遠山政談

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(ぶぎょう・とおやまきんしろうがざいしょくちゅうにかわったじけんがあった。 )

奉行・遠山金四郎が在職中に変わった事件があった。

(いしまちにちょうめにえちぜんやというしょうやくやがあった。)

石町二丁目に越前屋という生薬屋があった。

(ほうこうにんをにじゅうなんにんとつかって、てびろくあきないをしてはんじょうしているみせであったが、)

奉公人を二十何人と使って、手広く商いをして繁昌している店であったが、

(じょちゅうがいつかないでこまっていた。)

女中が居付かないで困っていた。

(はんつきぐらいで、みじかいので2~3にちでじょちゅうがやめていった。)

半月ぐらいで、短いので2~3日で女中が辞めていった。

(そのわけはわかいほうこうにん20いじょうがひとりのおんなをひっぱるからで、)

その訳は若い奉公人20以上が一人の女を引っ張るからで、

(1~2にんならなんとかなるでしょうが、)

1~2人なら何とかなるでしょうが、

(ぜんいんにきょうそうでひっぱられたらたまらない。じょちゅうもたまらずやめていく。)

全員に競争で引っ張られたらたまらない。女中もたまらず辞めていく。

(えちぜんやのしゅじんはあたまをいため、きりょうのわるいのをとけいあんにたのんでいたが、)

越前屋の主人は頭を痛め、器量の悪いのをと桂庵に頼んでいたが、

(びじんといってもなかなかいないように、よりすぐったわるいのもいなかった。)

美人と言ってもなかなか居ないように、選りすぐった悪いのも居なかった。

(しもうさのよつかいどうのでで、)

下総の四街道の出で、

(”おそめ”というじゅうななになるむすめをつれてきた。むすめじゅうはちばんちゃもでばなといわれるが、)

”お染め”という十七になる娘を連れてきた。娘十八番茶も出花と言われるが、

(おそめはみっつのとき、ほうそうをわずらいなおったがかおじゅうあばただらけになってしまった。)

お染めは三つの時、疱瘡を患い治ったが顔中あばただらけになってしまっ

(そのうえ、ななさいのとき、へやであそんでいると、きってあるいろりにおち、)

その上、七歳の時、部屋で遊んでいると、切ってある囲炉裏に落ち、

(じざいかぎにつらされていたやかんのねっとうをあたまからかぶってしまった。)

自在鉤に吊されていたヤカンの熱湯を頭からかぶってしまった。

(ふためとみられないかおになってしまった。)

二目と見られない顔になってしまった。

(それにせがひくくてよこにおおきくころがったほうがはやいたいかくであったうえに、)

それに背が低くて横に大きく転がった方が早い体格であった上に、

(しょうしょうあたまがよわかった。)

少々頭が弱かった。

(しゅじんはいたれりつくせりのむすめだと、てをたたいてよろこんだ。)

主人は至れり尽くせりの娘だと、手を叩いて喜んだ。

(おどろいたのはほうこうにんで、けさみてびっくりしたのや、)

驚いたのは奉公人で、今朝見てびっくりしたのや、

など

(さくやみてこわくてよるねられないものまででるしまつ。)

昨夜見て恐くて夜寝られない者まで出る始末。

(あんなおばけをおくことないと、)

あんなお化けを置くことないと、

(おそめとだれもよばず、おばけ、おばけとよんでいた。)

お染めと誰も呼ばず、お化け、お化けと呼んでいた。

(かってぐちにきたものが2~3にんめをまわすというので、)

勝手口に来た者が2~3人目を回すというので、

(ろじのところにきゅうごはんがたいきしていた。)

路地の所に救護班が待機していた。

(しゅじんもこんなじょちゅうにてをだすやつはいないだろうとあんしんした。)

主人もこんな女中に手を出す奴は居ないだろうと安心した。

(ばんとうのきゅうべいさんのおいっこ”さぞう”ははたもとのわかとうがしらをつとめていた。)

番頭の久兵衛さんの甥っ子”佐造”は旗本の若党頭を務めていた。

(ちょくちょくみせにかおをだしていたが、おそめにめをつけ、)

ちょくちょく店に顔を出していたが、お染めに目を付け、

(こんなおんなはどうであろうかと、)

こんな女はどうであろうかと、

(よのなかにはものおどろきしないおとこもあった。)

世の中には物驚きしない男もあった。

(おそめはうまれてはじめてにんげんらしいあつかいをうけたので、むちゅうになり、)

お染めは生まれて初めて人間らしい扱いを受けたので、夢中になり、

(さぞうのいうことはなんでもきいた。さぞうはばくちをうつので、)

佐造の言うことは何でも聞いた。佐造は博打を打つので、

(かねをせびりだし、なくなるときゅうきんのまえがりをさせて)

金をせびりだし、無くなると給金の前借りをさせて

(それもできなくなるときものをもちだしてかねにかえた。)

それも出来なくなると着物を持ち出して金に換えた。

(そのうち、いんがなことにおそめがはらんだ。)

その内、因果なことにお染めが妊(はら)んだ。

(それをしったしゅじんがひまをだした。)

それを知った主人が閑を出した。

(おそめはさぞうにそうだんをもちかけたが、)

お染めは佐造に相談を持ちかけたが、

(くににかえれとのらりくらりとにげるだけだった。)

国に帰れとのらりくらりと逃げるだけだった。

(さぞうのともだちがほんごうのかがさまにいるから、)

佐造の友達が本郷の加賀様にいるから、

(そこでこどもがうまれるまでやっかいになろうといいだしたが、)

そこで子供が生まれるまでやっかいになろうと言い出したが、

(じぶんはかおがしれているからはいれるが、おまえははいれない。)

自分は顔が知れているから入れるが、お前は入れない。

(にもつのたわらだといってやしきにはいるから、たわらにはいれとそそのかした。)

荷物の俵だと言って屋敷に入るから、俵に入れとそそのかした。

(いれてせおってみたがおもいこと、いしまちをでましてかんだすだちょうからしょうへいばしをわたり、)

入れて背負ってみたが重いこと、石町を出まして神田須田町から昌平橋を渡り、

(みょうじんざかをあがって、ほんごうさんちょうめ、まっすぐいけばかがさまのおやしきですが、)

明神坂を上がって、本郷三丁目、真っ直ぐ行けば加賀様のお屋敷ですが、

(みぎにまがっておかちまちにでるとちゅうのきりどおしでたわらをおいてひとやすみ。)

右に曲がって御徒町に出る途中の切り通しで俵を置いて一休み。

(おそめはねいきをたててねていた。)

お染めは寝息を立てて寝ていた。

(ねたのをよいことにたわらをすてようとひろこうじからおかちまちをぬけてみぎにまがり、)

寝たのを良いことに俵を捨てようと広小路から御徒町を抜けて右に曲がり、

(まつながちょうからいずみばしにさしかかったころにはよっつはん、)

松永町から和泉橋にさしかかった頃には四つ半、

(よる11じごろ、らんかんにたわらをおきひといきいれてたわらにこえをかけたがおそめはじゅくすいしていた)

夜11時頃、欄干に俵を置き一息入れて俵に声を掛けたがお染めは熟睡していた

(これさいわいとたわらをかわのなかになげいれた。)

これ幸いと俵を川の中に投げ入れた。

(こうかふこうかひきしおじでかわのはしであったのでへどろのうえにおちた。)

幸か不幸か引き潮時で川の端であったのでヘドロの上に落ちた。

(そこにつりびとふたりがふねでかえってくるところだった。)

そこに釣り人二人が舟で帰ってくるところだった。

(たわらをみつけて、よいひろいものだとひきあげてみると、)

俵を見付けて、良い拾い物だと引き上げてみると、

(なかのおんながきがついたとみえて「う~~ん」と、うなりごえをあげたのでびっくり。)

中の女が気が付いたと見えて「う~~ん」と、うなり声を上げたのでビックリ。

(たわらをあけてなかをみると、ひるみてもおばけなのに、)

俵を開けて中を見ると、昼見てもお化けなのに、

(しんやつきあかりでみると「ばけものだ~」とおどろいた。)

深夜月明かりで見ると「化け物だ~」と驚いた。

(みずをのませ、はなしをきくとこれこれという。)

水を飲ませ、話を聞くとこれこれと言う。

(いずみばしのおおばんじょにとどけると、にくっきはさぞうととりかたがうごきだした。)

和泉橋の大番所に届けると、憎っきは佐造と捕り方が動き出した。

(そのころ、すみだがわのまなべがしでさぞうはたわらがながれてくるのをみはっていた)

その頃、隅田川の間部(まなべ)河岸で佐造は俵が流れてくるのを見張っていた

(そこにとりかたがきてほばく、とおやまきんしろうのさばきをうけることになります。)

そこに捕り方が来て捕縛、遠山金四郎の裁きを受けることになります。

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