『少年探偵団』江戸川乱歩41
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(「おかえりなさい。だいせいこうですね」ぶかのおとこはにやにや)
「お帰りなさい。大成功ですね」 部下の男はニヤニヤ
(しながらいいました。なにもしらないらしいのです。)
しながら言いました。何も知らないらしいのです。
(「だいせいこうだと。おい、なにをねぼけているんだ。)
「大成功だと。おい、何を寝ぼけているんだ。
(おれはまんほーるのなかでよるをあかしてきたんだぜ。)
おれはマンホールの中で夜を明かしてきたんだぜ。
(ひさびさのだいしっぱいさ」にじゅうめんそうは、おそろしいけんまくで)
久々の大失敗さ」 二十面相は、おそろしい剣幕で
(どなりつけました。「だって、おうごんとうはちゃんと)
どなりつけました。「だって、黄金塔はちゃんと
(てにいれたじゃございやせんか」「おうごんとうか、あんな)
手に入れたじゃございやせんか」「黄金塔か、あんな
(もの、どっかへうっちまえ。おれたちは、にせものを)
もの、どっかへ売っちまえ。おれたちは、偽物を
(つかまされたんだよ。またしても、あけちのやつの)
つかまされたんだよ。またしても、明智のやつの
(おせっかいさ。それになまいきな、あのこばやしという)
おせっかいさ。それに生意気な、あの小林という
(こぞうだ。おてつだいさんにばけたりして、ちびの)
小僧だ。お手伝いさんに化けたりして、チビの
(くせに、いやにちえのまわるやろうだ」ぶかのおとこは、)
くせに、いやに知恵のまわる野郎だ」 部下の男は、
(しゅりょうのやつあたりにへどもどしながら、「いったい)
首領の八つ当たりにヘドモドしながら、「一体
(どうしたっていうんですか。あっしゃ、まるでわけが)
どうしたっていうんですか。あっしゃ、まるで訳が
(わかりませんが」と、ふしんなかおです。「まあ、すんだ)
わかりませんが」 と、不審な顔です。「まあ、済んだ
(ことはどうだっていい。それよりおれは、ねむくって)
ことはどうだっていい。それよりおれは、ねむくって
(しかたがないんだ。なにもかも、ねむってからかんがえる。)
仕方がないんだ。何もかも、ねむってから考える。
(あーあ、これではまた、いちからでなおしだ」にじゅうめんそうは)
あーあ、これではまた、一から出直しだ」 二十面相は
(おおきなあくびをして、ふらふらとろうかをたどり、)
大きなあくびをして、フラフラと廊下をたどり、
(おくまったしんしつへはいってしまいました。ぶかのおとこは)
奥まった寝室へ入ってしまいました。 部下の男は
(にじゅうめんそうをおくって、しんしつのそとまできましたが、なかから)
二十面相を送って、寝室の外まで来ましたが、中から
(どあがしまってもうすぐらいろうかにながいあいだたたずんで、)
ドアがしまっても薄暗い廊下に長いあいだ佇んで、
(なにかかんがえていました。ごふんほど、そうしてじっと)
何か考えていました。 五分ほど、そうしてジッと
(していますと、つかれきったにじゅうめんそうはふくもきがえ)
していますと、疲れ切った二十面相は服も着替え
(ないでべっどにころがったものとみえ、かすかな)
ないでベッドに転がったものとみえ、かすかな
(いびきのおとがきこえてきました。それをききますと、)
イビキの音が聞こえてきました。 それを聞きますと、
(ひげもじゃのぶかは、なぜかにやにやとわらいながら、)
ヒゲもじゃの部下は、なぜかニヤニヤと笑いながら、
(しんしつのまえをたちさりましたが、ふたたびげんかんに)
寝室の前を立ち去りましたが、ふたたび玄関に
(ひきかえしていりぐちのそとへでて、むこうのはやしのしげみへ)
引き返して入り口の外へ出て、向こうの林のしげみへ
(むかって、みぎてをに、さんどおおきくふりうごかしました。)
向かって、右手を二、三度大きく振り動かしました。
(なんだか、そのはやしのなかにかくれているひとにあいずでもして)
なんだか、その林の中に隠れている人に合図でもして
(いるようなかっこうです。よるがあけたばかりの、ごじ)
いるようなかっこうです。 夜が明けたばかりの、五時
(すこしまえです。はやしのなかは、まだゆうべのやみがのこっている)
少し前です。林の中は、まだゆうべの闇が残っている
(かのように、うすぐらいです。こんなにあさはやくから、いったい)
かのように、薄暗いです。こんなに朝早くから、一体
(なにものが、そこにかくれているというのでしょう。)
何者が、そこに隠れているというのでしょう。
(ところが、ぶかのおとこがてをふったかとおもうと、)
ところが、部下の男が手を振ったかと思うと、
(そのはやしのしたにしげったきのはっぱががさがさうごいて、)
その林の下にしげった木の葉っぱがガサガサ動いて、
(そのあいだから、なにかほのかにしろくてまるいものが、)
そのあいだから、何かほのかに白くて丸いものが、
(ぼんやりあらわれました。うすぐらいのでよくわかり)
ボンヤリ現れました。薄暗いのでよくわかり
(ませんが、どうやらひとのかおのようにもおもわれます。)
ませんが、どうやら人の顔のようにも思われます。
(すると、たてもののいりぐちにたっているぶかのおとこが、こんどは)
すると、建物の入口に立っている部下の男が、今度は
(りょうてをまっすぐにのばして、さゆうにあげたりさげたり、)
両手を真っすぐに伸ばして、左右に上げたり下げたり、
(とりのはばたきのようなまねを、さんどくりかえしました。)
鳥の羽ばたきのような真似を、三度繰り返しました。
(いよいよへんです。このおとこは、たしかになにかひみつのあいずを)
いよいよ変です。この男は、確かに何か秘密の合図を
(しているのです。あいてはなにものでしょう。にじゅうめんそうの)
しているのです。相手は何者でしょう。二十面相の
(てきかみかたか、それさえもはっきりわかりません。)
敵か味方か、それさえもハッキリわかりません。
(そのきみょうなあいずがおわりますと、こんどはますます)
その奇妙な合図が終わりますと、今度はますます
(ふしぎなことがおこりました。いままではやしのしげみの)
不思議なことが起こりました。今まで林のしげみの
(なかにぼんやりみえていた、ひとのかおのようなものが)
中にボンヤリ見えていた、人の顔のようなものが
(すっとかくれたかとおもうと、まるでおおきなけだものが)
スッと隠れたかと思うと、まるで大きなケダモノが
(はしっているかのように、きのはっぱがはげしくゆれ、)
走っているかのように、木の葉っぱが激しく揺れ、
(なにかしらくろいかげがきぎのむこうがわへ、とぶように)
何かしら黒い影が木々の向こう側へ、飛ぶように
(かけおりていくのがみえました。そのくろいかげはいったい、)
駆けおりて行くのが見えました。 その黒い影は一体、
(なにものだったのでしょう。そして、あのひげもじゃの)
何者だったのでしょう。そして、あのヒゲもじゃの
(ぶかはなんのあいずをしたのでしょう。さて、おはなしは、)
部下は何の合図をしたのでしょう。 さて、お話は、
(それからしちじかんほどたった、そのひのおひるごろの)
それから七時間ほどたった、その日のお昼頃の
(できごとにうつります。そのころになるとにじゅうめんそうは、)
出来事に移ります。 その頃になると二十面相は、
(やっとめをさましました。じゅうぶんねむったものです)
やっと目を覚ましました。充分ねむったものです
(から、ゆうべのつかれもすっかりとれて、いつもの)
から、ゆうべの疲れもすっかり取れて、いつもの
(いきいきとしたにじゅうめんそうにもどっていました。)
生き生きとした二十面相に戻っていました。
(まずよくしつにはいって、さっぱりとかおをあらいますと、)
まず浴室に入って、さっぱりと顔を洗いますと、
(まいあさのしゅうかんにしたがって、ろうかのおくのかくしどを)
毎朝の習慣にしたがって、廊下の奥の隠し戸を
(ひらいて、ちていのびじゅつしつへいきました。このようかんには)
ひらいて、地底の美術室へ行きました。 この洋館には
(ひろいちかしつがあって、そこがかいとうのひみつのびじゅつしつに)
広い地下室があって、そこが怪盗の秘密の美術室に
(なっているのです。どくしゃしょくんもごぞんじのとおり、)
なっているのです。読者諸君もご存知の通り、
(にじゅうめんそうは、あくにんのようにおかねをぬすんだり、)
二十面相は、悪人のようにお金をぬすんだり、
(ひとをころしたり、きずつけたりはしないのです。)
人を殺したり、傷つけたりはしないのです。
(ただ、いろいろなびじゅつひんをぬすんであつめるのを、つよくのぞんで)
ただ、色々な美術品を盗んで集めるのを、強く望んで
(いるのです。いぜんのそうくつは、こくりつはくぶつかんじけんのとき、)
いるのです。 以前の巣窟は、国立博物館事件の時、
(あけちたんていにはっけんされ、ぬすんであつめたたからものを、すっかり)
明智探偵に発見され、盗んで集めた宝物を、すっかり
(うばいかえされてしまいましたが、そのごにじゅうめんそうは、)
奪い返されてしまいましたが、そのご二十面相は、
(また、おびただしいびじゅつひんをぬすんでためて、)
また、おびただしい美術品を盗んで溜めて、
(このあたらしいかくれがのちかしつに、ひみつのほうこをつくった)
この新しい隠れ家の地下室に、秘密の宝庫を作った
(のです。そこはにじゅうじょうぐらいのひろさで、ちかしつとは)
のです。 そこは二十畳ぐらいの広さで、地下室とは
(おもわれないほど、りっぱなかざりつけをしたへやです。)
思われないほど、立派な飾り付けをした部屋です。
(しほうのかべには、にほんがのかけじくや、だいしょうさまざまな)
四方の壁には、日本画の掛け軸や、大小様々な
(せいようがのがくなどがところせましにかけてあり、そのしたには)
西洋画の額などが所狭しに掛けてあり、その下には
(がらすばりのだいがずらっとならんでいて、めにも)
ガラス張りの台がズラッと並んでいて、目にも
(まばゆいききんぞくやほうせきといった、ちいさなびじゅつひんがちんれつ)
まばゆい貴金属や宝石といった、小さな美術品が陳列
(してあります。また、かべのところどころには、ふるいじだいの)
してあります。また、壁の所々には、古い時代の
(きぼりのぶつぞうがごうけいじゅういったい、れんげだいのうえにあんち)
木彫りの仏像が合計十一体、レンゲ台の上に安置
(されています。それらのびじゅつひんは、どれをみても、)
されています。それらの美術品は、どれを見ても、
(みなゆいしょのあるしなばかり、しせつはくぶつかんといってもいい)
みな由緒のある品ばかり、私設博物館といってもいい
(ほどのりっぱさです。ちかしつですから、まどというものが)
ほどの立派さです。 地下室ですから、窓というものが
(なく、てんじょうのすみにわずかばかりのあついがらすばりの)
なく、天井のすみにわずかばかりの厚いガラス張りの
(てんまどのようなものがあるだけで、そこからにぶいひかりが)
天窓のようなものがあるだけで、そこからにぶい光が
(さしこんでいるのみですから、びじゅつしつはひるまでも、)
差し込んでいるのみですから、美術室は昼間でも、
(ゆうがたのようにうすぐらいのです。へやのてんじょうには、りっぱな)
夕方のように薄暗いのです。 部屋の天井には、立派な
(そうしょくでんとうがさがっていますけれど、にじゅうめんそうはあたらしい)
装飾電灯が下がっていますけれど、二十面相は新しい
(たからものをてにいれたときででもなければ、めったにでんとうを)
宝物を手に入れた時ででもなければ、滅多に電灯を
(つけません。だいじいんのおどうのなかのような、おもおもしい)
つけません。大寺院のお堂の中のような、重々しい
(うすぐらさがだいすきだからです。そのうすぐらいなかでながめ)
薄暗さが大好きだからです。その薄暗い中でながめ
(ますと、ふるいえやぶつぞうがいっそうふるめかしくこうきに)
ますと、古い絵や仏像が一層古めかしく高貴に
(かんじられるからです。にじゅうめんそうはいま、そのびじゅつしつの)
感じられるからです。 二十面相は今、その美術室の
(まんなかにたって、ぬすんでためたたからものをたのしそうに)
真ん中に立って、盗んで溜めた宝物を楽しそうに
(みまわしていました。)
見回していました。