時間からの影 第一章_1

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投稿者投稿者乳と蜜の流れる地いいね1お気に入り登録
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青空文庫から引用

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問題文

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(とくていのいんしょうをうらずけるしんわてきなみなもとをやみくもにしんじることでのみすくわれてきた)

特定の印象を裏付ける神話的な源を闇雲に信じることでのみ救われてきた悪

(あくむときょうふの22ねんののちわたしは1935ねん7がつ17にちから18にちにかけてのよるに)

悪夢と恐怖の二十二年の後私は一九三五年七月十七日から十八日にかけての夜に

(じぶんがにしおーすとらりあではっけんしたとかんがえるものがしんせいだと)

自分が西オーストラリアで発見したと考えるものが真正だと

(みずからすすんでだんげんしようとはおもわない)

自ら進んで断言しようとは思わない。

(わたしのたいけんがぜんめんてきにないしぶぶんてきにげんかくであると)

私の体験が全面的ないし部分的に幻覚であると

(きぼうするだけのりゆうがあるからだ、じっさい、げんかくのげんいんがありあまるほどそんざいした)

希望するだけの理由があるからだ実際、幻覚の原因が有り余る程存在した。

(だがなお、それはおぞましいほどげんじつてきだったのであり)

だが尚、それは悍ましい程現実的だったのであり

(ためにわたしはときとしてきぼうをうしないそうになる。)

ために私は時として希望を失いそうになる。

(あれがじっさいにおきたことだとすると、じんるいはだいうちゅうからのこえを、)

あれが実際に起きたことだとすると、人類は大宇宙からの声を、

(わずかにげんきゅうするだけでぼうぜんじしつするような)

僅かに言及するだけで茫然自失するような

(うずまくときのほんりゅうのなかにおけるかれじしんのたちばを)

渦巻く時の奔流の中における彼自身の立場を

(うけいれるじゅんびをせねばならない。)

受け容れる準備をせねばならない。

(かれはまた、しゅぞくぜんいんをまきこむことにはならないにせよ、)

彼はまた、種族全員を巻き込むことにはならないにせよ、

(そのなかのぼうけんてきなこうせいいんのうえにしゅうかいにしてしこうをこえたきょうふを)

その中の冒険的な構成員の上に醜怪にして思考を超えた恐怖を

(おちかからせるであろう、とくいかつせんざいてきなきけんにたいして)

落ちかからせるであろう、特異かつ潜在的な危険に対して

(けいかいせねばならぬのだ。わがえんせいたいがせいさせんとした)

警戒せねばならぬのだ。我が遠征隊が精査せんとした

(しられざるげんしきょだいけんちくのだんぺんをはっくつするいかなるくわだてもこんりんざいほうきするよう)

知られざる原始巨大建築の断片を発掘するいかなる企ても金輪際放棄するよう

(わたしがみずからのぜんりょくをあげてしゅちょうするのは、まさにこうしゃのりゆうによる。)

私が自らの全力を挙げて主張するのは、まさに後者の理由による。

(しょうきでありかつめざめていたとかていすれば、あのよるのわたしのたいけんは)

正気でありかつ目覚めていたと仮定すれば、あの夜の私の体験は

(これまでいかなるにんげんにもふりかかったことのないものだった。)

これまでいかなる人間にも降り掛かったことのないものだった。

など

(そればかりではない、しんわやゆめとしてすてさるほうさくをさがしてきた)

そればかりではない、神話や夢として捨て去る方策を探してきた

(すべてのことがらにたいするりつぜんたるかくにんになるのだ。)

全ての事柄に対する慄然たる確認になるのだ。

(ありがたいことにかくしょうはなかった。)

ありがたいことに確証はなかった。

(うごかぬしょうことなるしんせいでありかつ、かのゆうがいなしんえんよりはこびだしたなら)

動かぬ証拠となる真正でありかつ、かの有害な深淵より運び出したなら

(いふすべきぶったいをせんりつのうちにうしなってしまったからである。)

畏怖すべき物体を戦慄の裡に失ってしまったからである。

(きょうふにそうぐうしたときわたしはひとりだったそしてげんざいにいたるまで)

恐怖に遭遇した時私は一人だったそして現在に至るまで

(だれにもそのことをつたえていない。)

誰にもそのことを伝えていない。

(とうがいほうめんでのはっくつさぎょうをとめさせることはできなかったが、それらはぐうぜん、)

当該方面での発掘作業を止めさせることはできなかったが、それらは偶然、

(およびいどうするすなのおかげでこれまでのところはっけんされずにすんでいる。)

及び移動する砂のおかげでこれまでのところ発見されずにすんでいる。

(いまやわたしはけいとうだててめいかくないけんをのべねばならない)

今や私は系統立てて明確な意見を述べねばならない

(わたしじしんのこころのばらんすのためだけではなく、しんけんによんでくれるかもしれない)

私自身の心のバランスのためだけではなく、真剣に読んでくれるかも知れない

(ほかのほうにけいこくをあたえるためにも。)

他の方に警告を与えるためにも。

(はこれらのぺーじまえのほうのたいはんはそうごうしやかがくしをつぶさによまれているほうには)

はこれらのページ前の方の大半は総合誌や科学誌を具に読まれている方には

(なじみのないようとなろうがをこきょうにむかうせんしつないでしっぴつしている。)

馴染みの内容となろうがを故郷に向かう船室内で執筆している。

(むすこであるみすかとにっくだいがくのうぃんげいとぴーずりーきょうじゅに)

息子であるミスカトニック大学のウィンゲイト・ピーズリー教授に

(わたすことになろうとおいむかし、わたしがきみょうなけんぼうしょうをはっしょうしたあとも)

渡すことになろう遠い昔、私が奇妙な健忘症を発症した後も

(かぞくのなかでただひとりわたしについてきてくれたじんぶつであり、わたしのじれいのないぶてきなじじつ)

家族の中でただ一人私についてきてくれた人物であり、私の事例の内部的な事実

(にもっともつうぎょうしているものである。)

に最も通暁している者である。

(わたしがかたろうとしているしゅくめいてきなよるのことをみながちょうしょうしようと、)

私が語ろうとしている宿命的な夜のことを皆が嘲笑しようと、

(かれだけはそうしないだろう。かかれたぶんしょうとしてじじつをあきらかにされたほうが)

彼だけはそうしないだろう。書かれた文章として事実を明らかにされたほうが

(かれにとってつごうがよかろうとおもったため、しゅっぱんまえにこうとうでそれをつたえることは)

彼にとって都合が良かろうと思ったため、出帆前に口頭でそれを伝えることは

(しなかった。てまをかけてさいどくしてもらえば、わたしのこんらんしたしたがつたええるいじょうに)

しなかった。手間を掛けて再読してもらえば、私の混乱した舌が伝え得る以上に

(なっとくしてもらえるのではないか。このほうこくについてはかれがさいりょうだとはんだんすることを)

納得してもらえるのではないか。この報告については彼が最良だと判断する事を

(なんなりとしてくれればいいてきせつなちゅうしゃくつきで、どこかもくてきをたっするにむいた)

なんなりとしてくれればいい適切な注釈付で、どこか目的を達するに向いた

(へやででもこうかいしてくれれば。わたしのじれいのしょきだんかいをよくごぞんじない)

部屋ででも公開してくれれば。私の事例の初期段階をよくご存じない

(どくしゃしょしのために、しんじじつをあきらかにするまえのじょろんとして、)

読者諸氏のために、新事実を明らかにする前の序論として、

(じゅうぶんなすぺーすをさいてはいけいをようやくすることとしよう。)

十分なスペースを割いて背景を要約することとしよう。

(わたしのなはなさにえるうぃんげいとぴーずりー)

私の名はナサニエル・ウィンゲイト・ピーズリー

(いちせだいまえのしんぶんきじあるいはろくななねんまえのしんりがくしのれたーやろんぶんを)

一世代前の新聞記事あるいは六・七年前の心理学誌のレターや論文を

(おぼえているかたなら、わたしがなにものかわかるだろう。)

覚えている方なら、私が何者か判るだろう。

(ほうどうきじには1908ねんから1913ねんにかけての)

報道記事には一九〇八年から一九一三年にかけての

(わたしのきみょうなけんぼうしょうについてのしょうさいがあふれており、おおくはむかしながらに、)

私の奇妙な健忘症についての詳細が溢れており、多くは昔ながらに、

(きょうふだの、きょうきだの、わたしがとうじからげんざいにいたるまできょをかまえている)

恐怖だの、狂気だの、私が当時から現在に至るまで居を構えている

(まさちゅーせっつのふるいまちにひそむまじょすうはいだのをもりこんでいた。それでもわたしは)

マサチューセッツの古い町に潜む魔女崇拝だのを盛り込んでいた。それでも私は

(じぶんのかけいとぜんはんせいにきょうきやじゃあくのようそがかいむだったことを)

自分の家系と前半生に狂気や邪悪の要素が皆無だったことを

(しっておいてほしいのだ。これはわたしのうえにとつぜんふりかかったかげが)

知っておいて欲しいのだ。これは私の上に突然降り掛かった影が

(がいぶのみなもとからきたものだとかんがえるさいにきわめてじゅうようなじじつである。)

外部の源からきたものだと考える際に極めて重要な事実である。

(うすきみわるいあんこくのすうせいきが、ささやきにつかれたくずれゆくあーかむに、)

薄気味悪い暗黒の数世紀が、囁きに憑かれた崩れゆくアーカムに、

(このしゅのかげにたいするめだったぜいじゃくせいをあたえているのかもしれない)

この種の影に対する目立った脆弱性を与えているのかもしれない

(だがわたしがあとにけんきゅうすることとなったほかのじれいにてらしてかんがえると、)

だが私が後に研究することとなった他の事例に照らして考えると、

(これすらもけしくおもえてくる。しかしここでかんようなのは、わたしのせんぞとはいけいは)

これすらも怪しく思えてくる。しかしここで肝要なのは、私の先祖と背景は

(いずれもことごとくせいじょうだというてんにある。なにかがきた、どこかべつのところからきた)

いずれも悉く正常だという点にある。何かが来た、どこか別の所から来た

(それがどんなところかへいいなことばでめいげんするのをわたしはいまなおためらっている。)

それがどんな所か平易な言葉で明言するのを私は今なお躊躇っている。

(わたしはじょなさんおよびはんな(うぃんげいと)ぴーずりーのむすこであり、)

私はジョナサンおよびハンナ・(ウィンゲイト)・ピーズリーの息子であり、

(りょうしんともけんこうなへーヴぁりるのふるいかけいのしゅっしんだった。わたしがうまれそだったのも)

両親とも健康なヘーヴァリルの古い家系の出身だった。私が生まれ育ったのも

(ごーるでんひるそばのぼーどまんまちにあるふるやしきだった)

ゴールデン・ヒルそばのボードマン街にある古屋敷だった

(いちはちきゅうごねんにせいじけいざいがくのこうしとしてみすかとにっくだいがくにふにんするまで)

一八九五年に政治経済学の講師としてミスカトニック大学に赴任するまで

(あーかむにはきたことがなかった。)

アーカムには来たことがなかった。

(じゅうさんねんいじょうのあいだ、わたしのじんせいはじゅんちょうかつこうふくにすぎた。)

十三年以上の間、私の人生は順調かつ幸福に過ぎた。

(1896ねんにへーヴぁりるのありすきーざーとけっこん、)

一八九六年にヘーヴァリルのアリス・キーザーと結婚、

(さんにんのこども、ろばーと、うぃんげいと、およびはんなが)

三人の子供、ロバート、ウィンゲイト、及びハンナが

(それぞれ1898ねん、1900ねん、1903ねんにたんじょうした。)

それぞれ一八九八年、一九〇〇年、一九〇三年に誕生した。

(1898ねんにじょきょうじゅ、1902ねんにきょうじゅにしょうしんした。)

一八九八年に助教授、一九〇二年に教授に昇進した。

(おかるてぃずむやいじょうしんりがくにはいささかなりときょうみをもったことがなかった。)

オカルティズムや異常心理学にはいささかなりと興味を持ったことがなかった。

(1908ねんごがつじゅうよっかもくようびだった。わたしがきみょうなけんぼうほっさにみまわれたのは。)

一九〇八年五月十四日木曜日だった。私が奇妙な健忘発作に見舞われたのは。

(はっしょうはきゅうせいだったが、あとからふりかえってみると、すうじかんまえからおぼろげなまぼろしが)

発症は急性だったが、後から振り返ってみると、数時間前から朧げな幻が

(みえておりこんとんとしたまぼろしで、ぜんれいがなかったためおおいにとうわくした)

見えており混沌とした幻で、前例がなかったため大いに当惑した

(これがぜんくしょうじょうだったにちがいない。ずつうがあり、とくいなかんじをうけた)

これが前駆症状だったに違いない。頭痛があり、特異な感じを受けた

(まったくけいけんしたことのないかんかくだった)

全く経験したことのない感覚だった

(だれかたにんがじぶんのしこうをうばおうとこころみているかのような。)

誰か他人が自分の思考を奪おうと試みているかのような。

(そっとうしたのはごぜんじゅうじにじゅうぶんごろ、さんねんせいおよびじゃっかんのにねんせいむけに)

卒倒したのは午前十時二十分頃、三年生および若干の二年生向けに

(せいじけいざいがくviけいざいがくのれきしとげんざいのどうこうのくらすをしどうしている)

政治経済学VI経済学の歴史と現在の動向のクラスを指導している

(さいちゅうだった。めのまえにきかいなすがたがあらわれるようになり、)

最中だった。目の前に奇怪な姿が現れるようになり、

(きょうしつでなく、あるぐろてすくなへやのなかにいるようなきがしはじめた。)

教室でなく、あるグロテスクな部屋の中にいるような気がし始めた。

(わたしのしこうとこうぎはしゅだいからそれていき、がくせいたちにはなにか)

私の思考と講義は主題から逸れて行き、学生たちには何か

(じゅうだいなじたいがおきていることがわかった。わたしはいしきをうしない、いすにたおれこみ、)

重大な事態が起きていることが判った。私は意識を失い、椅子に倒れ込み、

(、だれがどうやってもかくせいさせることができなかった。)

、誰がどうやっても覚醒させることができなかった。

(いこう、わたしのせいしんきのうがせいじょうにもどり、)

以降、私の精神機能が正常に戻り、

(ふたたびふつうのせかいのようこうをみるまでにごねんよんかげつとじゅうさんにちというきかんをようしたのだ)

再び普通の世界の陽光を見るまでに五年四ヶ月と十三日という期間を要したのだ

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