『少年探偵団』江戸川乱歩35

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少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文

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(「おたくには、ついちかごろ、やとったおてつだいさんがいる)

「おたくには、つい近頃、雇ったお手伝いさんがいる

(でしょう」「ええ、います。あなたのごしょうかいでやとった)

でしょう」「ええ、います。あなたのご紹介で雇った

(ちよというむすめのことでしょう」「そうです。あのむすめを)

千代という娘のことでしょう」「そうです。あの娘を

(ちょっとここへよんでくださいませんか」「ちよに、)

ちょっとここへ呼んでくださいませんか」「千代に、

(なにかごようなのですか」「ええ、たいせつなようじがある)

何かご用なのですか」「ええ、大切な用事がある

(のです。すぐくるようにおっしゃってください」)

のです。すぐ来るようにおっしゃってください」

(あけちたんていは、ますますみょうなことをいいだす)

明智探偵は、ますますみょうなことを言い出す

(のでした。おおとりしはめんくらいながら、すぐさま)

のでした。 大鳥氏は面食らいながら、すぐさま

(ちよをよびよせました。どくしゃしょくんは、おぼえている)

千代を呼び寄せました。読者諸君は、憶えている

(でしょう。ちよというのはたびたび、おくざしきをのぞいて)

でしょう。千代というのは度々、奥座敷をのぞいて

(いた、あのかわいらしくてあやしいしょうじょです。)

いた、あの可愛らしくて怪しい少女です。

(まもなくして、りんごのようにあざやかなほほをした、)

まもなくして、リンゴのように鮮やかなホホをした、

(かわいらしいしょうじょがざしきのいりぐちにあらわれました。)

可愛らしい少女が座敷の入り口に現れました。

(「ここへきて、すわりなさい」たんていは、しょうじょをじぶんの)

「ここへ来て、座りなさい」 探偵は、少女を自分の

(そばへすわらせました。そして、おうごんとうのいれかえの)

そばへ座らせました。そして、黄金塔の入れ替えの

(せつめいをはじめるのでした。「おおとりさん、あなたがたが、)

説明を始めるのでした。「大鳥さん、あなたがたが、

(ほんもののとうをゆかのしたへうめようとしていらしたとき、)

本物の塔を床の下へ埋めようとしていらした時、

(うらのものおきにかじがおこりましたね」「ええ、)

裏の物置きに火事が起こりましたね」「ええ、

(そうですよ。よくごぞんじですね。しかし、それが)

そうですよ。よくご存知ですね。しかし、それが

(どうしたのですか」「あのかじも、じつはぼくが、)

どうしたのですか」「あの火事も、じつはぼくが、

など

(あるひとにめいじて、つけたひなのですよ」)

ある人に命じて、つけた火なのですよ」

(「え、なんですって。あなたがしじしたのですか。)

「え、なんですって。あなたが指示したのですか。

(ああ、わしはなにがなんだか、さっぱりわからなく)

ああ、わしは何がなんだか、さっぱりわからなく

(なってしまいました」「いや、それには、あるもくてきが)

なってしまいました」「いや、それには、ある目的が

(あったのです。あなたがたがかじにきをとられて、)

あったのです。あなたがたが火事に気をとられて、

(このへやをるすにしていたあいだに、すばやくおうごんとうの)

この部屋を留守にしていたあいだに、素早く黄金塔の

(いれかえをさせたのですよ。ゆかしたにかくしてあった)

入れ替えをさせたのですよ。床下に隠してあった

(のをもとどおりとこのまにつみあげ、とこのまのにせものを)

のを元通り床の間に積み上げ、床の間の偽物を

(ゆかしたへいれておいたのです。かじばからかえってきた)

床下へ入れておいたのです。火事場から帰って来た

(あなたがたは、まさかあのあいだに、そんな)

あなたがたは、まさかあのあいだに、そんな

(いれかえがおこなわれたとは、おもいもよらなかった)

入れ替えが行われたとは、思いもよらなかった

(でしょうから、そのままにせもののほうをゆかしたへうめ、)

でしょうから、そのまま偽物のほうを床下へ埋め、

(とこのまのほんものをにせものとおもいこんでしまったのです」)

床の間の本物を偽物と思い込んでしまったのです」

(「へえー、なるほどねえ。あのかじはわたしたちを、)

「へえー、なるほどねえ。あの火事は私たちを、

(このへやからたちさらせるとりっくだったのですか。)

この部屋から立ち去らせるトリックだったのですか。

(しかし、それならそうと、わしにいってくだされば)

しかし、それならそうと、わしに言ってくだされば

(よかったじゃありませんか。なにもかじまでおこさ)

よかったじゃありませんか。何も火事まで起こさ

(なくても、わしじしんでほんものとにせものをいれかえたのに」)

なくても、わし自身で本物と偽物を入れ替えたのに」

(おおとりしはふまんそうにいいました。「ところが、)

大鳥氏は不満そうに言いました。「ところが、

(そうできないりゆうがあったのです。そのことはあとで)

そう出来ない理由があったのです。そのことはあとで

(せつめいしますよ」「で、そのとうのいれかえをやった)

説明しますよ」「で、その塔の入れ替えをやった

(のは、いったいだれなのです。まさか、あなたごじしんで)

のは、一体だれなのです。まさか、あなたご自身で

(なさったわけじゃありませんよね」「それは、)

なさったわけじゃありませんよね」「それは、

(このおてつだいさんがやったのです。このひとは、)

このお手伝いさんがやったのです。この人は、

(ぼくのじょしゅをつとめてくれたのですよ」「へえー、)

ぼくの助手をつとめてくれたのですよ」「へえー、

(ちよが。こんなおとなしいおんなのこに、よくまあ)

千代が。こんな大人しい女の子に、よくまあ

(そんなことができましたねえ」しゅじんはあっけに)

そんなことが出来ましたねえ」 主人はあっけに

(とられて、かわいらしいしょうじょのかおをながめました。)

とられて、可愛らしい少女の顔をながめました。

(「ははは、ちよはしょうじょではありませんよ。きみ、)

「ハハハ、千代は少女ではありませんよ。きみ、

(そのかつらをとってみせなさい」たんていがめいじますと、)

そのカツラを取って見せなさい」 探偵が命じますと、

(しょうじょはにこにこしながら、いきなりりょうてであたまのけを)

少女はニコニコしながら、いきなり両手で頭の毛を

(つかんだかとおもうと、それをすっぽりとひきとって)

つかんだかと思うと、それをスッポリと引き取って

(しまいました。すると、そのしたからぼっちゃんがりの)

しまいました。すると、その下から坊ちゃん刈りの

(あたまがあらわれたのです。しょうじょとばかりにおもっていたが、)

頭が現れたのです。少女とばかりに思っていたが、

(そのしょうたいはかわいらしいしょうねんだったのです。)

その正体は可愛らしい少年だったのです。

(「みなさん、ごしょうかいします。これはぼくのかたうでで、)

「みなさん、ご紹介します。これはぼくの片腕で、

(たんていじょしゅのこばやしよしおくんです。こんかいのさくせんがせいこうした)

探偵助手の小林芳雄君です。今回の作戦が成功した

(のは、すべてこばやしくんのおかげです。ほめてやって)

のは、すべて小林君のおかげです。ほめてやって

(ください」あけちたんていは、さもじまんらしくたいせつなでしの)

ください」 明智探偵は、さも自慢らしく大切な弟子の

(こばやししょうねんをながめて、にこやかにわらうのでした。)

小林少年をながめて、にこやかに笑うのでした。

(ああ、なんということでしょう。しょうねんたんていだんちょうの)

ああ、なんということでしょう。少年探偵団長の

(こばやしよしおくんは、こむすめのおてつだいさんにばけて、)

小林芳雄君は、小娘のお手伝いさんに化けて、

(おおとりとけいてんにはいりこんでいたのです。そして、)

大鳥時計店に入り込んでいたのです。そして、

(まんまとにじゅうめんそうをだましてしまったのです。)

まんまと二十面相をだましてしまったのです。

(「へえー、おどろいたねえ。きみがおとこのこだったなんて。)

「へえー、驚いたねえ。きみが男の子だったなんて。

(うちのものはだれひとり、きがつかなかったよ。)

うちの者はだれ一人、気がつかなかったよ。

(なかなかよくはたらいてくれましたね。こばやしさん、)

なかなかよく働いてくれましたね。小林さん、

(ありがとう。おかげでかほうをうしなわなくてすみました。)

ありがとう。おかげで家宝を失わなくて済みました。

(あけちさん、あなたは、いいでしをもたれてしあわせです)

明智さん、あなたは、いい弟子を持たれて幸せです

(ねえ」おおとりしは、ほくほくとよろこびながら、こばやしくんの)

ねえ」 大鳥氏は、ホクホクと喜びながら、小林君の

(あたまをなでんばかりに、おれいをいうのでした。)

頭をなでんばかりに、お礼を言うのでした。

(「ですがあけちさん、たったひとつざんねんなことがあります)

「ですが明智さん、たった一つ残念なことがあります

(よ。さっきにじゅうめんそうのやつがどこからか、わしたちに)

よ。さっき二十面相のやつがどこからか、わしたちに

(はなしかけたのです。ざまあみろといって、)

話しかけたのです。ざまあみろと言って、

(あざわらったのです。あなたが、もうひとあしはやくきて)

あざわらったのです。あなたが、もう一足早く来て

(くだされば、あいつをとらえられたかもしれません。)

くだされば、あいつをとらえられたかもしれません。

(じつにざんねんなことをしましたよ」おおとりしは、おうごんとうを)

じつに残念なことをしましたよ」 大鳥氏は、黄金塔を

(とりかえしても、ぞくをにがしたのでは、またおそわれは)

取り返しても、賊を逃がしたのでは、またおそわれは

(しないかと、ねざめがわるいのです。「おおとりさん、)

しないかと、寝ざめが悪いのです。「大鳥さん、

(ごあんしんください。にじゅうめんそうはちゃんと、とらえて)

ご安心ください。二十面相はちゃんと、とらえて

(ありますよ」あけちたんていは、いがいなことをずばりと)

ありますよ」 明智探偵は、意外なことをズバリと

(いってのけました。「え、にじゅうめんそうを。あなたが)

言ってのけました。「え、二十面相を。あなたが

(とらえたのですか。いつ、どこで。そしていま、)

とらえたのですか。いつ、どこで。そして今、

(あいつはどこにいるんですか」おおとりしはあまりの)

あいつはどこに居るんですか」 大鳥氏はあまりの

(ことに、ことばもしどろもどろです。「にじゅうめんそうは)

ことに、言葉もしどろもどろです。「二十面相は

(このへやにいるのです。われわれのめのまえにいるのです」)

この部屋に居るのです。我々の目の前に居るのです」

(たんていのこえがおもおもしくひびきました。「へえ、この)

探偵の声が重々しく響きました。「へえ、この

(へやにかい。だって、このへやにはごらんのとおり、)

部屋にかい。だって、この部屋にはご覧の通り、

(わしたちよにんのほかには、だれもいないじゃ)

わしたち四人のほかには、だれもいないじゃ

(ありませんか。それとも、どっかにかくれているん)

ありませんか。それとも、どっかに隠れているん

(ですか」「いいえ、かくれてなんかいませんよ。)

ですか」「いいえ、隠れてなんかいませんよ。

(にじゅうめんそうはほら、そこにいるじゃありませんか」)

二十面相はホラ、そこに居るじゃありませんか」

(いいながら、われらのめいたんていはいみありげににこにこと)

言いながら、我らの名探偵は意味ありげにニコニコと

(わらうのでした。どくしゃしょくん、あけちたんていはなんという、)

笑うのでした。 読者諸君、明智探偵は何という、

(とほうもないことをいいだしたのでしょう。おおとりしも)

途方もないことを言い出したのでしょう。大鳥氏も

(かどのしはいにんも、じぶんのめがどうかしたのでは)

門野支配人も、自分の目がどうかしたのでは

(ないかと、きょろきょろあたりをみまわしました。)

ないかと、キョロキョロあたりを見回しました。

(でも、そのへやにはなにもののすがたもないのです。)

でも、その部屋には何者の姿もないのです。

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