『少年探偵団』江戸川乱歩42
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(「ふふん、あけちせんせい、おれのうらをかいたとおもって)
「フフン、明智先生、おれの裏をかいたと思って
(とくいになっているが、おうごんとうがなんだ。あんなもの)
得意になっているが、黄金塔がなんだ。あんなもの
(ひとつぐらいしくじったって、おれにはこんなにも)
一つぐらいしくじったって、おれにはこんなにも
(たからものがあるんだ。さすがのあけちせんせいも、ここにこんな)
宝物があるんだ。さすがの明智先生も、ここにこんな
(りっぱなびじゅつしつがあろうとは、ごぞんじあるまい。)
立派な美術室があろうとは、ご存知あるまい。
(ふふふ」かいとうはひとりごとをいって、さもゆかいらしく)
フフフ」 怪盗は独り言を言って、さも愉快らしく
(わらうのでした。にじゅうめんそうは、へやのすみのひとつの)
笑うのでした。 二十面相は、部屋のすみの一つの
(ぶつぞうのまえにちかづきました。「じつによくできている)
仏像の前に近付きました。「じつによく出来ている
(なあ。なにしろこくほうだからね。まるでいきている)
なあ。なにしろ国宝だからね。まるで生きている
(かのようだ」そんなことをつぶやきながら、ぶつぞうの)
かのようだ」 そんなことをつぶやきながら、仏像の
(かたのあたりをなでまわしていましたが、なにを)
肩のあたりをなでまわしていましたが、なにを
(おもったか、ふと、そのてをとめて、びっくりした)
思ったか、ふと、その手を止めて、ビックリした
(ように、しげしげとぶつぞうのかおをのぞきこみました。)
ように、しげしげと仏像の顔をのぞき込みました。
(そのぶつぞうは、いやになまあたたかかったからです。あたたかい)
その仏像は、いやに生温かかったからです。温かい
(ばかりでなく、からだがどきんどきんとみゃくうっていた)
ばかりでなく、体がドキンドキンと脈打っていた
(のです。まるでいきでもしているように、むねのところが)
のです。まるで息でもしているように、胸の所が
(ふくれたりしぼんだりしています。いくらいきている)
ふくれたりしぼんだりしています。 いくら生きている
(ようなぶつぞうだといってもいきをしたり、みゃくをうったり)
ような仏像だといっても息をしたり、脈を打ったり
(するはずはありません。なんだかへんです。おばけ)
するはずはありません。なんだか変です。お化け
(みたいなかんじです。にじゅうめんそうはふしぎそうなかおを)
みたいな感じです。 二十面相は不思議そうな顔を
(して、そのぶつぞうのむねをたたいてみました。ところが、)
して、その仏像の胸を叩いてみました。ところが、
(いつものようにこつこつするおとがしないで、なんだか)
いつものようにコツコツする音がしないで、なんだか
(やわらかいてごたえがあります。たちまち、)
やわらかい手ごたえがあります。 たちまち、
(にじゅうめんそうのあたまにさっと、あるかんがえがひらめきました。)
二十面相の頭にサッと、ある考えがひらめきました。
(「やい、きさま、だれだ」かれはいきなり、おそろしい)
「やい、貴様、だれだ」 彼はいきなり、おそろしい
(こえで、ぶつぞうをどなりつけたのです。すると、ああ、)
声で、仏像をどなりつけたのです。 すると、ああ、
(なんということでしょう。どなりつけられたぶつぞうが、)
なんということでしょう。どなりつけられた仏像が、
(むくむくうごきだしました。そして、まっくろになった)
ムクムク動き出しました。そして、真っ黒になった
(やぶれたころものしたから、にゅーっとぴすとるのつつぐちが)
やぶれた衣の下から、ニューッとピストルの筒口が
(あらわれ、ぴったりとかいとうのむねにねらいがさだめられた)
現れ、ピッタリと怪盗の胸にねらいがさだめられた
(ではありませんか。「きさま、こばやしのこぞうだな」)
ではありませんか。「貴様、小林の小僧だな」
(にじゅうめんそうは、すぐさまそれとさとりました。このては、)
二十面相は、すぐさまそれと悟りました。この手は、
(いぜんにいちどけいけんしていたからです。しかしぶつぞうは、)
以前に一度経験していたからです。 しかし仏像は、
(なにもこたえませんでした。むごんのまま、ひだりてをあげて、)
何も答えませんでした。無言のまま、左手をあげて、
(にじゅうめんそうのうしろをゆびさしました。そのようすが、)
二十面相のうしろを指さしました。 その様子が、
(ひどくぶきみだったものですから、かいとうはおもわず)
ひどく不気味だったものですから、怪盗は思わず
(ひょいと、うしろをふりむきましたが、いったいこれは)
ヒョイと、うしろを振り向きましたが、一体これは
(どうしたというのでしょう。へやじゅうのぶつぞうがみな、)
どうしたというのでしょう。部屋中の仏像がみな、
(れんげだいのうえで、むくむくうごきだしたでは)
レンゲ台の上で、ムクムク動き出したでは
(ありませんか。そして、それらのぶつぞうのみぎてには、)
ありませんか。そして、それらの仏像の右手には、
(どれもこれもぴすとるがひかっているのです。じゅういったいの)
どれもこれもピストルが光っているのです。十一体の
(ぶつぞうがしほうからかいとうめがけて、ぴすとるのねらいを)
仏像が四方から怪盗めがけて、ピストルのねらいを
(さだめているのです。さすがのにじゅうめんそうも、あまりの)
さだめているのです。 さすがの二十面相も、あまりの
(ことに、あっとたちすくんだまま、きょろきょろと)
ことに、アッと立ちすくんだまま、キョロキョロと
(あたりをみまわすばかりです。「ゆめをみているんじゃ)
あたりを見まわすばかりです。「夢を見ているんじゃ
(ないかしら。それとも、おれはきでもちがったのか。)
ないかしら。それとも、おれは気でも違ったのか。
(じゅういったいのぶつぞうがじゅういったいとも、いきてうごきだして、)
十一体の仏像が十一体とも、生きて動き出して、
(ぴすとるをつきつけるなんて、そんなばかなことが、)
ピストルを突き付けるなんて、そんな馬鹿なことが、
(ほんとうにおこるのか」にじゅうめんそうは、あたまのなかがこんがら)
本当に起こるのか」 二十面相は、頭の中がこんがら
(がって、なにがなんだかわけがわからなくなってしまい)
がって、何がなんだか訳がわからなくなってしまい
(ました。ふらふらとめまいがして、いまにもたおれそうな)
ました。フラフラと目まいがして、今にも倒れそうな
(きもちです。「おや、どうかしたのですか。かおいろが)
気持ちです。「おや、どうかしたのですか。顔色が
(ひどくわるいじゃございませんか」とつぜんこえがして、)
ひどく悪いじゃございませんか」 突然声がして、
(けさのひげもじゃのぶかのおとこが、びじゅつしつへはいって)
今朝のヒゲもじゃの部下の男が、美術室へ入って
(きました。「うん、すこし、めまいがするんだ。)
来ました。「ウン、少し、目まいがするんだ。
(おまえ、このぶつぞうをよくしらべてみてくれ。おれには)
おまえ、この仏像をよく調べてみてくれ。おれには
(なんだかみょうなものにみえるんだが」にじゅうめんそうはあたまを)
何だかみょうな物に見えるんだが」 二十面相は頭を
(かかえて、よわねをはきました。するとぶかのおとこは、)
かかえて、弱音を吐きました。 すると部下の男は、
(いきなりわらいだして、「ははは、ほとけさまがいきて)
いきなり笑い出して、「ハハハ、仏さまが生きて
(うごきだしたというんでしょう。てんばつですぜ。)
動き出したと言うんでしょう。天罰ですぜ。
(にじゅうめんそうにてんばつがくだったんですぜ」と、みょうな)
二十面相に天罰が下ったんですぜ」 と、みょうな
(ことをいいだしました。「え、なんだって」)
ことを言い出しました。「え、なんだって」
(「てんばつだといっているんですよ。とうとうにじゅうめんそうの)
「天罰だと言っているんですよ。とうとう二十面相の
(うんがつきたといっているんですよ」にじゅうめんそうは、)
運がつきたと言っているんですよ」 二十面相は、
(あっけにとられてあいてのかおをみつめました。きぼりの)
あっけにとられて相手の顔を見つめました。木彫りの
(ぶつぞうがうごきだしたばかりでなく、しんじきっていたぶか)
仏像が動き出したばかりでなく、信じきっていた部下
(までが、きでもちがったように、おそろしいことをいい)
までが、気でも違ったように、おそろしいことを言い
(だしたのです。いよいよ、なにがなんだかわからなく)
出したのです。いよいよ、何が何だかわからなく
(なってしまいました。「ははは、おいおい、にじゅうめんそう)
なってしまいました。「ハハハ、おいおい、二十面相
(ともあろうものが、みっともないじゃないか。)
ともあろうものが、みっともないじゃないか。
(こんなことでびっくりするなんて。ははは、まるで)
こんなことでビックリするなんて。ハハハ、まるで
(はとがまめでっぽうをくらったようなかおだぜ」ぶかのおとこの)
ハトが豆鉄砲を食らったような顔だぜ」 部下の男の
(こえが、すっかりかわってしまいました。いままでの)
声が、すっかり変わってしまいました。今までの
(しわがれごえが、たちまちよくとおるうつくしいこえにかわって)
しわがれ声が、たちまちよく通る美しい声に変わって
(しまったのです。にじゅうめんそうは、どうやらこのこえにきき)
しまったのです。 二十面相は、どうやらこの声に聞き
(おぼえがありました。ああ、ひょっとしたら、あいつ)
覚えがありました。ああ、ひょっとしたら、あいつ
(じゃないかしら。きっとあいつだ。ちくしょうめ、)
じゃないかしら。きっとあいつだ。ちくしょうめ、
(あいつにちがいない。しかし、かれはおそろしくて、)
あいつに違いない。しかし、彼はおそろしくて、
(そのなをくちにだすこともできないのでした。)
その名を口に出すことも出来ないのでした。
(「ははは、まだわからないかね。ぼくだよ、ぼく」)
「ハハハ、まだわからないかね。ぼくだよ、ぼく」
(ぶかのおとこはほがらかにわらいながら、かおいちめんの)
部下の男は朗らかに笑いながら、顔一面の
(つけひげを、かわをはぐようにめくりました。すると、)
付けヒゲを、皮をはぐようにめくりました。 すると、
(そのしたから、にこやかなせいねんしんしのかおがあらわれてきた)
その下から、にこやかな青年紳士の顔が現れてきた
(のです。「あ、きさま、あけちこごろう」「そうだよ。)
のです。「あ、貴様、明智小五郎」「そうだよ。
(ぼくもへんそうはじょうずなようだね。ほんけほんもとのきみを)
ぼくも変装は上手なようだね。本家本元のきみを
(ごまかすことができたんだからね。もっとも、けさは)
ごまかすことが出来たんだからね。もっとも、今朝は
(よるがあけたばかりで、まだうすぐらかったし、)
夜が明けたばかりで、まだ薄暗かったし、
(このちかしつも、ひどくくらいから、そんなにいばれる)
この地下室も、ひどく暗いから、そんなにいばれる
(ことでもないがね」ああ、それはいがいにもわれらの)
ことでもないがね」 ああ、それは意外にも我らの
(あけちたんていだったのです。にじゅうめんそうは、いちじてきにぎょっと)
明智探偵だったのです。 二十面相は、一時的にギョッと
(かおいろをかえましたが、あいてがばけものでもなんでも)
顔色を変えましたが、相手がバケモノでもなんでも
(なく、あけちたんていとわかりますと、さすがはかいじんです。)
なく、明智探偵とわかりますと、さすがは怪人です。
(やがてだんだんおちつきをとりもどしました。「で、おれを)
やがて段々落ち着きを取り戻しました。「で、おれを
(どうしようというのだね。たんていさん」かれはにくにくしく)
どうしようというのだね。探偵さん」 彼は憎々しく
(いいながら、ぼうじゃくぶじんにちかしつのでぐちのほうへ)
言いながら、傍若無人に地下室の出口のほうへ
(あるいていこうとするのです。「とらえるのさ」たんていは)
歩いて行こうとするのです。「とらえるのさ」 探偵は
(にじゅうめんそうのむねを、ぐいぐいとおしもどしました。「で、)
二十面相の胸を、グイグイと押し戻しました。「で、
(いやだといえばどうなる。ぶつぞうどもがぴすとるをうつ)
嫌だといえばどうなる。 仏像どもがピストルを撃つ
(というしかけかね。ふふふ、おどかしっこなしだぜ」)
という仕掛けかね。フフフ、おどかしっこなしだぜ」