か丈夫そうなのを下さいな」
(どうできにいったのはないとしょうちのうえで、はんしちはありあわせたあさうらぞうりを)
どうで気に入ったのは無いと承知の上で、半七はありあわせた麻裏草履を
(いっそくかった。かれはみせぐちにこしをかけて、そのぞうりをはきかえながらきいた。)
一足買った。かれは店口に腰をかけて、その草履を穿きかえながら訊いた。
(「おかみさん。そこのそばやのむすめはぞうしがやにほうこうしていたんだね」)
「おかみさん。そこの蕎麦屋の娘は雑司ヶ谷に奉公していたんだね」
(「よくごぞんじで・・・・・・。そうでございますよ」)
「よく御存じで……。そうでございますよ」
(「わたしもあのあたりのものだからしっているんだが、あのむすめはおたかじょうの)
「わたしもあの辺の者だから知っているんだが、あの娘は御鷹匠の
(よしみさんのおやしきにほうこうしていたんだろう」)
吉見さんの御屋敷に奉公していたんだろう」
(「そうでございますよ」と、にょうぼうはうなずいた。)
「そうでございますよ」と、女房はうなずいた。
(「だが、どうしてひまをとるようになったのかなあ」と、はんしちは)
「だが、どうして暇を取るようになったのかなあ」と、半七は
(わざとくびをかしげてみせた。「そんなはずじゃあないんだが・・・・・・」)
わざと首をかしげて見せた。「そんな筈じゃあないんだが……」
(「おすぎさんのいやがるのを、おやたちがむりにさげたのだという)
「お杉さんの忌(いや)がるのを、親たちが無理に下げたのだという
(ことでございますよ」)
ことでございますよ」
(「そうだろう。ごしんぞはびょうきだし、だんながひまをくれるはずはないんだから」)
「そうだろう。御新造は病気だし、旦那が暇をくれる筈はないんだから」
(にょうぼうはすこしおどろいたようにはんしちのかおをみたが、やがてまたわらいだした。)
女房はすこし驚いたように半七の顔を見たが、やがて又笑い出した。
(「ほほ、なにもかもごぞんじなのでございますねえ」)
「ほほ、なにもかも御存じなのでございますねえ」
(「しっているよ。いまいうとおり、すぐきんじょにすんでいるんだから」と、)
「知っているよ。今いう通り、すぐ近所に住んでいるんだから」と、
(はんしちもわらった。「そのいっけんがあるので、あのむすめはまだむこをとらないんだろう。)
半七も笑った。「その一件があるので、あの娘はまだ婿を取らないんだろう。
(え、そうだろう」 にょうぼうはいみありげにわらっていた。)
え、そうだろう」 女房は意味ありげに笑っていた。