紫式部 源氏物語 明石 8 與謝野晶子訳

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(「まつかぜがじゃまをしそうなところで、よくそんなにおけいこができたものですね、)

「松風が邪魔をしそうな所で、よくそんなにお稽古ができたものですね、

(うらやましいことですよ」 げんじはきんをまえへおしやりながらまたことばをつづけた。)

うらやましいことですよ」 源氏は琴を前へ押しやりながらまた言葉を続けた。

(「ふしぎにむかしからじゅうさんげんのきんにはおんなのめいしゅがおおいようです。さがていのおつたえで)

「不思議に昔から十三絃の琴には女の名手が多いようです。嵯峨帝のお伝えで

(にょごのみやがめいじんでおありになったそうですが、そのげいのけいとうはとりたてて)

女五の宮が名人でおありになったそうですが、その芸の系統は取り立てて

(つづいているとおもわれるひとがみうけられない。げんざいのじょうずというのは、)

続いていると思われる人が見受けられない。現在の上手というのは、

(ただちょっとそのばきりなたくみさだけしかないようですが、ほんとうのじょうずが)

ただちょっとその場きりな巧みさだけしかないようですが、ほんとうの上手が

(こんなところにかくされているとはおもしろいことですね。)

こんな所に隠されているとはおもしろいことですね。

(ぜひおじょうさんのをきかせていただきたいものです」)

ぜひお嬢さんのを聞かせていただきたいものです」

(「おききくださいますのになんのごえんりょもいることではございません。)

「お聞きくださいますのに何の御遠慮もいることではございません。

(おそばへおめしになりましてもすむことでございます。じんようこうでは)

おそばへお召しになりましても済むことでございます。潯陽江では

(しょうにんのためにもめいきょくをかなでるひとがあったのでございますから。)

商人のためにも名曲をかなでる人があったのでございますから。

(そのまたびわともうすものはやっかいなものでございまして、むかしにもあまり)

そのまた琵琶と申す物はやっかいなものでございまして、昔にもあまり

(びわのめいじんというものはなかったようでございますが、これもたくのむすめは)

琵琶の名人という者はなかったようでございますが、これも宅の娘は

(かなりすらすらとひきこなします。ひんのよいてすじがみえるのでございます。)

かなりすらすらと弾きこなします。品のよい手筋が見えるのでございます。

(どうしてそのいきにたっしましたか。むすめのそうしたげいをただあらいなみのおとが)

どうしてその域に達しましたか。娘のそうした芸をただ荒い波の音が

(がっそうしてくるばかりのところへおきますことはわたくしとしてかなしいことに)

合奏してくるばかりの所へ置きますことは私として悲しいことに

(ちがいございませんが、ふかいなことのあったりいたしますせつにはそれをきいて)

違いございませんが、不快なことのあったりいたします節にはそれを聴いて

(こころのなぐさめにいたすこともございます」)

心の慰めにいたすこともございます」

(おんがくつうのじしんがあるようなにゅうどうのことばを、げんじはおもしろくおもって、)

音楽通の自信があるような入道の言葉を、源氏はおもしろく思って、

(こんどはじゅうさんげんをにゅうどうにあたえてひかせた。じっさいにゅうどうはくろうとらしくひく。)

今度は十三絃を入道に与えて弾かせた。実際入道は玄人らしく弾く。

など

(げんだいではきけないようなてもでてきた。ひくゆびのはこびに)

現代では聞けないような手も出てきた。弾く指の運びに

(とうふうがおおくまじっているのである。ひだりてでおさえてだすおとなどは)

唐風が多く混じっているのである。左手でおさえて出す音などは

(ことにふかくだされる。ここはいせのうみではないが「きよきなぎさにかいやひろわん」という)

ことに深く出される。ここは伊勢の海ではないが「清き渚に貝や拾はん」という

(さいばらをびおんのものにうたわせて、げんじじしんもときどきひょうしをとり、)

催馬楽を美音の者に歌わせて、源氏自身も時々拍子を取り、

(こえをそえることがあると、にゅうどうはきんをひきながらそれをほめていた。)

声を添えることがあると、入道は琴を弾きながらそれをほめていた。

(めずらしいふうにつくられたかしもせきじょうにでて、ひとびとにはさけも)

珍しいふうに作られた菓子も席上に出て、人々には酒も

(すすめられるのであったから、だれのりょしゅうもこんやはまぎれてしまいそうであった。)

勧められるのであったから、だれの旅愁も今夜は紛れてしまいそうであった。

(よがふけてはまのかぜがすずしくなった。おちようとするつきがあかるくなって、)

夜がふけて浜の風が涼しくなった。落ちようとする月が明るくなって、

(またしずかなときに、にゅうどうはかこからげんざいまでのみのうえばなしをしだした。)

また静かな時に、入道は過去から現在までの身の上話をしだした。

(あかしへきたころにくろうのあったこと、しゅっけをとげたけいろなどをかたる。)

明石へ来たころに苦労のあったこと、出家を遂げた経路などを語る。

(むすめのこともとわずがたりにする。げんじはおかしくもあるが、)

娘のことも問わず語りにする。源氏はおかしくもあるが、

(さすがにみにしむふしもあるのであった。)

さすがに身にしむ節もあるのであった。

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