夜長姫と耳男5
1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | sai | 8347 | 神 | 8.6 | 96.6% | 328.5 | 2840 | 98 | 53 | 2024/11/10 |
2 | デコポン | 6809 | S++ | 6.9 | 97.5% | 406.2 | 2838 | 72 | 53 | 2024/10/20 |
3 | kkk | 6791 | S++ | 7.0 | 96.0% | 401.4 | 2843 | 117 | 53 | 2024/10/15 |
4 | だだんどん | 6470 | S | 6.9 | 94.0% | 410.0 | 2831 | 178 | 53 | 2024/09/28 |
5 | しょうちゃん | 6441 | S | 6.6 | 96.6% | 424.9 | 2835 | 98 | 53 | 2024/10/14 |
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問題文
(さんにんのたくみがそろったので、せいしきにちょうじゃのまえへめされて、)
三人のタクミが揃ったので、正式に長者の前へ召されて、
(このたびのしごとをもうしわたされた。)
このたびの仕事を申し渡された。
(ひめのじぶつをつくるためだときいていたが、)
ヒメの持仏をつくるためだと聞いていたが、
(くわしいことはまだしらされていなかったのだ。)
くわしいことはまだ知らされていなかったのだ。
(ちょうじゃはかたえのひめをみやっていった。)
長者はかたえのヒメを見やって云った。
(「このひめのこんじょうごしょうをまもりたもうとうといほとけのごすがたを)
「このヒメの今生後生をまもりたもう尊いホトケの御姿を
(きざんでもらいたいものだ。じぶつどうにおさめて、ひめがあさゆうおがむものだが、)
刻んでもらいたいものだ。持仏堂におさめて、ヒメが朝夕拝むものだが、
(みほとけのおすがたと、それをおさめるずしがほしい。)
ミホトケの御姿と、それをおさめるズシがほしい。
(みほとけはみろくぼさつ。そのほかはめいめいのくふうにまかせるが、)
ミホトケはミロクボサツ。その他は銘々の工夫にまかせるが、
(ひめのじゅうろくのしょうがつまでにしあげてもらいたい」)
ヒメの十六の正月までに仕上げてもらいたい」
(さんめいのたくみがそのしごとをせいしきにうけてあいさつをおわると、さけさかながはこばれた。)
三名のタクミがその仕事を正式に受けて挨拶を終ると、酒肴が運ばれた。
(ちょうじゃとひめはしょうめんにいちだんたかく、ひだりてにはさんめいのたくみのぜんが、)
長者とヒメは正面に一段高く、左手には三名のタクミの膳が、
(みぎてにもみっつのぜんがならべられた。)
右手にも三ツの膳が並べられた。
(そこにはまだひとのすがたがみえなかったが、たぶんあなまろと、)
そこにはまだ人の姿が見えなかったが、たぶんアナマロと、
(そのほかのにめいのおもだつもののざであろうとおれはかんがえていた。)
その他の二名の重立つ者の座であろうとオレは考えていた。
(ところが、あなまろがみちびいてきたのはふたりのおんなであった。)
ところが、アナマロがみちびいてきたのは二人の女であった。
(ちょうじゃはふたりのおんなをおれたちにひきあわせて、こういった。)
長者は二人の女をオレたちにひき合せて、こう云った。
(「むこうのたかいやまをこえ、そのむこうのみずうみをこえ、)
「向うの高い山をこえ、その向うのミズウミをこえ、
(そのまたむこうのひろいのをこえると、いしといわだけでできたたかいやまがある。)
そのまた向うのひろい野をこえると、石と岩だけでできた高い山がある。
(そのやまをないてこえると、またひろいのがあって、)
その山を泣いてこえると、またひろい野があって、
(そのまたむこうにきりのふかいやまがある。またそのやまをないてこえると、)
そのまた向うに霧の深い山がある。またその山を泣いてこえると、
(ひろいひろいもりがあってもりのなかをおおきなかわがながれている。)
ひろいひろい森があって森の中を大きな川が流れている。
(そのもりをみっかがかりでなきながらとおりぬけると、)
その森を三日がかりで泣きながら通りぬけると、
(なんぜんという、いずみがわきだしているさとがあるのだよ。)
何千という、泉が湧き出している里があるのだよ。
(そのさとにはひとつのこかげのひとつのいずみごとにひとりのむすめがはたをおっているそうな。)
その里には一ツの木蔭の一ツの泉ごとに一人の娘がハタを織っているそうな。
(そのさとのいちばんおおきなきのしたのいちばんきれいないずみのそばで)
その里の一番大きな木の下の一番キレイな泉のそばで
(はたをおっていたのがいちばんうつくしいむすめで、ここにいるわかいほうのひとがそのむすめだよ。)
ハタを織っていたのが一番美しい娘で、ここにいる若い方の人がその娘だよ。
(このむすめがはたをおるようになるまではむすめのおかあさんがおっていたが、)
この娘がハタを織るようになるまでは娘のお母さんが織っていたが、
(それがこっちのとしをとったおんなのひとだよ。)
それがこッちの年をとった女の人だよ。
(そのさとからにじのはしをわたってはるばるとひめのきものをおるために)
その里から虹の橋を渡ってはるばるとヒメの着物を織るために
(ひだのおくまできてくれたのだ。おかあさんをつきまちといい、)
ヒダの奥まで来てくれたのだ。お母さんを月待(ツキマチ)と云い、
(むすめをえなこという。)
娘を江奈古(エナコ)と云う。
(ひめのきにいったみほとけをつくったものには、)
ヒメの気に入ったミホトケを造った者には、
(うつくしいえなこをほーびにしんぜよう」)
美しいエナコをホービに進ぜよう」
(ちょうじゃがかねにあかしてかいいれたはたをおるうつくしいどれいなのだ。)
長者が金にあかして買い入れたハタを織る美しい奴隷なのだ。
(おれのうまれたひだのくにへもたこくからどれいをかいにくるものがあるが、)
オレの生れたヒダの国へも他国から奴隷を買いにくる者があるが、
(それはおとこのどれいで、そしておれのようなたくみがどれいにかわれていくのさ。)
それは男の奴隷で、そしてオレのようなタクミが奴隷に買われて行くのさ。
(しかし、やむにやまれぬひつようのためにとおいくにからかいにくるのだから、)
しかし、やむにやまれぬ必要のために遠い国から買いにくるのだから、
(どれいはたいせつにあつかわれ、だいいっとうのおきゃくさまとおなじように)
奴隷は大切に扱われ、第一等のお客様と同じように
(もてなしをうけるそうだが、それもしごとができあがるまでのはなしさ。)
もてなしを受けるそうだが、それも仕事が出来あがるまでの話さ。
(しごとがおわってむようになればかねでかったどれいだから、ひとにくれてやることも、)
仕事が終って無用になれば金で買った奴隷だから、人にくれてやることも、
(うわばみにくれてやることもしゅじんのかってだ。)
ウワバミにくれてやることも主人の勝手だ。
(だからえんごくへかわれていくことをこのむたくみはいないが、)
だから遠国へ買われて行くことを好むタクミはいないが、
(おんなのみならなおさらのことであろう。)
女の身なら尚さらのことであろう。
(かわいそうなおんなたちよ、とおれはおもった。)
可哀そうな女たちよ、とオレは思った。
(けれども、ひめのきにいったぶつぞうをつくったものに)
けれども、ヒメの気に入った仏像を造った者に
(えなこをほーびにやるというちょうじゃのことばはおれをびっくりさせた。)
エナコをホービにやるという長者の言葉はオレをビックリさせた。
(おれはひめのきにいるようなぶつぞうをつくるきもちがなかったのだ。)
オレはヒメの気に入るような仏像を造る気持がなかったのだ。
(うまのかおにそっくりだといわれてやまのおくへむちゅうでかけこんでしまったとき、)
馬の顔にそッくりだと云われて山の奥へ夢中で駈けこんでしまったとき、
(おれはひぐれちかくまでたきつぼのそばにいたあげく、)
オレは日暮れちかくまで滝壺のそばにいたあげく、
(おれはひめのきにいらないぶつぞうをつくるために、)
オレはヒメの気に入らない仏像を造るために、
(いや、ぶつぞうではなくておそろしいうまのかおのばけものをつくるために)
いや、仏像ではなくて怖ろしい馬の顔の化け物を造るために
(せいこんをかたむけてやるとかくごをかためていたのだから。)
精魂を傾けてやると覚悟をかためていたのだから。