紫式部 源氏物語 末摘花 3 與謝野晶子訳

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 HAKU 7401 7.6 96.8% 443.0 3391 112 52 2024/10/29
2 berry 7335 7.4 98.0% 447.7 3351 67 52 2024/11/02
3 subaru 7182 7.6 94.3% 440.5 3366 202 52 2024/10/31
4 おもち 7068 7.3 95.9% 459.5 3390 142 52 2024/10/29
5 りつ 4254 C+ 4.4 94.9% 772.8 3472 184 52 2024/10/31

問題文

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(おんなぐらしのいえのざしきのものおとをききたいようにおもってげんじはしずかに)

女暮らしの家の座敷の物音を聞きたいように思って源氏は静かに

(にわへでたのである。だいぶぶんはくちてしまったあとのすこしのこったすいがきの)

庭へ出たのである。大部分は朽ちてしまったあとの少し残った透垣の

(からだがかくせるほどのかげへげんじがよっていくと、そこにいぜんから)

からだが隠せるほどの蔭へ源氏が寄って行くと、そこに以前から

(たっていたおとこがある。だれであろうにょおうにこいをするすきものがあるのだとおもって、)

立っていた男がある。だれであろう女王に恋をする好色男があるのだと思って、

(くらいほうへかくれてたっていた。はじめからにわにいたのはとうのちゅうじょうなのである。)

暗いほうへ隠れて立っていた。初めから庭にいたのは頭中将なのである。

(きょうもゆうがたごしょをどうじにたいしゅつしながら、げんじがさだいじんけへもいかず、)

今日も夕方御所を同時に退出しながら、源氏が左大臣家へも行かず、

(にじょうのいんへもかえらないで、みょうにとちゅうでわかれていったのをみたちゅうじょうが、)

二条の院へも帰らないで、妙に途中で別れて行ったのを見た中将が、

(ふしんをおこして、じしんのほうにもいくいえがあったのをいかずに、げんじのあとに)

不審を起こして、自身のほうにも行く家があったのを行かずに、源氏のあとに

(ついてきたのである。わざとひんじゃくなうまにのってかりぎぬすがたをしていたちゅうじょうに)

ついて来たのである。わざと貧弱な馬に乗って狩衣姿をしていた中将に

(げんじはきづかなかったのであったが、こんなおもいがけないやしきへはいったのがまた)

源氏は気づかなかったのであったが、こんな思いがけない邸へはいったのがまた

(ちゅうじょうのふしんをばいにして、たちさることができなかったころに、ことをひくねが)

中将の不審を倍にして、立ち去ることができなかったころに、琴を弾く音が

(してきたので、それにこころもひかれてにわにたちながら、いっぽうではげんじの)

してきたので、それに心も惹かれて庭に立ちながら、一方では源氏の

(でてくるのをまっていた。げんじはまだだれであるかにきがつかないで、)

出て来るのを待っていた。源氏はまだだれであるかに気がつかないで、

(かおをみられまいとしてぬきあしをしてにわをはなれようとするときにそのおとこが)

顔を見られまいとして抜き足をして庭を離れようとする時にその男が

(ちかづいてきていった。 「わたくしをおまきになったのがうらめしくて、)

近づいて来て言った。 「私をお撒きになったのが恨めしくて、

(こうしておおくりしてきたのですよ。 )

こうしてお送りしてきたのですよ。

(もろともにおおうちやまはいでつれどいるかたみせぬいざよいのつき」 )

もろともに大内山は出でつれど入る方見せぬいざよひの月」

(さもひみつをみあらわしたようにとくいになっていうのがはらだたしかったが、)

さも秘密を見現わしたように得意になって言うのが腹だたしかったが、

(げんじはとうのちゅうじょうであったことにあんしんもされ、おかしくなりもした。)

源氏は頭中将であったことに安心もされ、おかしくなりもした。

(「そんなしっけいなことをするものはあなたのほかにありませんよ」)

「そんな失敬なことをする者はあなたのほかにありませんよ」

など

(にくらしがりながらまたいった。 )

憎らしがりながらまた言った。

(「さとわかぬかげをみれどもゆくつきのいるさのやまをたれかたづぬる )

「里分かぬかげを見れども行く月のいるさの山を誰かたづぬる

(こんなふうにわたくしがしじゅうあなたについてあるいたらおこまりになるでしょう、)

こんなふうに私が始終あなたについて歩いたらお困りになるでしょう、

(あなたはね」 「しかし、こいのせいこうはよいずいしんをつれていくかいかないかで)

あなたはね」 「しかし、恋の成功はよい随身をつれて行くか行かないかで

(きまることもあるでしょう。これからはごいっしょにおつれください。)

決まることもあるでしょう。これからはごいっしょにおつれください。

(おひとりあるきはきけんですよ」 とうのちゅうじょうはこんなことをいった。)

お一人歩きは危険ですよ」 頭中将はこんなことを言った。

(とうのちゅうじょうにとくいがられていることをげんじはざんねんにもおもったが、あのなでしこのおんなが)

頭中将に得意がられていることを源氏は残念にも思ったが、あの撫子の女が

(じしんのものになったことをちゅうじょうがしらないことだけがないしんにはほこらしかった。)

自身のものになったことを中将が知らないことだけが内心には誇らしかった。

(げんじにもとうのちゅうじょうにもだいにのゆくさきはきまっていたが、)

源氏にも頭中将にも第二の行く先は決まっていたが、

(じょうだんをいいあっていることがおもしろくて、わかれられずにひとつのくるまにのって、)

戯談を言い合っていることがおもしろくて、別れられずに一つの車に乗って、

(おぼろづきよのくらくなったじぶんにさだいじんけにきた。ぜんくにこえもたてさせずに、)

朧月夜の暗くなった時分に左大臣家に来た。前駆に声も立てさせずに、

(そっとはいって、ひとのこないろうのへやでのうしにきかえなどしてから、)

そっとはいって、人の来ない廊の部屋で直衣に着かえなどしてから、

(そしらぬかおで、いまきたようにふえをふきあいながらげんじのすんでいるほうへ)

素知らぬ顔で、今来たように笛を吹き合いながら源氏の住んでいるほうへ

(きたのである。そのねにうながされたようにさだいじんはこまぶえをもってきて)

来たのである。その音に促されたように左大臣は高麗笛を持って来て

(げんじへおくった。そのふえもげんじはとくいであったからおもしろくふいた。)

源氏へ贈った。その笛も源氏は得意であったからおもしろく吹いた。

(がっそうのためにことももちだされてにょうぼうのなかでもおんがくのできるひとたちがえらばれて)

合奏のために琴も持ち出されて女房の中でも音楽のできる人たちが選ばれて

(ひきてになった。びわがじょうずであるちゅうじょうというにょうぼうは、)

弾き手になった。琵琶が上手である中将という女房は、

(とうのちゅうじょうにこいをされながら、それにはなびかないで、このたまさかにしかこない)

頭中将に恋をされながら、それにはなびかないで、このたまさかにしか来ない

(げんじのこころにはたやすくしたがってしまったおんなであって、げんじとのかんけいが)

源氏の心にはたやすく従ってしまった女であって、源氏との関係が

(すぐにしれて、このごろはだいじんのふじんのないしんのうさまもちゅうじょうをこころよくおおもいに)

すぐに知れて、このごろは大臣の夫人の内親王様も中将を快くお思いに

(ならなくなったのにひかんして、きょうもなかまからはなれてものかげでよこになっていた。)

ならなくなったのに悲観して、今日も仲間から離れて物蔭で横になっていた。

(げんじをみるきかいのないところへいってしまうのもさすがにこころぼそくて、)

源氏を見る機会のない所へ行ってしまうのもさすがに心細くて、

(はんもんをしているのである。がくおんのなかにいながらふたりのきこうしはあのあれやしきの)

煩悶をしているのである。楽音の中にいながら二人の貴公子はあの荒れ邸の

(ことのねをおもいだしていた。ひどくなったいえもおもしろいもののようにばかり)

琴の音を思い出していた。ひどくなった家もおもしろいもののようにばかり

(おもわれて、くうそうがさまざまにのびていく。かれんなびじんが、あのいえのなかで)

思われて、空想がさまざまに伸びていく。可憐な美人が、あの家の中で

(まいぼつされたようになってくらしていたあとで、はっけんしゃのじぶんのじょうじんに)

埋没されたようになって暮らしていたあとで、発見者の自分の情人に

(そのひとがなったら、じぶんはまたそのひとのあいにおぼれてしまうかもしれない。)

その人がなったら、自分はまたその人の愛におぼれてしまうかもしれない。

(それでほうぼうでぶつぎがおこることになったらまたちょっとじぶんはこまるであろう)

それで方々で物議が起こることになったらまたちょっと自分は困るであろう

(などとまでとうのちゅうじょうはおもった。げんじがけっしてただのきもちであのやしきを)

などとまで頭中将は思った。源氏が決してただの気持ちであの邸を

(ほうもんしたのではないことだけはたしかである。さきをこすのは)

訪問したのではないことだけは確かである。先を越すのは

(このひとであるかもしれないとおもうと、とうのちゅうじょうはくちおしくて、)

この人であるかもしれないと思うと、頭中将は口惜しくて、

(じしんのきたいがあぶなかしいようにもおもわれた。)

自身の期待が危かしいようにも思われた。

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