「こころ」1-40 夏目漱石
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | どんぐり | 5956 | A+ | 6.4 | 92.8% | 352.4 | 2275 | 176 | 40 | 2024/10/19 |
2 | mame | 5370 | B++ | 5.6 | 95.5% | 405.2 | 2281 | 105 | 40 | 2024/11/10 |
3 | ぽむぽむ | 5328 | B++ | 5.6 | 93.9% | 405.4 | 2308 | 148 | 40 | 2024/10/14 |
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問題文
(そのとしのろくがつにそつぎょうするはずのわたくしは、ぜひともこのろんぶんを)
その年の六月に卒業するはずの私は、ぜひともこの論文を
(せいきどおりしがついっぱいにえがきあげてしまわなければならなかった。)
成規通り四月いっぱいに描き上げてしまわなければならなかった。
(に、さん、しとゆびをおってあまるじじつをかんじょうしてみたとき、)
二、三、四と指を折って余る時日を勘定して見た時、
(わたくしはすこしじぶんのどきょうをうたぐった。)
私は少し自分の度胸を疑った。
(ほかのものはよほどまえからざいりょうをあつめたり、のーとをためたりして、)
他のものはよほど前から材料を蒐めたり、ノートを溜めたりして、
(よそめにもいそがしそうにみえるのに、わたくしだけはまだなんにもてをつけずにいた。)
余所目にも忙しそうに見えるのに、私だけはまだ何にも手を着けずにいた。
(わたくしにはただとしがあらたまったらおおいにやろうというけっしんだけがあった。)
私にはただ年が改まったら大いにやろうという決心だけがあった。
(わたくしはそのけっしんでやりだした。そうしてたちまちうごけなくなった。)
私はその決心でやり出した。そうして忽ち動けなくなった。
(いままでおおきなもんだいをくうにえがいて、ほねぐみだけはほぼほぼできあがっているくらいに)
今まで大きな問題を空に描いて、骨組みだけはほぼほぼでき上っているくらいに
(かんがえていたわたくしは、あたまをおさえてなやみはじめた。)
考えていた私は、頭を抑えて悩み始めた。
(わたくしはそれからろんぶんのもんだいをちいさくした。)
私はそれから論文の問題を小さくした。
(そうしてねりあげたしそうをけいとうてきにまとめるてかずをはぶくために、)
そうして練り上げた思想を系統的に纏める手数を省くために、
(ただしょもつのなかにあるざいりょうをならべて、それにそうとうなけつろんを)
ただ書物のなかにある材料を並べて、それに相当な結論を
(ちょっとつけくわえることにした。)
ちょっと付け加える事にした。
(わたくしのせんたくしたもんだいはせんせいのせんもんとえんこのちかいものであった。)
私の選択した問題は先生の専門と縁故の近いものであった。
(わたくしがかつてそのせんたくについてせんせいのいけんをたずねたとき、)
私がかつてその選択について先生の意見を尋ねた時、
(せんせいはいいでしょうといった。)
先生は好いでしょうといった。
(ろうばいしたきみのわたくしは、さっそくせんせいのところへでかけて、わたくしのよまなければならない)
狼狽した気味の私は、早速先生の所へ出掛けて、私の読まなければならない
(さんこうしょをきいた。せんせいはじぶんのしっているかぎりのちしきを、)
参考書を聞いた。先生は自分の知っている限りの知識を、
(こころよくわたくしにあたえてくれたうえに、ひつようのしょもつを、に、さんさつかそうといった。)
快く私に与えてくれた上に、必要の書物を、二、三冊貸そうといった。
(しかしせんせいはこのてんについてごうもわたくしをしどうするにんにあたろうとしなかった。)
しかし先生はこの点について毫も私を指導する任に当たろうとしなかった。
(「ちかごろはあんまりしょもつをよまないから、あたらしいことはしりませんよ。)
「近頃はあんまり書物を読まないから、新しい事は知りませんよ。
(がっこうのせんせいにきいたほうがいいでしょう」)
学校の先生に聞いた方が好いでしょう」
(せんせいはいちじひじょうのどくしょかであったが、そのごどういうわけか、)
先生は一時非常の読書家であったが、その後どういう訳か、
(まえほどこのほうめんにきょうみがはたらかなくなったようだと、かつておくさんから)
前ほどこの方面に興味が働かなくなったようだと、かつて奥さんから
(きいたことがあるのを、わたくしはそのときふとおもいだした。)
聞いた事があるのを、私はその時ふと思い出した。
(わたくしはろんぶんをよそにして、そぞろにくちをひらいた。)
私は論文をよそにして、そぞろに口を開いた。
(「せんせいはなぜもとのようにしょもつにきょうみをもちえないんですか」)
「先生はなぜ元のように書物に興味をもち得ないんですか」
(「なぜというわけもありませんが・・・つまりいくらほんをよんでも)
「なぜという訳もありませんが…つまりいくら本を読んでも
(それほどえらくならないとおもうせいでしょう。それから・・・」)
それほどえらくならないと思うせいでしょう。それから…」
(「それから、まだあるんですか」)
「それから、まだあるんですか」
(「まだあるというほどのりゆうでもないが、いぜんはね、ひとのまえへでたり、)
「まだあるというほどの理由でもないが、以前はね、人の前へ出たり、
(ひとにきかれたりしてしらないとはじのようにきまりがわるかったものだが、)
人に聞かれたりして知らないと恥のようにきまりが悪かったものだが、
(ちかごろはしらないということが、それほどのはじでないようにみえだしたものだから、)
近頃は知らないという事が、それほどの恥でないように見え出したものだから、
(ついむりにもほんをよんでみようというげんきがでなくなったのでしょう。)
つい無理にも本を読んでみようという元気が出なくなったのでしょう。
(まあはやくいえばおいこんだのです」)
まあ早くいえば老い込んだのです」
(せんせいのことばはむしろへいせいであった。)
先生の言葉はむしろ平静であった。
(せけんにせなかをむけたひとのくみをおびていなかっただけに、)
世間に背中を向けた人の苦味を帯びていなかっただけに、
(わたくしにはそれほどのてごたえもなかった。)
私にはそれほどの手応えもなかった。
(わたくしはせんせいをおいこんだともおもわないかわりに、えらいともかんしんせずにかえった。)
私は先生を老い込んだとも思わない代りに、偉いとも感心せずに帰った。