紫式部 源氏物語 帚木 12 與謝野晶子訳

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3 だだんどん 6442 S 6.9 93.3% 435.1 3018 215 48 2024/11/04
4 kkk 6252 S 6.7 93.3% 454.2 3057 217 48 2024/11/15
5 りく 5992 A+ 6.1 98.0% 503.8 3081 62 48 2024/10/06

問題文

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(げんじのてがみをおとうとがもってきた。おんなはあきれてなみださえもこぼれてきた。)

源氏の手紙を弟が持って来た。女はあきれて涙さえもこぼれてきた。

(おとうとがどんなそうぞうをするだろうとくるしんだが、さすがにてがみはよむつもり)

弟がどんな想像をするだろうと苦しんだが、さすがに手紙は読むつもり

(らしくて、きまりのわるいのをかくすようにかおのうえでひろげた。さっきからからだは)

らしくて、きまりの悪いのを隠すように顔の上でひろげた。さっきからからだは

(よこにしていたのである。てがみはながかった。おわりに、 )

横にしていたのである。手紙は長かった。終わりに、

(みしゆめをあうよありやとなげくまにめさえあわでぞころもへにける )

見し夢を逢ふ夜ありやと歎く間に目さへあはでぞ頃も経にける

(あんみんできるよるがないのですから、ゆめがみられないわけです。 とあった。)

安眠できる夜がないのですから、夢が見られないわけです。 とあった。

(めもくらむほどのうつくしいじでかかれてある。なみだでめがくもって、しまいにはなにも)

目もくらむほどの美しい字で書かれてある。涙で目が曇って、しまいには何も

(よめなくなって、くるしいおもいのあたらしくくわえられたうんめいをおもいつづけた。)

詠めなくなって、苦しい思いの新しく加えられた運命を思い続けた。

(よくじつげんじのところからこぎみがめされた。でかけるときにこぎみはあねに)

翌日源氏の所から小君が召された。出かける時に小君は姉に

(へんじをくれといった。 「ああしたおてがみをいただくはずのひとがありませんと)

返事をくれと言った。 「ああしたお手紙をいただくはずの人がありませんと

(もうしあげればいい」 とあねがいった。)

申し上げればいい」 と姉が言った。

(「まちがわないようにいっていらっしったのにそんなおへんじはできない」)

「まちがわないように言っていらっしったのにそんなお返辞はできない」

(そういうのからおせばひみつはすっかりおとうとにうちあけられたものらしい、)

そう言うのから推せば秘密はすっかり弟に打ち明けられたものらしい、

(こうおもうとおんなはげんじがうらめしくてならない。)

こう思うと女は源氏が恨めしくてならない。

(「そんなことをいうものじゃない。おとなのいうようなことをこどもがいっては)

「そんなことを言うものじゃない。大人の言うようなことを子供が言っては

(いけない。おことわりができなければおやしきへいかなければいい」)

いけない。お断わりができなければお邸へ行かなければいい」

(むりなことをいわれて、おとうとは、 「よびにおよこしになったのですもの、)

無理なことを言われて、弟は、 「呼びにおよこしになったのですもの、

(うかがわないでは」 といって、そのままいった。こうしょくなきいのかみはこのままははが)

伺わないでは」 と言って、そのまま行った。好色な紀伊守はこの継母が

(ちちのつまであることをおしがって、とりいりたいこころからこぎみにもやさしくして)

父の妻であることを惜しがって、取り入りたい心から小君にも優しくして

(つれてあるきもするのだった。こぎみがきたというのでげんじはいまへよんだ。)

つれて歩きもするのだった。小君が来たというので源氏は居間へ呼んだ。

など

(「きのうもいちにちおまえをまっていたのにでてこなかったね。わたくしだけがおまえを)

「昨日も一日おまえを待っていたのに出て来なかったね。私だけがおまえを

(あいしていても、おまえはわたくしにれいたんなんだね」 うらみをいわれて、)

愛していても、おまえは私に冷淡なんだね」 恨みを言われて、

(こぎみはかおをあかくしていた。 「へんじはどこ」)

小君は顔を赤くしていた。 「返事はどこ」

(こぎみはありのままにつげるほかにすべはなかった。)

小君はありのままに告げるほかに術はなかった。

(「おまえはねえさんにむりょくなんだね、へんじをくれないなんて」)

「おまえは姉さんに無力なんだね、返事をくれないなんて」

(そういったあとで、またげんじからあたらしいてがみがこぎみにわたされた。)

そう言ったあとで、また源氏から新しい手紙が小君に渡された。

(「おまえはしらないだろうね、いよのろうじんよりもわたくしはさきにねえさんの)

「おまえは知らないだろうね、伊予の老人よりも私はさきに姉さんの

(こいびとだったのだ。くびのほそいひんじゃくなおとこだからといって、ねえさんはあのぶかっこうな)

恋人だったのだ。頸の細い貧弱な男だからといって、姉さんはあの不恰好な

(ろうじんをおっとにもって、いまだってしらないなどといってわたくしをけいべつしているのだ。)

老人を良人に持って、今だって知らないなどと言って私を軽蔑しているのだ。

(けれどもおまえはわたくしのこになっておれ。ねえさんがたよりにしているひとは)

けれどもおまえは私の子になっておれ。姉さんがたよりにしている人は

(さきがみじかいよ」 とげんじがでたらめをいうと、こぎみはそんなこともあったのか、)

さきが短いよ」 と源氏がでたらめを言うと、小君はそんなこともあったのか、

(すまないことをするねえさんだとおもうようすをかわいくげんじはおもった。)

済まないことをする姉さんだと思う様子をかわいく源氏は思った。

(こぎみはしじゅうげんじのそばにおかれて、ごしょへもいっしょにつれられて)

小君は始終源氏のそばに置かれて、御所へもいっしょに連れられて

(いったりした。げんじはじかのいしょうがかりにめいじて、こぎみのいふくをしんちょうさせたりして、)

行ったりした。源氏は自家の衣裳係に命じて、小君の衣服を新調させたりして、

(ことばどおりおやがわりらしくせわをしていた。おんなはしじゅうげんじからてがみをもらった。)

言葉どおり親代わりらしく世話をしていた。女は始終源氏から手紙をもらった。

(けれどもおとうとはこどもであって、ふよういにじぶんのかいたてがみをおとすようなことを)

けれども弟は子供であって、不用意に自分の書いた手紙を落とすようなことを

(したら、もとからふうんなじぶんがまたただしくもないこいのなをとってなかねば)

したら、もとから不運な自分がまた正しくもない恋の名を取って泣かねば

(ならないことになるのはあまりにじぶんがみじめであるというかんがえがこんていに)

ならないことになるのはあまりに自分がみじめであるという考えが根底に

(なっていて、こいをえるということも、こちらにそのひとのたいしょうになれるじしんのある)

なっていて、恋を得るということも、こちらにその人の対象になれる自信のある

(ばあいにだけあることで、じぶんなどはひかるげんじのあいてになれるものではないと)

場合にだけあることで、自分などは光源氏の相手になれる者ではないと

(おもうこころからへんじをしないのであった。ほのかにみたうつくしいげんじを)

思う心から返事をしないのであった。ほのかに見た美しい源氏を

(おもいださないわけではなかったのである。しんじつのかんじょうをげんじにしらせても)

思い出さないわけではなかったのである。真実の感情を源氏に知らせても

(さてなんになるものでないと、くるしいはんせいをみずからしいているおんなであった。)

さて何になるものでないと、苦しい反省をみずから強いている女であった。

(げんじはしばらくのあいだもそのひとがわすれられなかった。きのどくにもおもい)

源氏はしばらくの間もその人が忘れられなかった。気の毒にも思い

(こいしくもおもった。おんながじぶんとしたかしつにくるしんでいるようすがめからきえない。)

恋しくも思った。女が自分とした過失に苦しんでいる様子が目から消えない。

(ほんのうのおもむくままにしのんであいにいくことも、ひとめのおおいいえであるから)

本能のおもむくままに忍んであいに行くことも、人目の多い家であるから

(そのことがしれてはこまることになる、じぶんのためにも、おんなのためにもとおもっては)

そのことが知れては困ることになる、自分のためにも、女のためにもと思っては

(はんもんをしていた。)

煩悶をしていた。

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