納豆の茶漬け 北大路魯山人

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陶芸、書、料理などで才能を発揮した北大路魯山人の随筆。

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問題文

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(なっとうのちゃづけはいそうがいにうまいものである。)

納豆の茶漬けは意想外に美味いものである。

(しかも、ほとんどひとのしらないところである。)

しかも、ほとんど人の知らないところである。

(しょくつうかんといえども、これをしるひとはいがいにすくない。)

食通間といえども、これを知る人は意外に少ない。

(といって、わたしのはつめいしたものではないが、)

と言って、私の発明したものではないが、

(せじょうこれをしらないのはふしぎである。)

世上これを知らないのはふしぎである。

(「なっとうのこしらえかた」)

『納豆の拵え方』

(ここでいうなっとうのこしらえかたとは、ねりかたのことである。)

ここでいう納豆の拵え方とは、ねり方のことである。

(このねりかたがまずいと、なっとうのあじがでない。)

このねり方がまずいと、納豆の味が出ない。

(なっとうをうつわにだして、それになにもくわえないで、)

納豆を器に出して、それになにも加えないで、

(そのまま、にほんのはしでよくねりまぜる。)

そのまま、二本の箸でよくねりまぜる。

(そうすると、なっとうのいとがおおくなる。)

そうすると、納豆の糸が多くなる。

(はすからでるいとのようなものがふえてきて、かたくてねりにくくなってくる。)

蓮から出る糸のようなものがふえて来て、かたくて練りにくくなって来る。

(このいとをだせばだすほどなっとうはうまくなるのであるから、)

この糸を出せば出すほど納豆は美味くなるのであるから、

(ぶしょうをしないで、またてまをおしまず、きょくりょくねりかえすべきである。)

不精をしないで、また手間を惜しまず、極力ねりかえすべきである。

(かたくねりあげたら、しょうゆをすうてきおとしてまたねるのである。)

かたく練り上げたら、醤油を数滴落としてまた練るのである。

(またしょうゆすうてきをおとしてねる。)

また醤油数滴を落として練る。

(ようするにほんのすこしずつしょうゆをかけては、ねることをくりかえし、)

要するにほんの少しずつ醤油をかけては、ねることを繰り返し、

(いとのすがたがなくなってどろどろになったなっとうに、)

糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に、

(からしをいれてよくかくはんする。)

辛子を入れてよく攪拌する。

(このとき、このみによってやくみ(ねぎのみじんぎり)をしょうりょうこんわすると、)

この時、好みによって薬味(ねぎのみじん切り)を少量混和すると、

など

(いちだんとあじがつよくなってうまい。)

一段と味が強くなって美味い。

(ちゃづけであってもなくても、なっとうはこうしてたべるべきものである。)

茶漬けであってもなくても、納豆はこうして食べるべきものである。

(さいしょからしょうゆをいれてねるようなやりかたは、へたなやりかたである。)

最初から醤油を入れてねるようなやり方は、下手なやり方である。

(なっとうぐいでつうがるひとは、しょうゆのかわりにきじおをもちいる。)

納豆食いで通がる人は、醤油の代りに生塩を用いる。

(なっとうにしおをもちいるのは、さっぱりしてたしかにこのましいものである。)

納豆に塩を用いるのは、さっぱりして確かに好ましいものである。

(しかし、いっぱんにはふつうのしょうゆをいれるほうが)

しかし、一般にはふつうの醤油を入れる方が

(ぶなんなものができあがるであろう。)

無難なものが出来上がるであろう。

(「おちゃづけのやりかた」)

『お茶潰けのやり方』

(そこでいじょうのようにできあがったものを、まぐろのちゃづけなどとどうように、)

そこで以上のように出来上がったものを、まぐろの茶漬けなどと同様に、

(ちゃわんにめしをしょうりょうもったうえへ、てきとうにのせる。)

茶碗に飯を少量盛った上へ、適当にのせる。

(なっとうのばあいは、とりわけあつめしがよい。)

納豆の場合は、とりわけ熱飯がよい。

(せんちゃをかけ、なっとうにこんわしたしょうゆでしおかげんがたりなければ、)

煎茶をかけ、納豆に混和した醤油で塩加減が足りなければ、

(めしのうえにしょうゆをすうてきたらすのもいい。)

飯の上に醤油を数滴たらすのもいい。

(さいしょからなっとうのちゃづけのためにねるときは、)

最初から納豆の茶漬けのためにねる時は、

(はじめからしょうゆをよけいまぜたほうがいい。)

はじめから醤油を余計まぜた方がいい。

(がんらい、いいあじわいをもつなっとうにたいして、)

元来、いい味わいを持つ納豆に対して、

(かがくちょうみりょうをくわえたりするのはこのましいやりかたではない。)

化学調味料を加えたりするのは好ましいやり方ではない。

(そうしてめしのなかにいれるなっとうのりょうは、)

そうして飯の中に入れる納豆の量は、

(めしのよんぶんのいちていどがもっともおいしい。)

飯の四分の一程度がもっとも美味しい。

(なっとうはすくなきにすぎてはあじがわるく、)

納豆は少なきに過ぎては味がわるく、

(おおきにすぎてはくちのなかでうるさくてたべにくい。)

多きに過ぎては口の中でうるさくて食べにくい。

(これはたやすいやりかたで、かんたんにできるものである。)

これはたやすいやり方で、簡単にできるものである。

(さっそく、あきのこのましいたべものとして、)

早速、秋の好ましいたべものとして、

(こうふくをみたさるべきではなかろうか。)

口福を満たさるべきではなかろうか。

(「なっとうのよしあし」)

『納豆のよしあし』

(なっとうにはおいしいものとまずいものとある。)

納豆には美味いものと不味いものとある。

(まずいのは、ねってもいとをひかないで、ざくざくとしている。)

不味いのは、ねっても糸をひかないで、ざくざくとしている。

(それはなっとうとしてじゅうぶんにはっこうしていないみじゅくなしなである。)

それは納豆として充分に発酵していない未熟な品である。

(いとをひかずにまめがざくざくぽくぽくしている。)

糸をひかずに豆がざくざくぽくぽくしている。

(じゅうぶんにかもされているなっとうは、まめのしつがこまかく、)

充分にかもされている納豆は、豆の質がこまかく、

(まめがねちねちしていないものは、)

豆がねちねちしていないものは、

(てをいかにくだすともすくいがたいものである。)

手をいかに下すとも救い難いものである。

(だから、いとをひかないなっとうはたべられない。)

だから、糸をひかない納豆は食べられない。

(いちばんうまいのは、せんだい、みとなどのこつぶのなっとうである。)

一番美味いのは、仙台、水戸などの小粒の納豆である。

(かんだでゆうめいなおおつぶのなっとうもうまい。)

神田で有名な大粒の納豆も美味い。

(しかし、むかしのようにうまくなくなったのはいかんである。)

しかし、昔のように美味くなくなったのは遺憾である。

(まめがおおくて、しろうとめにはよいなっとうにはなっているが。)

豆が多くて、素人目にはよい納豆にはなっているが。

((しょうわしちねん))

(昭和七年)

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