フランツ・カフカ 変身㉗

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(しがいからめをはなさないでいたぐれーてがいった。)

死骸から眼を放さないでいたグレーテがいった。

(「ごらんなさいな。なんてやせていたんでしょう。もうながいこと)

「ごらんなさいな。なんてやせていたんでしょう。もう長いこと

(ぜんぜんたべなかったんですものね。たべものはいれてやったときのままで)

全然食べなかったんですものね。食べものは入れてやったときのままで

(でてきたんですもの」)

出てきたんですもの」

(じじつ、ぐれごーるのからだはまったくぺしゃんこでひからびていて、)

事実、グレゴールの身体はまったくぺしゃんこでひからびていて、

(もうちいさなあしではからだがもちあげられなくなり、そのほかのてんでも)

もう小さな脚では身体がもち上げられなくなり、そのほかの点でも

(ひとのちゅういをそらすようなものがまったくなくなってしまったいまになって)

人の注意をそらすようなものがまったくなくなってしまった今になって

(やっと、そのことがわかるのだった。)

やっと、そのことがわかるのだった。

(「ぐれーて、ちょっとわたしたちのへやへおいで」と、ざむざふじんは)

「グレーテ、ちょっとわたしたちの部屋へおいで」と、ザムザ夫人は

(かなしげなびしょうをうかべていった。ぐれーてはしがいのほうを)

悲しげな微笑を浮かべていった。グレーテは死骸のほうを

(ふりかえらないではいられなかったが、りょうしんにつづいてしんしつへはいっていった。)

振り返らないではいられなかったが、両親につづいて寝室へ入っていった。

(てつだいばあさんはどあをしめ、まどをすっかりあけた。あさがはやいにもかかわらず、)

手伝い婆さんはドアを閉め、窓をすっかり開けた。朝が早いにもかかわらず、

(すがすがしいくうきにはすでにいくらかなまあたたかさがまじっていた。)

すがすがしい空気にはすでにいくらか生暖かさがまじっていた。

(もうさんがつのすえだった。)

もう三月の末だった。

(さんにんのげしゅくにんがじぶんたちのへやからでてきて、びっくりしたように)

三人の下宿人が自分たちの部屋から出てきて、びっくりしたように

(じぶんたちのちょうしょくをさがしてあたりをきょろきょろみまわした。)

自分たちの朝食を探してあたりをきょろきょろ見廻した。

(ちょうしょくのよういはわすれられていた。)

朝食の用意は忘れられていた。

(「ちょうしょくはどこにあるんだ?」と、まんなかのひとがぶつぶついいながら)

「朝食はどこにあるんだ?」と、まんなかの人がぶつぶつ言いながら

(てつだいばあさんにたずねた。ところがばあさんはくちにゆびをあてて、)

手伝い婆さんにたずねた。ところが婆さんは口に指を当てて、

(だまったままいそいで、ぐれごーるのへやへいってみるように、という)

黙ったまま急いで、グレゴールの部屋へいってみるように、という

など

(あいずをしてみせた。さんにんはいわれたとおりにへやへいき、)

合図をしてみせた。三人はいわれたとおりに部屋へいき、

(いくらかくたびれたうわぎのぽけっとにりょうてをつっこんだまま、いまではもう)

いくらかくたびれた上衣のポケットに両手を突っこんだまま、今ではもう

(あかるくなったへやのなかでぐれごーるのしがいのまわりにたった。)

明るくなった部屋のなかでグレゴールの死骸のまわりに立った。

(そのときしんしつのどあがひらいて、せいふくすがたのざむざしがあらわれ、)

そのとき寝室のドアが開いて、制服姿のザムザ氏が現われ、

(いっぽうのうででつまをだき、もういっぽうのうででむすめをだいていた。みんなすこし)

一方の腕で妻を抱き、もう一方の腕で娘を抱いていた。みんな少し

(ないたあとだった。ぐれーてはときどきかおをちちおやのうでにおしつけた。)

泣いたあとだった。グレーテはときどき顔を父親の腕に押しつけた。

(「すぐわたしのいえをでていっていただきましょう!」と、ざむざしはいって、)

「すぐ私の家を出ていっていただきましょう!」と、ザムザ氏はいって、

(ふたりのおんなをからだからはなさないでどあをゆびさした。)

二人の女を身体から離さないでドアを指さした。

(「それはどういういみなんです?」と、まんなかのひとはすこしおどろきながらいって、)

「それはどういう意味なんです?」と、まんなかの人は少し驚きながらいって、

(やさしそうなびしょうをもらした。ほかのふたりはりょうてをせなかにまわして、)

やさしそうな微笑をもらした。ほかの二人は両手を背中に廻して、

(たえずこすっている。まるでじぶんたちにゆうりなけっかにおわるにきまっている)

たえずこすっている。まるで自分たちに有利な結果に終わるにきまっている

(おおきなあらそいをうれしがってまちかまえているようだった。)

大きな争いをうれしがって待ちかまえているようだった。

(「いまもうしているとおりのいみです」と、ざむざしはこたえ、ふたりのおんなと)

「今申しているとおりの意味です」と、ザムザ氏は答え、二人の女と

(いっちょくせんにならんでげしゅくにんたちのほうへちかづいていった。れいのひとは)

一直線に並んで下宿人たちのほうへ近づいていった。例の人は

(はじめのうちはじっとたったまま、ことがらをあたまのなかでまとめて)

はじめのうちはじっと立ったまま、事柄を頭のなかでまとめて

(あたらしくせいりしようとするかのように、ゆかをみつめていた。)

新しく整理しようとするかのように、床を見つめていた。

(「それではでていきましょう」と、いったが、ざむざしをみあげた。)

「それでは出ていきましょう」と、いったが、ザムザ氏を見上げた。

(まるでとつぜんおそわれたへりくだったきもちでこのけっしんにさえ)

まるで突然襲われたへりくだった気持でこの決心にさえ

(あたらしいきょかをもとめているかのようだった。ざむざしはおおきなめをして)

新しい許可を求めているかのようだった。ザムザ氏は大きな眼をして

(ただなんどかうなずいてみせるだけだった。それからそのひとは)

ただ何度かうなずいて見せるだけだった。それからその人は

(ほんとうにすぐおおまたでげんかんのまへとあるいていった。ふたりのゆうじんは)

ほんとうにすぐ大股で玄関の間へと歩いていった。二人の友人は

(しばらくりょうてのうごきをすっかりとめたままききみみをたてていたが、)

しばらく両手の動きをすっかりとめたまま聞き耳を立てていたが、

(れいのひとのあとをおってとんでいった。まるでざむざしがじぶんたちよりまえに)

例の人のあとを追って飛んでいった。まるでザムザ氏が自分たちより前に

(げんかんのまにはいって、じぶんたちのしどうしゃであるれいのひととのれんらくを)

玄関の間に入って、自分たちの指導者である例の人との連絡を

(じゃまするかもしれないとふあんにおもっているようであった。げんかんのまで)

じゃまするかもしれないと不安に思っているようであった。玄関の間で

(さんにんはそろっていしょうかけからぼうしをとり、すてっきたてからすてっきを)

三人はそろって衣裳かけから帽子を取り、ステッキ立てからステッキを

(ぬきだし、むごんのままおじぎをして、じゅうきょをでていった。)

抜き出し、無言のままお辞儀をして、住居を出ていった。

(すぐわかったがまったくいわれのないふしんのねんをいだきながら、)

すぐわかったがまったくいわれのない不信の念を抱きながら、

(ざむざしはふたりのおんなをつれてげんかんぐちのたたきまででていった。)

ザムザ氏は二人の女を連れて玄関口のたたきまで出ていった。

(そして、さんにんがゆっくりとではあるが、しかししっかりとしたあしどりで)

そして、三人がゆっくりとではあるが、しかししっかりとした足取りで

(ながいかいだんをおりていき、いっかいごとにかいだんぶのいっていのまがりかどへくると)

長い階段を降りていき、一階ごとに階段部の一定の曲がり角へくると

(すがたがきえ、そしてまたすぐにあらわれてくるのを、てすりにもたれて)

姿が消え、そしてまたすぐに現われてくるのを、手すりにもたれて

(ながめていた。したへおりていくにつれて、それだけざむざけのかんしんは)

ながめていた。下へ降りていくにつれて、それだけザムザ家の関心は

(うすらいでいった。このさんにんにむかって、そしてつぎにはさんにんのずじょうたかく)

薄らいでいった。この三人に向って、そしてつぎには三人の頭上高く

(ひとりのにくやのこぞうがあたまのうえににをのせてほこらしげなたいどでのぼってきたとき、)

一人の肉屋の小僧が頭の上に荷をのせて誇らしげな態度でのぼってきたとき、

(ざむざしはおんなたちをつれててすりからはなれ、まるできがかるくなったようなようすで)

ザムザ氏は女たちをつれて手すりから離れ、まるで気が軽くなったような様子で

(じぶんたちのじゅうきょへもどっていった。)

自分たちの住居へもどっていった。

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フランツ・カフカ

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