魯迅 阿Q正伝その36

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問題文
(このくるまはたちどころにうごきはじめた。)
この車は立ちどころに動き始めた。
(まえにはてっぽうをかついだへいたいとじえいだんがあるいていた。)
前には鉄砲をかついだ兵隊と自衛団が歩いていた。
(りょうがわにはおおぜいのけんぶつにんがくちをあけはなしてみていた。)
両側には大勢の見物人が口を開け放して見ていた。
(うしろはどうなっているか、あきゅうにはみえなかった。)
後ろはどうなっているか、阿Qには見えなかった。
(しかしとつぜんかんじたのは、こいつはいけねえ、くびをきられるんじゃねえか。)
しかし突然感じたのは、こいつはいけねえ、首を斬られるんじゃねえか。
(かれはそうおもうとこころがどうてんしてふたつのめがくらくなり、)
彼はそう思うと心が動転して二つの眼が暗くなり、
(じだのなかががーんとした。)
耳朶の中がガーンとした。
(きぜつをしたようでもあったが、しかしまったくきをうしなったわけではない。)
気絶をしたようでもあったが、しかし全く気を失ったわけではない。
(あるときはあわてたが、あるときはまたかえっておちついた。)
ある時は慌てたが、ある時はまたかえって落ちついた。
(かれはかんがえているうちに、にんげんのよのなかはもともとこんなもんで、)
彼は考えているうちに、人間の世の中はもともとこんなもんで、
(ときによるとくびをきられなければならないこともあるかもしれない、)
時によると首を斬られなければならないこともあるかもしれない、
(とかんじたらしかった。)
と感じたらしかった。
(かれはまたみおぼえのあるみちをみた。そこでしょうしょうへんにおもった。)
彼はまた見覚えのある路を見た。そこで少々変に思った。
(なぜおしおきにいかないのか。)
なぜお仕置に行かないのか。
(かれはじぶんがひきまわしになってみなにみせしめられているのをしらなかった。)
彼は自分が引廻しになって皆に見せしめられているのを知らなかった。
(しかししらしめたもどうぜんだった。)
しかし知らしめたも同然だった。
(かれはただにんげんせかいはもともとたいていこんなもんで、)
彼はただ人間世界はもともと大抵こんなもんで、
(ときによるとひきまわしになってみなに)
時に依ると引廻しになって皆に
(みせしめなければならないものであるかもしれない、)
見せしめなければならないものであるかもしれない、
(とおもったかもしれない。)
と思ったかもしれない。
(かれはかくせいした。これはまわりみちしておしおきばにゆくみちだ。)
彼は覚醒した。これはまわり道してお仕置場にゆく路だ。
(これはきっとずばりとくびをはねられるんだ。)
これはきっとずばりと首を刎はねられるんだ。
(かれはがっかりしてあたりをみると、まるでありのようにひとがついてきた。)
彼はガッカリしてあたりを見ると、まるで蟻のように人が附いて来た。
(そうしてはからずもひとごみのなかにひとりのうーまをはっけんした。)
そうして図らずも人ごみの中に一人の呉媽を発見した。
(ずいぶんしばらくだった。かのじょはじょうないでしごとをしていたのだ。)
ずいぶんしばらくだった。彼女は城内で仕事をしていたのだ。
(かれはたちまちひじょうなしゅうちをかんじてわれながらきがめいってしまった。)
彼はたちまち非常な羞恥を感じて我ながら気が滅入ってしまった。
(つまりあのしばいのうたをうたうゆうきがないのだ。)
つまりあの芝居の歌を唱う勇気がないのだ。
(かれのしそうはさながらせんぷうのように、あたまのなかをひとまわりした。)
彼の思想はさながら旋風のように、頭の中を一まわりした。
(「わかごけのはかまいり」もりっぱなうたではない。)
「若寡婦の墓参り」も立派な歌ではない。
(「りゅうこず」の「こうかいするにはおよばぬ」もあまりつまらなすぎた。)
「竜虎図」の「後悔するには及ばぬ」も余りつまらな過ぎた。
(やっぱり「てにてつべんをとってきさまをうつぞ」なんだろう。)
やっぱり「手に鉄鞭を執ってキサマを打つぞ」なんだろう。
(そうおもうとかれはてをあげたくなったが、)
そう思うと彼は手を挙げたくなったが、
(かんがえてみるとそのてはしばられていたのだ。)
考えてみるとその手は縛られていたのだ。
(そこで「てにてつべんをとり」さえもうたえなかった。)
そこで「手に鉄鞭を執り」さえも唱えなかった。
(「にじゅうねんすぎればこれもまたひとつのものだ」)
「二十年過ぎればこれもまた一つのものだ」
(あきゅうはごたごたのなかで、いままでいったことのないこのことばを)
阿Qはゴタゴタの中で、今まで言ったことのないこの言葉を
(「ししょうもなしに」はんぶんほどひりだした。)
「師匠も無しに」半分ほどひり出した。
(「こうはお!!!」とひとごみのなかからおおかみのほえごえのようなこえがでた。)
「好ハオ!!!」と人ごみの中から狼の吠声のような声が出た。
(くるまはとまらずにすすんだ。)
車は停まらずに進んだ。
(あきゅうはかっさいのなかにめんたまをうごかしてうーまをみると、)
阿Qは喝采の中に眼玉を動して呉媽を見ると、
(かのじょはいっこうかれにめをとめたようすもなく)
彼女は一向彼に眼を止めた様子もなく
(ただねっしんにへいたいのせのうえにあるてっぽうをみていた。)
ただ熱心に兵隊の背の上にある鉄砲を見ていた。
(そこで、あきゅうはもういちどかっさいのひとをみた。)
そこで、阿Qはもう一度喝采の人を見た。