盗まれた手紙 - 2 ポオ

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原作:エドガー・アラン・ポオ 訳:佐々木直次郎

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問題文

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(「ところで、いったいどんなじけんがおこっているんですか?」とわたしがたずねた。)

「ところで、一体どんな事件が起っているんですか?」と私が尋ねた。

(「じゃあ、おはなししようか」とそうかんは、たばこのけむりをながく、しっかりと、)

「じゃあ、お話ししようか」と総監は、煙草の煙を長く、確りと、

(かんがえこむようにふかし、じぶんのいすにすわりこんで、こたえた。)

考え込む様に吹かし、自分の椅子に坐り込んで、答えた。

(「てみじかにはなしましょう。だがそのまえにごちゅういねがいたいのは、)

「手短かに話しましょう。だがその前にご注意願いたいのは、

(これはぜったいひみつをようするじけんで、もしぼくがたにんにもらしたことがしれたら、)

これは絶対秘密を要する事件で、若し僕が他人に洩らしたことが知れたら、

(ぼくはおそらくいまのちいをうしなわねばならん、ということです」)

僕は恐らく今の地位を失わねばならん、ということです」

(「まあ、おはじめなさい」とわたしがいった。)

「まあ、お始めなさい」と私が言った。

(「なんなら、およしになっても」とでゅぱんがいった。)

「何なら、お止しになっても」とデュパンが言った。

(「では、はなしましょう。あるこうきのすじからうちうちでぼくにつうちがあって、)

「では、話しましょう。ある高貴の筋から内々で僕に通知があって、

(きゅうていから、ぜったいにじゅうようなあるしょるいがぬすまれたというのです。)

宮廷から、絶対に重要な或る書類が盗まれたというのです。

(ぬすんだとうにんはちゃんとわかっているんだ。それにはうたがいはない。)

盗んだ当人はちゃんと分かっているんだ。それには疑いはない。

(とるところをみられているんだからね。)

取る所を見られているんだからね。

(また、そのおとこがまだそれをもっていることもわかっているのです」)

また、その男がまだそれを持っていることも分かっているのです」

(「それが、どうしてわかっているんです?」とでゅぱんがたずねた。)

「それが、どうして分かっているんです?」とデュパンが尋ねた。

(「それは、そのしょるいのせいしつからと、また、それがぬすんだにんげんのてをはなれると)

「それは、その書類の性質からと、また、それが盗んだ人間の手を離れると

(すぐあらわれるはずのあるけっかがまだあらわれないことから、)

直ぐ現われる筈の或る結果がまだ現われないことから、

(はっきりかんがえられるのです。--つまり、かれがさいごにそれをつかうはずの、)

はっきり考えられるのです。--つまり、彼が最後にそれを使う筈の、

(そのつかいかたからおきるけっかがあらわれていないんでね」とそうかんがこたえた。)

その使い方から起きる結果が現われていないんでね」と総監が答えた。

(「もうすこしはっきりねがいたい」とわたしがいった。)

「もう少しはっきり願いたい」と私が言った。

(「よろしい。じゃあおもいきっていうが、そのぶんしょはそれをもっているものに、)

「宜しい。じゃあ思い切って言うが、その文書はそれを持っている者に、

など

(あるほうめんであるしゅのせいりょくをあたえるのだ。)

或る方面で或る種の勢力を与えるのだ。

(そこではそういうせいりょくはばくだいなかちがあるのです」)

そこではそういう勢力は莫大な価値があるのです」

(そうかんはがいこうようごをつかうのがすきだった。)

総監は外交用語を使うのが好きだった。

(「まだわたしにはすっかりわからんが」とでゅぱんがいった。)

「まだ私にはすっかり分からんが」とデュパンが言った。

(「わからない?よろしい。)

「分からない? 宜しい。

(そのしょるいを、なはいえないがあるだいさんしゃにあばくと、)

その書類を、名は言えないが或る第三者に暴くと、

(あるひじょうにたかいちいのかたのめいよにかかわるのですな。)

或る非常に高い地位の方の名誉に関わるのですな。

(そしてこのじじつは、しょるいのしょじしゃにそのこうきなかたにたいしてけんりょくをふるわせ、)

そしてこの事実は、書類の所持者にその高貴な方に対して権力を揮わせ、

(そのかたのめいよとへいわとがあやうくされているのです」)

その方の名誉と平和とが危うくされているのです」

(「しかしそのけんりょくなるものは」とわたしはごをはさんだ。)

「然しその権力なるものは」と私は語を挟んだ。

(「ぬすまれたひとがぬすんだひとをしっているということを、)

「盗まれた人が盗んだ人を知っているということを、

(そのぬすんだとうにんがしってのことでしょう。だれがそんなひどいことを--」)

その盗んだ当人が知ってのことでしょう。誰がそんな酷いことを--」

(「ところがぬすんだひとというのは」と、g--はいった。)

「ところが盗んだ人というのは」と、G--は言った。

(「おとこらしいことであろうとなかろうと、)

「男らしいことであろうとなかろうと、

(どんなことでもへいきでやるあのd--だいじんですよ。)

どんなことでも平気でやるあのD--大臣ですよ。

(そのぬすみかたは、だいたんであるとともにこうみょうでもあったのです。)

その盗み方は、大胆であると共に巧妙でもあったのです。

(そのしょるいは--うちあけてもうせば、てがみなんですが--そのぬすまれたおかたが、)

その書類は--打ち明けて申せば、手紙なんですが--その盗まれたお方が、

(おうきゅうのおくのまにおひとりでいらしたときにおうけとりになられたものです。)

王宮の奥の間にお一人でいらしたときにお受け取りになられたものです。

(そのごふじんがそれをよんでおいでになるときに、)

そのご婦人がそれを読んでおいでになるときに、

(もうひとりのこうきなかたがふいにはいってこられた。ところが、そのごふじんは、)

もう一人の高貴な方が不意に入って来られた。ところが、そのご婦人は、

(そのてがみをとりわけそのかたにはみせたくないとおもっておられたものなんですな。)

その手紙を取分けその方には見せたくないと思っておられたものなんですな。

(で、いそいでそれをひきだしのなかへおしこもうとされたがだめだったので、)

で、急いでそれを引出しの中へ押し込もうとされたが駄目だったので、

(しかたなしにひらいたままてーぶるのうえにおおきになりました。)

仕方なしに開いたままテーブルの上にお置きになりました。

(でも、あてながいちばんうえになっていて、)

でも、宛名が一番上になっていて、

(したがってないようのところがかくれていたので、)

従って内容の所が隠れていたので、

(てがみはべつにちゅういされずにすんだというわけでした。)

手紙は別に注意されずに済んだという訳でした。

(このときにd--だいじんがはいってきたのです。)

このときにD--大臣が入って来たのです。

(かれのやまねこのようなめはすぐそのてがみをみつけ、あてなのひっせきをみとめ、)

彼の山猫の様な眼は直ぐその手紙を見つけ、宛名の筆蹟を認め、

(それからうけとりにんのかたのろうばいしておられるのをみてとり、)

それから受取人の方の狼狽しておられるのを見てとり、

(そのかたのひみつをしってしまったのですな。)

その方の秘密を知ってしまったのですな。

(いつものようにようむきをてばやくすませると、)

いつもの様に用向きを手早く済ませると、

(かれはれいのてがみといくらかにているいっつうのてがみをとりだして、)

彼は例の手紙と幾らか似ている一通の手紙を取り出して、

(それをひらき、ちょっとよむようなふりをして、)

それを開き、ちょっと読む様な振りをして、

(それからそのもんだいのてがみとぴったりならべておきました。)

それからその問題の手紙とぴったり並べて置きました。

(そしてまた、じゅうごふんばかりこうむについてはなしをする。さてたいしゅつするときに、)

そしてまた、十五分ばかり公務について話をする。さて退出するときに、

(かれはてーぶるからじぶんのものでないてがみをしっけいしていったのですよ。)

彼はテーブルから自分のものでない手紙を失敬して行ったのですよ。

(そのてがみのほんとうのしょゆうしゃはそれをみておられたけれども、)

その手紙の本当の所有者はそれを見ておられたけれども、

(そのだいさんしゃのほうがすぐそばにたっておられるところで、)

その第三者の方が直ぐ側に立っておられるところで、

(もちろん、そのこういをとがめるわけにもゆかなかったんですね。)

勿論、その行為を咎める訳にもゆかなかったんですね。

(だいじんは、じぶんのてがみを--だいじでもなんでもないのを--)

大臣は、自分の手紙を--大事でも何でもないのを--

(てーぶるのうえにのこして、さっさとひきあげたんです」)

テーブルの上に残して、さっさと引き上げたんです」

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