紫式部 源氏物語 紅葉賀 6 與謝野晶子訳
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問題文
(げんじはごしょからさだいじんけのほうへたいしゅつした。れいのようにふじんからは)
源氏は御所から左大臣家のほうへ退出した。例のように夫人からは
(たかいところからたじょうおとこをみくだしているというようなよそよそしいたいどを)
高いところから多情男を見くだしているというようなよそよそしい態度を
(とられるのがくるしくて、げんじは、 「せめてことしからでもあなたがあたたかいこころで)
とられるのが苦しくて、源氏は、 「せめて今年からでもあなたが暖かい心で
(わたくしをみてくれるようになったらうれしいとおもうのだが」 といったが、)
私を見てくれるようになったらうれしいと思うのだが」 と言ったが、
(ふじんは、にじょうのいんへあるじょせいがむかえられたということをきいてからは、)
夫人は、二条の院へある女性が迎えられたということを聞いてからは、
(ほんていへおくほどのひとはげんじのもっともあいするひとで、やがてはせいふじんとして)
本邸へ置くほどの人は源氏の最も愛する人で、やがては正夫人として
(こうひょうするだけのよういがあるひとであろうとねたんでいた。じそんしんの)
公表するだけの用意がある人であろうとねたんでいた。自尊心の
(きずつけられていることはもとよりである。しかもなにもきづかないふうで、)
傷つけられていることはもとよりである。しかも何も気づかないふうで、
(じょうだんをいいかけていきなどするげんじにまけて、よぎなくへんじをするようすなどに)
戯談を言いかけて行きなどする源氏に負けて、余儀なく返辞をする様子などに
(みりょくがなくはなかった。よっつほどのとしうえであることをふじんじしんでもきまずく)
魅力がなくはなかった。四歳ほどの年上であることを夫人自身でもきまずく
(はずかしくおもっているが、びのととのったおんなざかりのきじょであることはげんじも)
恥ずかしく思っているが、美の整った女盛りの貴女であることは源氏も
(みとめているのである。どこにけってんもないつまをもっていて、ただじぶんのたじょうから)
認めているのである。どこに欠点もない妻を持っていて、ただ自分の多情から
(このひとにうらみをおうようなおろかものになっているのだとこんなふうにも)
この人に怨みを負うような愚か者になっているのだとこんなふうにも
(げんじはおもった。おなじだいじんでもとくにおおきなけんりょくしゃであるげんだいのさだいじんがちちで、)
源氏は思った。同じ大臣でも特に大きな権力者である現代の左大臣が父で、
(ないしんのうであるふじんからうまれたゆいいつのむすめであるから、おもいあがったせいしつに)
内親王である夫人から生まれた唯一の娘であるから、思い上がった性質に
(できあがっていて、すこしでもけいいのたりないとりあつかいをうけては、ゆるすことが)
でき上がっていて、少しでも敬意の足りない取り扱いを受けては、許すことが
(できない。みかどのまなごとしてそだったげんじのじふはそれをむししてよいとおしえた。)
できない。帝の愛子として育った源氏の自負はそれを無視してよいと教えた。
(こんなことがふさいのみぞをつくっているものらしい。さだいじんもにじょうのいんのしんふじんの)
こんなことが夫妻の溝を作っているものらしい。左大臣も二条の院の新夫人の
(けんなどがあって、たのもしくないむこぎみのこころをうらめしがりもしていたが、あえば)
件などがあって、頼もしくない婿君の心をうらめしがりもしていたが、逢えば
(うらみもなにもわすれてげんじをあいした。いまもあらゆるかんたいをつくすのである。)
恨みも何も忘れて源氏を愛した。今もあらゆる歓待を尽くすのである。
(よくあさげんじがでていこうとするときに、だいじんはしょうぞくをつけているげんじに、ゆうめいな)
翌朝源氏が出て行こうとする時に、大臣は装束を着けている源氏に、有名な
(ほうもつになっているいしのおびをじしんでもってきておくった。せいそうしたげんじのすがたをみて、)
宝物になっている石の帯を自身で持って来て贈った。正装した源氏の形を見て、
(うしろのほうをてでひいてなおしたりなどだいじんはしていた。くつもてでとらない)
後ろのほうを手で引いて直したりなど大臣はしていた。沓も手で取らない
(ばかりである。むすめをおもうおやごころがげんじのこころをうった。 「こんないいのは、)
ばかりである。娘を思う親心が源氏の心を打った。 「こんないいのは、
(きゅうちゅうのしかいがあるでしょうから、そのときにつかいましょう」)
宮中の詩会があるでしょうから、その時に使いましょう」
(とおくりもののおびについていうと、 「それにはまたもっといいのがございます。)
と贈り物の帯について言うと、 「それにはまたもっといいのがございます。
(これはただちょっとめずらしいだけのものです」 といって、だいじんはしいて)
これはただちょっと珍しいだけの物です」 と言って、大臣はしいて
(それをつかわせた。このむこぎみをかしずくことにだいじんはいきがいをかんじていた。)
それを使わせた。この婿君を斎くことに大臣は生きがいを感じていた。
(たまさかにもせよむことしてこのひとをでいりさせていればこうふくかんはじゅうぶん)
たまさかにもせよ婿としてこの人を出入りさせていれば幸福感は十分
(だいじんにあるであろうとみえた。)
大臣にあるであろうと見えた。