紫式部 源氏物語 明石 3 與謝野晶子訳

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問題文
(うみにますかみのたすけにかからずはしおのやおあいにさすらえなまし )
海にます神のたすけにかからずは潮の八百会にさすらへなまし
(とげんじはくちにした。しゅうじつかぜのもみぬいたいえにいたのであるから、)
と源氏は口にした。終日風の揉み抜いた家にいたのであるから、
(げんじもひろうしておもわずねむった。ひどいばしょであったから、)
源氏も疲労して思わず眠った。ひどい場所であったから、
(よこになったのではなく、ただものによりかかってみるゆめに、)
横になったのではなく、ただ物によりかかって見る夢に、
(おなくなりになったいんがはいっておいでになったかとおもうと、)
お亡くなりになった院がはいっておいでになったかと思うと、
(すぐそこへおたちになって、 「どうしてこんなひどいところにいるか」)
すぐそこへお立ちになって、 「どうしてこんなひどい所にいるか」
(こうおいいになりながら、げんじのてをとってひきたてようとあそばされる。)
こうお言いになりながら、源氏の手を取って引き立てようとあそばされる。
(「すみよしのかみがみちびいてくださるのについて、はやくこのうらをさってしまうがよい」)
「住吉の神が導いてくださるのについて、早くこの浦を去ってしまうがよい」
(とおおせられる。げんじはうれしくて、 「へいかとおわかれいたしましてからは、)
と仰せられる。源氏はうれしくて、 「陛下とお別れいたしましてからは、
(いろいろとかなしいことばかりがございますからわたくしはもう)
いろいろと悲しいことばかりがございますから私はもう
(このかいがんでしのうかとおもいます」 「とんでもない。これはね、)
この海岸で死のうかと思います」 「とんでもない。これはね、
(ただおまえがうけるちょっとしたことのむくいにすぎないのだ。)
ただおまえが受けるちょっとしたことの報いにすぎないのだ。
(わたくしはくらいにいるあいだにかしつもなかったつもりであったが、おかしたつみがあって、)
私は位にいる間に過失もなかったつもりであったが、犯した罪があって、
(そのつみのつぐないをするあいだはいそがしくてこのよをかえりみるひまがなかったのだが、)
その罪の贖いをする間は忙しくてこの世を顧みる暇がなかったのだが、
(おまえがひじょうにふこうで、かなしんでいるのをみるとたえられなくて、)
おまえが非常に不幸で、悲しんでいるのを見ると堪えられなくて、
(うみのなかをきたり、うみべをとおったりまったくこまったがやっとここまで)
海の中を来たり、海べを通ったりまったく困ったがやっとここまで
(くることができた。このついでにへいかへもうしあげることがあるから、)
来ることができた。このついでに陛下へ申し上げることがあるから、
(すぐにきょうへゆく」 とおおせになってそのままいっておしまいになろうとした。)
すぐに京へ行く」 と仰せになってそのまま行っておしまいになろうとした。
(げんじはかなしくて、 「わたくしもおともしてまいります」)
源氏は悲しくて、 「私もお供してまいります」
(となきいって、ちちみかどのおかおをみあげようとしたときに、ひととはみえないで、)
と泣き入って、父帝のお顔を見上げようとした時に、人とは見えないで、
(つきのかおだけがきらきらとしてまえにあった。げんじはゆめとはおもわれないで、)
月の顔だけがきらきらとして前にあった。源氏は夢とは思われないで、
(まだなごりがそこらにただよっているようにおもわれた。そらのくもがみにしむように)
まだ名残がそこらに漂っているように思われた。空の雲が身にしむように
(うごいてもいるのである。ながいあいだゆめのなかでみることもできなかったこいしいちちみかどを)
動いてもいるのである。長い間夢の中で見ることもできなかった恋しい父帝を
(しばらくだけではあったがめいりょうにみることのできた、そのおかおがおもかげにみえて、)
しばらくだけではあったが明瞭に見ることのできた、そのお顔が面影に見えて、
(じぶんがこんなふうにふこうのそこにおちて、いのちもあやうくなったのを、)
自分がこんなふうに不幸の底に落ちて、生命も危うくなったのを、
(たすけるためにとおいせかいからおいでになったのであろうとおもうと、)
助けるために遠い世界からおいでになったのであろうと思うと、
(よくあのさわぎがあったことであると、こんなことをげんじはおもうようになった。)
よくあの騒ぎがあったことであると、こんなことを源氏は思うようになった。
(なんとなくちからがついてきた。そのときはむねがはっとしたおもいでいっぱいになって、)
なんとなく力がついてきた。その時は胸がはっとした思いでいっぱいになって、
(げんじつのかなしいこともみなわすれていたが、ゆめのなかでももうすこし)
現実の悲しいことも皆忘れていたが、夢の中でももう少し
(おはなしをすればよかったとあきたらぬきのするげんじは、もういちど)
お話をすればよかったと飽き足らぬ気のする源氏は、もう一度
(つづきのゆめがみられるかとわざわざねいろうとしたが、)
続きの夢が見られるかとわざわざ寝入ろうとしたが、
(ねむりえないままでよあけになった。)
眠りえないままで夜明けになった。