紫式部 源氏物語 花散里 1 與謝野晶子訳

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1 subaru 7951 8.1 97.2% 329.0 2693 77 42 2024/12/13
2 HAKU 7869 8.0 97.6% 336.0 2710 66 42 2024/12/09
3 おもち 7654 7.9 96.7% 340.2 2696 92 42 2024/12/12
4 だだんどん 6409 S 6.9 92.2% 384.3 2688 225 42 2024/12/08
5 りく 6068 A++ 6.2 97.8% 441.6 2740 60 42 2024/12/11

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問題文

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(たちばなもこいのうれいもちりかえばかをなつ かしみほととぎすなく   (あきこ))

橘も恋のうれひも散りかへば香をなつ かしみほととぎす鳴く   (晶子)

(みずからもとめてしているれんあいのくはむかしもこのごろもかわらないげんじであるが、)

みずから求めてしている恋愛の苦は昔もこのごろも変わらない源氏であるが、

(ほかからうけるしのびがたいあっぱくがちかごろになってますますくわわるばかりで)

ほかから受ける忍びがたい圧迫が近ごろになってますます加わるばかりで

(あったから、こころぼそくて、にんげんのせいかつというものからのがれたいよっきゅうもおこるが、)

あったから、心細くて、人間の生活というものからのがれたい欲求も起こるが、

(さてそうもならないほだしはいくつもあった。 れいげいでんのにょごといわれたかたは)

さてそうもならない絆は幾つもあった。 麗景殿の女御といわれた方は

(おうしじょもなくて、いんがおかくれになっていごはまったくたよりないみのうえに)

皇子女もなくて、院がお崩れになって以後はまったくたよりない身の上に

(なっているのであるが、げんじのきみのこういでせいかつはしていた。このひとのいもうとの)

なっているのであるが、源氏の君の好意で生活はしていた。この人の妹の

(さんのきみとげんじはわかいじだいにれんあいをした。れいのせいかくからかんけいをたつこともなく、)

三の君と源氏は若い時代に恋愛をした。例の性格から関係を絶つこともなく、

(またふじんとしてたいぐうすることもなしにまれまれかよっているのである。)

また夫人として待遇することもなしにまれまれ通っているのである。

(おんなとしてははんもんをすることのおおいきょうぐうである。ものあわれなこころもちになっている)

女としては煩悶をすることの多い境遇である。物哀れな心持ちになっている

(このごろのげんじは、きゅうにそのひとをとうてやりたくなったこころは)

このごろの源氏は、急にその人を訪うてやりたくなった心は

(おさえきれないほどのものだったから、さみだれのめずらしいはれまにいった。)

おさえきれないほどのものだったから、五月雨の珍しい晴れ間に行った。

(めだたないにんずうをしたがえて、ことさらかんそなふうをしてでかけたのである。)

目だたない人数を従えて、ことさら簡素なふうをして出かけたのである。

(なかがわへんをとおっていくと、ちいさいながらにわきのしげりようなどの)

中川辺を通って行くと、小さいながら庭木の繁りようなどの

(おもしろくみえるいえで、よいおとのすることをわごんにあわせてはでにひくおとがした。)

おもしろく見える家で、よい音のする琴を和琴に合わせて派手に弾く音がした。

(げんじはちょっとこころがひかれて、おうらいにもちかいたてもののことであるから、)

源氏はちょっと心が惹かれて、往来にも近い建物のことであるから、

(なおよくきこうと、すこしからだをくるまからだしてながめてみると、そのいえのたいぼくの)

なおよく聞こうと、少しからだを車から出してながめて見ると、その家の大木の

(かつらのはのにおいがかぜにおくられてきて、かものまつりのころがおもわれた。)

桂の葉のにおいが風に送られて来て、加茂の祭りのころが思われた。

(なんとなくこうきしんのひかれるいえであるとおもって、かんがえてみると、)

なんとなく好奇心の惹かれる家であると思って、考えてみると、

(それはただいちどだけきたことのあるおんなのいえであった。ながくかえりみなかったじぶんが)

それはただ一度だけ来たことのある女の家であった。長く省みなかった自分が

など

(たずねていっても、もうわすれているかもしれないがなどとおもいながらも、)

訪ねて行っても、もう忘れているかもしれないがなどと思いながらも、

(とおりすぎるきにはなれないで、じっとそのいえをみているときに)

通り過ぎる気にはなれないで、じっとその家を見ている時に

(ほととぎすがないてとおった。げんじになにごとかをうながすようであったから、)

杜鵑が啼いて通った。源氏に何事かを促すようであったから、

(くるまをひきかえさせて、こんなやくになれたこれみつをつかいにやった。 )

車を引き返させて、こんな役に馴れた惟光を使いにやった。

(おちかえりえぞしのばれぬほととぎすほのかたらいしやどのかきねに )

をちかへりえぞ忍ばれぬ杜鵑ほの語らひし宿の垣根に

(このうたをいわせたのである。これみつがはいっていくと、)

この歌を言わせたのである。惟光がはいって行くと、

(このいえのしんでんともいうようなところのにしのはしのざしきににょうぼうたちがあつまって、)

この家の寝殿ともいうような所の西の端の座敷に女房たちが集まって、

(なにかはなしをしていた。いぜんにもこうしたつかいにきて、)

何か話をしていた。以前にもこうした使いに来て、

(ききおぼえのあるこえであったから、これみつはこえをかけてからげんじのうたをつたえた。)

聞き覚えのある声であったから、惟光は声をかけてから源氏の歌を伝えた。

(ざしきのなかでわかいにょうぼうたちらしいこえでなにかささやいている。)

座敷の中で若い女房たちらしい声で何かささやいている。

(だれのおとずれであるかがわからないらしい。 )

だれの訪れであるかがわからないらしい。

(ほととぎすかたらうこえはそれながらあなおぼつかなさみだれのそら )

ほととぎす語らふ声はそれながらあなおぼつかな五月雨の空

(こんなへんかをするのは、わからないふうをわざとつくっているらしいので、)

こんな返歌をするのは、わからないふうをわざと作っているらしいので、

(「ではまちがいなのでしょうよ」 とこれみつがいって、でていくのを、)

「では間違いなのでしょうよ」 と惟光が言って、出て行くのを、

(あるじのおんなだけはこころのなかでくやしくおもい、さびしくもおもった。)

主人の女だけは心の中でくやしく思い、寂しくも思った。

(しらぬふりをしなければならないのであろう、もっともであると)

知らぬふりをしなければならないのであろう、もっともであると

(げんじはおもいながらもものたらぬきがした。このおんなとおなじほどのかいきゅうのおんなとしては)

源氏は思いながらも物足らぬ気がした。この女と同じほどの階級の女としては

(きゅうしゅうにいっているごせちがかれんであったとげんじはおもった。どんなところにも)

九州に行っている五節が可憐であったと源氏は思った。どんな所にも

(げんじのこころをひくものがあって、それがそれそうおうにげんじをなやましているのである。)

源氏の心を惹くものがあって、それがそれ相応に源氏を悩ましているのである。

(ながいじかんをなかにおいていても、おなじようにあいし、おなじようにあいされようと)

長い時間を中に置いていても、同じように愛し、同じように愛されようと

(のぞんでいて、たすうのおんなのものおもいのげんいんはげんじからあたえられているとも)

望んでいて、多数の女の物思いの原因は源氏から与えられているとも

(いえるのである。)

言えるのである。

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