フランツ・カフカ 変身㉒

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問題文

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(げしゅくにんたちはときどきゆうしょくもいえできょうどうのいまでとるのだった。そのため)

下宿人たちはときどき夕食も家で共同の居間で取るのだった。そのため

(いまのどあはおおくのばんにとざされたままだ。だが、ぐれごーるはどあを)

居間のドアは多くの晩に閉ざされたままだ。だが、グレゴールはドアを

(あけるということをまったくきがるにあきらめた。どあがあいているおおくの)

開けるということをまったく気軽にあきらめた。ドアが開いている多くの

(ばんでさえも、それをじゅうぶんにりようしないでいて、かぞくにはきづかれずに)

晩でさえも、それを十分に利用しないでいて、家族には気づかれずに

(じぶんのへやのいちばんくらいかたすみによこたわっていた。ところが、あるとき、)

自分の部屋のいちばん暗い片隅に横たわっていた。ところが、あるとき、

(てつだいばあさんがいまへつうじるどあをすこしばかりあけはなしにした。げしゅくにんたちが)

手伝い婆さんが居間へ通じるドアを少しばかり開け放しにした。下宿人たちが

(ばんがたはいってきて、あかりをつけたときにも、どあはあいたままだった。さんにんは)

晩方入ってきて、明りをつけたときにも、ドアは開いたままだった。三人は

(てーぶるのかみてにすわった。いぜんはちちおやとははおやとぐれごーるとがすわったばしょだ。)

テーブルのかみ手に坐った。以前は父親と母親とグレゴールとが坐った場所だ。

(そしてさんにんはなぷきんをひろげ、ないふとふぉーくとをてにとった。すぐに)

そして三人はナプキンを拡げ、ナイフとフォークとを手に取った。すぐに

(どあのところににくのさらをもったははおやがあらわれ、かのじょのすぐあとからいもうとが)

ドアのところに肉の皿をもった母親が現われ、彼女のすぐあとから妹が

(やまもりのじゃがいものさらをもってあらわれた。たべものはもうもうとゆげを)

山盛りのじゃがいもの皿をもって現れた。食べものはもうもうと湯気を

(たてていた。げしゅくにんたちはたべるまえにしらべようとするかのように、)

立てていた。下宿人たちは食べる前に調べようとするかのように、

(じぶんたちのめのまえにおかれたさらのうえへみをかがめた。そしてじっさい、)

自分たちの眼の前に置かれた皿の上へ身をかがめた。そして実際、

(まんなかにすわっていて、ほかのふたりにはけんいをもっているようにみえるおとこが、)

まんなかに坐っていて、ほかの二人には権威をもっているように見える男が、

(さらのうえでいっぺんのにくをきった。それがじゅうぶんやわらかいかどうか、だいどころへ)

皿の上で一片の肉を切った。それが十分柔らかいかどうか、台所へ

(つっかえさなくてもよいかどうか、たしかめようとしているらしかった。)

突っ返さなくてもよいかどうか、たしかめようとしているらしかった。

(しかし、そのおとこがまんぞくしたので、きんちょうしてながめていたははおやといもうととは、)

しかし、その男が満足したので、緊張してながめていた母親と妹とは、

(ほっといきをついてびしょうしはじめた。)

ほっと息をついて微笑し始めた。

(かぞくのものたちじしんはだいどころでしょくじをした。それでもちちおやはだいどころへいくまえに)

家族の者たち自身は台所で食事をした。それでも父親は台所へいく前に

(このへやへはいっていき、いっかいだけおじぎをすると、せいぼうをてにもち、)

この部屋へ入っていき、一回だけお辞儀をすると、制帽を手にもち、

など

(てーぶるのまわりをぐるりとまわる。げしゅくにんたちはみんなたちあがって、)

テーブルのまわりをぐるりと廻る。下宿人たちはみんな立ち上がって、

(ひげのなかでなにかをつぶやく。つぎにかれらだけになると、ほとんどかんぜんな)

髯のなかで何かをつぶやく。つぎに彼らだけになると、ほとんど完全な

(ちんもくのうちにしょくじをする。しょくじちゅうのあらゆるものおとからたえずものをかむ)

沈黙のうちに食事をする。食事中のあらゆる物音からたえずものをかむ

(はのおとがきこえてくることが、ぐれごーるにはきみょうにおもわれた。)

歯の音が聞こえてくることが、グレゴールには奇妙に思われた。

(まるでたべるためにははがひつようであり、いくらりっぱでもはのないあごでは)

まるで食べるためには歯が必要であり、いくらりっぱでも歯のない顎では

(どうすることもできないということをぐれごーるにしめそうと)

どうすることもできないということをグレゴールに示そうと

(するかのようだった。ぐれごーるはしんぱいそうにじぶんにいいきかせた。)

するかのようだった。グレゴールは心配そうに自分に言い聞かせた。

(「おれはしょくよくがあるが、あんなものはいやだ。あのひとたちはものをたべて)

「おれは食欲があるが、あんなものはいやだ。あの人たちはものを食べて

(えいようをとっているのに、おれはしぬのだ!」)

栄養を取っているのに、おれは死ぬのだ!」

(まさにそのよるのことだったがーーあれからずっと、ぐれごーるは)

まさにその夜のことだったがーーあれからずっと、グレゴールは

(ヴぁいおりんのおとをきいたおぼえがなかったーーヴぁいおりんのおとが)

ヴァイオリンの音を聞いたおぼえがなかったーーヴァイオリンの音が

(だいどころからきこえてきた。げしゅくにんたちはもうゆうしょくをおえ、まんなかのおとこが)

台所から聞こえてきた。下宿人たちはもう夕食を終え、まんなかの男が

(しんぶんをひっぱりだし、ほかのふたりにいちまいずつわたした。そして、さんにんとも)

新聞を引っ張り出し、ほかの二人に一枚ずつ渡した。そして、三人とも

(いすにもたれてよみ、たばこをふかしていた。ヴぁいおりんがなりはじめると、)

椅子にもたれて読み、煙草をふかしていた。ヴァイオリンが鳴り始めると、

(さんにんはそれにきづき、たちあがって、つまさきだちであるいてげんかんのまへいき、)

三人はそれに気づき、立ち上がって、爪先立ちで歩いて玄関の間へいき、

(そこでからだをよせたままたちつづけていた。だいどころにいてもかれらのものおとが)

そこで身体をよせたまま立ちつづけていた。台所にいても彼らの物音が

(きこえたらしい。ちちおやがこうさけんだ。「みなさんにはヴぁいおりんのおとが)

聞こえたらしい。父親がこう叫んだ。「みなさんにはヴァイオリンの音が

(おきにさわるんではありませんか。なんならすぐやめさせますが」)

お気にさわるんではありませんか。なんならすぐやめさせますが」

(「どうしまして」と、まんなかのおとこがいった。「おじょうさんは)

「どうしまして」と、まんなかの男がいった。「お嬢さんは

(われわれのところにこられて、このへやでひかれたらどうです?)

われわれのところにこられて、この部屋で弾かれたらどうです?

(こちらのほうがずっといいし、きもちもいいですよ」)

こちらのほうがずっといいし、気持もいいですよ」

(「それでは、そうねがいますか」と、ちちおやはまるでじぶんがヴぁいおりんを)

「それでは、そう願いますか」と、父親はまるで自分がヴァイオリンを

(ひいているかのようにこたえた。さんにんはへやにもどってまっていた。まもなく)

弾いているかのように答えた。三人は部屋にもどって待っていた。まもなく

(ちちおやはふめんだいをもち、ははおやはがくふを、いもうとはヴぁいおりんをもってやってきた。)

父親は譜面台をもち、母親は楽譜を、妹はヴァイオリンをもってやってきた。

(いもうとはおちついてえんそうのじゅんびをすっかりすませた。りょうしんはこれまで)

妹は落ち着いて演奏の準備をすっかりすませた。両親はこれまで

(いちどもまがしをしたことがなく、そのためにげしゅくにんたちにたいするれいぎのどを)

一度も間貸しをしたことがなく、そのために下宿人たちに対する礼儀の度を

(こしていたが、じぶんたちのいすにすわろうとはけっしてしなかった。ちちおやは)

超していたが、自分たちの椅子に坐ろうとはけっしてしなかった。父親は

(どあにもたれ、きちんとぼたんをかけたせいふくのうわぎのぼたんふたつのあいだに)

ドアにもたれ、きちんとボタンをかけた制服の上衣のボタン二つのあいだに

(みぎてをさしいれていた。ははおやのほうはげしゅくにんのひとりにいすをすすめられ、)

右手をさし入れていた。母親のほうは下宿人の一人に椅子をすすめられ、

(そのひとがぐうぜんすすめたいすがへやのわきのほうのかたすみにあったので、)

その人が偶然すすめた椅子が部屋のわきのほうの片隅にあったので、

(そこにすわりつづけていた。)

そこに坐りつづけていた。

(いもうとはひきはじめた。ちちおやとははおやとはそれぞれじぶんのいるいちからちゅういぶかく)

妹は弾き始めた。父親と母親とはそれぞれ自分のいる位置から注意深く

(いもうとのりょうてのうごきをめでおっていた。ぐれごーるはえんそうにひきつけられて)

妹の両手の動きを目で追っていた。グレゴールは演奏にひきつけられて

(すこしばかりまえへのりだし、もうあたまをいまへつっこんでいた。さいしょはじぶんが)

少しばかり前へのり出し、もう頭を居間へ突っこんでいた。最初は自分が

(たにんのことをもうこりょしなくなっていることが、かれにはほとんどふしぎに)

他人のことをもう顧慮しなくなっていることが、彼にはほとんどふしぎに

(おもわれなかった。いぜんには、このたにんへのこりょということがかれのほこりだった。)

思われなかった。以前には、この他人への顧慮ということが彼の誇りだった。

(しかも、かれはいまこそいっそうじぶんのみをかくしていいりゆうをもっていた。)

しかも、彼は今こそいっそう自分の身を隠していい理由をもっていた。

(というのは、へやのなかのいたるところによこたわっているごみが、)

というのは、部屋のなかのいたるところに横たわっているごみが、

(ちょっとでもからだをうごかすとまいあがり、そのごみをすっかりからだに)

ちょっとでも身体を動かすと舞い上がり、そのごみをすっかり身体に

(かぶっていた。いとくずとかかみのけとかたべものののこりかすを)

かぶっていた。糸くずとか髪の毛とか食べものの残りかすを

(せなかやわきばらにくっつけてひきずってあるいているのだ。あらゆることにたいする)

背中やわき腹にくっつけてひきずって歩いているのだ。あらゆることに対する

(かれのむかんしんはあまりにおおきいので、いぜんのようにいちにちになんどもあおむけになって、)

彼の無関心はあまりに大きいので、以前のように一日に何度も仰向けになって、

(じゅうたんにからだをこすりつけることもしなくなっていた。)

絨毯に身体をこすりつけることもしなくなっていた。

(こんなじょうたいであるにもかかわらず、すこしもきおくれをかんじないで、)

こんな状態であるにもかかわらず、少しも気おくれを感じないで、

(ひのうちどころのないほどそうじのゆきとどいているいまのゆかのうえへ)

非の打ちどころのないほど掃除のゆきとどいている居間の床の上へ

(すこしばかりのりだしていった。)

少しばかり乗り出していった。

(とはいえ、ほかのひとたちのほうもかれにきづくものはいなかった。)

とはいえ、ほかの人たちのほうも彼に気づく者はいなかった。

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フランツ・カフカ

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