フランツ・カフカ 変身⑬
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問題文
(ぐれごーるとはちがっておんがくがだいすきで、かんどうてきなほどにヴぁいおりんを)
グレゴールとはちがって音楽が大好きで、感動的なほどにヴァイオリンを
(ひくことができるいもうとを、らいねんになったらおんがくがっこうへいれてやろう、というのが)
弾くことができる妹を、来年になったら音楽学校へ入れてやろう、というのが
(かれのひそかなけいかくだった。そうなるとひどくかねがかかるが、そんなことは)
彼のひそかな計画だった。そうなるとひどく金がかかるが、そんなことは
(こうりょしないし、またそのかねもなんとかしてつくることができるだろう。)
考慮しないし、またその金もなんとかしてつくることができるだろう。
(ぐれごーるがまちにかえってきてちょっとたいざいするあいだには、しょっちゅう)
グレゴールが町に帰ってきてちょっと滞在するあいだには、しょっちゅう
(いもうととのかいわにおんがくがっこうのはなしがでてくるのだったが、いつでもただうつくしい)
妹との会話に音楽学校の話が出てくるのだったが、いつでもただ美しい
(ゆめものがたりにすぎず、そのじつげんはかんがえられなかった。そして、りょうしんもけっして)
夢物語にすぎず、その実現は考えられなかった。そして、両親もけっして
(こんなむじゃきなはなしをきくのをよろこびはしなかった。だが、ぐれごーるは)
こんな無邪気な話を聞くのをよろこびはしなかった。だが、グレゴールは
(きわめてはっきりとそのことをかんがえていたのであり、くりすますのぜんやには)
きわめてはっきりとそのことを考えていたのであり、クリスマスの前夜には
(そのことをおごそかにせんげんするつもりだった。)
そのことをおごそかに宣言するつもりだった。
(どあにへばりついてからだをまっすぐにおこし、ききみみをたてているあいだにも、)
ドアにへばりついて身体をまっすぐに起こし、聞き耳を立てているあいだにも、
(いまのじぶんのじょうたいにはまったくむえきなこうしたかんがえが、かれのあたまを)
今の自分の状態にはまったく無益なこうした考えが、彼の頭を
(とおりすぎるのだった。ときどき、ぜんしんのつかれのためにもうぜんぜんきいていることが)
通り過ぎるのだった。ときどき、全身の疲れのためにもう全然聞いていることが
(できなくなり、うっかりしてあたまをどあにぶつけ、すぐにまたきちんと)
できなくなり、うっかりして頭をドアにぶつけ、すぐにまたきちんと
(たてるのだった。というのは、そんなふうにしてかれがたてるどんなちいさな)
立てるのだった。というのは、そんなふうにして彼が立てるどんな小さな
(ものおとでも、りんしつにきこえ、みんなのくちをつぐませてしまうのだ。「またなにを)
物音でも、隣室に聞こえ、みんなの口をつぐませてしまうのだ。「また何を
(やっているんだろう」などと、しばらくしてちちおやがいう。どうもどあのほうに)
やっているんだろう」などと、しばらくして父親がいう。どうもドアのほうに
(むきなおっているらしい。それからやっと、ちゅうだんされたかいわがふたたび)
向きなおっているらしい。それからやっと、中断された会話がふたたび
(だんだんとはじめられていく。)
だんだんと始められていく。
(ぐれごーるはじゅうぶんにききとったのだがーーというのは、ちちおやはせつめいをするばあいに)
グレゴールは十分に聞き取ったのだがーーというのは、父親は説明をする場合に
(なんどもくりかえすのがつねだった。そのりゆうはひとつにはかれじしんがすでにながいあいだ)
何度もくり返すのがつねだった。その理由は一つには彼自身がすでに長いあいだ
(こうしたことにきをつかわなくなっていたからであり、もうひとつにはははおやが)
こうしたことに気を使わなくなっていたからであり、もう一つには母親が
(いっかいきいただけではばんじをすぐのみこめなかったからだーー、すべてのふこうにも)
一回聞いただけでは万事をすぐのみこめなかったからだーー、すべての不幸にも
(かかわらず、なるほどまったくわずかばかりのものではあるけれどもむかしのざいさんが)
かかわらず、なるほどまったくわずかばかりのものではあるけれども昔の財産が
(まだのこっていて、てをつけないでおいたりしもそのあいだにすこしばかりふえた、)
まだ残っていて、手をつけないでおいた利子もそのあいだに少しばかり増えた、
(ということであった。そのうえ、ぐれごーるがまいつきいえにいれていたかねも)
ということであった。その上、グレゴールが毎月家に入れていた金も
(ーーかれはじぶんではほんのいちぐるでんかにぐるでんしかとらなかったーー)
ーー彼は自分ではほんの一グルデンか二グルデンしか取らなかったーー
(すっかりつかわれてしまったわけではなく、たくわえられてちょっとしたきんがくに)
すっかり使われてしまったわけではなく、貯えられてちょっとした金額に
(なっていた。ぐれごーるはどあのはいごでねっしんにうなずき、このおもいがけなかった)
なっていた。グレゴールはドアの背後で熱心にうなずき、この思いがけなかった
(ようじんとけんやくとをよろこんだ。ほんとうはこのよぶんなかねでしゃちょうにたいする)
用心と倹約とをよろこんだ。ほんとうはこの余分な金で社長に対する
(ちちおやのふさいをもっとへらすことができ、このちいからはなれることができるひも)
父親の負債をもっと減らすことができ、この地位から離れることができる日も
(ずっとちかくなったことだろうが、いまではちちおやのはからいはうたがいもなく)
ずっと近くなったことだろうが、今では父親の計らいは疑いもなく
(いっそうよかったわけだ。)
いっそうよかったわけだ。
(ところで、こんなかねではかぞくのものがりそくでせいかつしていけるなどというのには)
ところで、こんな金では家族の者が利息で生活していけるなどというのには
(まったくたりない。おそらくかぞくをいちねんか、せいぜいのところにねんぐらい)
まったくたりない。おそらく家族を一年か、せいぜいのところ二年ぐらい
(ささえていくのにじゅうぶんなだけだろう。それいじょうのものではなかった。)
支えていくのに十分なだけだろう。それ以上のものではなかった。
(つまり、ほんとうはてをつけてはならない、そしてまさかのときのよういに)
つまり、ほんとうは手をつけてはならない、そしてまさかのときの用意に
(とっておかなければならないていどのきんがくにすぎなかった。せいかつひは)
取っておかなければならない程度の金額にすぎなかった。生活費は
(かせがなければならない。ところで、ちちおやはけんこうだがなにしろろうじんで、)
かせがなければならない。ところで、父親は健康だがなにしろ老人で、
(もうごねんかんもぜんぜんしごとをせず、いずれにしてもあまりはたらけるというじしんはない。)
もう五年間も全然仕事をせず、いずれにしてもあまり働けるという自信はない。
(ほねはおれたがせいかのあがらなかったしょうがいのさいしょのきゅうかであったこのごねんの)
骨は折れたが成果のあがらなかった生涯の最初の休暇であったこの五年の
(あいだに、すっかりふとってしまって、そのためにからだもじゆうに)
あいだに、すっかりふとってしまって、そのために身体も自由に
(うごかなくなっていた。そこでははおやがはたらかなければならないのだろうが、)
動かなくなっていた。そこで母親が働かなければならないのだろうが、
(これがぜんそくもちで、いえのなかをあるくのにさえほねがおれるしまつであって、)
これが喘息もちで、家のなかを歩くのにさえ骨が折れる始末であって、
(いちにちおきにこきゅうこんなんにおちいり、ひらいたまどのまえのそふぁのうえですごさなければ)
一日おきに呼吸困難に陥り、開いた窓の前のソファの上で過ごさなければ
(ならない。するといもうとがかせがなければならないというわけだが、これはまだ)
ならない。すると妹がかせがなければならないというわけだが、これはまだ
(じゅうななさいのこどもであり、これまでのせいかつではひどくめぐまれてそだってきたのだった。)
十七歳の子供であり、これまでの生活ではひどく恵まれて育ってきたのだった。
(きれいなふくをきて、たっぷりとねむり、かじのてつだいをし、ささやかなきばらしに)
きれいな服を着て、たっぷりと眠り、家事の手伝いをし、ささやかな気ばらしに
(ときどきくわわり、なによりもヴぁいおりんをひく、というせいかつのしかただった。)
ときどき加わり、何よりもヴァイオリンを弾く、という生活のしかただった。
(どうしてこんないもうとがかせぐことができるだろうか。)
どうしてこんな妹がかせぐことができるだろうか。
(かぞくのはなしがかねをかせがなければならないというこのことになると、)
家族の話が金をかせがなければならないというこのことになると、
(はじめのうちはぐれごーるはいつもどあをはなれて、どあのそばにある)
はじめのうちはグレゴールはいつもドアを離れて、ドアのそばにある
(つめたいかわのそふぁにみをなげるのだった。というのは、ちじょくとかなしみのあまり)
冷たい革のソファに身を投げるのだった。というのは、恥辱と悲しみのあまり
(からだがかっとあつくなるのだった。)
身体がかっと熱くなるのだった。
(しばしばかれはそのそふぁのうえでながいよるをあかし、いっしゅんもねむらず、ただなんじかんでも)
しばしば彼はそのソファの上で長い夜をあかし、一瞬も眠らず、ただ何時間でも
(かわをむしっているのだった。あるいは、たいへんなくろうもいとわず、いすをひとつ)
革をむしっているのだった。あるいは、大変な苦労もいとわず、椅子を一つ
(まどぎわへおしていき、それからまどのてすりにはいあがって、いすでからだを)
窓ぎわへ押していき、それから窓の手すりにはい上がって、椅子で身体を
(ささえたまままどによりかかっていた。いぜんまどからながめているときにかんじた)
支えたまま窓によりかかっていた。以前窓からながめているときに感じた
(かいほうされるようなきもちでもおもいだしているらしかった。というのは、じっさい、)
解放されるような気持でも思い出しているらしかった。というのは、実際、
(すこしはなれたじぶつもいちにちいちにちとだんだんぼんやりみえるようになっていっていた。)
少し離れた事物も一日一日とだんだんぼんやり見えるようになっていっていた。
(いぜんはしょっちゅうみえていまいましくてたまらなかったむこうがわのびょういんも、)
以前はしょっちゅう見えていまいましくてたまらなかった向こう側の病院も、
(もうぜんぜんみえなくなっていた。しずかな、しかしまったくとかいてきである)
もう全然見えなくなっていた。静かな、しかしまったく都会的である
(しゃるろってがいにじぶんがすんでいるのだということをよく)
シャルロッテ街に自分が住んでいるのだということをよく
(しっていなかったならば、かれのまどからみえるのは、はいいろのそらとはいいろのだいちとが)
知っていなかったならば、彼の窓から見えるのは、灰色の空と灰色の大地とが
(みわけられないくらいにつながっているこうやなのだ、とおもいかねない)
見わけられないくらいにつながっている荒野なのだ、と思いかねない
(ありさまだった。ちゅういぶかいいもうとはにどだけいすがまどぎわにあるのにきづいたに)
有様だった。注意深い妹は二度だけ椅子が窓ぎわにあるのに気づいたに
(ちがいなかったが、それからはへやのそうじをしたあとでいつでもいすを)
ちがいなかったが、それからは部屋の掃除をしたあとでいつでも椅子を
(きちんとまどべにおしてやり、おまけにそのときからはうちがわのまども)
きちんと窓辺に押してやり、おまけにそのときからは内側の窓も
(あけはなしておいた。)
開け放しておいた。