『怪人二十面相』江戸川乱歩6
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(そうたろうしはこわいかおをして、むすこをにらみつけながら、)
壮太郎氏は怖い顔をして、息子をにらみつけながら、
(よびりんをおすために、へやのいっぽうのかべにちかづこうと)
呼び鈴を押すために、部屋の一方の壁に近づこうと
(しました。「はしばさん、あなたこそうごいては)
しました。「羽柴さん、あなたこそ動いては
(いけませんね」おどろいたことに、こがちちをはしばさんと)
いけませんね」驚いたことに、子が父を羽柴さんと
(よびました。そして、ぽけっとからこがたのぴすとるを)
呼びました。そして、ポケットから小型のピストルを
(とりだすと、そのてをひくくわきにあてて、)
取り出すと、その手を低く脇にあてて、
(じっとおとうさんにねらいをさだめたでは)
ジッとお父さんにねらいをさだめたでは
(ありませんか。かおは、やっぱりにやにやとわらっている)
ありませんか。顔は、やっぱりニヤニヤと笑っている
(のです。そうたろうしはぴすとるをみると、)
のです。 壮太郎氏はピストルを見ると、
(たちすくんだまま、うごけなくなりました。)
立ちすくんだまま、動けなくなりました。
(「ひとをよんではいけません。こえをたてれば、ぼくは)
「人を呼んではいけません。声をたてれば、ぼくは
(かまわずひきがねをひきますよ」「きさまは、いったい)
構わず引き金を引きますよ」「貴様は、一体
(なにものだ。もしや」「ははは、やっとおわかりに)
何者だ。もしや」「ハハハ、やっとお分かりに
(なったようですね。ごあんしんなさい。ぼくは、)
なったようですね。ご安心なさい。ぼくは、
(あなたのむすこの、そういちくんじゃありません。)
あなたの息子の、壮一君じゃありません。
(おさっしのとおり、あなたがたがにじゅうめんそうとよんでいる)
お察しの通り、あなた方が二十面相と呼んでいる
(とうぞくです」そうたろうしはおばけでもみるように、)
盗賊です」 壮太郎氏はオバケでも見るように、
(あいてのかおをみつめました。どうしても、とけない)
相手の顔を見つめました。どうしても、とけない
(なぞがあったからです。では、あのぼるねおとうからの)
ナゾがあったからです。では、あのボルネオ島からの
(てがみは、だれがかいたのだ。あのしゃしんは、だれの)
手紙は、だれが書いたのだ。あの写真は、だれの
(しゃしんなのだ。「ははは、にじゅうめんそうはどうわのなかの)
写真なのだ。「ハハハ、二十面相は童話の中の
(まほうつかいです。だれにもできないことを、)
魔法使いです。だれにも出来ないことを、
(じっこうしてみせるのです。はしばさん、だいやもんどを)
実行してみせるのです。羽柴さん、ダイヤモンドを
(ちょうだいしたおれいに、たねあかしをしましょうか」)
ちょうだいしたお礼に、タネ明かしをしましょうか」
(あやしいせいねんはみのきけんをしらぬように、)
怪しい青年は身の危険を知らぬように、
(おちつきはらってせつめいしました。「ぼくは、そういちくんが)
落ちつき払って説明しました。「ぼくは、壮一君が
(ゆくえふめいになっていることをさぐりだしました。)
行方不明になっていることを探り出しました。
(そして、いえでするいぜんのしゃしんもてにいれました。)
そして、家出する以前の写真も手に入れました。
(そしてじゅうねんのあいだに、そういちくんがどんなかおに)
そして十年のあいだに、壮一君がどんな顔に
(かわるかということをそうぞうして、まあ、こんなかおを)
変わるかということを想像して、まあ、こんな顔を
(つくりあげたのです」かれはそういって、じぶんの)
作りあげたのです」 彼はそう言って、自分の
(ほおをぴたぴたとたたいてみせました。「ですから、)
頬をピタピタと叩いてみせました。「ですから、
(あのしゃしんはほかでもない、このぼくのしゃしんなのです。)
あの写真は他でもない、このぼくの写真なのです。
(てがみもぼくがかきました。そして、ぼるねおとうにいる)
手紙もぼくが書きました。そして、ボルネオ島に居る
(ぼくのともだちに、あのてがみとしゃしんをおくって、そこから)
ぼくの友だちに、あの手紙と写真を送って、そこから
(あなたあてにゆうそうさせたわけですよ。おきのどくですが、)
あなた宛に郵送させた訳ですよ。お気の毒ですが、
(そういちくんはいまだにゆくえふめいなのです。ぼるねおとう)
壮一君はいまだに行方不明なのです。ボルネオ島
(なんかにいやしないのです。あれはすっかり、)
なんかに居やしないのです。あれはすっかり、
(はじめからおしまいまで、このにじゅうめんそうのしくんだ)
始めからお終いまで、この二十面相の仕組んだ
(おしばいですよ」はしばけのひとびとは、おとうさまも)
お芝居ですよ」 羽柴家の人々は、お父さんも
(おかあさまも、なつかしいちょうなんがかえったという)
お母さんも、懐かしい長男が帰ったという
(よろこびにこうふんして、そこにこんなおそろしい)
喜びに興奮して、そこにこんな恐ろしい
(からくりがあろうとは、まったくおもいも)
カラクリがあろうとは、まったく思いも
(およばなかったのでした。「ぼくはにんじゅつつかいです」)
及ばなかったのでした。「ぼくは忍術使いです」
(にじゅうめんそうは、さもとくいらしくつづけました。)
二十面相は、さも得意らしく続けました。
(「わかりますか。ほら、さっきのぴんぽんのたまです。)
「分かりますか。ほら、さっきのピンポンの玉です。
(あれがにんじゅつのたねなんです。あれは、ぼくが)
あれが忍術のタネなんです。あれは、ぼくが
(ぽけっとからじゅうたんのうえにほうりだした)
ポケットからじゅうたんの上に放りだした
(のですよ。あなたはすこしのあいだ、たまにきを)
のですよ。あなたは少しのあいだ、玉に気を
(とられていました。つくえのしたをのぞきこんだり)
とられていました。机の下をのぞきこんだり
(しました。そのすきに、ほうせきばこのなかから)
しました。その隙に、宝石箱の中から
(だいやもんどをとりだすのは、なんのぞうさも)
ダイヤモンドを取り出すのは、何の造作も
(ないことでした。ははは、では、さようなら」)
ないことでした。ハハハ、では、さようなら」
(ぞくはぴすとるをかまえながら、あとずさりをして、)
賊はピストルを構えながら、あとずさりをして、
(ひだりてでかぎあなにはめたままになっていたかぎを)
左手でカギ穴にはめたままになっていたカギを
(まわし、さっとどあをひらくと、ろうかへとびだし)
回し、サッとドアをひらくと、廊下へ飛び出し
(ました。ろうかには、にわにめんしたまどがあります。)
ました。 廊下には、庭に面した窓があります。
(ぞくは、そのかけがねをはずしてがらすどをひらき、)
賊は、その掛け金を外してガラス戸をひらき、
(ひらりとまどわくにまたがったかとおもうと、)
ヒラリと窓枠にまたがったかと思うと、
(「これ、そうじくんのおもちゃにしてください。)
「これ、壮二君のオモチャにしてください。
(ぼくはひとごろしなんてしませんよ」といいながら、)
ぼくは人殺しなんてしませんよ」と言いながら、
(ぴすとるをへやのなかへなげこんで、そのまますがたを)
ピストルを部屋の中へ投げこんで、そのまま姿を
(けしてしまいました。にかいからにわへとびおりた)
消してしまいました。二階から庭へ飛び降りた
(のです。そうたろうしは、またしてもだしぬかれました。)
のです。 壮太郎氏は、またしても出し抜かれました。
(ぴすとるはおもちゃだったのです。さっきまで)
ピストルはオモチャだったのです。さっきまで
(おもちゃのぴすとるにおびえて、ひとをよぶことも)
オモチャのピストルにおびえて、人を呼ぶことも
(できなかったのです。しかし、どくしゃしょくんは)
出来なかったのです。しかし、読者諸君は
(おぼえているでしょう。ぞくのとびおりたまどというのは、)
覚えているでしょう。賊の飛び降りた窓というのは、
(しょうねんのそうじくんがゆめにみた、あのまどです。そのしたには、)
少年の壮二君が夢に見た、あの窓です。その下には、
(そうじくんがしかけておいたてつのわなが、)
壮二君が仕掛けておいた鉄の罠が、
(のこぎりのようなくちをひらいて、えものを)
ノコギリのような口をひらいて、獲物を
(まちかまえているのです。ゆめはまさゆめでした。)
待ち構えているのです。夢は正夢でした。
(すると、もしかしたら、あのわなもなにかのやくに)
すると、もしかしたら、あの罠も何かの役に
(たつのではないでしょうか。)
たつのではないでしょうか。
(「いけのなか」)
「池の中」
(ぞくがぴすとるをなげだして、そとへとびおりたのを)
賊がピストルを投げだして、外へ飛び降りたのを
(みると、そうたろうしはすぐさままどのところへかけつけ、)
見ると、壮太郎氏はすぐさま窓の所へ駆けつけ、
(くらいにわをみおろしました。くらいといっても、)
暗い庭を見おろしました。 暗いといっても、
(にわにはところどころ、こうえんのがいとうのようなものがついている)
庭には所々、公園の外灯のような物がついている
(ので、ひとのすがたがみえないほどではありません。)
ので、人の姿が見えないほどではありません。
(ぞくはとびおりたひょうしに、いちどたおれたようす)
賊は飛び降りた拍子に、一度倒れた様子
(ですが、すぐむくむくとおきあがって、)
ですが、すぐムクムクと起き上がって、
(ひじょうないきおいでかけだしました。ところがあんのじょう、)
非常な勢いで駆けだしました。ところが案の定、
(かれはれいのかだんへとびこんだのです。)
彼は例の花壇へ飛び込んだのです。
(そしてに、さんぽ、かだんのなかをはしったかとおもうと、)
そして二、三歩、花壇の中を走ったかと思うと、
(たちまち、がちゃんというはげしいきんぞくのおとがして、)
たちまち、ガチャンという激しい金属の音がして、
(ぞくのくろいかげは、もんどりうってたおれました。)
賊の黒い影は、もんどり打って倒れました。
(「だれかいないか。ぞくだ、ぞく。にわへまわれ」)
「だれか居ないか。賊だ、賊。庭へまわれ」
(そうたろうしがおおごえにどなりました。もし、わなが)
壮太郎氏が大声にどなりました。もし、罠が
(なかったら、すばやいぞくは、とっくににげさって)
なかったら、素早い賊は、とっくに逃げ去って
(いたことでしょう。そうじくんのこどもらしい)
いたことでしょう。壮二君の子どもらしい
(おもいつきがぐうぜん、こうをそうしたのです。ぞくが、わなを)
思いつきが偶然、功を奏したのです。賊が、罠を
(はずそうと、もがいているあいだに、しほうから)
外そうと、もがいているあいだに、四方から
(ひとびとがかけつけました。せびろふくのおまわりさんたち、)
人々が駆けつけました。背広服のお巡りさんたち、
(ひしょたち、それからうんてんしゅ、そうぜいしちにんです。)
秘書たち、それから運転手、総勢七人です。
(そうたろうしもいそいでかいだんをおり、こんどうろうじんとともに)
壮太郎氏も急いで階段を下り、近藤老人と共に
(かいかのまどから、かいちゅうでんとうをにわにむけててだすけ)
階下の窓から、懐中電灯を庭に向けて手助け
(しました。ただ、みょうにおもわれたのは、)
しました。ただ、みょうに思われたのは、
(せっかくかったもうけんのじょんが、このさわぎに)
せっかく買った猛犬のジョンが、この騒ぎに
(すがたをあらわさないことでした。)
姿を現わさないことでした。