フランツ・カフカ 変身⑪
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問題文
(そのよるは、あるいはくうふくのためにたえずめをさまさせられながらも)
その夜は、あるいは空腹のためにたえず目をさまさせられながらも
(うとうとしたり、あるいはしんぱいやはっきりしないきぼうにおもいふけったり)
うとうとしたり、あるいは心配やはっきりしない希望に思いふけったり
(しながら、すごしたのだった。そんなしんぱいやきぼうをおもってもけつろんは)
しながら、過ごしたのだった。そんな心配や希望を思っても結論は
(おなじで、さしあたりはへいせいなたいどをまもり、にんたいとさいしんなえんりょとによって)
同じで、さしあたりは平静な態度を守り、忍耐と細心な遠慮とによって
(かぞくのものたちにさまざまなふかいをたえられるようにしてやらねばならぬという)
家族の者たちにさまざまな不快を耐えられるようにしてやらねばならぬという
(けつろんだった。そうしたふかいなことをかれのげんざいのじょうたいにおいては)
結論だった。そうした不快なことを彼の現在の状態においては
(いつかはかぞくのものたちにあたえないわけにはいかないのだ。)
いつかは家族の者たちに与えないわけにはいかないのだ。
(つぎのあさはやく、まだほとんどよるのうちだったが、ぐれごーるははやくも)
つぎの朝早く、まだほとんど夜のうちだったが、グレゴールは早くも
(かためたばかりのけっしんをためしてみるきかいをもった。というのは、)
固めたばかりの決心をためしてみる機会をもった。というのは、
(げんかんのまのほうからほとんどかんぜんにみづくろいしたいもうとがどあをあけ、)
玄関の間のほうからほとんど完全に身づくろいした妹がドアを開け、
(きんちょうしたようすでなかをのぞいたのだった。いもうとはすぐにはかれのすがたを)
緊張した様子でなかをのぞいたのだった。妹はすぐには彼の姿を
(みつけなかったが、かれがそふぁのしたにいるのをみとめると)
見つけなかったが、彼がソファの下にいるのをみとめると
(ーーどこかにいるにきまっているではないか。とんでにげることなんか)
ーーどこかにいるにきまっているではないか。飛んで逃げることなんか
(できなかったのだーーひどくおどろいたので、どをうしなってしまって)
できなかったのだーーひどく驚いたので、度を失ってしまって
(そとがわからふたたびどあをぴしゃりとしめてしまった。だが、じぶんのたいどを)
外側からふたたびドアをぴしゃりと閉めてしまった。だが、自分の態度を
(こうかいしてでもいるかのように、すぐまたどあをあけ、じゅうびょうにんか)
後悔してでもいるかのように、すぐまたドアを開け、重病人か
(みしらぬにんげんかのところにいるようなかっこうでつまさきであるいてへやのなかへ)
見知らぬ人間かのところにいるような恰好で爪先で歩いて部屋のなかへ
(はいってきた。ぐれごーるはあたまをそふぁのへりのすぐちかくまでのばして、)
入ってきた。グレゴールは頭をソファのへりのすぐ近くまでのばして、
(いもうとをながめた。みるくをほったらかしにしたのにきづくだろうか。)
妹をながめた。ミルクをほったらかしにしたのに気づくだろうか。
(しかもけっしてしょくよくがないからではなかったのだ。また、かれのくちに)
しかもけっして食欲がないからではなかったのだ。また、彼の口に
(もっとあうようなべつなたべものをもってくるのだろうか。いもうとがじぶんで)
もっと合うような別な食べものをもってくるのだろうか。妹が自分で
(そうしてくれないだろうか。いもうとにそのことをちゅういするくらいなら、)
そうしてくれないだろうか。妹にそのことを注意するくらいなら、
(うえじにしたほうがましだ。それにもかかわらず、ほんとうは)
飢え死したほうがましだ。それにもかかわらず、ほんとうは
(そふぁのしたからとびだして、いもうとのあしもとにみをなげ、なにかうまいものをくれと)
ソファの下から跳び出して、妹の足もとに身を投げ、何かうまいものをくれと
(いいたくてたまらないのだった。ところが、いもうとはまだいっぱいはいっている)
いいたくてたまらないのだった。ところが、妹はまだいっぱい入っている
(みるくのはちにすぐきづいて、ふしぎそうなかおをした。はちからは)
ミルクの鉢にすぐ気づいて、不思議そうな顔をした。鉢からは
(すこしばかりのみるくがまわりにこぼれているだけだった。いもうとはすぐ)
少しばかりのミルクがまわりにこぼれているだけだった。妹はすぐ
(はちをとりあげたが、それもすでではなくて、ぼろぎれでやるのだった。)
鉢を取り上げたが、それも素手ではなくて、ぼろ切れでやるのだった。
(そして、はちをもってでていった。ぐれごーるは、いもうとがかわりになにを)
そして、鉢をもって出ていった。グレゴールは、妹がかわりに何を
(もってくるだろうかとひどくこうきしんにかられ、それについて)
もってくるだろうかとひどく好奇心に駆られ、それについて
(じつにさまざまなことをかんがえてみた。しかし、いもうとがしんせつしんから)
実にさまざまなことを考えてみた。しかし、妹が親切心から
(じっさいにもってきたものを、かんがえただけではあてることは)
実際にもってきたものを、考えただけではあてることは
(できなかったにちがいない。かれのしこうをためすため、いろいろなものを)
できなかったにちがいない。彼の嗜好をためすため、いろいろなものを
(えらんできて、それをぜんぶ、ふるいしんぶんしのうえにひろげたのだった。)
選んできて、それを全部、古い新聞紙の上に拡げたのだった。
(はんぶんくさったふるいやさい、)
半分腐った古い野菜、
(かたまってしまったしろそーすにくるまったゆうしょくのたべのこりのほね、)
固まってしまった白ソースにくるまった夕食の食べ残りの骨、
(ひとつぶふたつぶのほしぶどうとあーもんど、)
一粒二粒の乾ぶどうとアーモンド、
(ぐれごーるがふつかまえにまずくてくえないといったちーず、)
グレゴールが二日前にまずくて食えないといったチーズ、
(なにもぬってはないぱん、)
何もぬってはないパン、
(ばたーをぬったぱん、)
バターをぬったパン、
(ばたーをぬり、しおあじをつけたぱん。)
バターをぬり、塩味をつけたパン。
(なおそのほかに、おそらくえいきゅうにぐれごーるせんようときめたらしいはちをおいた。)
なおそのほかに、おそらく永久にグレゴール専用ときめたらしい鉢を置いた。
(それにはみずがつがれてあった。そして、ぐれごーるがじぶんのまえでは)
それには水がつがれてあった。そして、グレゴールが自分の前では
(たべないだろうということをいもうとはしっているので、おもいやりからいそいで)
食べないだろうということを妹は知っているので、思いやりから急いで
(へやをでていき、さらにかぎさえかけてしまった。それというのも、すきなように)
部屋を出ていき、さらに鍵さえかけてしまった。それというのも、好きなように
(きらくにしてたべてもいいのだ、とぐれごーるにわからせるためなのだ。)
気楽にして食べてもいいのだ、とグレゴールにわからせるためなのだ。
(そこでしょくじにとりかかると、ぐれごーるのたくさんのちいさなあしは)
そこで食事に取りかかると、グレゴールのたくさんの小さな脚は
(がさがさいった。どうもきずはみなすでにかんぜんになおったにちがいなかった。)
がさがさいった。どうも傷はみなすでに完全に癒ったにちがいなかった。
(もうししょうはかんじなかった。かれはそのことにおどろき、ひとつきいじょうもまえに)
もう支障は感じなかった。彼はそのことに驚き、ひと月以上も前に
(ないふでほんのすこしばかりゆびをきったが、そのきずがおとといもまだ)
ナイフでほんの少しばかり指を切ったが、その傷がおとといもまだ
(かなりいたんだ、ということをかんがえた。「いまではびんかんさがへったのかな」と、)
かなり痛んだ、ということを考えた。「今では敏感さが減ったのかな」と、
(かれはおもい、はやくもちーずをがつがつたべはじめた。ほかのどのたべものよりも、)
彼は思い、早くもチーズをがつがつ食べ始めた。ほかのどの食べものよりも、
(このちーずが、たちまち、かれをつよくひきつけたのだった。つぎつぎと)
このチーズが、たちまち、彼を強くひきつけたのだった。つぎつぎと
(いきおいきって、またまんぞくのあまりめになみだをうかべながら、かれはちーず、)
勢いきって、また満足のあまり眼に涙を浮かべながら、彼はチーズ、
(やさい、そーすとたべていった。ところがしんせんなたべものはうまくなかった。)
野菜、ソースと食べていった。ところが新鮮な食べものはうまくなかった。
(そのにおいがまったくがまんできず、そのためにたべようとおもうしなを)
その匂いがまったく我慢できず、そのために食べようと思う品を
(すこしばかりわきへひきずっていったほどだった。もうとっくに)
少しばかりわきへ引きずっていったほどだった。もうとっくに
(すべてをたいらげてしまい、そのばでのうのうとよこになっていたとき、)
すべてを平らげてしまい、その場でのうのうと横になっていたとき、
(いもうとはかれにひきさがるようにとあいずするため、ゆっくりとかぎをまわした。)
妹は彼に引き下がるようにと合図するため、ゆっくりと鍵を廻した。
(かれはもうほとんどうとうとしていたのにもかかわらず、そのおとで)
彼はもうほとんどうとうとしていたのにもかかわらず、その音で
(たちまちおどろかされてしまった。かれはまたそふぁのしたへいそいでもぐった。)
たちまち驚かされてしまった。彼はまたソファの下へ急いでもぐった。
(だが、いもうとがへやにいるほんのみじかいじかんであっても、そふぁのしたに)
だが、妹が部屋にいるほんの短い時間であっても、ソファの下に
(とどまっているのには、ひどいじせいがひつようだった。というのは、)
とどまっているのには、ひどい自制が必要だった。というのは、
(たっぷりしょくじをしたため、からだがすこしふくらんで、そふぁのしたのせまいばしょでは)
たっぷり食事をしたため、身体が少しふくらんで、ソファの下の狭い場所では
(ほとんどこきゅうすることができなかった。なんどかかすかにいきがつまりそうに)
ほとんど呼吸することができなかった。何度か微かに息がつまりそうに
(なりながら、いくらかなみだがでてくるめでかれはながめたのだが、)
なりながら、いくらか涙が出てくる眼で彼はながめたのだが、
(なにもきづいていないいもうとはほうきでのこりものをはきあつめるばかりでなく、)
何も気づいていない妹は箒で残りものを掃き集めるばかりでなく、
(ぐれごーるがぜんぜんてをつけなかったたべものまで、まるでもう)
グレゴールが全然手をつけなかった食べものまで、まるでもう
(つかえないのだというようにはきあつめた。そして、そうしたものをぜんぶ、)
使えないのだというように掃き集めた。そして、そうしたものを全部、
(ばけつのなかへすて、きのふたをして、それからいっさいのものを)
バケツのなかへ捨て、木の蓋をして、それからいっさいのものを
(へやのそとへはこびだしていった。いもうとがむきをかえるかかえないかのうちに、)
部屋の外へ運び出していった。妹が向きを変えるか変えないかのうちに、
(ぐれごーるははやくもそふぁのしたからはいでて、からだをのばし、いきをいれた。)
グレゴールは早くもソファの下からはい出て、身体をのばし、息を入れた。