紫式部 源氏物語 澪標 9 與謝野晶子訳

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(このあきにげんじはすみよしもうでをした。すま、あかしでたてたがんを)

この秋に源氏は住吉詣でをした。須磨、明石で立てた願を

(かみへはたすためであって、ひじょうなおおがかりなたびになった。ていしんたちがわれもわれもと)

神へ果たすためであって、非常な大がかりな旅になった。廷臣たちが我も我もと

(ずいこうをのぞんだ。ちょうどこのひであった、あかしのきみがまいとしのれいでさんけいするのを、)

随行を望んだ。ちょうどこの日であった、明石の君が毎年の例で参詣するのを、

(きょねんもこのはるもさわりがあってはたすことのできなかったしゃざいもかねて、)

去年もこの春も障りがあって果たすことのできなかった謝罪も兼ねて、

(ふねですみよしへきた。かいがんのほうへよっていくとかびなさんけいのぎょうれつがきしんするしんぽうを)

船で住吉へ来た。海岸のほうへ寄って行くと華美な参詣の行列が寄進する神宝を

(はこびつづけてくるのがみえた。がくじん、とつらのものもきれいなおとこをえらんであった。)

運び続けて来るのが見えた。楽人、十列の者もきれいな男を選んであった。

(「どなたのごさんけいなのですか」 とふねのものがりくへきくと、)

「どなたの御参詣なのですか」 と船の者が陸へ聞くと、

(「おや、ないだいじんさまのごがんはたしのごさんけいをしらないひともあるね」)

「おや、内大臣様の御願はたしの御参詣を知らない人もあるね」

(ともおとこかいきゅうのものもこうとくいそうにいう。なんとしたぐうぜんであろう、ほかのつきひも)

供男階級の者もこう得意そうに言う。何とした偶然であろう、ほかの月日も

(ないようにとあかしのきみはおどろいたが、はるかにこいびとのはなばなしさをみては、)

ないようにと明石の君は驚いたが、はるかに恋人のはなばなしさを見ては、

(あまりにけんかくのありすぎるわがみのうえであることをつうせつにしってかなしんだ。)

あまりに懸隔のありすぎるわが身の上であることを痛切に知って悲しんだ。

(さすがによそながらめぐりあうだけのしゅくめいにつながれていることは)

さすがによそながら巡り合うだけの宿命につながれていることは

(わかるのであったが、わらっていったさむらいさえこうふくにかがやいてみえるひに、)

わかるのであったが、笑って行った侍さえ幸福に輝いて見える日に、

(ざいしょうのふかいじぶんはなにもしらずにきてはずかしいおもいをするのであろうと)

罪障の深い自分は何も知らずに来て恥ずかしい思いをするのであろうと

(おもいつづけるとかなしくばかりなった。ふかいみどりのまつばらのなかにはなもみじがまかれたように)

思い続けると悲しくばかりなった。深い緑の松原の中に花紅葉が撒かれたように

(みえるのはほうのいろいろであった。せきほうはごい、あさぎはろくいであるが、)

見えるのは袍のいろいろであった。赤袍は五位、浅葱は六位であるが、

(おなじろくいもくろうどはあおいろでめにたった。かものおおかみをうらんだうこんのじょうは)

同じ六位も蔵人は青色で目に立った。加茂の大神を恨んだ右近丞は

(ゆぎえになって、ずいしんをつれたはでなくろうどになってきていた。)

靫負になって、随身をつれた派手な蔵人になって来ていた。

(よしきよもおなじゆぎえのすけになってはなやかなせきほうのひとりであった。)

良清も同じ靫負佐になってはなやかな赤袍の一人であった。

(あかしにきていたひとたちがむかしのおもかげとはちがったはなやかなすがたでひとびとのなかに)

明石に来ていた人たちが昔の面影とは違ったはなやかな姿で人々の中に

など

(まじっているのがふねからみられた。わかいけんかんたち、てんじょうやくにんがきそうように)

混じっているのが船から見られた。若い顕官たち、殿上役人が競うように

(こったすがたをして、うまやくらにまでかしゃをつくしているいっこうは、いなかのけんぶつにんのめを)

凝った姿をして、馬や鞍にまで華奢を尽くしている一行は、田舎の見物人の目を

(たのしませた。げんじののったくるまがきたとき、あかしのきみはきまりわるさにこいしいひとを)

楽しませた。源氏の乗った車が来た時、明石の君はきまり悪さに恋しい人を

(のぞくことができなかった。かわらのさだいじんのれいでどうぎょうのぎじょうのひとをげんじは)

のぞくことができなかった。河原の左大臣の例で童形の儀仗の人を源氏は

(たまわっているのである。それらはうつくしくよそおうていて、かみはわけてふたつのわの)

賜わっているのである。それらは美しく装うていて、髪は分けて二つの輪の

(みずらをむらさきのぼかしのもとゆいでくくったじゅうにんは、せたけもそろった)

みずらを紫のぼかしの元結いでくくった十人は、背たけもそろった

(うつくしいこどもである。きんねんはあまりゆるされるもののないめずらしいずいしんである。)

美しい子供である。近年はあまり許される者のない珍しい随身である。

(だいじんけでうまれたわかぎみはうまにのせられていて、いっぱんずつをそろえのいしょうにした)

大臣家で生まれた若君は馬に乗せられていて、一班ずつを揃えの衣裳にした

(いくはんかのうまぞいわらわがつけられてある。さいこうのきぞくのこどもというものは)

幾班かの馬添い童がつけられてある。最高の貴族の子供というものは

(こうしたものであるというように、たすうのひとからだいじにあつかわれて)

こうしたものであるというように、多数の人から大事に扱われて

(とおっていくのをみたとき、あかしのきみはじぶんのこもきょうだいでいながらみるかげもなく)

通って行くのを見た時、明石の君は自分の子も兄弟でいながら見る影もなく

(あつかわれているとかなしかった。いよいよみやしろにむいてこのためにねんじていた。)

扱われていると悲しかった。いよいよ御社に向いて子のために念じていた。

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